• 著者: Syeda MM, Wiggins JM, Corless BC, Long GV, Flaherty KT, Schadendorf D, et al.
  • Corresponding author: David Polsky (NYU Langone Health, New York, USA)
  • 雑誌: Lancet Oncology
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2021-02-12
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 33587894

背景

転移性悪性黒色腫の治療において、腫瘍の進行をモニタリングし、治療効果を予測するための信頼できる血液ベースのバイオマーカーは依然として不足している。現在、乳酸脱水素酵素 (LDH) が確立された予後因子として用いられているが、治療中の意思決定に資する十分な特異度と感度を欠いている。これに対し、Cell-free circulating tumour DNA (ctDNA) は、腫瘍細胞から血漿中に放出されるDNA断片であり、様々ながん種において腫瘍量、治療反応、微小残存病変 (minimal residual disease) のモニタリングに有用であることが示されてきた。ctDNAの検出や定量は、腫瘍量、治療反応、クローン進化と関連付けられており、特に非小細胞肺がんや乳がん患者における標的療法の適格性を判断するためのEGFRやPIK3CA遺伝子変異の同定にctDNAアッセイが用いられる例が報告されている US Food and Drug Administration 2016

悪性黒色腫においては、BRAF V600またはNRAS Q61ホットスポット変異が転移性腫瘍の約3分の2に相互排他的に認められる Network et al. Cell 2015。BRAF V600変異を有する患者は、BRAF阻害薬であるダブラフェニブ単剤、またはBRAF阻害薬ダブラフェニブとMEK阻害薬トラメチニブの併用療法によって治療される。これらの標的療法や免疫チェックポイント阻害薬による治療を受けた転移性悪性黒色腫患者を対象としたctDNA研究では、ベースラインおよび治療中のctDNA濃度と、腫瘍量変化、奏効率、病勢進行の早期検出、偽進行、薬剤耐性関連変異、および生存期間との関連が示唆されてきた Gray et al. Oncotarget 2015。しかし、これまでのctDNA研究のほとんどは、患者コホートが小規模 (90例未満) であり、後方視的なデータ収集が主体であった。また、様々な検出方法が用いられ、分析的妥当性検証の詳細が不足している場合も多かった。特に、BRAFおよびMEK阻害薬による標的療法を受けた転移性悪性黒色腫患者において、治療前および治療中のctDNAの経時的変化と生存アウトカムとの関連を大規模かつ系統的に解析した研究は不足しており、この点が未解明のままであった。

本研究の背景となったCOMBI-d (ダブラフェニブ+トラメチニブ vs ダブラフェニブ+プラセボ) 試験 (第3相、n=423) およびCOMBI-MB (ダブラフェニブ+トラメチニブ、脳転移コホート) 試験 (第2相) は、ダブラフェニブ±トラメチニブの有効性を評価した主要な臨床試験である。これらの大規模かつ前向きにデザインされたコホートを活用し、ctDNAの解析を行うことで、進行悪性黒色腫患者におけるctDNAの臨床的有用性を検証することが、本研究の重要な動機付けとなった。特に、Santiago-Walker et al. Clin Cancer Res 2016 による大規模な先行研究では、治療前ctDNA陰性患者の生存期間延長が示されたものの、治療中のctDNA変化については詳細な解析が行われていなかったため、知識ギャップが残されている。本研究は、これらの知識ギャップを埋めることを目指した。

目的

本臨床検証研究の主たる目的は、COMBI-d (第3相) およびCOMBI-MB (第2相) 試験に登録されたBRAF V600変異陽性の切除不能または転移性悪性黒色腫患者において、治療前および治療4週時点でのBRAF V600変異ctDNA濃度およびその変化が、治療後の生存アウトカム (無増悪生存期間 [PFS] および全生存期間 [OS]) の独立した予測バイオマーカーおよび予後バイオマーカーとして機能するかを検証することである。

