- 著者: Matthew Bootsma, Rana R. McKay, Hamid Emamekhoo, et al.
- Corresponding author: Shuang G. Zhao, MD, MSE (Department of Human Oncology, Carbone Cancer Center, University of Wisconsin-Madison)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 2022
- Epub日: 2022-05-26
- Article種別: Original Article
- PMID: 35617646
背景
腎細胞癌 (RCC) は、全世界で年間約 40 万例の新規患者と 17.5 万例の死亡が発生する高頻度悪性腫瘍である Bray et al. CACancerJClin 2018。その約 75% は免疫原性と血管新生依存性を特徴とする淡明細胞型 RCC (ccRCC) である。近年、免疫チェックポイント阻害薬 (ICB) の登場により、nivolumab+ipilimumab や pembrolizumab+axitinib などの ICB ベース併用療法が転移性 mRCC の標準一次治療となり、奏効率 40-60%、完全奏効率 8-10% が達成されている Powles et al. LancetOncol 2020。しかし、治療抵抗性は依然として避けられず、リアルタイムでの腫瘍モニタリングと予後予測バイオマーカーの確立が急務である。
PD-L1 発現は mRCC の否定的予後因子として知られるが、ICB 治療効果予測としては不確かである Motzer et al. NEnglJMed 2015。また、HLA class I (HLA I) 発現は TKI 治療患者の予後因子であるが、ICB 治療患者では予後因子として確立されていない。HLA I は免疫応答を刺激する抗原提示分子であり、PD-L1 は免疫応答を抑制する免疫チェックポイントタンパク質であるため、これら二つの免疫調節分子の相互作用が腫瘍の免疫回避機構を特徴づける情報として有用であると仮説が立てられる。しかし、この関係性は RCC や ICB の文脈ではこれまで研究されておらず、その臨床的意義は未解明であった。
従来の組織生検は侵襲的であり、連続的なサンプリングが困難であるため、リアルタイムでの腫瘍進化を理解するには限界がある。これに対し、循環腫瘍細胞 (CTC) を用いたリキッドバイオプシーは非侵襲的な代替手段を提供する。過去の mRCC における CTC 研究は主に CTC 数に焦点を当て、CTC 数増加と全生存 (OS) 短縮の関連が報告されている。しかし、CTC の縦断的動態と分子プロファイリングを組み合わせた大規模研究は不足しており、特に 100 例を超える患者を対象とした研究はこれまで報告されていない。本研究は、mRCC 患者における CTC 数と HLA I/PD-L1 (HP) 比の縦断的変化を解析し、その予後的意義および免疫療法下での動態変化を明らかにすることを目的とする。これにより、治療応答と抵抗性の分子基盤を理解するための新たな知見を提供し、臨床応用可能なバイオマーカーの確立に貢献することが期待される。
目的
本研究の目的は、転移性腎細胞癌 (mRCC) 患者における縦断的な循環腫瘍細胞 (CTC) 計数および HLA I/PD-L1 タンパク発現のプロファイリングを実施することである。具体的には、CTC 数の年間変化率 (CTC スロープ) と HLA I/PD-L1 比 (HP 比) の年間変化率 (HP 比スロープ) の縦断的軌跡が全生存 (OS) と独立して関連するかを評価する。さらに、免疫チェックポイント阻害薬 (ICB) 治療下における HP 比の動態変化を明らかにし、その臨床的意義を解明する。これらの解析を通じて、mRCC の治療応答および抵抗性のリアルタイムモニタリングに資する新たなバイオマーカーを同定し、予後予測および治療選択の最適化に貢献することを目指す。
結果
CTC 計数と治療応答の関連: OM (OMNIVORE) コホートにおける正規化 CTC 数は 0 から 718.4 CTCs/mL の広範囲に分布し、UW (University of Wisconsin) コホートでは 0.7 から 91.3 CTCs/mL であった。OM コホートにおいて、nivolumab 誘導後に疾患進行 (PD) を示した患者は、治療中の CTC 数がベースラインと比較して有意に増加した (Wilcoxon P=.009)。また、PD 患者の治療中 CTC 数は、部分奏効 (PR) 患者の治療中 CTC 数よりも有意に高かった (P=.035)。PR 患者のベースライン CTC 数は最大 28.3 CTCs/mL を超えることはなく、追跡全期間でも 89 CTCs/mL を超えることはなかった。一方、安定疾患 (SD) 患者の 17% (n=7) および PD 患者の 7% (n=3) がベースラインで 28.3 CTCs/mL を超え、SD 患者の 7% (n=12) および PD 患者の 8% (n=9) が治療中に 89 CTCs/mL を超えた。UW コホートでも、臨床的有益性あり (完全奏効/PR/SD) の患者群と臨床的有益性なし (混合応答/PD/未治療) の患者群を比較すると、後者で CTC 数が有意に高かった (Wilcoxon P=.047)。これらの結果は、CTC 数が治療応答と関連することを示唆する (Figure 1)。
