- 著者: Jan Rossaint, Jan M. Herter, Hugo Van Aken, Markus Napirei, Yvonne Döring, Christian Weber, Oliver Soehnlein, Alexander Zarbock
- Corresponding author: Alexander Zarbock (University Hospital Münster, Münster, Germany)
- 雑誌: Blood
- 発行年: 2014
- Epub日: 2013-12-12
- Article種別: Original Article
- PMID: 24335230
背景
急性肺障害 (acute lung injury, ALI) は集中治療領域における致死率約40%の高い病態であり、人工呼吸器誘導肺障害 (ventilator-induced lung injury, VILI) はその主要原因の一つである。先行研究はALIの病態に好中球の過剰浸潤と血小板-好中球相互作用が中心的役割を果たすことを示してきた。具体的にはZarbock et al. JClinInvest 2006はマウス酸誘導ALIモデルで血小板枯渇により肺障害が完全に逆転することを示し、Caudrillier et al. JClinInvest 2012は輸血関連急性肺障害 (TRALI) で血小板がNETs形成を誘導することを報告した。さらにGrommes et al. AmJRespirCritCareMed 2012はCXCL4/CCL5ヘテロマー化阻害がALIで好中球血管外遊出を抑制することを示していた。一方、好中球細胞外トラップ (neutrophil extracellular traps, NETs) はBrinkmann et al. Science 2004により発見された脱凝縮クロマチン構造で、感染防御機構として同定されたが、無菌性炎症においても組織障害を促進することが報告されてきた。何が足りなかったか:VILIにおいてNETsがいかなる分子シグナル経路を介して形成されるか、特に血小板由来ケモカインとインテグリンシグナリングがどのように協調して好中球を活性化しNET放出を駆動するかは未解明であり、また合理的治療標的の同定もなされていなかった。
目的
マウスVILIモデルとin vitro共培養系を用いて、(1) NETs形成における血小板の必要性、(2) インテグリン (特にMac-1) を介したoutside-inシグナリングとG蛋白共役受容体 (GPCR) を介したケモカインシグナリングの同期的活性化がNETs形成に必要であるか、(3) CXCL4/CCL5ヘテロマー化阻害ペプチドMKEYおよびDNase1治療のVILI軽減効果、を検証することを目的とした。
結果
所見1:血小板依存性NETs形成のVILIモデルでの実証:Busulfan前処置により血小板数が88%減少した条件 (n=4 mice/group) で、VILI後のpaO2/FiO2比が対照群と比較して有意に改善し (P<0.05、Figure 1A)、BAL中好中球数も同様に減少した (Figure 1B)。BALタンパク濃度 (透過性指標) も血小板枯渇群で約50%低下した (Figure 1C)。フローサイトメトリーでVILI誘導30分後にCD41+ Gr-1+ 好中球比率 (血小板-好中球凝集体) が対照の3-fold増加し、busulfan処置で有意に抑制された (Figure 1D、3 independent experiments)。透過型電子顕微鏡で肺微小血管内に好中球を血小板が取り囲む像が確認された (Figure 1E)。免疫蛍光ではVILI肺切片で大量のNETs (MPO+ DNA線維) が観察され、対照肺ではほぼ検出されず (Figure 1F-G)、血漿中NETs成分 (MPO-DNA ELISA) も4-fold上昇したが、血小板枯渇で有意低下した (Figure 1H、P<0.05、n=4 biological replicates)。
所見2:インテグリン-GPCR同期活性化の必須性:In vitroでTRAP活性化血小板と好中球の共培養でNETs形成が誘導されたが (Figure 2A-B)、PTx前処置WT好中球、Itgb2-/- (CD18欠損)、Tyrobp-/-/Fcer1g-/-好中球では誘導されなかった (Figure 2C)。Mac-1阻害抗体はNETs形成を有意に抑制したが、LFA-1阻害は無効であった (Figure 2D、Mac-1特異性)。Mac-1阻害下でさらにPTxを追加してもNETs抑制は加算されず、両経路が同一上流シグナルを構成することが示された。Poly-RGDまたはICAM-1 (β2-integrin engagement) 単独刺激ではNETs形成は起こらず、ケモカイン (CXCL4+CCL5) との共刺激で初めて誘導された (Figure 2F)。β1-integrin substrate VCAM-1ではケモカイン併用下でもNETs形成は誘導されず、β2-integrin特異性が確認された。