具体的には、以下の点を評価することを目的とした。

  1. ベースラインctDNA濃度が連続変数として、PFSおよびOSとどのように関連するかを評価する。
  2. 最適なベースラインctDNAカットオフ値を統計的に同定し、そのカットオフ値を用いて患者をリスク層別化した場合のPFSおよびOSにおける予後予測能を評価する。
  3. 同定されたカットオフ値の臨床的妥当性を、独立したCOMBI-MBコホートで検証する。
  4. 治療開始4週時点でのctDNA消失 (zero conversion) が、PFSおよびOSの延長と関連するかを評価する。
  5. ベースラインのLDH濃度などの既知の予後因子とctDNAの予測的意義との相互作用を検討し、特にLDH高値患者におけるctDNAの追加的な価値を評価する。
  6. ctDNA測定が、標的療法後の臨床アウトカムを予測するための非侵襲的な血液ベースのバイオマーカーとして、臨床現場での患者管理に貢献し得るかを検討する。

結果

ベースラインctDNA検出率と濃度: COMBI-d試験の解析対象345例中、93% (320/345例) で治療前にBRAF V600変異ctDNAが検出された。COMBI-MBコホートAでも、38例中34例 (89%) でベースラインctDNAが検出された。COMBI-dにおける治療前血漿の中央ctDNA濃度は66.7 copies/mL (範囲0-266,902) であった。ベースラインctDNAが検出された患者は、LDH濃度、転移部位数、および病変径の合計中央値が高い傾向にあった (Table 1)。

ctDNA連続変数としての予後的意義: COMBI-d試験において、log変換されたベースラインctDNA濃度は、治療群を調整した単変量Cox解析でPFSおよびOSと有意に相関した。ctDNA濃度が高いほど、PFSおよびOSが有意に短くなることが示された。具体的には、PFSのハザード比 (HR) は1.08 (95% CI 1.04-1.12, p<0.0001) であり、OSのHRは1.13 (95% CI 1.09-1.18, p<0.0001) であった。ベースラインLDH濃度や治療群などの臨床背景因子を調整した多変量解析モデルにおいても、ベースラインctDNA濃度はOSの独立した予後因子として維持された (OS: HR 1.08, 95% CI 1.03-1.13, p=0.0020)。

最適カットオフ値の同定と検証: COMBI-dコホートにおいて、交差検証法 (Faraggi-Simon法) を用いて、PFSおよびOSを層別化する最適なctDNAカットオフ値として64 copies/mLが同定された (p<0.0001)。このカットオフ値で患者をhigh-risk (≥64 copies/mL) とlow-risk (<64 copies/mL) に層別化した場合、COMBI-dコホートで有意な生存期間の差が認められた。low-risk群のPFS中央値は12.7ヶ月 (95% CI 10.8-16.3) であったのに対し、high-risk群では6.5ヶ月 (95% CI 5.6-7.4) であり、HRは1.74 (95% CI 1.37-2.21, p<0.0001) であった (Figure 1A)。同様に、OS中央値はlow-risk群で35.1ヶ月 (95% CI 27.1-48.8) であったのに対し、high-risk群では13.4ヶ月 (95% CI 11.9-16.1) であり、HRは2.23 (95% CI 1.73-2.87, p<0.0001) であった (Figure 1B)。 この64 copies/mLのカットオフ値は、COMBI-MBコホートAでの独立検証でも有効性が確認された。COMBI-MBにおいて、low-risk群のPFS中央値は11.6ヶ月 (95% CI 5.6-not reached) であったのに対し、high-risk群では5.3ヶ月 (95% CI 3.7-7.2) であり、HRは3.20 (95% CI 1.39-7.34, p=0.0047) であった (Figure 4A)。OS中央値もlow-risk群で34.5ヶ月 (95% CI 21.0-not reached) であったのに対し、high-risk群では9.0ヶ月 (95% CI 8.1-13.5) であり、HRは2.94 (95% CI 1.18-7.32, p=0.016) であった (Figure 4C)。

治療4週時点のctDNA消失 (zero conversion) の予測的意義: COMBI-d試験において、ベースラインでctDNA陽性であった201例のうち、治療4週時点でctDNAが陽性維持されたのは121例 (60%)、消失 (zero conversion) したのは80例 (40%) であった。治療4週時点でのctDNA消失は、PFSおよびOSの有意な延長と関連した (Figure 2)。ctDNAが消失した患者のPFS中央値は、ctDNAが検出された患者と比較して有意に長かった (HR 1.68, 95% CI 1.18-2.39, p=0.0033)。同様に、OS中央値もctDNA消失群で有意に長かった (HR 1.60, 95% CI 1.18-2.39, p=0.0090)。 また、治療4週時点でのctDNA消失は、最良総合奏効 (best overall response) とも強く関連していた (Figure 3)。ctDNAが消失した患者の81% (80例中65例) が客観的奏効 (objective response) を達成したのに対し、ctDNAが検出された患者では53% (118例中63例) であった。ctDNA消失群の全患者が病勢コントロール (完全奏効、部分奏効、または安定) を達成した。

