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Evaluation of automatic cell free DNA extraction metrics using different blood collection tubes

  • 著者: Andersson D, et al.
  • Corresponding author: Ståhlberg A (University of Gothenburg)
  • 雑誌: Scientific Reports
  • 発行年: 2025
  • Epub日: 2025-05-20
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 40461680

背景

cell-free DNA (cfDNA; 細胞外DNA) の血漿解析は、出生前診断、がんゲノム医療、移植医療、神経変性疾患などの多様な臨床応用で活用されているが、血漿中のcfDNA量は一般的に極めて少量であり、健常人では 10 ng/mL 未満かつ平均 167 bp (base-pairs) 程度に高度に断片化されているため、前処理の標準化が解析精度の根幹となる (Liquid biopsy paradigm)。先行研究において、Trigg et al. (2018) はcfDNAの品質や収量に影響を与える前処理因子を系統的にレビューし、Sorber et al. (2020) は Cell-Free DNA Blood Collection Tubes (BCTs) などの保存性血液採取チューブが液体生検の前処理を改善することを報告した。さらに Meddeb et al. (2019) は、採血から血漿分離までの時間と採取チューブの選択が細胞性DNA汚染に与える影響を示し、前処理条件のガイドラインを提示した。しかし、標準的な K2EDTA (ethylenediaminetetraacetic acid dipotassium) チューブは、採血後の保存遅延によって白血球が破壊され、ゲノムDNAが放出されることで細胞性DNA汚染が生じるという課題が知られている。これまでの研究では、QIAsymphony SP (Qiagen) 自動磁気ビーズシステムを用いて、K2EDTAと複数の保存性チューブを同一実験で大規模にペア比較した研究は行われておらず、細胞性DNA汚染を検出するための最適なアッセイの組み合わせも未解明のままであった。このように、自動抽出プラットフォームにおける各チューブの経時的な性能差や汚染評価手法の感度比較に関する知見が不足しており、前処理ワークフローの最適化における大きな gap が残されていた。これが本研究が解決しようとした核心的な課題である。

目的

本研究の目的は、K2EDTA、Norgen、PAXgene、Streckの4種の血液採取チューブと、QIAsymphony SP自動磁気ビーズ抽出システムを組み合わせた前処理ワークフローを確立することである。そして、採血から血漿分離までの時間 (0 h、48 h、168 h) および遠心ステップ数 (単回遠心 vs 二回遠心) が、cfDNAの収量、品質、および細胞性DNA汚染に与える影響を体系的に評価することを目指した。さらに、cfDNA定量法 (蛍光定量法 vs qPCR) と、細胞性DNA汚染検出法 (qPCR長短比 vs 並列キャピラリー電気泳動) の特性を比較し、液体生検における最適な品質管理戦略を提示することを目的とした。

結果

チューブ種別と初期cfDNA収量の比較:

採血直後 (0 h) において、推奨される遠心条件で処理された血漿中の平均cfDNA濃度を短配列 single-locus qPCR で測定したところ、Streck チューブで 2.74 ng/mL、K2EDTA チューブで 2.41 ng/mL、PAXgene チューブで 1.66 ng/mL、Norgen チューブで 0.76 ng/mL であった (Fig 2)。Norgen チューブにおける cfDNA 収量は、Streck チューブと比較して約 0.28-fold と有意に低く、QIAsymphony SP 自動抽出システムの磁気ビーズ法との相性が低い可能性が示唆された。蛍光定量法では全 649 サンプルのうち 343 サンプル (71%) でしか cfDNA を定量できなかったが、qPCR法では全サンプルで検出可能であり、qPCRの感度の高さが実証された (Fig 2)。また、single-locus (PDGFRA) と multi-locus (Alu-60) のqPCR定量値は、濃度に関わらず極めて高い相関を示した (Pearson r>0.95) (Fig 2)。遠心回数の比較では、K2EDTA、Norgen、PAXgene チューブにおいて、単回遠心のほうが二回遠心よりも cfDNA 収量が有意に高い傾向を示したが (Wilcoxon, p<0.05)、Streck チューブでは遠心回数による収量の有意差は認められなかった。

