• 著者: Nurit Gal-Mark, Assaf Grunwald, Valid Gahramanov, Michal Hameiri-Grossman, Elena Shinderman-Maman, Dafna Gaas, Keren Shichrur, et al.
  • Corresponding author: Esther R. Berko MD PhD (Schneider Children’s Medical Center / Tel Aviv University / Children’s Hospital of Philadelphia)
  • 雑誌: Clinical Cancer Research
  • 発行年: 2026
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • DOI: N/A

背景

神経芽腫 (neuroblastoma, NB) は小児期に発生する最も一般的な頭蓋外固形腫瘍であり、交感神経系の発生に由来する悪性腫瘍である。高リスクNBの無イベント生存率は約50%にとどまり、再発後の予後は極めて不良である。疾患経過の追跡において画像診断には限界があり、特に小児では頻繁な鎮静を要するため侵襲性が問題となる。また、疾患特異的トレーサーを用いるMIBG (meta-iodobenzylguanidine) シンチグラフィーも、腫瘍のMIBG取り込みがない症例や分化腫瘍での偽陽性という課題を抱えている。

液体生検 (liquid biopsy) による循環腫瘍DNA (ctDNA) 解析は、最小侵襲的なモニタリング手段として台頭しているが、高リスクNBでは大きな制限がある。他の小児固形腫瘍と同様、高リスクNBは病原性SNV (single nucleotide variant、単塩基多型) が相対的に少なく、追跡可能な遺伝子ドライバー変異を持つ症例はNB患者全体の約50%に限られる。MYCN増幅、ALK活性化変異 (約20%)、TERT再配置、ATRX変異などが同定されているが、多くの高リスクNBは追跡可能なclonal SNVを欠き、分節性染色体異常 (SCA、segmental chromosomal aberration) のみを呈する。このため、既存のシーケンシングベースパネルや変異特異的PCRアッセイは全患者に適用できないという根本的な課題が存在してきた。

DNAメチル化は細胞タイプに高度に特異的で、細胞分裂を超えて安定であり、普遍的に存在するため、変異非依存性液体生検の有望な候補として注目される。先行研究では、神経芽腫のメチル化は主に予後シグネチャーの同定に焦点が当てられ (Decock et al. 2016、Gómez et al. 2015)、またDor、Mossらが確立したメチル化脱畳み込みフレームワーク (Loyfer et al. 2023) が正常細胞タイプのcfDNA組成推定に応用されてきた。RASSF1Aなど単一マーカーを用いたcfDNAメチル化アッセイも試みられているが (van Zogchel et al. 2021)、汎神経芽腫性に欠け、感度・特異度とも不十分という課題が残されている。しかし、神経芽腫を独立した細胞エンティティとしてアトラスに統合し、全高リスク患者をカバーする普遍的なcfDNAモニタリングを実現する手法はこれまで確立されておらず、「変異非依存性で全症例に適用可能な液体生検モニタリング」という臨床的に重要な何かが不足していた。本研究はこの空白を埋めることを目的として実施された。

目的

本研究の目的は、Oxford Nanopore Technologies (ONT) 全ゲノムシーケンシングを用いて高リスクNBに特異的なDNAメチル化領域 (meNBL) を同定し、ヒトメチル化アトラスに神経芽腫エンティティを統合することで、変異非依存的・定量的なcfDNA脱畳み込みによる病勢モニタリングシステムを確立することである。このシステムは、診断時、寛解時、再発時における神経芽腫由来cfDNAの検出、および疾患進行の早期分子検出を可能にすることを目指す。

