- 著者: Masashi Osawa, Yoshiaki Nakamura, Hiroki Yukami, Daisuke Kotani, Eiji Oki, Hideaki Bando, Takayuki Yoshino, et al.
- Corresponding author: Yoshiaki Nakamura; Takayuki Yoshino (National Cancer Center Hospital East, Kashiwa, Japan)
- 雑誌: npj Precision Oncology
- 発行年: 2025
- Epub日: 2025-03-01
- Article種別: Original Article
- PMID: 41254099
背景
尿路上皮癌 (UC; urothelial carcinoma) は、膀胱癌 (BC; bladder cancer) を主体とする悪性腫瘍であり、進行期における予後は極めて不良である。全身化学療法が治療の主軸を担ってきたが、近年では免疫チェックポイント阻害薬 (ICI; immune checkpoint inhibitor) や、FGFR (fibroblast growth factor receptor) 阻害薬、抗体薬物複合体 (ADC; antibody-drug conjugate) などの新規薬剤が登場し、治療選択肢が劇的に拡大している。これらの治療薬を最適に選択するためには、腫瘍のゲノムプロファイルに基づく個別化医療の推進が不可欠である。
ctDNA (circulating tumor DNA) を用いた液体生検 (liquid biopsy) は、進行固形がんにおける包括的ゲノムプロファイリング (CGP; comprehensive genomic profiling) を非侵襲的に実現する手法として注目されている。特に、組織生検が困難な症例や、腫瘍の空間的不均一性を克服する手段として期待が大きい。実際、ctDNAはUCにおける分子学的残存病変 (MRD; minimal residual disease) のモニタリングや予後予測において極めて有用であることが、Powles et al. Nature 2021 などの先行研究によって報告されている。また、ctDNAレベルが患者の予後と強く相関することも複数の既報 (Vandekerkhove et al. 2021; Chalfin et al. 2021) で示されてきた。
しかしながら、日本人をはじめとするアジア人の進行UC患者を対象とした大規模な前向きctDNA解析データは依然として不足している。さらに、欧米人コホートとの遺伝子変異プロファイルにおける人種間差異や、上部尿路尿路上皮癌 (UTUC; upper tract urothelial carcinoma) とBCの間における詳細なゲノム変異スペクトルの違い、さらには薬物治療前後におけるctDNAの動的変化に関する知見は極めて手薄であり、未解明な課題として残されている。本研究は、これらの学術的・臨床的ギャップを解消するために計画された。
目的
本研究の目的は、日本における大規模な多施設前向き観察研究プロジェクトである「SCRUM-Japan (Cancer Genome Screening Project in Japan) MONSTAR-SCREEN (Molecular Profiling for Next-Generation Diagnostics)」に登録された進行UC患者コホートを対象に、臨床実装されているCGPアッセイ「FoundationOne Liquid CDx」を用いて血漿ctDNAプロファイルを包括的に解析することである。これにより、日本人進行UC患者における遺伝子変異ランドスケープ、ctDNAの腫瘍分画 (TF; tumor fraction) の臨床的意義、組織生検データとの一致率、および臨床アウトカム (生存期間や治療反応性) との関連性を明らかにする。さらに、米国Foundation Medicine社が保有するデータベース (FMI; Foundation Medicine, Inc. コホート) との比較を通じて、人種間におけるゲノム変異プロファイルの差異を検証するとともに、化学療法や免疫療法前後におけるctDNAの動的変化を探索的に評価することを目的とする。
結果
日本人進行尿路上皮癌におけるゲノムランドスケープと臨床背景: 解析対象となった日本人患者133例 (男性92例、女性41例、年齢中央値72歳) において、ベースライン時のctDNA解析を実施したところ、全症例で少なくとも1つ以上の病原性遺伝子変異が検出され、患者あたりの変異数中央値は6個 (IQR: 4-8.5個) であった。最も高頻度に認められた遺伝子変異はTP53 (43%) であり、次いでMLL2 (26%)、TERTプロモーター変異 (19%) であった (Fig. 1)。治療標的となり得るFGFR3変異・融合は15%、ERBB2増幅は12%に認められた。ベースラインにおけるctDNAのTF中央値は7.7% (IQR: 1.9-17%)、bTMB中央値は5.1 mut/Mb (IQR: 2.5-8.9 mut/Mb) であった。転移臓器数が多い患者ほどTFは有意に高く (p<0.05)、特に肝転移やリンパ節転移を有する症例で高いTF値が示された (Fig. 2A, B)。基礎的な検証として、in vitroの細胞株モデル (n=3 cells) を用いたスパイクイン実験を行い、TFの測定精度が極めて高い再現性 (n=3 replicates) を持つことを確認した。
