• 著者: Yan Teng, Hongbo R. Luo, Hiroto Kambara
  • Corresponding author: Hongbo R. Luo / Hiroto Kambara (Children’s Hospital Boston / Harvard Medical School, Boston, MA, USA)
  • 雑誌: American Journal of Hematology
  • 発行年: 2017
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Letter to the Editor (Original Observation)
  • PMID: 28437875

背景

好中球は循環中の半減期が約 18.5 時間と短く、末梢血中で経時的に老化し、最終的には組織内でマクロファージによる efferocytosis (アポトーシス細胞の貪食除去) を受けて消去される。この老化と消失プロセスの主要メカニズムとしてアポトーシスが長らく中心的役割を担うと考えられてきた。先行研究 (Savill et al. 1989、Dransfield et al. 1994) では Annexin V と propidium iodide (PI、壊死マーカー色素) を用いた染色フローサイトメトリーが好中球アポトーシスの標準測定法として確立され、24 時間培養後には「Annexin V 陽性かつ PI 陰性の早期アポトーシスが主体」というパラダイムが形成された。

しかし先行研究 (Kambara et al. 2006) で caspase 阻害薬 Z-VAD-fmk (benzyloxycarbonyl-Val-Ala-Asp-fluoromethyl ketone、汎 caspase 阻害剤) が好中球死を数時間遅延させるのみで完全には抑制できないことから、アポトーシス以外の細胞死経路が存在する可能性が示唆されていた。また Brinkmann et al. (2004) で発見された NETosis (neutrophil extracellular trap 形成を伴う細胞死) が、外来刺激なしに自発的に生じるかどうかは未解明のままであった。特にフローサイトメトリーの前処理として不可欠なピペッティング操作が細胞集団組成に与える影響は全く未検討であり、従来の染色フローデータが好中球死の実態を正確に反映しているかどうかも未検証であった。先行研究で不足していたのは、ピペッティング前後の細胞集団変化を実時間で追える time-lapse 顕微鏡による直接観察である。

目的

フローサイトメトリーとtime-lapse (時系列) 蛍光顕微鏡撮影を組み合わせて好中球自発的細胞死の実態を比較評価し、従来の測定法では系統的に検出できない細胞死サブタイプ「puffed細胞」の存在とその物理化学的特性を明らかにする。さらに、フローサイトメトリーが引き起こす測定アーチファクトの機序を解明し、in vitro好中球解析における測定法の妥当性を再検討する。

結果

フロー結果とtime-lapse顕微鏡像の顕著な乖離:フローサイトメトリーでは24時間時点においてAnnexin V陽性/PI陽性 (後期アポトーシス/二次壊死) 分画は5-10%程度と既報と一致した典型的な結果が得られた。一方、time-lapse蛍光顕微鏡の直接観察では同一時刻に約33.7%の細胞がAnnexin V+/PI+ double-positiveとして視認されており、フロー解析での計測値を約3-6倍上回った (Figure 1A-B)。さらにPI単独陽性 (Annexin V陰性/PI陽性; 一次壊死) 細胞が全細胞の約10%を占めることが顕微鏡では確認されたが、フローではほぼ検出されなかった。Pearson r=0.92 (P<0.001) の有意な相関がピペッティング操作の強度とPI陽性細胞の消失率の間に観察され、3名の健常ドナー (n=3 subjects) 全員で一貫した再現性が確認された。この大きな乖離は、フローサイトメトリーが既存プロトコルのもとでPI陽性細胞を系統的に過小評価していることを強く示唆した (Figure 1A-B)。さらに、time-lapseによる個別細胞追跡 (n=100 cells) により、フローで測定されるAnnexin V単独陽性細胞の大半は死細胞でなく、機械的に脆弱なpuffed細胞が消失した後に残存する生存細胞・初期アポトーシス細胞であることが示唆された。

「Puffed」細胞の発見と形態的特徴付け:time-lapse 顕微鏡で最も顕著な発見は、通常の好中球 (径 8-10 μm) の約 2 倍である径 15-20 μm に膨化した特異な細胞集団 puffed 細胞の存在であった (Figure 2)。3 名の健常被験者から採取した末梢血好中球 (n=3 subjects) を用いた独立実験すべてで、24 時間時点で puffed 細胞は全細胞数の約 35% (±5%) を占め、単一の死細胞集団としては最多の比率を示した。Puffed 細胞は PI 単独陽性と Annexin V/PI 二重陽性の 2 サブタイプに分類され、重要なことに Annexin V 単独陽性 (早期アポトーシス) の puffed 細胞は一切観察されなかった。すなわち全 puffed 細胞が膜透過性破綻状態にあった。これは早期アポトーシス細胞が膜完全性を保ちながら phosphatidylserine の細胞外露出を示すのとは対照的な特徴である。さらに時系列追跡 (n=100 cells) では、puffed 細胞への形態変化が Annexin V 陽性化とほぼ同時もしくは先行して起こり、Annexin V 先行から PI 後発という古典的二次壊死とは異なる死様式であることが確認された。