時間依存性のcfDNA濃度変化と細胞性DNA汚染:

K2EDTA チューブでは、採血後の血漿分離遅延に伴い cfDNA 濃度が著しく増加した。0 h 時点の 2.41 ng/mL に対し、48 h では 7.39 ng/mL (約 3.1-fold increase)、168 h では 68.19 ng/mL (約 28-fold increase) に達した (Wilcoxon, p<0.0001, n=42 replicates) (Fig 2)。この急激な増加は、保存中に白血球が崩壊してゲノムDNAが放出されたことによる汚染を反映している。一方、3種の保存性チューブでは経時的な濃度変化が極めて緩やかであった。0 h と 168 h の比較において、PAXgene チューブでは 49.4% の緩やかな濃度増加が認められ、Streck チューブでは 13.1% のわずかな減少が認められたが、Norgen チューブは 168 h 経過後も極めて安定した濃度を維持した (Fig 2)。同一個人の同一採血時点におけるチューブ間の cfDNA 濃度相関を解析したところ、0 h 時点では K2EDTA と PAXgene で高い相関 (r=0.71) を示したが、168 h 保存後には相関が著しく低下し、Norgen と Streck (r=0.42)、PAXgene と Streck (r=0.50) の間の中等度の相関に留まった (Fig 3)。

細胞性DNA汚染の定量評価と検出感度の比較:

qPCRによる long:short cfDNA比 (FLI1/PDGFRA) を用いて細胞性DNA汚染を評価したところ、K2EDTA チューブでは 0 h の 0.02 から、48 h で 0.11、168 h で 0.13 へと経時的に上昇した (Fig 4)。PAXgene チューブにおいても、168 h 保存後に long:short 比の有意な上昇が確認され、緩やかな細胞性ゲノムDNAの漏出が示された (Fig 4)。これに対し、Streck チューブでは 168 h 保存後も long:short 比の上昇は認められず、細胞性DNA汚染を完全に抑制していることが示された。PCE解析によるサイズ分布評価では、K2EDTA の 48 h および 168 h 保存サンプルにおいて、167 bp 間隔のオリゴヌクレオソームに対応するマルチマーピークが明瞭に観察され、細胞性DNA汚染が可視化された (Fig 5)。保存性チューブ (PAXgene、Streck) では、168 h 保存後も 167 bp 付近のメインピークがわずかに幅広化するのみで、明らかな長鎖ゲノムDNAピークは検出されなかった。この結果から、qPCRによる長短比測定のほうがPCE解析よりも細胞性DNA汚染に対する検出感度が高いことが明らかになった。また、二回遠心処理は、K2EDTA、PAXgene、Norgen において、単回遠心よりも長鎖の汚染ゲノムDNAを効率的に除去する効果が確認された (Fig 5)。

個人内変動および臨床背景因子との関連:

20名の健常ドナー (n=20 donors) から平均 47.6 日の間隔で2回採血したペアサンプルを比較したところ、個人内の cfDNA 濃度変動は平均 36% であった (Fig 3)。1回目の採血で cfDNA 濃度が高かった個人は、2回目も高い値を維持する傾向があり、cfDNA 濃度には個人ごとのベースラインが存在することが示唆された。なお、23名の健常人コホートにおいて、性別 (Mann-Whitney U test) および年齢 (Pearson correlation) と cfDNA 収量との間には統計学的に有意な関連は認められなかった。

考察/結論

先行研究との違い:

本研究は、健常人23名から得られた 649 サンプルの大規模な直接ペア比較を行い、4種の血液採取チューブと QIAsymphony SP 自動抽出システムを組み合わせた前処理ワークフローを体系的に評価した。先行研究である Trigg et al. (2018) や Sorber et al. (2020) は、系統的レビューや個別チューブの限定的な評価に留まっていた。これらと異なり、本研究は同一個人の同一採血サンプルを用いて、複数のcfDNA定量法および汚染検出法を同一実験系で直接比較した点で極めて独自性が高い。

新規性:

