- 著者: Alexander T. Ritter, Gleb Shtengel, C. Shan Xu, Andrew Weigel, David P. Hoffman, Matthew Freeman, Nirmala Iyer, Nensi Alivodej, David Ackerman, Ilia Voskoboinik, Joseph Trapani, Harald F. Hess, Ira Mellman
- Corresponding author: Alexander T. Ritter (ritter.alex@gene.com) (Department of Cancer Immunology, Genentech Inc., South San Francisco, CA, USA); Ira Mellman (iram@gene.com) (Genentech Inc.)
- 雑誌: Science
- 発行年: 2022
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 35446649
背景
細胞傷害性T細胞 (CTL) およびナチュラルキラー (NK) 細胞は、ウイルス感染細胞や腫瘍細胞を標的とし、パーフォリン (Prf) とグランザイム (GZMB) の極性放出を介して殺傷する。Prfは標的細胞膜に孔を形成する膜穿孔毒素であり、この孔を介してGZMBが細胞質に流入し、アポトーシスを誘導するという機序が確立されている (Voskoboinik et al. 2015)。しかし、標的細胞の殺傷には単一または複数のT細胞による複数回の攻撃が必要とされることが多く (Halle et al. 2016)、細胞傷害性が累積的であり、アポトーシスを誘導するのに十分な細胞質内GZMB活性閾値に達するまでに複数回の準致死的な溶解顆粒分泌イベントが必要であるという考えが提唱されている (Weigelin et al. 2021)。
細胞膜の完全性喪失は、細胞傷害性タンパク質や機械的損傷によって引き起こされ、膜修復応答を誘導する。損傷は細胞外Ca²⁺の流入を引き起こし、これによりエンドサイトーシスによる膜損傷の除去、リソソーム分泌による損傷の再封止、または細胞外小胞への出芽が起こると考えられている (Andrews et al. 2014)。Prf孔形成は当初、Prfのエンドサイトーシスを促進すると報告されたが (Keefe et al. 2005)、その後の研究ではこの主張に異議が唱えられている (Lopez et al. 2013)。
エンドソーム選別輸送に必要な複合体 (ESCRT) タンパク質は、細菌の孔形成毒素、機械的損傷、レーザーアブレーションによって引き起こされる細胞膜の小さな損傷や孔を修復することが知られている (Jimenez et al. 2014; Scheffer et al. 2014)。ESCRTタンパク質はCa²⁺依存的に膜損傷部位に一時的にリクルートされ、損傷を除去し細胞膜の完全性を回復するために出芽構造を形成し、脱落させるとされる。ESCRT依存的な膜修復は、ネクロプトーシス (Gong et al. 2017) やパイロプトーシス (Rühl et al. 2018) における内因性孔媒介性細胞膜損傷の再封止にも関与することが示唆されている。
しかし、CTLが誘発するPrf穿孔においてESCRTが腫瘍標的細胞の膜修復機構として機能するかどうか、またその修復がCTL殺傷効率に与える影響はこれまで全く未解明であった。特に、生理的に関連性の高いTCR-ペプチドMHC親和性におけるCTLの殺傷能力に対するESCRT媒介膜修復の影響については、知識が不足しており、詳細な解析が必要とされていた。本研究は、このギャップを埋めることを目的としている。
目的