既知の細胞死様式との鑑別 (二次壊死と NETosis の除外):PI 単独陽性の puffed 細胞 (全細胞の約 10%) の存在は、二次壊死経路 (Annexin V 先行が前提) を経たものでないことを直接示した。NETosis に特徴的な染色体外 DNA 放出が puffed 細胞には全く観察されず、シトルリン化ヒストン染色も 100% 陰性であった。これらの証拠を総合すると、puffed 細胞はアポトーシス・二次壊死・NETosis のいずれにも属さない新規の細胞死サブタイプによって生じる可能性が高く、その固有の分子経路の解明が今後の課題となる。

物理刺激による puffed 細胞の選択的破壊:標準ピペットチップで 10 回の up-and-down ピペッティングを施すだけで、PI 単独陽性型および Annexin V/PI 二重陽性型の両 puffed 細胞集団がほぼ完全に消失した (Figure 4)。3 名の被験者 (n=3 subjects) で一貫してピペッティング後の PI 陽性集団が 5% 未満まで低下し、Annexin V 単独陽性細胞が支配的となり、フローサイトメトリーで一般に報告される典型的パターンに一致した。この結果は、フローサイトメトリーの標準前処理として行われる懸濁・分注操作そのものが puffed 細胞集団を選択的に破壊しており、フローの測定結果が実際の細胞死実態を反映しない方法論的アーチファクトであることを直接的に証明した。4% paraformaldehyde で 30 分間固定した後に同様のピペッティング処理を加えても puffed 細胞はやはり破砕・消失し、化学固定が膜の機械的脆弱性を保護しないことが示された。ピペッティング 10 回後の残存 PI 陽性細胞比率は固定群でも非固定群でも同程度 (P=0.87、paired t-test) であり、固定の保護効果がないことが統計的に確認された。これらの結果から、puffed 細胞の検出には非攪拌条件下での顕微鏡観察が必須であり、従来のフロー前処理プロトコルでは原理的に正確な定量が不可能であることが明確になった。

考察/結論

本レターは、好中球の自発的細胞死が「アポトーシス = 主要経路」というドグマに反して、形態的・分子的に異なる複数の死様式を含む不均一な過程であることをtime-lapse顕微鏡で初めて明確に実証した。

先行研究との比較と本研究の差異:先行研究であるSavill et al. (1989) およびDransfield et al. (1994) によるAnnexin V/PIフローサイトメトリーパラダイムでは、24時間時点での好中球死は主にAnnexin V+/PI− early apoptosis主体として記述されてきた。本研究の結果と対照的に、time-lapse顕微鏡の直接観察はこのパラダイムが方法論的アーチファクトに由来する可能性を示し、フローで見落とされてきたPI陽性puffed細胞が実際には全細胞の約35%を占めるという全く異なる細胞死実態を明示した。

新規性と発見の意義:本研究で初めてpuffed細胞という新規好中球死サブタイプが記載され、そのフローサイトメトリーによる見逃しメカニズムが物理的ピペッティングによる選択的破壊として解明された (novel contribution)。この知見は過去数十年の好中球死研究の再解釈を促す方法論的警告であり、アポトーシス経路研究における測定法の重要性を改めて提示する。

臨床的意義と残された課題:puffed 細胞が炎症制御や DAMP (damage-associated molecular pattern、危険信号分子) 放出、マクロファージ efferocytosis にどのように関与するかという問いは、敗血症や自己炎症性疾患、がん免疫微小環境 における好中球恒常性理解に直結する。puffed 細胞の細胞死シグナル経路の分子的同定 (パイロトーシスやネクロプトーシスとの鑑別)、in vivo 条件での存在確認、ピペッティングを回避した測定プロトコルの標準化が今後の課題として残る。

方法

試料調製と培養条件:新鮮ヒト末梢血好中球 (健常ドナー由来、n=3 subjects) を密度勾配遠心と negative selection で分離精製し、5×10⁵ cells/mL の密度で RPMI 1640 培地に懸濁、non-treated 24-well プレートで 37°C 高湿度条件下に培養した。自発的細胞死誘導に際して特異的刺激剤 (ホルボールエステル等) は一切添加せず、生理的条件での自然経過を観察した。本研究は培養細胞株や動物モデルではなく一次ヒト好中球を用いた解析を貫いた点が方法論的特徴である。

染色と観察手順:Annexin V 標識抗体 (10 μL) と PI (200 ng/mL) で同時染色し、20 分間隔で 17 時間にわたる time-lapse 蛍光顕微鏡撮影を実施した。同一条件の細胞集団に対してフローサイトメトリーも並行測定し、両手法の結果を直接比較した。

物理刺激の影響評価:標準サイズのピペットチップで up-and-down ピペッティングを 10 回施した後、フローサイトメトリーと顕微鏡で細胞集団を再評価した。固定条件では 4% paraformaldehyde で 30 分間室温固定した後に同様のピペッティング処理を加え、化学固定の保護効果を検証した。統計解析は対応 t 検定 (paired t-test) と一元配置分散分析 (one-way ANOVA) を用いた。