LDH濃度とctDNAの相互作用: ベースラインのLDH濃度で患者を層別化した場合、治療4週時点でのctDNA消失の予測的意義は、特にLDH高値 (>ULN) の患者において顕著であった。LDH高値患者において、4週ctDNA消失はPFS (HR 1.99, 95% CI 1.08-3.64, p=0.027) およびOS (HR 2.38, 95% CI 1.24-4.54, p=0.0089) の有意な延長と関連した。一方、LDH正常値 (≤ULN) の患者では、4週ctDNAステータスと生存アウトカムとの間に有意な関連は認められなかった (PFS: HR 1.37, 95% CI 0.81-2.32; OS: HR 1.31, 95% CI 0.76-2.27)。これは、LDH高値患者においてctDNAの予測価値が最も高い可能性を示唆している。

脳転移患者におけるctDNA: COMBI-MBコホートAの脳転移患者では、ベースラインctDNA濃度は頭蓋外病変径の合計と相関したが (Pearson r=0.48, p=0.0042)、頭蓋内病変径の合計とは相関しなかった (Pearson r=0.16, p=0.33)。孤立性頭蓋内病変を有する9例の患者からの21サンプルのうち20サンプルでctDNAが検出されなかったことから、ctDNAは頭蓋内病変のモニタリングツールとしては有用でない可能性が示唆された。

考察/結論

本研究は、第3相COMBI-d試験および第2相COMBI-MB試験という2つの大規模な前向き臨床試験コホートを用い、分析的に妥当性検証されたddPCR法によってBRAF V600変異ctDNAが、切除不能または転移性悪性黒色腫患者におけるダブラフェニブ±トラメチニブ治療の独立した予後および予測バイオマーカーであることを、大規模かつ系統的に実証した初めての報告である。

先行研究との違い: これまでの小規模な研究や後方視的解析とは異なり、本研究では大規模な前向きコホートにおいて、ベースラインおよび治療中のctDNAの経時的変化と生存アウトカムとの関連を詳細に解析した。特に、治療4週時点でのctDNA消失が、PFSおよびOSの延長と有意に関連することを示し、これは早期治療反応のモニタリングにおけるctDNAの有用性を裏付けるものである。また、LDH高値患者においてctDNAの予測的意義が特に顕著であるという知見は、従来の予後因子とctDNAの相補的な役割を示唆するものであり、これまでの研究では十分に検討されていなかった点である。

新規性: 本研究で初めて、ベースラインctDNA濃度を層別化するための最適なカットオフ値として64 copies/mLを統計的に同定し、これを独立したCOMBI-MBコホートで検証した。このカットオフ値は、患者の生存アウトカムに関して高リスク群と低リスク群を明確に区別できる新規の指標であり、臨床実装の強固な基盤を提供する。また、ddPCRという定量的な手法を用いることで、ctDNA濃度が連続変数としてPFSおよびOSと独立して関連することを示した点も新規性がある。

臨床応用: 本知見は、BRAF V600変異陽性悪性黒色腫患者の管理におけるctDNA液生検の臨床応用を強力に支持するものである。治療開始前のベースラインctDNA濃度は、患者のリスク層別化に利用でき、治療戦略の決定に役立つ可能性がある。例えば、ベースラインctDNA濃度が高い患者に対しては、より積極的な治療介入や密なモニタリングが検討されるかもしれない。さらに、治療4週時点でのctDNA消失は、早期の治療反応を評価し、治療効果の予測に利用できる。特に、腫瘍生検が困難な場合や、治療開始を急ぐ必要がある場合に、ctDNA液生検は迅速かつ低侵襲な診断ツールとして臨床現場で活用できる。ターンアラウンドタイムが組織生検と比較して短いことも大きな利点である。