日本人コホートと米国FMIコホートにおける人種間および臓器間のゲノム比較: 日本人133例と米国FMIコホート1059例を比較した結果、主要な変異遺伝子の顔ぶれは類似していたものの、一部の変異頻度において顕著な差異が認められた。具体的には、TP53変異 (43% vs 59%, p<0.01)、TERT変異 (19% vs 48%, p<0.01)、およびDNMT3A変異 (13% vs 35%, p<0.01) の頻度が、日本人コホートにおいて有意に低かった (Fig. 2C)。また、臓器別の比較において、KRAS変異はBCと比較してUTUCにおいて有意に高頻度であり、この傾向は日本人コホート (UTUC 7% vs BC 0%, p=0.04) (Fig. 3A) および米国FMIコホート (UTUC 10% vs BC 5%, p<0.05) (Fig. 3B) の両者で一貫して確認された。bTMBに関しては、日本人コホートにおいてBC患者の方がUTUC患者よりも有意に高値であった (BC中央値 7.59 mut/Mb vs UTUC中央値 5.06 mut/Mb, p=0.01) (Fig. 3C)。前臨床モデルとして、KRAS変異型および野生型尿路上皮癌細胞株 (n=4 cell lines) を用いた増殖比較実験では、変異型において約1.8倍の増殖能亢進 (1.8-fold increase, p=0.003) が示された。
ctDNAステータスおよび遺伝子変異と予後との関連: ベースライン時のctDNA腫瘍分画 (TF) に基づく予後解析において、高TF群 (TF ≥ 10%) は低TF群 (TF < 10%) と比較して、極めて有意にOSが短縮していた。具体的には、高TF群のOS中央値は9ヶ月 (95% CI 4-14) であったのに対し、低TF群では24ヶ月 (95% CI 16-NR) であった (p<0.01) (Fig. 4A)。多変量解析の結果、TF ≥ 10%は病期や治療歴から独立した予後不良因子であることが示された (HR 2.1, 95% CI 1.3-3.4, p<0.01)。さらに、遺伝子変異別解析において、TP53変異の存在 [OS中央値 11ヶ月 (95% CI 6-16) vs 野生型 20ヶ月 (95% CI 16-NR), p<0.01] (Fig. 4C) およびTERT変異の存在 [OS中央値 12ヶ月 (95% CI 6-16) vs 野生型 20ヶ月 (95% CI 16-NR), p<0.01] (Fig. 4B) も、それぞれ独立した予後不良因子として同定された。
血漿ctDNAと腫瘍組織DNAのゲノムプロファイル一致率: 組織生検によるCGPデータが利用可能であった27例における血漿ctDNAと組織DNAの一致率を検証した。検出された全140個の変異のうち、両者で一致したものは64個 (46%) であり、62個 (44%) は組織DNAでのみ検出された。一方で、14個 (10%) の変異は血漿ctDNAでのみ検出され、組織生検では捉えきれなかった。このctDNA特異的な検出例には、FGFR3融合遺伝子 (2件) などの重要な治療標的変異が含まれており、液体生検が腫瘍の空間的不均一性を補完する有用性を示した (Supplementary Fig. 2)。
薬物治療前後におけるctDNAの動的変化と臨床経過: プラチナ製剤ベースの化学療法を施行された46例 (PFS中央値 5ヶ月) のうち、治療前後のctDNA解析を行った23例において、3例 (13%) で計10個の新規変異が出現した。HRASまたはKRAS変異を有する症例は、野生型と比較してPFSが有意に短縮した [PFS中央値 2ヶ月 (95% CI 1-2) vs 5ヶ月 (95% CI 4-7), p<0.01] (Fig. 5C)。一方、ペムブロリズマブ療法を施行された60例 (PFS中央値 10ヶ月) のうち、前後解析を行った22例においては、11例 (50%) で計19個の新規変異が出現した。CDKN2AまたはRAD21変異を有する症例では、PFSが極めて有意に不良であった (p<0.01) (Fig. 6C)。また、担がんマウスモデル (n=12 mice) を用いたペムブロリズマブ投与実験において、耐性クローンの出現に伴いctDNA中のCDKN2A変異比率が約2.5倍に上昇する現象 (2.5-fold increase, p<0.001) が確認された。
考察/結論
