• 著者: María José Hurtado Gutiérrez, Frédérick L. Allard, Hugo Tshivuadi Mosha, Claire M. Dubois, Patrick P. McDonald
  • Corresponding author: Patrick P. McDonald (Pulmonary Division, Université de Sherbrooke, CRCHUS)
  • 雑誌: Cells
  • 発行年: 2022
  • Epub日: 2022-12-29
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 36611930

背景

好中球は循環白血球の中で最も豊富な細胞であり、炎症部位へ massively 動員されてファゴサイトーシス・脱顆粒・活性酸素種 (ROS, reactive oxygen species) 産生・好中球細胞外トラップ (NET, neutrophil extracellular trap) 形成という多彩な抗微生物機能を発揮する。過去30年で好中球の転写プログラムは著明な可塑性を持ち、多様なサイトカイン・ケモカイン・血管新生因子の産生を介して自然免疫・適応免疫を双方向に調節する免疫制御細胞として再定義されてきた (Khoyratty et al. NatImmunol 2021)。

好中球はまた EV (extracellular vesicle, 細胞外小胞) を放出し、これは主にエクトソーム (細胞膜から直接 budding で生じる100-1000 nmの小胞) で構成されることが Hess (1999)・Gasser (2003) (JLeukocBiol 2015) によって繰り返し示されてきた。NDE (neutrophil-derived ectosome, 好中球由来エクトソーム) はマクロファージのオートファジー誘導 (Alvarez et al. FrontImmunol 2018)・脳血管内皮細胞のタイトジャンクション破綻 (Ajikumar et al. IntJMolSci 2019)・樹状細胞のTh2偏倚 (Turbica 2015) を引き起こすことが既知である。活性化状態に依存して NDE 含有RNA量が3倍 (3-fold) 異なり、抗菌活性も変化することも示されていた (JLeukocBiol 2015)。さらに Genschmer et al. Cell 2019 は活性化好中球 exosome が肺マトリックス破壊を引き起こすことを報告し、Veglia et al. JExpMed 2021 はがん患者中の好中球サブセット異常を体系化した。MISEV2018 ガイドライン (JExtracellVesicles 2018) は EV 標準化の基準として広く採用されている。

しかしこれらの先行研究はいずれも他細胞への paracrine 効果を扱ったものであり、本論文時点で以下の3点が未解明のまま残されていた。第一に、NDE (好中球由来エクトソーム) が産生母細胞である好中球自身の応答を autocrine / paracrine に調節するかどうかは検討されていなかった (これまで足りなかった点①)。第二に、どの生理的刺激が NDE 放出を誘導しどのシグナル経路が関与するかの網羅的解析が不足していた (これまで足りなかった点②)。第三に、MISEV2018 (Minimal Information for Studies of Extracellular Vesicles 2018) 準拠の厳密な特性解析下での好中球 EV の主要 subtype 同定が未達であった (これまで足りなかった点③)。これまで好中球EV研究では isolation 法・定義・命名が研究室間で乱立しており比較可能性が低く、母細胞の応答そのものを変える根源的フィードバック機構については controversial な議論が続いていたことが、本論文以前の明確なギャップとして残されていた。

目的

本研究は次の3点を目的とした。第一に、MISEV2018 ガイドラインに準拠した high-resolution flow cytometry + TEM (透過型電子顕微鏡) ベースの NDE 特性解析法を確立し、好中球から放出される EV の主要 subtype がエクトソームかエクソソームかを定量的に決着させること。第二に、LPS (lipopolysaccharide, リポ多糖)・TNF (tumor necrosis factor, 腫瘍壊死因子)-α・fMLP・GM-CSF・G-CSF・IFN-γ (interferon gamma, インターフェロンガンマ)・dexamethasone という生理的刺激ごとに NDE 放出能を比較し、関与する上流シグナル分子 — TAK1 (transforming-growth-factor-beta-activated kinase 1)、p38 MAPK、MEK/ERK、Syk、Src、PI3K、JNK (c-Jun N-terminal kinase) — を選択的阻害剤パネルで同定すること。第三に、NDE が自己好中球に取り込まれた後、アポトーシス・ケモカイン分泌・NET形成という核心的機能応答を autocrine / paracrine に調節するか否かを母細胞の活性化状態別に比較検証すること。

