- 著者: Muthulekha Swamydas, Yi Luo, Martin E. Dorf, Michail S. Lionakis
- Corresponding author: Michail S. Lionakis (Fungal Pathogenesis Unit, Laboratory of Clinical Infectious Diseases, National Institute of Allergy and Infectious Diseases, NIH, Bethesda, MD, USA)
- 雑誌: Current Protocols in Immunology
- 発行年: 2015
- Epub日: 2015-08-03
- Article種別: Protocol
- PMID: 26237011
背景
好中球は自然免疫系の主要なエフェクター細胞であり、細菌や真菌などの病原体に対する防御の最前線を担う。遺伝性および後天性の好中球の質的・量的欠陥を持つ患者は、細菌・真菌感染症を発症するリスクが高く、これらの感染症による有害な転帰に苦しむことが知られている (Amulic et al., 2012)。したがって、恒常性条件下および感染時に好中球のエフェクター機能を調節する分子因子を定義する研究は、好中球機能を増強し、感染個体の転帰を改善するための戦略を考案する上で不可欠である。マウスは好中球機能研究の標準モデル生物であるが、マウス好中球は血中半減期が約6-12時間と短命であり、機械的・生化学的ストレスに対し脆弱であるため、単離操作中の活性化が下流の機能実験の信頼性を左右する。骨髄、末梢血、腹腔、感染組織など、各組織における好中球の豊富さ、成熟度、活性化状態は異なるため、組織依存的に最適化された単離プロトコルが不可欠である。
従来の好中球単離法は、ヒト好中球が末梢血から容易に大量に採取できるのに対し (Clark and Nauseef, 2001)、マウスの血液量は少なく、十分な数の好中球を単離することが困難であった。そのため、マウス好中球の単離は、定常状態では好中球がほとんど存在しない腹腔から、チオグリコレートやカゼインの腹腔内注射によって顆粒球を誘発する方法に伝統的に依存してきた (Watt et al., 1979)。これらの「炎症性」条件下での腹腔好中球の収率は、下流の機能免疫学的研究や養子移入実験に十分なものであった (Luo and Dorf, 2001)。しかし、チオグリコレートやカゼインで誘発された腹腔好中球は非生理的刺激によって活性化された表現型を示し、炎症性腹腔洗浄液中の純度は50%から90%と変動するため、許容できる好中球純度を達成するためにはPercollまたはHistopaqueベースの細胞分離培地を用いた下流の密度勾配遠心分離ステップが必要であった (Luo and Dorf, 2001)。
対照的に、マウス骨髄は、恒常性条件下での定常状態および様々な感染性・非感染性炎症条件下での活性化状態の両方で、大量の好中球を単離するための便利な貯蔵庫である。骨髄は、免疫学的アッセイや養子移入実験のために、定常状態で大量の好中球を採取できるマウスの最も適切な解剖学的部位である。骨髄好中球は、マウスの血液好中球と機能的に類似しており、培養下でより長期間生存することが報告されている (Boxio et al., 2004)。しかし、既存の単離法では純度・収率・生存率のバランスが不十分であることや再現性に問題があることが指摘されており、標準化されたプロトコル集の確立が未確立であった。特に、炎症条件下では、感染部位の好中球のエフェクター機能を調査することが重要となるが、その活性は感染組織の局所的な免疫学的微小環境に存在する因子によって調節されるため、骨髄好中球とは異なる可能性がある (Whitney et al., 2014)。これらのギャップを埋めるため、本研究では、様々な組織源から高品質なマウス好中球を効率的に単離するための標準化されたプロトコルを提供することが課題であった。既存のプロトコルでは、マウス好中球の単離において、生存率と純度を両立させるための詳細な条件設定が不足しており、特に感染組織からの単離は手薄であった。
目的
本プロトコルは、マウス骨髄、感染組織 (腎臓、肝臓、脾臓)、腹腔、および末梢血の4つの供給源から、高純度 (>90%)、高生存率 (>95%)、および十分な収率の好中球を取得するための標準化されたプロトコルを提供することを目的とする。これにより、貪食能、活性酸素種 (ROS) 産生、好中球細胞外トラップ (NET) 形成、ケモタキシス、脱顆粒、サイトカイン産生、トランスクリプトーム解析、養子移入実験など、多様な下流アッセイに適用可能な高品質な細胞調製を可能にすることを目指す。特に、Histopaque 1119/1077不連続密度勾配法、酵素消化と抗Ly6G磁気ビーズ選別または蛍光活性化セルソーティング (FACS) を組み合わせた組織からの単離法、PercollまたはHistopaque密度勾配遠心分離法を用いた腹腔液および末梢血からの単離法を詳細に記述し、各手法の最適化された条件と注意点を示すことで、研究者間の再現性を向上させることを意図する。本研究は、特に感染組織からの好中球単離における課題を解決し、基礎免疫学研究の基盤を強化することを目的とする。