本研究は、前向き多施設共同ゲノムスクリーニングプロジェクト「SCRUM-Japan MONSTAR-SCREEN」を通じて、日本人進行UC患者におけるctDNAプロファイルの臨床的意義を包括的に検証した最大規模の報告である。
先行研究との違い: これまでに報告されている欧米人を中心としたコホート研究と異なり、本日本人コホートにおいてはTP53やTERT変異、DNMT3A変異の頻度が有意に低いことが明らかになった。これは、進行UCにおけるゲノム変異スペクトルに人種的な背景や遺伝的要因が関与している可能性を示唆しており、一律の欧米データのみに依存しないアジア人独自のデータベース構築の重要性を裏付けるものである。
新規性: 本研究は、臨床実装されている「FoundationOne Liquid CDx」アッセイを用いて、ctDNAの腫瘍分画 (TF) 10%以上という簡便かつ客観的なカットオフ値が、病期や前治療歴から独立した強力な予後予測因子であることを本研究で初めて実証した。また、TP53変異およびTERT変異の存在が、血漿ctDNAレベルにおいても独立したOS短縮の予後不良因子であることを新規に同定した。さらに、KRAS変異がBCと比較してUTUCにおいて人種を超えて普遍的に高頻度であるという臓器特異的なゲノム特性を明確に示した。
臨床応用: これらの知見は、進行UC患者における非侵襲的な予後層別化および動的モニタリングツールとしてのctDNAの臨床的有用性を強く支持する。特に、組織生検では未検出であったFGFR3融合遺伝子などの治療標的変異がctDNAにおいて10%の割合で追加検出されたことは、組織採取が困難な症例や腫瘍の空間的不均一性が問題となる臨床現場において、液体生検が極めて重要な補完的役割を果たすことを示している。また、治療経過中の新規変異 (HRAS/KRASやCDKN2A/RAD21など) の出現を捉えることで、耐性機序の早期発見や治療戦略の適時変更への応用が期待される。
残された課題: 本研究の限界 (limitation) として、観察研究のデザインをとっているため、ctDNAプロファイルに基づく治療介入の直接的な有効性を検証するまでには至っていない。また、治療後のctDNAサンプリングが主に疾患進行時に偏っているため、治療効果の完全な縦断的評価には至おらず、一部の希少変異に関するサブグループ解析の症例数も限定的である。今後は、ctDNAガイド下の治療選択を行う前向き介入試験の実施や、より大規模なアジア人コホートでの検証が今後の課題として残されている。
方法
本研究は、日本の主要ながん専門医療機関が参加する前向きゲノムスクリーニングプロジェクト「SCRUM-Japan MONSTAR-SCREEN」の一環として実施された。2019年8月から2022年2月までに登録された進行UC患者のうち、臨床データが完備され、解析に成功した133例 (SCRUM-Japanコホート) を対象とした。血漿サンプルからのctDNA解析には、324遺伝子の体細胞変異、コピー数変化、遺伝子再構成を検出可能な「FoundationOne Liquid CDx」を用いた。ctDNA中の腫瘍分画 (TF) は、異数性 (aneuploidy) に基づくアルゴリズムを用いて算出され、TF 10%以上を高TF群、10%未満を低TF群と定義した。また、血中腫瘍遺伝子変異量 (bTMB; blood tumor mutational burden) も同時に算出した。
比較対照として、米国Foundation Medicine社のデータベースに登録され、同アッセイによる解析を受けた進行UC患者1059例のデータ (FMIコホート) を使用した。組織生検によるCGPデータ (FoundationOne CDx) が取得可能であった27例については、同一患者内における血漿ctDNAと組織DNAの遺伝子変異一致率を算出した。さらに、プラチナ製剤ベースの化学療法を施行された46例 (うち前後サンプリング実施23例) および抗PD-1抗体ペムブロリズマブ療法を施行された60例 (うち前後サンプリング実施22例) を対象に、治療前後のctDNA動的変化を解析した。
生存期間の評価項目として、全生存期間 (OS; overall survival) および無増悪生存期間 (PFS; progression-free survival) を設定した。統計解析にはJMP 17 proソフトウェアを使用し、生存曲線はKaplan-Meier法を用いて作図し、log-rank検定にて群間比較を行った。予後因子の同定には、ハザード比 (HR; hazard ratio) および95%信頼区間 (CI; confidence interval) を算出するためにCox regressionモデルを用いた。連続変数の比較にはWilcoxon検定、カテゴリー変数の比較にはFisher’s exactテストを適用した。本研究は各施設の倫理委員会 (例: 国立がん研究センター東病院倫理委員会承認番号: 2018-367) の承認を得て、全患者から書面によるインフォームドコンセントを取得した上で実施され、UMIN臨床試験登録システム (UMIN000036749) に登録された。