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Single-cell metabolic fingerprints discover a cluster of circulating tumor cells with distinct metastatic potential

  • 著者: Zhang Y, et al.
  • Corresponding author: Zhang Y
  • 雑誌: Nature Communications
  • 発行年: 2023
  • Epub日: 2023-04-28
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 37120634

背景

circulating tumor cells (CTC) は固形腫瘍から剥離して血流中を循環する細胞であり、遠隔転移形成の直接的な前駆体として転移メカニズム研究と液体生検バイオマーカー開発の主要対象となっている (液体生検)。Cristofanilli et al. 2004 はcell-free DNA (cfDNA) と並んでCTC数が乳がん患者の予後指標となることを示し (MRD評価)、Chaffer and Weinberg et al. 2011 はepithelial-mesenchymal transition (EMT) とCTCの転移能獲得の関連を詳述した。Yu et al. 2013 は単一CTC解析によりEMTマーカーの不均一性が予後と関連することを示したが、転移能を規定する分子特性は依然として不明な点が多く、代謝表現型という観点から転移亢進サブクラスを識別できるかどうかが未解明であった。従来のCTC解析は主にゲノム・トランスクリプトーム情報に依拠しており、単一細胞レベルでの代謝プロファイリングは技術的制約から実現されていなかった。単一細胞に含まれる代謝物量は極微量 (約120 fL) であるため、通常の代謝解析手法では検出感度が不十分であり、高感度な抽出・分析技術の開発が何が足りなかったかという核心的課題となっていた。

目的

ナノキャピラリー電気泳動-質量分析 (nanocapillary electrophoresis-mass spectrometry) を用いた単一CTC代謝フィンガープリント解析法を確立し、大腸がん患者のCTCから転移能の異なるサブグループを同定して、その臨床的意義をコホート研究で検証することを目的とした。

結果

代謝フィンガープリント解析法の確立と代謝特徴の同定:

ナノキャピラリー電気泳動-質量分析により単一CTC (約120 fLの細胞内液) の代謝フィンガープリント取得に成功した (Fig 1参照)。-2V・40秒の電気泳動条件は、細胞破壊を最小化しながら細胞内容物を効率的に抽出するために最適化されたものであり、単一細胞あたりの信号強度は従来法と比較して10-fold以上の向上を示した。細胞株ペア解析では12,350の代謝特徴が検出され、SW480/SW620ペア (大腸がん原発vs転移) でOPLS-DA Q2=0.725、HT-29/COLO205ペア (primary vs metastatic) でQ2=0.987という高い判別能が確認された。両ペアに共通する19の代謝特徴を抽出し、単一CTCでの測定精度検証から11の代謝物が安定して定量可能であることが確認された (日内変動 8.2〜18.1%、日間変動 8.2〜17.5%)。14候補代謝物のスクリーニングから最終的に4代謝物の組み合わせが転移能識別に最適と判定された (Fig 2参照)。これら4代謝物はいずれも転移性細胞株で有意に高い発現/濃度を示し、候補代謝物のうち検出率・安定性・統計的有意差の3条件を全て満たすもので構成された。

NMF+ロジスティック回帰によるC1/C2サブグループ分類:

非負値行列因子分解 (NMF) とロジスティック回帰を組み合わせたアルゴリズムにより、CTC を転移能が異なるC1サブグループ (転移能低) とC2サブグループ (転移能高) に分類するモデルを構築した (Fig 3参照)。訓練コホート (n=60名) でモデルを最適化し、独立テストコホート (n=15名) での検証を実施した。2年間のフォローアップ (n=75名) において、C2サブグループを有する患者では転移発生率が有意に高く、C2サブグループの転移能亢進との関連が確認された。C2 vs C1の分類は患者の転移状況とKaplan-Meier解析での有意な差を示した (p<0.05)。

臨床的関連性の検証:

208名の大腸がん患者コホートにおける検証では、CTC陽性83名のうちC2陽性患者は遠隔転移発生と有意に相関した (Fig 4参照)。2年間の追跡期間中 (n=75名フォローアップ)、C2 CTCを保有した患者群では非保有群と比較して転移率が2.3-fold超高く、独立した転移予測因子として機能することが示された。C2 vs C1の分類はCEA・CA19-9などの従来の血液バイオマーカーとは独立して転移リスクを予測した。ロジスティック回帰多変量解析において、C2陽性はTNM stageを調整後も遠隔転移の独立リスク因子として同定された (OR>2.0、p<0.05)。4代謝物シグネチャーの定量は血液採取後の標準的な前処理プロトコルで再現性良く (n=各バッチ3反復) 実施可能であり、1患者あたり複数CTC採取時の一致率が検証された。

考察/結論

本研究は単一CTC代謝フィンガープリント解析という新規アプローチにより、大腸がん患者のCTCから転移能が異なるサブグループを識別することに初めて成功した。先行研究と比較すると、Cristofanilliらや Yuら既存の研究ではCTC解析はゲノム・トランスクリプトームレベルに留まっており、単一細胞の代謝表現型による転移能評価は技術的限界から実現されていなかった。本研究はこれと異なり、ナノキャピラリー技術で極微量 (120 fL) の細胞内液から代謝情報を取得し、4代謝物シグネチャーで転移能を定量的に識別できることを示した独自性の高い成果である。

新規性として、NMFとロジスティック回帰の組み合わせによるC1/C2サブグループ分類は、従来のCTC数カウントではなく「転移能の質的評価」を可能にする新規な概念的フレームワークを提供する (液体生検)。臨床応用の観点では、C2サブグループの同定は術前・術後の転移リスク評価に直接活用でき、個別化治療方針決定に寄与する可能性がある。大腸がん以外の固形腫瘍でも同様の代謝フィンガープリントアプローチが応用可能であり、液体生検の新たな次元を拓く可能性がある (腫瘍MRD評価)。残された課題として、4代謝物の生物学的機能と転移促進機序の解明、多施設前向き検証コホートの構築、ナノキャピラリーシステムの臨床実装コスト・スループットの改善、ならびに他がん種での有効性確認が必要である。代謝物の具体的な化学的同定と代謝経路との対応づけ、4代謝物以外の補完的シグネチャーの探索、さらにscRNA-seqデータとの統合による代謝-転写の連関解明も今後の重要な課題である。ナノキャピラリー技術の更なる高感度化により、現行の120 fL/cell採取量をさらに少量化することで血中CTC数の少ない症例への適用拡大も期待される。

方法

大腸がん患者208名 (CTC陽性 83名) から採取した血液サンプルを用いた。単一CTC代謝解析にはナノキャピラリー電気泳動-質量分析システムを使用し、1細胞あたり約120 fLの細胞内液を-2V、40秒の電気泳動条件で抽出した。細胞株ペア (primary-metastatic pairs: SW480/SW620、HT-29/COLO205) を用いた予備実験で12,350の代謝特徴を同定し、両ペアに共通する19の代謝特徴、さらに検証可能な11の代謝物を絞り込み、14候補代謝物のスクリーニングを実施した。非負値行列因子分解 (NMF) とロジスティック回帰の組み合わせによりCTCをC1/C2サブグループに分類するモデルを構築した。モデル評価は訓練コホート (n=60名) と独立テストコホート (n=15名) で実施した。日内変動8.2〜18.1%、日間変動8.2〜17.5%として定量精度を検証した。orthogonal partial least squares-discriminant analysis (OPLS-DA) でクラス分離を評価した (Q2値)。