- 著者: Ting Kang, Qianqian Zhu, Dan Wei, et al.
- Corresponding author: Xiaoling Gao, Jun Chen (Fudan University / Shanghai Jiao Tong University, 中国)
- 雑誌: ACS Nano
- 発行年: 2017
- Epub日: 2017-01-11
- Article種別: Original Article
- PMID: 28075552
背景
遠隔転移は癌関連死亡の 90% 以上に寄与し、その根幹は循環腫瘍細胞 (CTC) の播種・接着・増殖サイクルにある (骨転移悪循環)。CTC は血中を浮遊しながら特定臓器の前転移ニッチ (premetastatic niche) に定着するが、このニッチ形成においては好中球が中心的役割を担う (前転移ニッチ形成)。好中球は腫瘍由来分泌因子の刺激を受けてニッチに集積し、LFA-1、L-セレクチン、β1 インテグリンなどの接着分子を介して CTC との結合を促進する (腫瘍関連好中球)。この機序に着目し、抗 EpCAM 抗体などを利用した CTC 標的ナノ医療が開発されてきたが、腫瘍不均一性により標的分子の発現が変動し、感度・特異性が限定されるという課題があった。また、血小板膜被覆ナノ粒子による CTC 標的が報告されているが、前転移ニッチへの同時ホーミングは実現されていなかった。好中球の接着分子カクテルを天然に保持した生体模倣型ナノプラットフォームが CTC と前転移ニッチを dual 標的できるかどうかは未解明であり、プロテアソーム阻害薬との組み合わせによる転移予防効果も検証されていなかった。このような統合的 dual 標的ナノプラットフォームに関するエビデンスは不足しており、in vitro シアーフロー条件から in vivo 全ステージ転移抑制までを包括的に実証した先行研究は存在しなかった。
目的
炎症活性化好中球の膜を poly(lactic-co-glycolic acid) (PLGA) ナノ粒子表面に被覆した neutrophil-mimicking nanoparticle (NM-NP) を開発し、CTC 捕捉と前転移ニッチへのホーミングという dual 標的能を in vitro・in vivo で実証するとともに、プロテアソーム阻害薬 proteasome inhibitor carfilzomib (CFZ) を搭載した carfilzomib-loaded NM-NP (NM-NP-CFZ) による CTC 選択的除去・早期転移予防・形成済み転移の抑制効果を評価することを目的とした。
結果
NM-NP の合成・特性評価と膜タンパク質保存性:PLGA コア表面に約 10 nm の好中球膜二重層の被覆を TEM で確認した (Fig 1B)。NM-NP-CFZ の薬物封入率は 3.74 ± 0.28%、封入効率は 39.38 ± 5.32% であり (Table S1)、NM-NP は PBS および 30% 血清中での凝集を防止し安定性を示した。Western blot 解析により、LPS 活性化後の好中球由来 NM-NP には LFA-1、L-セレクチン、β1 インテグリン、CXCR4 が高発現で保存されることが確認され、LPS 非刺激 NM-NP と比較して L-セレクチンおよび LFA-1 の発現が有意に増大した (p<0.05、Fig 2B,C)。膜コーティングによりゼータ電位は NMV の値に近づき、生体模倣型表面電荷の形成が確認された。
in vitro CTC 標的能 — シアーフロー条件下での優れた結合性:静的条件での 4T1 細胞 (CTC モデル) に対する NM-NP の蛍光シグナルは uncoated nanoparticle (NP) の 1.26-fold、PLGA-PEG-NP の 2.59-fold を示した (Fig 3A,B)。シアーフロー条件 (188 s⁻¹) では NP の 1.89-fold、PLGA-PEG-NP の 3.58-fold と標的効率がさらに増強された (各群 n=3 匹、Fig 3B,C)。抗 ICAM-1 抗体前処理により NM-NP の 4T1 細胞への結合が 47.2% 減少し、抗 CD44 抗体前処理で 33.9% 減少したことから、ICAM-1 および CD44 を介した特異的結合機構が確認された (Fig 3D)。