残された課題: 本研究にはいくつかのlimitationが残されている。COMBI-d試験では、治療中の血漿サンプルが4週時点の1回のみであったため、長期的なctDNAの動態や、薬剤耐性獲得に伴うctDNAの変化を詳細に追跡することはできなかった。今後、より頻繁な縦断的ctDNA測定により、獲得耐性変異の早期検出や治療変更のタイミングを最適化する研究が必要である。また、本研究ではBRAF V600変異のみを解析対象としたが、NRAS変異など他のドライバー変異や獲得耐性関連変異の解析を含めることで、モニタリング戦略の精度が向上する可能性がある。脳転移患者においては、ctDNAが頭蓋内病変のモニタリングツールとして有用でない可能性が示唆されたことも重要な課題であり、脳転移を有する患者のctDNAモニタリングにはさらなる検討が必要である。COMBI-MBコホートは比較的小規模であったため、さらなる検証コホートでの確認解析が今後の課題として挙げられる。

方法

本研究は、進行BRAF V600変異陽性悪性黒色腫患者を対象とした2つの前向き臨床試験、COMBI-d (NCT01584648) およびCOMBI-MB (NCT02039947) の患者から得られた血漿サンプルを用いた臨床的検証研究である。

対象患者とサンプル収集: COMBI-d試験は、未治療のBRAF V600変異陽性切除不能または転移性悪性黒色腫患者を対象とした二重盲検無作為化第3相試験であり、ダブラフェニブ+トラメチニブ群とダブラフェニブ+プラセボ群を比較した。本研究では、COMBI-d試験の423例中、治療前血漿サンプルが345例 (82%)、治療4週時点の血漿サンプルが224例 (53%) で利用可能であった。 COMBI-MB試験は、BRAF V600変異陽性脳転移を有する転移性悪性黒色腫患者を対象とした非盲検非無作為化第2相試験であり、ダブラフェニブ+トラメチニブを評価した。本研究では、COMBI-MBコホートAの76例中、治療前および治療4週、8週、16週、24週、32週、40週のサンプルが38例 (50%) で利用可能であった。 両試験の患者は18歳以上で、ECOGパフォーマンスステータスが0または1であった。血漿サンプルはEDTAチューブに採取され、遠心分離後に-70℃以下で保存された。

ctDNA測定: BRAF V600EまたはBRAF V600K変異ctDNAの定量には、分析的に妥当性検証されたdroplet digital PCR (ddPCR) アッセイが用いられた。ddPCRはBio-Rad LaboratoriesのQX200 Droplet Digital PCRシステムで実施され、QuantaSoft Analysis Pro (version 1.0.596) で解析された。アッセイの選択 (V600E vs V600K) は、試験登録時のスクリーニングで決定された腫瘍の遺伝子型情報に基づいた。正常アッセイ範囲は30人の健常ドナーの血漿を用いて決定され、検出限界 (limit of blank) はBRAF V600Eで0.28コピー/mL、BRAF V600Kで0.34コピー/mLと設定された。これらのカットオフ値を超える濃度を示すサンプルはctDNA陽性と判断された。ベースラインでctDNAが検出された患者において、追跡期間中のいずれかの時点でctDNA濃度が検出限界以下に減少した場合、ctDNAゼロコンバージョンと定義された。

統計解析: COMBI-d試験のctDNA解析データは、治療群間で相関解析に有意差がないことが初期解析で示されたため、両治療群をプールして解析され、Coxモデルは治療群情報で調整された。 ctDNA濃度はlog変換された連続変数として、また二値変数 (陽性/陰性、または最適カットオフ値に基づく高リスク/低リスク) として解析された。最適なベースラインctDNAカットオフ値の探索には、Lausen-Schumacher法が用いられ、交差検証法 (Faraggi-Simon法) によってその性能と有意性が評価された。 無増悪生存期間 (PFS) および全生存期間 (OS) とctDNAとの関連は、Cox比例ハザードモデル、Kaplan-Meier法、およびログランク検定を用いて評価された。多変量モデルでは、治療群、ベースラインLDH層、転移部位数、BRAF変異タイプ、ECOGパフォーマンスステータス、性別、年齢、病期などの臨床的予後因子も調整因子として考慮された。 治療4週時点でのctDNAゼロコンバージョンと最良総合奏効 (best overall response) との関連は、比例オッズ尤度比検定を用いて評価された。また、ベースラインLDH濃度と治療4週時点のctDNAステータスとの相互作用もCoxモデルで検討された。統計解析にはR (version 3.4.3) およびSAS (version 9.4) が使用された。