CTC スロープと OS の関連: OM コホートにおいて、患者固有の CTC スロープを算出し、その予後的意義を評価した。CTC の年間変化率が上位四分位 (>0.12 CTCs/mL/年) の患者は、下位 3 四分位 (≤0.12 CTCs/mL/年) の患者と比較して、全生存期間 (OS) が有意に短かった (中央値 17.2 ヶ月 vs 21.1 ヶ月; HR 5.9; 95% CI 1.9-18.7; P<.001)。この結果は、ベースライン CTC 数だけでなく、CTC 数の経時的変化が mRCC 患者の予後を予測する上で重要な情報を提供することを示している。CTC スロープは、単時点の CTC 数評価よりも感度の高い動態マーカーとして機能し、治療中の CTC 数の増加は免疫療法抵抗性の早期指標となる可能性が示唆された (Figure 2)。
HP 比の免疫療法特異的低下と予後的意義: HLA I または PD-L1 の単独発現と CTC 数との間に有意な傾向は観察されなかったため、両者の比である HP 比 (log10(HLA I/PD-L1)) に着目した。ICB 治療下の OM コホートにおいて、HP 比の global linear model は有意な経時的低下を示した (slope = -0.2339, P<.001)。これは、HP 比が時間とともに減少することを示唆する。興味深いことに、UW コホートの ICB 治療サブセットでも同様の傾向が観察された (slope = -0.10548, P=.0671) が、TKI 治療サブセットでは有意な変化は認められなかった (slope = 0.012, P=.821)。OM コホートにおける nivolumab 誘導前後のペアサンプル比較 (中央値 113 日間隔) でも、HP 比の有意な低下が確認された (paired Wilcoxon P=.013)。HP 比の低下は、HLA I 高発現/PD-L1 低発現の腫瘍細胞が免疫療法によって優先的に排除され、残存する腫瘍細胞集団の平均 HP 比が低下するという「免疫選択圧」を反映していると考えられる (Figure 3, Figure 4)。HP 比スロープが上位四分位 (≥0.0012/年) の患者は、下位 3 四分位の患者と比較して OS が有意に短かった (中央値 18.4 ヶ月 vs 21.2 ヶ月; HR 4.8; 95% CI 1.5-15.3; P=.003)。この結果は、HP 比スロープが CTC スロープとは独立した予後因子であることを示している (Figure 5)。
放射線療法の影響に関する探索的解析: UW コホートの 12 名の患者が姑息的放射線療法を受けた。放射線療法前後の CTC 数および HP 比のペアワイズ差を解析した結果、放射線療法直前には CTC 数増加と HP 比上昇 (ともに否定的予後サイン) の傾向が観察された。しかし、放射線療法後約 6 ヶ月間は、CTC 数と HP 比がともに低下する傾向が多項式スプライン曲線で示された。この一時的な改善はその後消退したが、放射線療法が mRCC 腫瘍細胞上の免疫調節分子 (HLA I、PD-L1) 発現に動的に影響を与え、一過性に ICB 感受性を高める可能性が示唆された (Figure 6)。
考察/結論
本研究は、転移性腎細胞癌 (mRCC) における最大規模の縦断的循環腫瘍細胞 (CTC) 研究であり、104 例の患者から得られた 457 検体を用いて、CTC 数スロープ (HR 5.9; 95% CI 1.9-18.7; P<.001) と HLA I/PD-L1 (HP) 比スロープ (HR 4.8; 95% CI 1.5-15.3; P=.003) という 2 つの動態的バイオマーカーが独立した予後因子として機能することを初めて示した。
先行研究との違い: これまでの mRCC における CTC 研究は主に単時点の CTC 数評価に焦点を当てていたが、本研究は CTC 数の縦断的変化が単時点計数を超える予後情報を提供することを示した点で、先行研究と異なる。また、mRCC における HLA I と PD-L1 の関係性はこれまで未検討であったが、本研究は両者の比である HP 比が免疫療法下での腫瘍免疫回避機構の進化をリアルタイムで追跡できることを初めて明らかにした。これは、非小細胞肺癌、肝細胞癌、頭頸部がん、膀胱がんにおける HP 比研究と一貫する知見であり、RCC および ICB の文脈で初めて示された点に独自性がある。
