• 著者: Jordan Cheng†, Marco Morselli†, Wei-Lun Huang, You Jeong Heo, Thalyta Pinheiro-Ferreira, Feng Li, Fang Wei, David Chia, Yong Kim, Hua-Jun He, Kenneth D. Cole, Wu-Chou Su, Matteo Pellegrini*, David T.W. Wong*
  • Corresponding author: Matteo Pellegrini, David T.W. Wong (UCLA)
  • 雑誌: iScience
  • 発行年: 2022
  • Epub日: 2022-07-15
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 35800774

背景

血漿中の無細胞DNA (cfDNA) は液体生検の主要素材として、癌の早期診断・治療効果モニタリング・微小残存病変検出への応用が急速に進んでいる。従来のcfDNA研究は主に mncfDNA (mononucleosomal cell-free DNA; 核小体性cfDNA) を対象とし、そのモーダルサイズは約160bpであり、ヌクレオソームによる保護フットプリントを反映する (Snyder et al. Cell 2016)。このmncfDNAの断片化パターン解析は組織起源の推定や癌診断に広く活用されてきた。

一方、160bp以下の超短鎖cfDNAに関する研究は大幅に遅れており、従来の抽出法がこの画分を適切に回収できているかどうかも未検証であった。Hudecova et al. (2021, Genome Research) および Hisano et al. (2021, BioMed Central Biology) は、それぞれ独立して超短鎖cfDNAが血漿中に存在することを報告したが、抽出法の系統的比較や一本鎖性の直接的な確認は限定的であった。さらに、NSCLC患者の血漿・唾液から usctDNA (ultrashort circulating tumor DNA; 超短鎖循環腫瘍DNA) が検出されることも報告されている (Li et al. 2020, Cancers)。

しかし、超短鎖cfDNAの抽出法最適化・一本鎖性の直接的証明・機能的ゲノム局在解析という3点が依然として手薄であり、標準的な抽出キットが超短鎖DNA画分を大幅に失っている可能性があった。過去の知見が抽出バイアスの影響を受けており、血漿中のuscfDNA (ultrashort single-stranded cell-free DNA; 超短鎖一本鎖cfDNA) の正確な量や特性が未解明のまま残されていた。

目的

健常者血漿から複数の抽出法を用いてuscfDNAを系統的に比較・定量し、その一本鎖性を複数のヌクレアーゼ消化実験で直接確認するとともに、ゲノム機能的局在を解析すること。

結果

抽出法によるuscfDNA回収効率の顕著な差異

健常者 n=10 名の血漿を3種の抽出法 (QiaC/QiaM/SPRI) でシーケンスし、25-100bp領域のリード数を比較した。QiaC: 12.2Mリード、QiaM: 23.2Mリード、SPRI: 31.2Mリードとなり、SPRIが標準QiaCと比較して2.6-fold多くuscfDNA画分を回収した (p<0.001、ANOVA後t検定) (Fig 1)。ライブラリーバンドは電気泳動上で約200bpに検出され、SRSLYアダプター (約150bp) を差し引くと実際のインサートサイズが約50bpに相当し、uscfDNAのモーダルサイズを示した。特に30-50ntの範囲でSPRIはQiaM・QiaCを大幅に上回る回収効率を示した。合成ssDNAオリゴ (30-200nt) をスパイクインした実験では、QiaCは50nt以下で損失が顕著であり、n=10名の全ドナーで一貫してSPRI法がもっとも広いサイズ範囲のuscfDNAを保持した (Fig 2)。

uscfDNAの一本鎖性の直接的確認

ストランド特異的ヌクレアーゼ消化実験により、uscfDNAの一本鎖性を多角的に確認した (n=10名の複数ドナーで再現性あり)。dsDNase処理ではmncfDNA (約310bpバンド) はほぼ完全に消化されたのに対し、200bpバンドのuscfDNA画分は消化を免れた。逆に、S1ヌクレアーゼ処理ではuscfDNAが消失し、同時に添加した350nt ssDNAコントロールも消化されたが、460bp dsDNAコントロールは保持された。Exonuclease I処理でも同様にuscfDNAが消化された。熱変性ステップを省略したライブラリー調製でもuscfDNAが検出されたため、uscfDNAは元から一本鎖として存在し、熱変性によって二本鎖から変換されたものではないことが確認された (Fig 3)。ニック修復 (PrePCR Repair) はuscfDNA量に影響せず、mncfDNAのニック部位からの断片化産物ではないことが示された。さらにS1処理後のmncfDNAピークが約160bpから約150bpへ10bp短縮した。これはmncfDNAの一部がニック含有構造であり、S1処理でそのニック部位が切断されて短縮されたことを示唆する。

機能的ゲノム局在: uscfDNAはプロモーターおよびエクソン領域に富む

MACS2によるピーク解析とHOMERannotatePeaksによる機能的注釈を行ったところ、uscfDNA (25-100bp) とmncfDNA (101-250bp) のゲノム局在が明確に異なった (Fig 4)。uscfDNA由来リードはプロモーター・エクソン・イントロン領域に有意に富化しており、特に45-55ntの断片がプロモーター富化のピークを示した。一方、mncfDNAは遺伝子間領域に比較的多く分布していた。ゲノムワイドな相関ヒートマップでもuscfDNAとmncfDNAのプロファイルが明確に異なることが確認された。n=10名の全ドナーで一貫してuscfDNA画分のプロモーター富化が認められた。このプロモーターおよびエクソンへの選択的富化は、uscfDNAが単なる非特異的分解産物ではなく、転写活性な遺伝子制御領域から特定のメカニズムで生成または放出されることを示唆する。ヌクレオソームによる保護を受けない転写活性部位では一本鎖DNA構造が生じやすく、これがuscfDNAの選択的な起源を説明しうると考えられる。