in vivo CTC 捕捉・前転移ニッチホーミング・薬物動態:GFP 標識 4T1 細胞を注射したマウスにおいて、in vivo フローサイトメトリーで NM-NP 群では 30 分間に 29 ± 10 個の二重陽性シグナル (GFP と DiD carbocyanine dye の同時陽性) が検出されたのに対し、NP 群では 1 ± 1 個のみであり、NM-NP は CTC の約 25% を循環中に捕捉した (Fig 4)。薬物動態では CFZ の血中半減期 t1/2 が NP の 0.77 h に対し NM-NP では 6.59 h と 8.6-fold 延長し、AUC は NP の 207.2-fold に達した (各群 n=3 匹)。前転移肺組織ではラミニン豊富領域への NM-NP の高い集積が確認され、ex vivo 解析で NM-NP は NP 比 2.12-fold、PLGA-PEG-NP 比 3.02-fold の転移巣集積を示した (Fig 5, 6)。
NM-NP-CFZ による選択的 CTC 除去:cell viability assay (MTT法) により IC50 は free CFZ 58.2 ng/mL、NP-CFZ (CFZ-loaded NP) 178 ng/mL、NM-NP-CFZ 69.4 ng/mL と算出された (Fig S11)。血液存在下でのシアーフロー条件 (800 ng/mL、188 s⁻¹、2h) における Annexin-V/DAPI フローサイトメトリー解析では、GFP 標識 4T1 細胞の早期アポトーシス率が NM-NP-CFZ 群で 23.0 ± 3.2% に達し、NP-CFZ 群 (1.88 ± 0.30%) および free CFZ 群 (1.58 ± 0.27%) を大幅に上回った (各群 n=3 匹、p<0.001、Fig 7A)。一方、白血球の生存率は 94.6% に維持され、NM-NP-CFZ の高い CTC 選択性が示された (Fig 7B)。
早期転移予防と形成済み転移の抑制:4T1 転移マウスモデルにおける早期転移予防実験 (CFZ 0.5 mg/kg、day 0/7/14/21) では、NM-NP-CFZ 群で肺転移結節が生理食塩水群および free CFZ 群と比較して有意に減少し (p<0.001)、肺内 S100A9 陽性細胞 (好中球マーカー) が 71% 抑制された (NP-CFZ 44%、free CFZ 41% と比較、各群 n=3 匹、Fig 8)。形成済み転移の抑制実験 (CFZ 1 mg/kg、day 7/11/15) では、NM-NP-CFZ 群が BLI シグナルで 87.2% の転移巣減少を達成し、NP-CFZ の 42.8% を大きく上回った (各群 n=3 匹、Fig 9B,C)。TUNEL アポトーシス解析では NM-NP-CFZ 群の GFP 陽性 4T1 細胞の 84.3 ± 7.4% がアポトーシス陽性を示し、NP-CFZ の 41.2 ± 7.5% に対して有意に高値を示した (p<0.001、Fig 9E)。
考察/結論
① 先行研究との違い:先行研究の抗 EpCAM 抗体ナノ医療や血小板膜被覆ナノ粒子と異なり、本研究は好中球膜カクテルを用いることで CTC 結合と前転移ニッチへのホーミングを単一ナノプラットフォームで同時実現した。血小板膜被覆 NP が CTC-血栓相互作用の模倣に留まるのと対照的に、NM-NP は ICAM-1/LFA-1、CD44/L-セレクチン、VCAM-1/β1 インテグリンの 3 対の接着分子相互作用を活用し、CTC のみならず炎症活性化内皮細胞を標的とする。これまでの CTC ナノ医療が腫瘍不均一性による標的分子の発現変動に脆弱であったのと比較し、多分子接着カクテルを活用することで普遍的な CTC 標的性が向上するという点でも先行研究と異なる。
