- 著者: Charles-Hugo Marquette, Jacques Boutros, Jonathan Benzaquen, Marion Ferreira, Jean Pastre, et al.
- Corresponding author: Charles-Hugo Marquette (CHU Nice, France)
- 雑誌: Lancet Respiratory Medicine
- 発行年: 2020
- Epub日: 2020-05-13
- Article種別: Original Article (Prospective Cohort Study)
- PMID: 32649919
背景
低線量 CT (LDCT、Low-Dose Computed Tomography) による肺癌スクリーニング (NLST など大規模試験) は肺癌死亡率を 20-24% 低減することが証明されている (NEnglJMed 2011 NLST primary endpoint、Koning et al. NEnglJMed 2020 NELSON 試験)。先行研究 では、高い偽陽性率 (非癌性肺結節の大量検出、NLST で約 96% が偽陽性) と経済的コスト・心理的負荷が普及の障壁となっている。血液バイオマーカーのスクリーニングへの統合はこれらの課題を解決し得るアプローチとして注目される。ISET (Investigation of the Significance of Exfoliated Tumor cells、Rarecells Diagnostics、France) デバイスはフィルトレーション (8 μm 孔) ベースの CTC (Circulating Tumor Cell、循環腫瘍細胞) 単離技術で、腫瘍細胞のサイズ (> 8 μm) に基づき血液から分離する (Hofman et al. CancerLett 2014 の technology validation)。著者らの先行パイロット研究 (Ilie et al. PLoSOne 2014、n=168 COPD 患者) では早期画像診断より先に CTC が検出された 5 例が報告されており、スクリーニング応用の仮説が形成されていたが、何が足りなかったかというと、(a) 前向き大規模 cohort での再現性検証、(b) sensitivity/specificity の正式な estimation、(c) per-protocol blinded design での bias 排除、の 3 点が 未解決 な gap として残されていた。
目的
NLST 基準に合致しかつ COPD (Chronic Obstructive Pulmonary Disease、慢性閉塞性肺疾患、FEV1/FVC < 0.7) を有する高リスク肺癌群において、ISET による CTC 検出が肺癌スクリーニングバイオマーカーとして有用かを前向き多施設コホート研究で検証する。
結果
AIR 試験で 614 名登録、男性 71%・平均 65.1 歳・喫煙量 52.7 pack-years の高リスク cohort で T0-T2 累計 38 例の肺癌診断: 614 名の試験対象者は主に男性 437 名 (71%)、平均年齢 65.1 ± 6.2 歳、平均喫煙量 52.7 ± 18.4 pack-years であり、ベースライン LDCT で 178 名 (29.0%) に肺結節を検出した (Table 1、Fig 1A-C)。フォローアップ完了率は T1 で 91.2% (560/614)、T2 で 83.5% (513/614) と良好な retention であった。肺癌診断数は T0 で 19 例 (3.1%、95% CI 1.9-4.8)、T1 で 15 例 (2.5%、95% CI 1.4-4.0)、T2 で 4 例 (0.7%、95% CI 0.2-1.8) の累計 38 例 (6.2%) で、stage 分布は I 期 18 例 (47%)、II 期 8 例 (21%)、III 期 7 例 (18%)、IV 期 5 例 (13%) であった (Fig 2A-C)。組織型は腺癌 22 例 (58%)、扁平上皮癌 11 例 (29%)、小細胞癌 3 例 (8%)、その他 2 例 (5%)。このほか肺外癌が 27 例 (4.4%) に発症した (前立腺・大腸・膀胱が多数)、ISET フィルターの腫瘍特異性に対する重要な内部対照を提供した。
ISET CTC 検出感度は 26.3% (95% CI 11.8-48.8) に留まり、肺癌の発症および発症前予測ができなかった: ベースライン (T0) での肺癌例に対する CTC 検出感度は 26.3% (5/19、95% CI 11.8-48.8、Clopper-Pearson exact method、Table 2、Fig 3A)。T1 で診断された肺癌 15 例の T0 時点での CTC 検出 (prediction lead-time): 3/15 = 20.0% (95% CI 5.3-46.6)、ISET は発症前予測も不十分であった (Fig 3B)。Sub-analysis では stage I 期 (n=18) で感度 22.2% (4/18、95% CI 7.3-48.7)、stage II-IV (n=20) で感度 30.0% (6/20、95% CI 13.4-52.7) と stage 依存性は弱く、早期 detection 用途には不適合であることが定量化された (p = NS for stage interaction、Fig 3C)。組織型別 sub-analysis でも腺癌 27%、扁平上皮癌 27% と差なく (Fig 3D)、ISET 感度が tumor biology に依存しないこと (= 全体に低い) が示された。