本研究の目的は、ESCRTタンパク質がCTL-標的細胞免疫シナプス (IS) においてPrf穿孔後に標的細胞へ迅速かつ選択的にリクルートされることを直接的に実証することである。具体的には、EGFP-Tsg101およびEGFP-Chmp4bというESCRT関連タンパク質が、CTL攻撃後の標的細胞膜損傷部位に時間的・空間的にどのように局在するかをライブセルイメージングで詳細に追跡する。さらに、8nm解像度3次元FIB-SEM (Focused Ion Beam-Scanning Electron Microscopy) および3D cryo-SIM (Structured Illumination Microscopy) とFIB-SEM相関顕微鏡 (CLEM) という最先端の超解像・3Dイメージング技術を駆使し、免疫シナプスの詳細な超微細構造とESCRTタンパク質の局在を直接的に可視化する。
また、ESCRT機能の阻害がCTLによる腫瘍細胞殺傷効率を増強するかどうかを検証し、特に生理的に関連性の高いTCR-ペプチドMHC親和性条件下での影響を評価する。このため、CRISPR-Cas9システムを用いたChmp4b遺伝子ノックアウト (KO) や、ESCRT機能に必須なATPaseであるVPS4aの支配的陰性変異体VPS4a E228Qの過剰発現によってESCRT機能を阻害した腫瘍細胞に対するCTL殺傷アッセイを実施する。これらの実験を通じて、ESCRT媒介膜修復ががん細胞の免疫回避に寄与するメカニズムを解明し、新たな免疫療法標的としての可能性を探ることを目指す。
結果
ESCRTの免疫シナプス (IS) への迅速かつ選択的リクルート: ライブセルイメージングにより、EGFP-Tsg101およびEGFP-Chmp4bが、Prf穿孔の指標であるPI流入の最初のフレームから30〜60秒以内に、CTL-標的結合体のISへ迅速に局在化することが確認された (Fig. 1A, B)。具体的には、EGFP-Tsg101は92.6% (n=27 conjugates) の結合体で、EGFP-Chmp4bは93.9% (n=33 conjugates) の結合体でISへリクルートされた。対照として細胞質EGFPを発現する細胞ではリクルートは全く認められず (0%)、ESCRT複合体の特異的な膜修復関与が示唆された (Fig. 1C)。さらに、EGFP標識Chmp4b材料の一部は、殺傷後にCTL表面へ移行 (shedding) することが観察され、これは膜修復後の細胞膜断片の脱落を示唆する (Fig. 1D, E)。この現象は、EGFP-Tsg101またはEGFP-Chmp4bを発現する標的細胞をイメージングした結合体の約60% (n=17/27およびn=20/33 conjugates) で観察された。
8nm解像度3D FIB-SEMによる免疫シナプスの詳細な超微細構造解析: 高圧凍結後、等方性8nm解像度FIB-SEMを用いて、溶解顆粒分泌直後のCTL-標的結合体4データセットの詳細な超微細構造が可視化された (Fig. 2A)。セグメンテーションにより、CTL側では中心体、ゴルジ体、溶解顆粒がISに向かって極性化していることが確認され、CTL活性化の明確な証拠となった。標的細胞 (ID8) 膜には、ISに向かって多数の管状および芽様突起が形成されており (Fig. 2C)、これはESCRTによる膜修復に関連する出芽構造と一致する。また、細胞間クレフトには、顆粒類似の高電子密度粒子、小胞、多重膜構造を含む大量の細胞間物質 (IM) が検出された (Fig. 2B)。これらのIMの一部は溶解顆粒由来である可能性が示唆された。CTLと標的細胞の間のシナプス間隙には、高電子密度の粒子、小胞、多層膜構造が密に蓄積しており、これは溶解顆粒の内容物の一部である可能性が示唆された。
3D cryo-SIM + FIB-SEM相関顕微鏡 (CLEM) によるESCRT局在の直接確認: 3データセットのCLEM解析により、mEmerald-Chmp4b蛍光が標的細胞膜の分泌IM対向部位に特異的に局在することが直接確認された (Fig. 3A, B, C)。この部位の標的細胞膜は複雑な凸凹形状、すなわち芽や管状突起を呈しており、Chmp4b蛍光の一部はIS空間の小胞構造にも重なることが観察された。これらのデータは、ESCRTタンパク質がCTL殺傷の決定的な部位であるシナプスに、Prf分泌と時間的・空間的に相関して局在することを示し、ESCRT複合体がPrf孔の修復に関与することを強く示唆する。mEmerald-Chmp4bの蛍光は、分泌された細胞間物質に対向する標的細胞膜に特異的に局在し、その部位の細胞膜は多くの芽状突起を示す複雑な形状であった。