本研究は、PAXgene チューブにおいて 168 h 保存後に 49.4% の cfDNA 濃度増加と long:short 比の上昇が生じ、体系的な細胞性DNAの漏出が発生することを本研究で初めて明らかにした。これは、PAXgene が長期保存において完全な安定性を示すとする一部の既存報告とは異なる新規な知見である。また、細胞性ゲノムDNAの汚染検出において、qPCR長短比とPCE解析が互いに補完的であり、単一の評価法では汚染を見落とすリスクがあることを実証した。

臨床応用:

本研究の知見は、がんゲノム医療における微小残存病変 (MRD; minimal residual disease) 評価などの高感度な液体生検解析の臨床応用に直結する (monitoring et al. MRD ctDNA)。臨床現場において、採血直後に血漿分離が可能な場合は安価な K2EDTA チューブを使用し、遠隔地からの輸送などで保存遅延 (1週間以内) が予想される場合は Streck チューブを選択するという明確な基準が提示された。また、前処理段階での遠心回数やチューブ種別を標準化し、メタデータとして報告することの臨床的有用性が強調された。

残された課題:

今後の検討課題として、本研究で評価した健常人サンプルだけでなく、がん患者などの実際の臨床検体における検証が必要である。また、メチル化解析や断片化パターン解析 (fragmentomics) など、下流の多様なゲノム解析プラットフォームに対する各チューブ保存剤の影響を評価することが求められる。さらに、QIAsymphony SP 以外の自動抽出システム (Maxwell RSC や QIAcube など) との互換性評価、および 1週間 を超える超長期保存における各保存チューブの安定性の限界を検証することが今後の課題として残されている。

方法

本研究はヘルシンキ宣言に準拠し、イェーテボリの地域倫理審査委員会 (承認番号 Dnr: 054-15) の承認を得て実施された。23名の健常ドナー (n=23 donors) から末梢血を採取した。血液採取には、K2EDTA (BD Vacutainer PPT (Plasma Preparation Tubes), BD, #362799)、Norgen (cf-DNA/cf-RNA Preservative Tubes, Norgen Biotek, #63950)、PAXgene (PAXgene Blood ccfDNA Tubes, PreAnalytiX, #768115)、Streck (Cell-Free DNA BCTs, Streck, #218997) の4種チューブを使用した。採血後、室温で 0 h (60分未満)、48 h、168 h 保存した後に血漿分離を行った。遠心処理は、K2EDTA、PAXgene、Streckでは 2000 g で10分間、Norgenでは 2000 g で20分間行い、一部のサンプルについてはさらに 16,000 g で15分間の二回目遠心を実施した。QIAsymphony SP (Qiagen) を用い、1.3〜2.0 mLの血漿から自動磁気ビーズ法でcfDNAを抽出した。cfDNAの定量は、蛍光定量法 (Quant-iT (quantitative interactive technology) dsDNA High Sensitivity Assay Kit) と quantitative polymerase chain reaction (qPCR) の2法で実施した。qPCRは、総cfDNA量定量用の短配列アッセイ (single-locus: PDGFRA 74 bp、multi-locus: Alu-60 (Alu repetitive element 60 bp) 60 bp) と、細胞性DNA汚染評価用の長配列アッセイ (single-locus: FLI1 445 bp、multi-locus: Alu-187 187 bp) を設計した。qPCRの反応には TATAA SYBR GrandMaster Mix Low Rox または TATAA Probe GrandMaster Mix を使用し、CFX384 Touch リアルタイムPCR解析システムで測定した。得られたPCR効率は PDGFRA が 97.8% (95% CI 94.7-101.0%)、FLI1 が 90.5% (95% CI 88.9-92.1%)、Alu-60 が 101.8% (95% CI 100.4-103.3%)、Alu-187 が 103.2% (95% CI 100.2-106.1%) であった。細胞性DNA汚染は、FLI1/PDGFRA 比および Alu-187/Alu-60 比 (long:short比) で評価した。また、PCE (parallel capillary electrophoresis; 並列キャピラリー電気泳動) 解析を Fragment Analyzer で実施した。本研究では、細胞株 (A549, H1299) 由来のDNAをコントロールとして一部使用した。統計解析には Wilcoxon signed-ranked test、Mann-Whitney U test、および Pearson correlation を使用した。