新規性: 本研究で初めて、CTC 数および HP 比の「変化の軌跡」が mRCC 患者の予後を予測する上で重要な独立したバイオマーカーとなることを新規に同定した。特に、免疫療法下で HP 比が経時的に有意に低下するという発見は、免疫選択圧が腫瘍細胞の分子プロファイルに与える影響を直接的に示しており、これまで報告されていない重要な知見である。
臨床応用: 本知見は、mRCC 患者の治療応答予測とモニタリングにおける臨床応用の可能性を秘めている。CTC スロープや HP 比スロープは、画像診断が曖昧な状況や、治療抵抗性の早期発見において、治療切り替えの意思決定を支援する潜在的なバイオマーカーとなり得る。これにより、患者個々の治療戦略を最適化し、個別化医療の進展に貢献することが期待される。
残された課題: 本研究にはいくつかの限界が残されている。OM (OMNIVORE) コホートは ICB+TKI 併用療法や肉腫様変化を有する患者数が少なく、UW (University of Wisconsin) コホートは治療が不均質であったため、外部妥当性に制限がある。また、CTC 捕捉の技術的制約として、CTC 数の患者間変動は生物学的ばらつきに加えて、捕捉プラットフォーム固有の技術的ノイズを含む可能性があり、他施設での再現性確認が求められる。今後の検討課題として、(1) ICB 奏効率 40-60% を達成する一次治療レジメン選択への CTC/HP 比動態の統合、(2) CTC スロープが急上昇した際の治療切り替えトリガーとしての前向き介入試験、(3) cfDNA やエクソソームなど他の液体生検マーカーとの統合解析による予測精度向上が挙げられる。本研究で確立された血液ベース分子プロファイリング基盤は、mRCC における連続サンプリング型バイオマーカー研究の先駆的モデルとして、今後の多施設前向き試験 (例: NRG SAMURAI (Stereotactic Ablative Radiotherapy for Metastatic Urothelial and Renal Cell Carcinoma) 試験、Alliance RadiCal 試験) を牽引することが期待される。
方法
本研究では、2つのコホートから合計 104 例の mRCC 患者から 457 検体の縦断的リキッドバイオプシーサンプルを収集し解析した。一つは第 II 相多施設適応免疫療法試験 OMNIVORE (OM; NCT03203473) コホートで、mRCC 患者 60 例から 305 サンプルが採取された。もう一つはウィスコンシン大学 (UW) 施設の前向きコホートで、44 例から 152 サンプルが採取された。患者一人当たりの中央値は 4.4 サンプルであった。
CTC 捕捉と分子プロファイリング: CTC は、機関独自のマイクロ流体プラットフォーム (exclusion-based analyte isolation) を用いて捕捉された Sperger et al. ClinCancerRes 2017。このプラットフォームは ccRCC CTC 捕捉において高い感度と特異性を示すことが報告されている。捕捉された CTC は自動蛍光顕微鏡解析により計数され、血液量当たり (CTCs/mL) で正規化された。さらに、HLA I および PD-L1 タンパク発現は自動定量蛍光イメージングによって評価された。これらの発現レベルの相互作用を評価するため、log10(HLA I/PD-L1) を HP 比として算出した。HLA I または PD-L1 のいずれかの発現が検出限界以下の場合、検出限界の半分を代入して計算した。
統計解析: 患者固有の線形回帰モデルを用いて、各患者の CTC 数および HP 比の年間変化率 (スロープ) を算出した。全生存 (OS) との関連は、Cox 比例ハザード回帰モデルおよび Kaplan-Meier 法を用いて評価された。統計的検定はすべて両側検定で行われた。連続変数の群間比較には Wilcoxon 順位和検定が用いられ、nivolumab 誘導前後のペアサンプル比較には Wilcoxon 符号順位検定が用いられた。時系列変化の解析には、患者全体を対象とした global linear model が適合された。すべての統計解析は R v4.1.0 を用いて実施された。本研究は、Dana-Farber Cancer Institute (2017-1567) または UW-Madison Carbone Cancer Center (2014-2014) の施設内倫理審査委員会承認プロトコルに基づき、すべての患者から書面によるインフォームドコンセントを得て実施された。