所見3:CXCL4/CCL5ヘテロマー化阻害の治療効果:MKEY (1または3 mg/kg) 前処置はVILI後のpaO2/FiO2比を約2倍改善し (P<0.05、Figure 3A、n=4)、BAL好中球数を約60-70%減少させ (Figure 3B)、BALタンパクを正常化させ (Figure 3C)、血小板-好中球凝集体形成も抑制した (Figure 3D)。抗CXCL4抗体、抗CCL5抗体、抗Mac-1抗体、抗LFA-1抗体での前処置も同様の改善を示した (Figure 3E-H)。Intravital microscopyでVILI 30分後の肺微小血管内付着好中球と血小板-好中球凝集体が約5-10倍に増加し、MKEY/Mac-1阻害/CXCL4/CCL5抗体で有意に減少した (Figure 4A-B)。LPS腹腔内投与モデルでも血小板枯渇・MKEY・NE-/-で肝臓内NETs形成と好中球浸潤が減少し、DNAse1-/-/Trap1m/mマウスでは逆に増悪し、一般化可能なメカニズムであることが示された (Suppl Figure 5)。
所見4:NETs修飾によるVILI重症度制御:WTマウスへのDNAse1 (4000 KU) 投与はVILI後のpaO2/FiO2比改善 (P<0.05、Figure 5A)、BAL好中球数約60%減少 (Figure 5B)、BALタンパク正常化 (Figure 5C)、血小板-好中球凝集体減少 (Figure 5D)、循環NETs成分低下 (Figure 5E) をもたらした。NE-/-マウスも同様の保護効果を示し、NEがNETs形成に必須であることが遺伝的に確認された。逆にDNAse1-/-/Trap1m/mマウスではVILI重症度がWTより悪化し (paO2/FiO2低下、BAL好中球・タンパク・NETs成分上昇、Figure 5A-E)、内因性DNase1がNETsを分解してALIを制限する内在的保護機構であることが示された。
所見5:MKEY治療投与の効果と時間窓:VILI誘発15分後にMKEY (3 mg/kg) を治療的に投与したところ、paO2/FiO2比約1.8倍改善 (Figure 6A)、好中球浸潤約50%減少 (Figure 6B)、BALタンパク正常化 (Figure 6C)、血小板-好中球凝集体減少 (Figure 6D)、循環NETs減少 (Figure 6E) を示した。一方、VILI誘発60分または90分後の投与では有意効果は得られず、NETs形成早期段階での介入が重要であることが示された。NADPH oxidase阻害 (DPI) もin vitroおよびin vivo NETs形成を有意抑制し (Suppl Figure 4A-B)、ROS依存性が確認された。
考察/結論
本研究は無菌性炎症 (VILI) 下でのNETs形成がMac-1を介したoutside-inインテグリンシグナリングと、血小板由来ケモカイン (CXCL4/CCL5ヘテロマー) によるGPCRシグナリングの同期的活性化によって制御されることを初めて示した。先行研究との違い:Brinkmann et al. Science 2004によるNETs発見以降、NETs形成のトリガーとしてPMA、TLR、ROSなどが報告されてきたが、これらは個別経路として扱われていた。本研究はインテグリンとGPCRがこれまで別個に考えられていたNETs誘導経路を同期的に必要とする協調メカニズムとして統合した点が、既存知見とは異なる独自の貢献である。またCaudrillier et al. JClinInvest 2012はTRALIで血小板がNETsを誘導することを示したが、分子経路の特定は限定的で、本研究はMac-1とCXCL4/CCL5ヘテロマーという具体的標的を同定した点で相違する。新規性:(1) Mac-1とGPCRの同期的activationという新規な二段階チェックポイントを提示、(2) MKEYペプチドによるCXCL4/CCL5ヘテロマー阻害が本研究で初めてALI/VILIで治療効果を示した、(3) DNase1-/-/Trap1m/m遺伝モデルで内因性DNase1のNETs制御機能をこれまで報告されていない形で実証した、点がnovelである。