結果

ONTシーケンシングによる72個のNB特異的差次的メチル化領域 (meNBL) の確立: 高リスクNB腫瘍7例 (n=7) に対しONT全ゲノムシーケンシング (中央値カバレッジ32X) を実施し、正常ヒト細胞タイプ包括メチル化アトラス (36組織206サンプル) と比較した。p値閾値0.05、delta-beta値上位3パーセンタイルを有意基準として差次的メチル化解析 (wgbstools) を行い、初期候補188領域を抽出した。その後、健常cfDNAでの平均メチル化 <10%、末梢血リンパ球 (PBL) プールでのメチル化 >20% の領域を除外する段階的フィルタリングを経て、最終的に72個のmeNBLを確定した (Figure 1D)。これらmeNBLはプロモーター、遺伝子本体、3’UTR、遺伝子間領域にわたって分布し、HAND1、SIX3、SHOX2、HMX1、IRF6、TBX20などの転写因子、さらにCACNA1B、CACNA2D4などの神経シグナリング関連遺伝子の領域を含んでいた。注目すべきことに、これらmeNBLはグローバルな低メチル化を背景とする中で、他組織と比較して主に高メチル化を示した。独立検証として、TARGET神経芽腫コホート (NB 205例、健常対照 152例のEPICアレイデータ) において多くのmeNBL領域が同様のメチル化差異を呈することが確認された。さらに、meNBLの約30%はEPICアレイでカバーされておらず、ONT全ゲノムアプローチの診断バイオマーカー探索における優位性を示した。

メチル化ベース腫瘍分率推定の高い精度と特異度: 診断時cfDNA 11例 (n=11、腫瘍組織ONTと対応5例 + 独立バリデーションコホート7例) および健常ドナーcfDNA 8例 (n=8、中央値カバレッジ2.8X) に対しONTシーケンシングを実施した。72個のmeNBL全領域で、対応コホートと独立コホートのNB患者間に統計的有意差は認めず (t検定、p>0.05)、マーカーの汎用性を確認した (Figure 2A)。次に、既存ヒトメチル化アトラス (各細胞タイプ25マーカー構成) に、25個のmeNBL (72個中から多基準スコアリングで選択) を神経芽腫エンティティとして統合し、uxmtools deconvを用いた脱畳み込みを実施した。健常ドナーcfDNA全8例 (n=8) で神経芽腫分率は検出不能 (TF% 0%) であった一方、患者cfDNA全例でさまざまな割合の神経芽腫由来ctDNAが検出された (Figure 2B)。ichorCNA (コピー数変異ベースの腫瘍分率推定) と比較すると、健常対照でichorCNAは背景ノイズTF% 6〜11%を示したが、メチル化脱畳み込みは0%であり、優れた特異度を示した。症例cfNB4では、メチル化脱畳み込みが腫瘍分率 (TF%) 88%を推定したのに対しichorCNAは14%にとどまり、VAF (variant allele frequency) に基づくmutation-based TF%は75% (NRAS p.Gln61Lys) であり、メチル化推定値が変異ベース推定値と整合した。症例cfNB9では、メチル化ベースTF% 56%に対しichorCNA 23%、ddPCR (ALK p.Arg1275Gln変異、VAF 32.9%、mutation-based TF% 65.8%) もメチル化脱畳み込みの優位性を支持した。以上から、メチル化脱畳み込みとddPCR/mutation-based TF%の対応が複数症例 (n=4) で確認された。

縦断的モニタリングによる全病期追跡と再発の早期分子検出: 診断・寛解確認・再発の各時点でのcfDNAサンプル (診断 n=11、寛解 n=6、再発 n=6、健常 n=8) を対象に脱畳み込みを実施した (Figure 3B)。診断および再発時にはNB特異的cfDNAが検出され、分子的に確認された寛解時には全例でシグナルが消失した。MYCN増幅例 (Figure 3C) では、meNBL液体生検が臨床的に確認される再発の約100日前にNB由来cfDNAを検出し、ddPCRによるMYCN増幅検出と同等の感度を示した。さらに、メチル化ベースの腫瘍分率追跡は従来のゴールドスタンダードである尿中カテコールアミン代謝産物 (VMA/HVA) よりも早期に疾患活動性を捉えることが示された。非MYCN増幅例 (Figure 3D) では、追跡可能な遺伝子異常を持たない患者においても、メチル化ベース検出がMIBGシンチグラフィーによる疾患活動性と一致した予測を与えた。また、ONT長鎖シーケンシングによりSNPアレイや標的パネルで同定されていた既知の臨床的遺伝子異常が全例で検出されたほか、臨床試験パネルでは検出されなかった新規構造変異 (SV) も同定された。