走査型電子顕微鏡による膜形態観察と抽出メカニズムの考察

QiaC/QiaMカラム膜の走査型電子顕微鏡 (SEM) 観察を行い、カラム膜の孔径や物理的特性の差異が超短鎖DNAのサイズ選択性に関与する可能性を示した。ssDNAスパイクイン実験 (30-200ntの合成オリゴを n=1 mL血漿に添加) では、QiaCは50nt以下で回収率が著しく低下し、30ntオリゴはほぼ全量が失われた。QiaMは中程度の改善を示したが、SPRI法が30-200ntの全サイズ範囲で最も高い回収率を達成した。これらの結果は、標準シリカカラム法では超短鎖DNA画分の大部分が抽出段階で失われており、従来のcfDNA研究でuscfDNAが過小評価されてきた可能性を定量的に示す重要な知見である。

考察/結論

① 先行研究との違い:先行研究 (Hudecova et al. 2021 Genome Res、Hisano et al. 2021 BioMed Central Biology) はuscfDNAの存在を報告していたが、抽出法の系統的比較や一本鎖性の直接的確認は限定的であった。本研究はQiaC/QiaM/SPRIの3法を同一プロトコルで比較し、標準法 (QiaC) ではuscfDNA画分が2.6-fold過少回収されていたことを初めて定量的に示した点で、これまでの研究と異なり、従来の知見が抽出バイアスの影響を受けていた可能性を指摘する。Terp et al. 2024 (Terp et al. JMolDiagn 2024) も抽出法効率比較を行っているが、超短鎖一本鎖画分に特化した系統的評価は本研究が先行した。

② 新規な知見:本研究で新規に示されたのは、SPRIビーズ+フェノール:クロロホルム法が超短鎖一本鎖DNAの回収において標準キットより有意に優れるという点、および血漿uscfDNAがプロモーター・エクソン領域に選択的に富化するというゲノム局在の特徴である。後者は、uscfDNAが転写活性な遺伝子制御領域と関連していることを新規に示すものであり、機能的バイオマーカーとしての可能性を示唆する。S1処理後のmncfDNA 10bp短縮という知見も、mncfDNAの内部構造への新たな洞察を与える。

③ 臨床応用:uscfDNAの系統的な定量法が確立されたことで、液体生検における新たなバイオマーカークラスとしての臨床応用への道が開かれた。Cheng et al. FrontOncol 2024 が論じるように、シングルストランドライブラリー調製法はcfDNAの多様性をより正確に捉えるために重要であり、本研究のSPRIベース抽出法はこのアプローチの基盤となる。Li et al. (2020) によるNSCLC患者でのusctDNA検出報告と合わせて、癌特異的なuscfDNA変化の臨床的有用性が期待される。uscfDNAのプロモーター富化特性はエピゲノム情報を活用した組織起源推定にも応用可能であり、cfDNA fragmentomics研究との融合が見込まれる (Bruhm et al. NatRevCancer 2025)。

④ 残された課題:uscfDNAの細胞内起源 (アポトーシス・分泌・能動的放出のいずれか)、生成メカニズム、および血漿中での安定性については今後の研究が必要である。本研究は健常者 n=10 例という限定的サンプルサイズであり、癌患者を含む大規模コホートでのuscfDNAの量的・質的特性評価と疾患特異性の検証は今後の課題として残されている。シングルストランドライブラリー調製法の技術的標準化と、異なる機関・プラットフォームでの再現性確立が臨床応用への橋渡しに不可欠な今後の方向性である。

方法

健常者 n=10 名の血漿 (商業購入; Innovative Research, IPLASK2E2ML) を対象に、1 mL血漿から3種の核酸抽出法を比較した: (1) QiaC (QIAamp Circulating Nucleic Acid Kit 標準プロトコル)、(2) QiaM (同キットのマイクロRNA精製プロトコル、イソプロパノール増量)、(3) SPRI (Solid Phase Reversible Immobilization)、磁気ビーズとフェノール:クロロホルム:イソアミルアルコールを組み合わせた方法。SPRIプロトコルでは、プロテイナーゼK消化後にSPRIセレクトビーズ+イソプロパノールでDNAを捕捉し、フェノール:クロロホルム精製2回とエタノール沈殿で超短鎖DNAを保持した。

ライブラリー調製は Claret Bioscience製シングルストランドライブラリー調製キット PicoPlus と UMI (Unique Molecular Identifier) -UDI (Unique Dual Index) アダプターを使用した。Illumina NovaSeq 6000 SP 300フローセル (2×150bp) でシーケンスを実施した。バイオインフォマティクス解析はBWA (Burrows-Wheeler Aligner)-mem (v0.7.17) でhg38参照ゲノムにアライメント後、SAMtools・UMI-tools (重複除去ソフトウェア)・Picardで重複除去し、DeepToolsでuscfDNA (25-100bp) とmncfDNA (101-250bp) に分割した。機能的ピーク解析はMACS2 (Model-based Analysis of ChIP-Seq 2) とHOMERannotatePeaksを使用した。データはNCBI GEO: GSE202433に登録。

一本鎖性確認にはストランド特異的ヌクレアーゼ消化実験を実施した: dsDNase (二本鎖DNA特異的消化)、S1ヌクレアーゼ (一本鎖DNA特異的消化)、Exonuclease I (一本鎖DNA消化)、ニック修復 (PrePCR Repair)。コントロールとして350nt ssDNAおよび460bp dsDNAのラムダ配列オリゴを各反応に添加した。統計解析: ANOVA後に対応のある両側t検定 (* p<0.05、** p<0.01、*** p<0.001)、誤差棒はSEM (standard error of mean; 平均の標準誤差)。