臨床応用:DNase1 (recombinant human DNase, dornase alfa) は既に嚢胞性線維症に対し承認されているため、ARDS/ALIへの適応拡大のbench-to-bedside展開が比較的迅速に可能と考えられる。MKEYやCXCR4小分子拮抗薬による上流ブロックも臨床的有用性が期待される。CXCL4/CCL5阻害はアテローム性動脈硬化症やARDSの臨床応用展開が複数臨床試験で検討されており、本研究はその科学的根拠を強化するtranslational意義を持つ。残された課題:(1) ヒトARDS症例での血漿NETsマーカー (citrullinated H3, NE-DNA, MPO-DNA) のバイオマーカー価値の前向き検証、(2) DNase1治療の至適投与量・投与時期・併用療法の今後の検討、(3) Mac-1阻害は宿主防御を損なう可能性があり、感染合併症のリスクとのlimitationバランス評価、(4) NETs阻害戦略 (PAD4阻害、DNase1、Mac-1阻害) の組み合わせ最適化、がfuture課題として残された。本研究は基礎研究から治療標的同定までを一気通貫で示し、急性肺障害分野に新たな治療パラダイムを提供した。
方法
マウス株 (mouse strain):8-12週齢C57BL/6 (B6) 野生型 (wild type, WT) マウス (Charles River Laboratories, Wilmington, MA) を主要strainとして用い、DNAse1欠損/Trap1m/m二重変異 (DNAse1-/-/Trap1m/m)、Itgb2-/- (CD18欠損)、Tyrobp-/-/Fcer1g-/- (DAP12 [DNAX activation protein of 12 kDa] と FcRγ [Fc receptor common γ chain] 二重欠損)、好中球エラスターゼ欠損 (neutrophil elastase deficient, NE-/-) マウスを使用した。VILI (ventilator-induced lung injury) モデル:終末吸気圧45 cmH2O、終末呼気陽圧 (positive end-expiratory pressure, PEEP) 5 cmH2O、40 bpmで2時間人工換気し、対照は15 cmH2O・140 bpmで換気した。In vitroでは骨髄由来マウス好中球 (n=1×10^5 cells) と血小板 (n=1×10^6) を共培養 (RPMI 1640培地、1% fetal calf serum) し、thrombin receptor activator peptide (TRAP, 50 μM) で血小板を活性化した。介入薬として、CXCL4 (platelet factor 4) /CCL5 (RANTES) ヘテロマー阻害ペプチドMKEY (1または3 mg/kg) またはスクランブルペプチド対照、抗lymphocyte function-associated antigen 1 (LFA-1) 抗体 (clone TIB-217)、抗macrophage antigen-1 (Mac-1, CD11b/CD18) 抗体 (clone TIB-128)、抗CXCL4抗体、抗CCL5抗体、DNAse1 (4000 KU)、pertussis toxin (PTx)、diphenyleneiodonium chloride (DPI, NADPH oxidase阻害) を使用した。評価項目:動脈血ガス (paO2/FiO2比、ABL800 Radiometer; Bronshoy, Denmark)、気管支肺胞洗浄 (bronchoalveolar lavage, BAL) 液中タンパク濃度 (BCA Protein Assay Kit)、BAL中好中球数 (Kimura染色)、血小板-好中球凝集体 (フローサイトメトリーでCD45+Gr-1+7/4+CD41+細胞率)、循環NETs構造 (myeloperoxidase [MPO]-DNA enzyme-linked immunosorbent assay [ELISA])、肺切片免疫蛍光染色 (抗MPO、抗histone H2A、抗CD41 [clone MWReg30] 抗体)、肺微小循環のintravital microscopy (Gr1-Alexa488、CD41-PE)、透過型電子顕微鏡。統計:SPSS v20.0でone-way analysis of variance (ANOVA) + Student-Newman-Keuls post hoc検定、またはStudent t検定を実施し、P<0.05を有意とした。全動物実験は施設動物管理委員会の承認下で実施。