単一ONTランによるゲノムワイドメチル化クラスタリングと分子サブタイプ分類: 7腫瘍 (n=7) のゲノムワイドメチル化PCA (主成分分析) 解析により、MYCN増幅/11q欠失クラスター、ATRX/SMARCA4変異 (SWI/SNFクロマチンリモデリング複合体) サブグループ、ALK変異腫瘍の3分子サブグループが同定され (Figure 1C)、既報の分類と一致した。MYCN増幅と11qの稀な共存例、MYCN増幅とTERT再配置の共存例の取り込みにより、本来排他的とされる分子サブタイプの収束的メチル化パターンが観察され、1回のONTランからの完全分子サブタイピングの可能性が示唆された。

考察/結論

本研究は、高リスク神経芽腫に特異的な72個のメチル化マーカー (meNBLs) を同定し、25個のmeNBLを用いたcfDNA脱畳み込みにより、変異の追跡可能性に関わらず全高リスクNB患者をカバーする普遍的液体生検モニタリングを初めて実現した点で大きな意義を持つ。

先行研究との違い: 従来のNB液体生検研究は超深度標的シーケンシングや変異特異的PCRアッセイに依存し (Berko et al. 2023、Gelineau et al. 2025)、適用可能患者は追跡可能なドライバー変異を持つ約50%に限られていた。これに対して本手法はメチル化という普遍的エピジェネティック特徴を用いるため、変異非依存的であり残り50%もカバーできる点が既存アプローチと根本的に異なる。また、RASSF1A単一マーカーやcfRNAベースアッセイ (TH/PHOX2B) と対照的に、25マーカーパネルによる脱畳み込みはより高い感度・特異度を発揮し、健常コントロールでのバックグラウンドシグナルを完全に排除した。ichorCNAと比較しても、健常対照で6〜11%の偽陽性TFを生じさせるCNA法と相違し、メチル化ベース手法は0%の背景雑音を達成した。

新規性: 本研究は本研究で初めて、神経芽腫を独立した細胞エンティティとしてヒトメチル化アトラスに統合し、全ゲノムONTシーケンシングと組み合わせてcfDNA脱畳み込みによるNB特異的モニタリングを実現した。72個のmeNBLのうち約30%がEPICアレイ非対象領域に存在するというこれまで報告されていないバイオマーカー候補を発掘したことも新規である。さらに、単一ONT実行で遺伝学的 (SNV/CNV/SV) と後成遺伝学的 (CpGメチル化) 情報を同時取得できる点は、ゲノム-エピゲノム統合解析プラットフォームとして新規な展開である。

臨床応用: 本手法は臨床応用に向けた複数の優位性を持つ。まず侵襲性の観点では、採血のみで実施可能であり、鎮静を要するMIBGシンチグラフィーの頻度を削減できる可能性がある。再発を臨床確認の約100日前に分子的検出できることは、早期介入によるアウトカム改善の臨床的意義を示す。また、本法は神経芽腫だけでなく他の小児固形腫瘍や成人悪性腫瘍への拡張性を持ち、精密医療の臨床現場での実装基盤を提供する。メチル化マーカーが担う機序的情報 (神経分化・腫瘍-微小環境相互作用に関与する経路) は創薬標的探索への応用も期待される。