ESCRT阻害による腫瘍細胞のCTL殺傷感受性増強: Chmp4b CRISPR-KOまたはVPS4a E228Q (支配的陰性) 発現によるESCRT機能阻害は、全4種類のペプチド親和性条件においてOT-I CTLによる殺傷を有意に増強した (4時間時点) (Fig. 4A, C, D)。この殺傷増強効果は、低親和性ペプチド (T4、Q4H7、G4) でより顕著であった。例えば、中親和性T4ペプチド条件では、Chmp4b KO細胞における殺傷効率は対照細胞と比較して約2.5倍に増加した (p<0.01)。高親和性SIINFEKL (N4) 条件下でも殺傷効率が中程度に改善され、ESCRTがT細胞殺傷閾値の普遍的な調節因子であることが示唆された。ESCRT阻害はMHCクラスI表面発現に影響を与えなかった。これらの結果は、ESCRT阻害が特に生理的に関連するTCR-ペプチドMHC親和性域での腫瘍細胞防御に重要な役割を持つことを示唆する。
組換えPrfとGZMBを用いた機序確認: VPS4a E228Q発現細胞は、Prf単独 (160 ng/mlのサブ溶解濃度) に対しても高感受性を示し、細胞生存率が低下した (Fig. 4E, F)。ライブ細胞におけるPI MFI (平均蛍光強度) がESCRT阻害細胞で高値を示し、膜再封止の遅延を反映した。PI陽性ライブ細胞の割合は両条件で類似していたものの、ESCRT阻害細胞におけるPIの平均蛍光強度は有意に高く、膜再封止の遅延を示唆した (p<0.001)。さらに、サブ溶解濃度のPrfと組換えGZMBを併用した場合、Annexin V陽性 (アポトーシス) 細胞の割合がESCRT阻害細胞で有意に増加し (Fig. 4G, H)、GZMBの細胞質流入が増強されることが直接的に証明された (p<0.001)。この結果はEL4リンパ腫細胞株でも再現され、ESCRT経路がPrf曝露後の膜修復に寄与するという仮説を支持する。
考察/結論
本研究は、腫瘍細胞がCTL攻撃に対してESCRT複合体を用いた活動的なPrf膜修復機構を発動させ、GZMBの細胞質流入を制限することで生存するという、これまで報告されていない新規のメカニズムを初めて実証した。この「ESCRT媒介膜修復によるCTL耐性機構」は、癌の特徴である「細胞死回避」の新たな分子機序として極めて重要である。先行研究 (Jimenez et al. 2014; Scheffer et al. 2014) ではESCRTによるプラズマ膜修復が示されていたが、CTLによる腫瘍攻撃においてこれが適用されることは全く未知であり、本研究の知見はこれまでと異なる新たな視点を提供する。
新規性: 本研究で初めて、ESCRTタンパク質 (Tsg101、Chmp4b) がPrf穿孔後30〜60秒以内に免疫シナプス部位に92.6〜93.9%の頻度でリクルートされることを、8nm解像度3D FIB-SEMとCLEMという最先端技術を駆使して直接可視化したことは、その新規性が高い。ESCRT機能の阻害は、がん細胞のCTL媒介殺傷に対する感受性を有意に高め、特に生理的関連性の高いTCR-ペプチドMHC親和性において顕著であった。これは、CTLの殺傷閾値を設定する上で、Prf孔の能動的な修復が重要な寄与因子であることを明確に示唆する。
臨床応用: 臨床的含意として、ESCRT阻害は特に生理的なTCR:pMHC低親和性条件 (実際の腫瘍内に多数存在するTCR) でのCTL殺傷を増強するため、ESCRT阻害薬はがん免疫療法の増感剤として有望である可能性がある。これは、既存の免疫チェックポイント阻害剤などと組み合わせることで、より広範な患者群に対する治療効果の向上が期待される、臨床応用への道を開く知見である。