結果

所見1 — NDE は MISEV2018 三重陽性で同定され好中球 EV の主要 subtype である:MISEV2018 準拠の high-resolution flow cytometry で、好中球培養上清から得た EV は Calcein Blue AM + Annexin V + CD66b 三重陽性で同定された。1分間の安定化後の収集により small particle 由来 background が抑制され、希釈系列で検出は R² > 0.998 と linear (Fig 1)。GW4869 20 μM 前処理は NDE 放出量にもサイズにも有意な影響を与えず (Fig 2A,B、p > 0.05)、NDE はエクソソームと異なる生成経路を持つことが裏付けられた。18,000 ×g 上清をさらに 100,000 ×g 超遠心して得た画分には残存 calcein 陽性 EV と総蛋白量がともに僅少で (Fig 2D,E)、エクトソームが好中球 EV の主要 subtype であることが定量的に確認された。TEM では予想サイズの closed spherical vesicle として観察された (Fig 2C)。

所見2 — fMLP・LPS・TNF-α は急速かつロバストに NDE 放出を誘導するが GM-CSF / G-CSF / IFN-γ / dexamethasone は誘導しない:刺激依存性を7種類の生理的刺激で網羅評価したところ、fMLP 100 nM・LPS 100 ng/mL・TNF-α 100 U/mL は刺激後30分以内に最大に達するロバストな NDE 放出を誘導し、レベルは120分まで維持された後緩徐に低下した (Fig 3A,B、p < 0.01 vs unstimulated)。一方、好中球生存促進刺激である GM-CSF 1 nM・G-CSF 1000 U/mL・IFN-γ 100 U/mL・dexamethasone 100 nM はいずれも baseline を超える NDE 放出を引き起こさなかった (Fig 3A 下段)。シグナル経路阻害剤パネル7種では、JNK 阻害剤 SP600125 を除く全ての阻害剤 (TAK1・p38・MEK・Syk・Src・PI3K) が fMLP 誘導 NDE 放出を部分的・有意に抑制し (Fig 3C、p < 0.05 ~ p < 0.001)、TAK1 阻害剤が最大の抑制効果を示した。完全な NDE 放出抑制はどの単剤でも達成できず、未同定経路の関与が示唆された。

所見3 — NDE は5分以内に自己好中球に再取り込みされ PS と表面タンパクが必須:Cytotrack Red 標識 NDE を NDE:好中球 = 5:1 比で共培養すると、recipient 好中球の蛍光は5分以内に急速に蓄積した (Fig 5A、p < 0.001 vs unstimulated)。膜色素 DiO 標識でも同等の取り込み効率が再現された。Annexin V または proteinase K による NDE 前処理は蛍光移送を著明に抑制し、ホスファチジルセリン (PS) と表面タンパク質の両方が取り込みに必要であることが示された。これは循環血中で好中球が NDE を秒〜分 scale で常時 secrete + reuptake するフィードバックループの存在を示唆する。

所見4 — NDE は生存促進刺激の抗アポトーシス効果を完全に逆転させる:NDE 単独では18時間培養後の自然アポトーシス率を有意に変化させなかったが、GM-CSF 1 nM 併用条件で抗アポトーシス効果を完全に逆転させた (Fig 5B、n=5 independent experiments、p < 0.01 vs GM-CSF alone、約 2-fold アポトーシス回復)。同様の逆転効果は G-CSF・IFN-γ・dexamethasone という他の強力な pro-survival 刺激でも観察され、母細胞活性化状態 — EVu (Extracellular Vesicle from unstimulated neutrophils) と EVf (Extracellular Vesicle from fMLP-activated neutrophils) — に依存しなかった (補足 Fig S5 (Supplementary Figure 5))。NDE:好中球 = 5:1 比が最適で (n=3、補足 Fig S4A)、培養上清由来 NDE でも同等の結果が再現された (Fig S5A)。これは NDE 放出能と pro-survival 効果が逆相関する刺激の二分性を示し、GM-CSF 系刺激が NDE をほとんど産生しないが故に長寿命化を維持できるという仮説を支持する。

所見5 — NDE はケモカイン分泌を母細胞活性化状態依存的に双方向制御する:NDE 単独投与は CXCL8 の軽度分泌を誘導したが CCL4 は誘導しなかった (Fig 5C,D)。TNF-α 100 U/mL 共刺激下では、unstimulated 好中球由来 NDE (EVu) は TNF 誘導 CXCL8・CCL4 分泌を有意に抑制した一方 (p < 0.05)、fMLP 活性化好中球由来 NDE (EVf) は同じ条件下で逆に分泌を強く増強した (Fig 5C,D、p < 0.05 vs TNF alone)。この双方向効果は NDE:好中球比に正相関し (Fig S4B)、活性化状態の違いが NDE 内 RNA 量3倍差・proteomics 差 (Lörincz 2015) と整合的に機能差を生むことを示した。