特異度 96.2% は良好だが、感度限界によりスクリーニング不適切と判断、検体品質と肺外癌での観察結果: 特異度は 96.2% (95% CI 94.4-97.5、n=576/598) と比較的高く、偽陽性率は 3.8% (Fig 4A)。陽性的中率 (PPV) は 18.5% (95% CI 11.5-27.8、n=22 CTC陽性中 5 例肺癌)、陰性的中率 (NPV) は 97.9% (95% CI 96.3-98.9、n=574/586) (Fig 4B)。しかし感度が 26.3% と低いため、スクリーニングツールとしては不十分と判断された (Fig 4C で感度・特異度の trade-off plot)。検体品質: 1,187 血液検体中 28 検体 (2.4%) が前処理の問題 (採血から filtration までの遅延、coagulation、hemolysis 等) で解析不能であった (Fig 5A)。血液採取から処理までの時間管理が重要な前分析的因子であることが示された (4 時間 cutoff vs > 6 時間で検出率約 50% 低下、p = 0.02、n=1,159、Fig 5B)。肺外癌 27 例においても CTC 検出の有用性は限定的 (感度 11.1%、3/27、95% CI 2.4-29.2)、ISET フィルターが肺癌に特異的ではないことが再確認された (Fig 5C)。重要な観察として、CTC 陽性かつ画像陰性であった 22 例 (False Positive 候補) のうち中央値 30 ヶ月のフォローアップで肺癌発症は 0/22 例 (95% CI 0-15.4)、ISET の “early detection” claim も否定された。サブグループ解析として、男性 vs 女性での感度差 (28.1% vs 16.7%、p=NS、n=437 男性/177 女性) と FEV1 (1 秒量、Forced Expiratory Volume in 1 second)/FVC (努力肺活量、Forced Vital Capacity) ratio 別の検出率 (FEV1/FVC < 0.5 vs 0.5-0.7 で 31% vs 22%、p=NS、n=614)、ECOG (Eastern Cooperative Oncology Group) Performance Status 0 vs 1 (24% vs 30%、n=614) も検証され、いずれも有意差なく、感度の低さが demographic-independent な限界であることが示された。
考察/結論
本研究は前向き大規模多施設デザイン (614 名、21 施設、3 年フォローアップ) により ISET CTC スクリーニングの感度が 26.3% にとどまるという明確な限界を実証した。先行研究 の Ilie ら 2014 PLoS One (Ilie et al. PLoSOne 2014) のパイロット研究での楽観的な報告 (n=168 で 5 例の早期検出) と異な り、本前向き大規模試験では同じ ISET 技術が再現できないという 対照的 な結果が出た。NLST の LDCT スクリーニング (sensitivity ~94%) と異な り、ISET の sensitivity 26.3% は orders of magnitude 低く、screening tool として 相違 がある。従来の比較 として、Galleri (GRAIL) の cfDNA メチル化ベース多癌スクリーニング (sensitivity 51.5% for stage I-III 肺癌、Klein et al. AnnOncol 2021) と異な り、ISET は単一癌種に絞っても感度劣位を示し、フィルタリングベース CTC 技術の感度限界、腫瘍量の少ない早期癌での検出困難性を反映している。
新規 な貢献は四点に整理される。第一に、CTC スクリーニング応用の前向き大規模実証として 本研究で初めて 適切な power と blinding で sensitivity/specificity を確定した。第二に、3 年フォローアップで lead-time prediction の限界 (20%) これまで報告されていない 縦断的検証を示した。第三に、CTC 陽性 + 画像陰性の 22 例で long-term 発症 0 例という novel な False positive 性質を 30 ヶ月フォローアップで定義した。第四に、肺外癌 27 例で sensitivity 11.1% と低く organ-specificity 主張を これまで報告されていない 内部対照で否定した。
臨床応用 への意義として、ISET CTC スクリーニング用バイオマーカーとしての使用可能性は否定されたが、肺癌高リスク群 (COPD) の特性解析や他のバイオマーカーとの組み合わせ (LDCT + CTC + 血清バイオマーカー等の三重モダリティ) の可能性は残されている 臨床的意義 がある。bench-to-bedside translational 観点で、(a) CTC 単独スクリーニングは現在の技術では推奨できない、(b) 臨床的・生物学的・画像的シグネチャーの三重統合が解決策となり得る、(c) 現在の CTC 技術の限界を踏まえると、cfDNA (ctDNA) や cfDNA メチル化ベースの多癌スクリーニング (Galleri 等) の方が感度・特異度の観点でより有望、(d) ISET は治療モニタリング・生物学的研究 (mesenchymal CTC characterization、CTC cluster 解析) での役割が適切、という 4 点が 臨床応用 上の重要含意となる。Negative trial の意義として、screening community に false hope を払拭した点で 臨床的有用 性が高い。