② 新規性:本研究で新規に示されたのは、好中球膜被覆ナノ粒子が「全ステージ (whole-stage)」の転移治療ポテンシャルを有する点である。NM-NP-CFZ は (1) 循環中の CTC 選択的除去、(2) 前転移ニッチへのホーミングと早期転移予防、(3) 形成済み転移巣の増殖抑制という 3 段階の転移カスケードをすべてカバーする最初の生体模倣型プラットフォームである。特に好中球膜由来の接着分子カクテルが生体内の流動剪断条件下でも機能的に保存されることを初めて系統的に実証した点、および NF-κB 経路を介したプロテアソーム阻害が転移ニッチ微小環境 (CXCL12、MMP2、TNF-α) の制御に繋がることを定量的に示した点が新規な知見である。
③ 臨床応用:臨床応用の観点からは、患者自身の好中球膜を使用する top-down アプローチが最小限の免疫原性を保証し、個別化医療への展開可能性を示す。carfilzomib は既に多発性骨髄腫に対して臨床承認されており、NM-NP-CFZ は既承認薬を nanoformulation で solid tumor metastasis に転用する translational な戦略である。また、NM-NP の血中半減期が裸の NP 比 8.6 倍に延長し (t1/2 6.59 h vs 0.77 h)、AUC が 207.2 倍増加したことは、低用量での全身投与が可能であることを示唆し、毒性軽減にも寄与しうる。94.6% の白血球生存率維持は選択性の高さを示し、骨髄抑制リスクの低減が期待される。
④ 残された課題:本研究は 4T1 マウスモデルのみを対象としており、ヒト乳癌をはじめとする臨床癌種における有効性・安全性の検証は今後の課題として残されている。好中球の体外培養が不可能なため製造スケールアップと品質管理の標準化が課題となる。さらに、MPS (mononuclear phagocyte system) による肝臓・脾臓への NM-NP 取り込みが観察されており、組織分布の最適化が必要である。他の CTC 標的薬剤や免疫療法との併用効果、および CTC 以外の転移関連細胞 (骨髄由来抑制細胞など) への影響も今後検討すべき研究課題である。
方法
好中球を Percoll 勾配分離により高純度で分離し、lipopolysaccharide (LPS) で炎症活性化後に neutrophil-derived membrane vesicle (NMV) を分離した。PLGA コアに NMV を超音波混合でコーティングすることで NM-NP を作製し、CFZ を乳化溶媒蒸発法でナノ封入した NM-NP-CFZ を調製した。粒子径・ゼータ電位は dynamic light scattering (DLS) で、形態は transmission electron microscopy (TEM) で確認した。薬物封入効率は high-performance liquid chromatography (HPLC) で定量した。膜タンパク質の保存性は SDS-PAGE (Coomassie blue 染色) および Western blot で検証した (LFA-1、L-セレクチン、β1 インテグリン、CXCR4)。in vitro CTC 標的評価には 4T1 乳癌細胞株を cone-and-plate 粘度計 (188 s⁻¹) でのシアーフロー条件で使用した。前転移ニッチモデルには TNF-α 刺激ヒト臍帯静脈内皮細胞 (HUVEC, human umbilical vein endothelial cells) を用いた。in vivo CTC 捕捉は GFP 標識 4T1 細胞と in vivo フローサイトメトリーで評価し、薬物動態 (血中半減期・AUC) を解析した。転移予防実験では 4T1 転移マウスモデルにおいて CFZ 0.5 mg/kg (予防) および 1 mg/kg (治療) で投与し、組織学的解析・bioluminescence imaging (BLI) および terminal deoxynucleotidyl transferase dUTP nick-end labeling (TUNEL) アポトーシスアッセイで評価した。統計解析は mean ± SD (各群 n=3 匹) で表示し、Student t検定 (two-tailed) または one-way ANOVA + Tukey post-hoc test を用い、p<0.05 を有意差の基準とした。