残された課題: 本研究は単施設・小規模コホート (7腫瘍、最大11診断時cfDNA) であり、大規模コンソーシアムベースの前向き検証が今後の課題である。特にONT cfDNAデータのichorCNA解析ではPanel of Normalsの標準化が未確立であり、この技術的課題の解決が今後の研究において必要である。5-ヒドロキシメチルシトシン (5-hmC) の組織アトラスは現存せず、5-hmC脱畳み込みの実装は今後の方向性である。さらに測定コストとONT WGSのリソース集約性が課題であり、EMI法やIllumina 5塩基シーケンシングなど代替技術との比較も今後の検討を要する。

関連する液体生検のメチル化アプローチとして、Liu et al. AnnOncol 2020 はcfDNAメチル化による多がん検出を報告し、Conway et al. NatCommun 2024 はcfDNAメチル化による原発不明がんの組織起源同定を実現した。小児腫瘍へのメチル化液体生検応用として Fang et al. NatCancer 2026 は小児脳腫瘍でCSF由来メチロームの有用性を示しており、小児がんにおけるエピゲノム液体生検の展開を支持する。

方法

研究デザイン・対象: 本研究はイスラエルのSchneider Children’s Medical Centerにおける単施設前向き研究 (2016-2025) として実施された。ヘルシンキ宣言およびIRB承認 (#4370-RMC) に基づき、書面によるインフォームドコンセントを取得した。ONT解析コホートには、高リスクNB腫瘍7例、診断時cfDNA 11例、縦断的cfDNA 17例 (7患者)、健常ドナーcfDNA 8例 (成人5例+小児3例)、および末梢血リンパ球 (PBL) プール3 (各10人分) が含まれた。このコホートはMYCN増幅・非増幅双方の主要分子サブタイプを網羅している。外部検証には、TARGET NBコホート (NB 205例+健常 152例、EPICアレイデータ) および先行ONTがんコホート (189腫瘍、30歳未満を選択) を使用した。

DNA分離とライブラリ調製: ゲノムDNA (gDNA) は新鮮凍結腫瘍組織からQIAamp DNA Micro Kitを用いて抽出され、cfDNAは血漿からQIAamp Circulating Nucleic Acid Kitを用いて抽出された。DNA濃度はQubit Flex fluorometerで測定された。ライブラリ調製はLigation Sequencing Kit V14またはNative Barcoding Kit 24 V14 (Oxford Nanopore Technologies) を製造元の指示に従い実施した。最小DNA投入量はgDNA 1.5 µg、cfDNA 8 ngであった。

シーケンシングとメチル化解析: Oxford Nanopore P2Solo装置とR10.4.1フローセル (FLO-MIN114) を用いてシーケンシングを行った。ONT MinKNOW (v24.06.16) にてhg38アライメントと「modified base-calling」オプションにより5mCを直接検出した。5hmCシグナルはModkitのadjust mods機能を用いて5mC相当に変換した。CpGベータ値はModkit (v0.1.12) で算出し、wgbstools (bam2pat, segment, find markers) を用いて差次的メチル化領域を同定した。Loyfer et al. (2023) の参照アトラス (36組織206サンプル) と比較し、delta-beta上位3パーセンタイルかつp<0.05を有意基準として188領域を抽出し、段階的フィルタリングを経て72個のmeNBLを確定した。uxmtools (build, deconv) を用いて25個のmeNBLを既存アトラスに統合し、脱畳み込みを実施した。

遺伝学的解析: SNV/SV解析にはClair3およびSniffles2を、CNA解析にはichorCNA (500 kbp bin) を使用した。臨床検証にはOncomine™小児がんパネル (200遺伝子)、SNPアレイ (Affymetrix CytoScan HD)、ddPCR (QX200システム) を使用した。GO (Gene Ontology) 濃縮解析にはclusterProfiler (GREAT使用) を用い、Benjamini-Hochberg補正でFDR <0.05を有意とした。統計解析はPython 3.10.7 (pandas, scikit-learn, matplotlib, seaborn) で実施した。生データはNCBI SRA BioProject PRJNA1433864に登録済みである。