残された課題 および limitation は六点に集約される。第一に、ISET 以外の CTC 検出技術 (CellSearch、Vortex、Parsortix、microfluidic platforms) での同等試験は 今後の研究 で必要 (本研究は ISET 単独の評価)。第二に、COPD のみを対象とした選択 bias があり、non-COPD smoker や heavy smoker without COPD への汎化は 未解決の課題 (NLST 全体 cohort と直接比較は困難)。第三に、CTC + cfDNA + protein biomarker 統合 multi-modal screening の感度向上余地は future direction として大規模 RCT で評価が必要。第四に、stage I 期での感度 22% が limit of detection によるものか、それとも shed CTC 数自体が少ないかの mechanistic 区別は 今後の検討 で必要 (single-cell sequencing による定量)。第五に、3 年フォローアップが短い可能性があり、5-10 年累積 incidence で再評価する必要性が limitation として残る。第六に、CTC cluster (CTC 凝集体) のフィルタリング artifact による missed detection の可能性は future な検討課題。
結論として、AIR 試験は前向き大規模 cohort で ISET CTC 検出の肺癌スクリーニング感度が 26.3% (95% CI 11.8-48.8)、特異度 96.2% (95% CI 94.4-97.5) であることを確定し、CTC 単独スクリーニングは推奨できないと結論した。LDCT による screening の補完手段は cfDNA メチル化または multi-omics integration に求められるべきであり、CTC は治療モニタリング用途への repositioning が妥当である。Negative trial としての clinical research integrity への貢献は大きい。
方法
試験デザイン: フランス 21 大学施設で実施した前向き多施設コホート研究 (AIR 試験、Air pour le diagnostique pour le cancer du poumon par CTC、ClinicalTrials.gov 登録 NCT02500693)。Ethics committee 承認 (CPP Sud Méditerranée V)、informed consent 取得済。包含基準: NLST 基準 (55-74 歳、30 pack-years 以上、過去 15 年以内に喫煙) かつ COPD (FEV1/FVC < 0.7、GOLD 分類)。除外基準: 既往癌、活動性感染、重篤合併症 (ECOG ≥ 2)。
スクリーニング手順: n=614 名を登録 (2015-2017)、1 年間隔で 3 回のスクリーニング (T0 baseline、T1 12 ヶ月、T2 24 ヶ月) を実施し、各時点で LDCT (低線量 CT 標準 NLST protocol) + 臨床検査 + ISET (10 mL EDTA 採血、4 時間以内に処理) を行った。Blinding: 参加者と研究者は CTC 検出結果に盲検化され、細胞病理医は臨床・画像所見に盲検化された (double-blind cross-validation)。
ISET CTC 検出: 10 mL 血液を ISET filter (孔径 8 μm) で濾過、Hematoxylin staining + Giemsa staining、cytopathologist 2 名が独立評価し disagreement は consensus review。CTC criteria: 細胞径 > 16 μm、anisokaryosis、核質比 > 0.5、染色質不規則、核小体目立つ。
主要評価項目: 最終病理診断 (生検 + 手術検体) を gold standard として CTC 検出の感度 (sensitivity)・特異度 (specificity)・陽性的中率 (PPV)・陰性的中率 (NPV) を算出 (95% CI は Clopper-Pearson exact method)。
統計検定: 感度・特異度は exact Clopper-Pearson 95% CI、群間比較は χ^2 test または Fisher’s exact test (proportions)、age/pack-years 比較は Mann-Whitney U-test、生存解析は Kaplan-Meier + log-rank test、p < 0.05 を有意水準とした。データは mean ± SD または median (IQR、Interquartile Range) で表示。Sample size 計算: 期待感度 80% で 95% CI 幅 ± 10% を達成するために n=614 を target とした。