所見6 — NDE は NET 形成を二相性に制御する:MPO 染色 + DNase I 消化で NET 特異的蛍光を分離する系を確立した (PlaNET 試薬は NDE による蛍光干渉のため不可、補足図 Fig S7 (Seventh Supplementary figure))。NDE 単独刺激は fMLP 100 nM と同等の NET 形成を直接誘導し (Fig 6、p < 0.001 vs unstimulated)、これは EVu / EVf いずれでも観察された。一方、NDE 前処理後に fMLP を添加すると fMLP 単独群と比較して NET レベルは有意に低下し (p < 0.05 vs fMLP alone)、過剰 NET 応答を減衰させる二相性制御が示された。

考察/結論

本研究は、好中球由来エクトソーム (NDE) が自己分泌・傍分泌機構を通じて好中球の核心的機能応答 (アポトーシス・ケモカイン分泌・NET 形成) を多面的に調節することを、MISEV2018 準拠の厳密な特性解析下で初めて体系的に示した。NDE はエクソソームと異な、GW4869 非感受性で TEM 形態的に閉鎖型球形小胞として確認され、好中球 EV の主要 subtype であることが量的に決着した。これまで NDE が他細胞 (マクロファージ・樹状細胞・内皮細胞) を調節することは多数報告されていたが、母細胞自身を制御する autocrine ループの実証はこれまで報告されていなかった点が本研究の 新規な 貢献である。

これまでの先行研究 (JLeukocBiol 2015Alvarez et al. FrontImmunol 2018・Hess 1999・Gasser 2003) と異な、本研究は (i) MISEV2018 準拠の三重陽性同定基準、(ii) Annexin V / proteinase K 前処理による PS・表面タンパク依存性の機能解剖、(iii) 7種類の生理的刺激と7種類のシグナル阻害剤の網羅評価という3点で方法論的に新しい。特に、NDE 産生量と pro-survival 刺激効果の逆相関 (GM-CSF / G-CSF / IFN-γ / dexamethasone は強力な生存促進だが NDE をほとんど誘導しない、対照的に LPS / TNF-α / fMLP は弱い抗アポトーシス効果しか持たないが NDE を強誘導する) は、これまで report されていない刺激の二分性を示し、NDE 放出能が刺激の抗アポトーシス能とトレードオフ関係にあることを示唆する。

臨床応用 の観点では、活性化好中球が炎症局所で大量に NDE を放出する状況下では、(1) CXCL8・CCL4 分泌増強による免疫細胞 further infiltration、(2) GM-CSF / G-CSF 依存 pro-survival 効果の打ち消しによる early apoptosis 誘導、(3) NET 形成の初期誘導と過剰 NET の減衰という複合的フィードバック制御が好中球駆動性炎症 (sepsis・ARDS (acute respiratory distress syndrome, 急性呼吸窮迫症候群)・cystic fibrosis 等) で生じうる。Bench-to-bedside 応用として、Forrest 2022 が cavitation NDE で気道上皮細胞に active caspase-1 を送達する例を報告しており、NDE を治療運搬体として用いる translational 戦略が現実味を帯びる。Genschmer (Cell 2019)・Veglia (JExpMed 2021) の好中球 EV 病態関与報告とも整合する。

残された課題 として、(i) 活性化状態依存的な NDE の RNA・プロテオーム組成差の分子基盤、(ii) シグナル阻害剤で完全抑制が達成できなかった事実が示す未同定経路の解明、(iii) 健常人 vs 菌血症患者 (Timar Blood 2013) で示された循環血中 NDE 増加の生体内意義、(iv) NDE の長期生体内挙動と臨床バイオマーカー化、が 今後の課題 として残る。Cellular Microenvironment 再構築機構の量的精緻化と、薬物送達ツールとしての臨床応用が今後の検討の中心になる。Limitation として、ドナー数3-5名の小規模 study、in vitro 培養系単独、他の活性化刺激 (PMA・opsonized zymosan 等) との直接比較不足が挙げられる。