残された課題: 残された課題として、腫瘍細胞における特定のESCRTサブユニットを標的とする薬剤の開発、in vivoモデルにおけるESCRT阻害による腫瘍免疫増強効果の評価、および腫瘍種や腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) 浸潤度による膜修復活性の差異解析が必要である。また、ESCRT媒介膜修復が他の免疫細胞による細胞傷害性攻撃(例:NK細胞)に対しても同様に機能するかどうかの検討も今後の方向性として重要である。
方法
ライブセルイメージングによるESCRTリクルートの評価: EGFP-Tsg101またはEGFP-Chmp4bを発現するMC38 (大腸癌)、B16-F10 (メラノーマ)、ID8 (卵巣癌) 細胞株を標的細胞として使用した。OT-I CTLは、高親和性TCRを発現し、卵白アルブミンペプチドSIINFEKL (OVA257-264) とMHCクラスI H-2Kb複合体を認識する。これらの細胞を共培養し、Prf穿孔の指標となるプロピジウムヨウ化物 (PI) 100 μM存在下でスピニングディスク共焦点顕微鏡によりライブ観察を行った。EGFP-Tsg101 (n=27 conjugates, 9独立実験)、EGFP-Chmp4b (n=33 conjugates, 24独立実験)、および細胞質EGFP対照 (n=22 conjugates, 7独立実験) のISへのリクルート率を定量的に評価した。
8nm解像度3次元FIB-SEMによる免疫シナプスの超微細構造解析: CTL-標的結合体の超微細構造を詳細に解析するため、高圧凍結したOT-I CTLとペプチドパルスID8細胞の結合体から、等方性8nm解像度のFIB-SEM画像4データセットを取得した。細胞膜、核、溶解顆粒、ゴルジ体、ミトコンドリア、中心体を半自動セグメンテーションにより可視化した。全てのデータセットはhttps://openorganelle.janelia.orgで公開されている。
3D cryo-SIMとFIB-SEM相関顕微鏡 (CLEM) によるESCRT局在の確認: mEmerald-Chmp4bを発現するID8細胞とOT-I CTLの結合体3データセットを用いて、ESCRTタンパク質の局在と超微細構造を直接的に対応付けた。PI勾配の存在を指標として、Prf曝露後約3分以内のCTL-標的結合体を選択し、高圧凍結後に3D cryo-SIMで蛍光画像を、その後FIB-SEMで電子顕微鏡画像を取得した。
ESCRT阻害によるCTL殺傷アッセイ: ESCRT機能の阻害には、CRISPR-Cas9システムを用いたChmp4b遺伝子ノックアウト (B16-F10細胞) または、ESCRT機能に必須なATPaseであるVPS4aの支配的陰性変異体VPS4a E228Q (GluからGln置換) の過剰発現を用いた。OT-I TCRに対する親和性が異なる4種類の変異ペプチド (高親和性SIINFEKL (N4)、中親和性SIITFEKL (T4)、SIIQFEHL (Q4H7)、低親和性SIIGFEKL (G4)) で標的細胞をパルスし、蛍光基質カスパーゼ3/7指示薬による殺傷効率を96ウェルプレートで定量した。殺傷アッセイは、自発的な細胞死が発生する前に完了するように設計された。統計解析には、複数の不対t検定 (multiple unpaired t tests) を用いて群間差を評価した。
組換えPrfおよびGZMBを用いた機序確認: VPS4a E228Q発現B16-F10細胞と野生型 (WT) B16-F10細胞を、サブ溶解濃度 (160 ng/ml) の組換えPrf単独、または組換えPrfと組換えGZMBの併用で処理し、細胞生存率とアポトーシス誘導を評価した。PI流入の平均蛍光強度 (MFI) を測定し、膜再封止の遅延を評価した。アポトーシスはAnnexin V陽性率をフローサイトメトリーで測定した。EL4リンパ腫細胞株でも同様の実験を行い、結果の再現性を確認した。