方法

ヒト好中球の単離: 健常ドナー末梢血から dextran 沈降 → Ficoll-Paque Plus 分離 → 低張水溶解の3段階で精製し、最終単核球・リンパ球混入率を 0.1% 未満、4時間培養後の生存率を 98% 超に管理した。Wright-Giemsa 染色と FACS で純度確認。

EV isolation method — MISEV2018 準拠の differential UC (ultracentrifugation, 超遠心法): 2 isolation method を併用した。(1) 自然分泌 NDE (UC ベース): 5×10⁶ cells/mL を RPMI 1640 で刺激後、培養上清を 1,000 ×g 10 min で intact 細胞除去 → 18,000 ×g・15分で NDE pellet 化。一部実験では 100,000 ×g・60分の超遠心 (TLA120.2 rotor, Beckman Optima Max) で 50-150 nm の exosome 画分も分画比較した。(2) 窒素キャビテーション法 (Nitrogen cavitation, mechanical disruption): 5×10⁷ cells/mL を 350 psi N₂ 加圧 10分 → 1,000 ×g → 4,000 ×g の differential centrifugation で大量精製 (機能アッセイ用、HL-60 differentiation prep プロトコルに倣う)。

EV characterization (MISEV2018 markers, CD66b (cluster of differentiation antigen 66b, 好中球表面抗原)/Annexin V/calcein triple): high-resolution flow cytometry (CytoFLEX S, Beckman Coulter) でサイズキャリブレーションビーズ (200, 500, 760 nm) によりエクトソームゲート (100-760 nm) を設定し、Calcein Blue AM (closed vesicle 内部エステラーゼ活性指標) + V-Alexa647 (Vesicle annexin-V tagged Alexa-fluorophore reagent) Annexin labeling + CD66b-PE (Clone-specific antibody dual phycoerythrin emission tag) クローン特異抗体 の三重陽性を NDE と定義。P-40 (Polyethyleneglycol-40 octylphenyl non-ionic detergent) を NP40 (Nonidet Polyoxyethylene detergent) 0.5% で1分処理し calcein 蛍光消失を確認。GW4869 20 μM (nSmase 阻害、エクソソーム放出阻害) で NDE 放出と subtype 判別を実施。TEM (transmission electron microscopy) は H-7500 (Hitachi 7500 transmission electron instrument) microscope で uranyl acetate 2% 染色 (Rikkert protocol A) により形態確認。Western blot (WB) によるマーカー確認は本研究では実施されず flow cytometry を主要 characterization 法として採用した。

Signaling pathway 解析: piceatannol 10 μM (Syk)・Src-I1 10 μM (Src)・5Z-7-oxozeaenol 1 μM (TAK1)・SB203580 1 μM (p38 MAPK)・UO126 10 μM (MEK)・SP600125 20 μM (JNK)・LY294002 10 μM (PI3K) で 15分前処理後、fMLP 100 nM で 120分刺激して NDE 放出を定量。

NDE 取り込みアッセイ: NDE を Cytotrack Red 1 μL/mL または DiO 5 μM で15分標識、洗浄後 NDE:好中球 = 5:1 比で共培養。Annexin V または proteinase K 前処理 NDE を対照群として PS / 表面タンパクの寄与を評価。

機能アッセイ: アポトーシスは Annexin V-FITC (Vesicle Fluorescein-Isothiocyanate Tagged Conjugate) + propidium iodide 染色を18時間培養後 FACS (最低10,000 細胞)。ケモカインは6時間培養上清を CXCL8 / CCL4 (cytokine chemokine-family ligand 4 protein) ELISA (R&D Systems matched pairs) で定量。NET 形成は4時間培養後 MPO 染色 + DNase I (DNase: deoxyribonuclease I) 10 U/mL 消化により NET 特異的蛍光を分離 (PlaNET 試薬は NDE による蛍光干渉のため不可)、3視野×10倍倍率で ImageJ 自作 Java plug-in 定量。

統計手法: データは平均 ± s.e.m. で表示 (n=3-5 independent experiments per condition)。対応 Student t-test (paired Student’s t-test, Prism 9 software, GraphPad) で 2 群比較。データ分布は Shapiro-Wilk normality test で確認。有意水準は p < 0.05 を採用 (*p < 0.05, **p < 0.01, ***p < 0.001, §p < 0.001 vs unstimulated)。シグナル阻害剤比較では one-way ANOVA を併用したが阻害剤間 potency 差は非有意であった。