結果
骨髄好中球のHistopaque法による単離結果: Histopaque 1119/1077不連続密度勾配法を用いた場合、8-12週齢のC57BL/6ナイーブマウス1匹 (大腿骨と脛骨のペア) から、通常6-12×10^6個の好中球が得られた。これらの好中球は純度>90%、生存率>95%であった (Fig. 3.20.2)。Candida albicans感染マウスでは、緊急顆粒球造血の活性化により骨髄好中球数が大幅に増加し、1匹あたり30-40×10^6個の好中球が回収可能であり、純度は80-95%、生存率は>95%を維持した。骨髄細胞懸濁液の量は、未感染マウス1匹あたり1ml、感染マウスまたは複数マウスからは3mlに調整することで、グラジエントの過負荷を防ぎ、好中球純度を最大化できることが示された。低張溶血処理における0.2% NaClへの曝露は厳密に20秒以内とし、直後に等量の1.6% NaClを添加することで、骨髄細胞の溶解を防ぐことが重要である。Histopaque溶液は使用前に室温に戻すことで、banding efficiencyが最大化される。
感染組織好中球の単離結果: Candida albicans感染C57BL/6マウスの腎臓および肝臓からPercoll勾配とMACS法を組み合わせることで、1-5×10^6個の好中球が回収され、純度>90%、生存率>95%であった (Fig. 3.20.3)。FACS選別を用いた場合、純度は>98%、生存率は>95%に向上した。酵素消化時間は20分間を厳守し、これ以上の延長は細胞生存率の低下を招くことが確認された。脾臓からの単離では100μmセルストレーナーを使用し、Percoll勾配遠心分離ステップは不要であった。MACS選別の際の抗Ly6G biotin抗体およびanti-biotin microbeadsとのインキュベーションは、氷上ではなく冷蔵庫内 (2-8°C) で10分間行うことが推奨された。これは、低温すぎるとビーズの結合効率が低下し、非特異的結合が増加する可能性があるためである。Ly6G (クローン1A8) はLy6C (Lymphocyte antigen 6 complex locus C) との交差反応性がなく、単球のFcR (Fc receptor) ブロックには抗CD16/CD32 (クローン93) の使用が推奨される。炎症組織ではLy6G+の骨髄由来抑制細胞 (MDSC) やLy6G+単球が混入する可能性があるため、フローサイトメトリーによるCD45+Ly6G+CD11b+Ly6Cint (Ly6C intermediate) の多段階ゲーティングが純度保証に有効である。
腹腔好中球の単離結果: 3%チオグリコレート培地の腹腔内注射後4-6時間で腹腔洗浄を行うと、n=1マウスあたり2-7×10^6個の好中球が得られた。腹腔は、大量の好中球を効率的に取得できる供給源であり、Percoll密度勾配分離後の好中球純度は>95%であった (Fig. 3.20.1)。汚染細胞としては、他の顆粒球、リンパ球、マクロファージが主に含まれる。
末梢血好中球の単離結果: 後眼窩採血または心穿刺により、n=1マウスあたり0.5-1.0×10^6個の好中球が得られた。採血量が限られるため、実験規模によっては複数マウスからの血液を合算する必要がある。Percoll勾配遠心分離後の好中球純度は>95%であった。
品質管理の重要ポイント: 単離操作全体を氷上または4°C環境下で迅速に実施し、Ca2+/Mg2+ (カルシウムイオン/マグネシウムイオン) フリー緩衝液とEDTAを使用することで、好中球の早期活性化を抑制できる。Ly6G抗体結合後に機能実験を行う場合は、抗体-受容体複合体の内在化 (receptor internalization) が生じる可能性があるため、代替として陰性選別またはLy6G-Creレポーターシステムの使用を検討する必要がある。
考察/結論
先行研究との違い: 本プロトコルは、これまでのマウス好中球単離法が抱えていた純度、生存率、収率のバランスの課題に対し、より体系的かつ最適化された手法を提供した点で、既存の報告と異なり、特に感染組織からの好中球単離に焦点を当てた点が特徴である。従来のPercoll勾配法では密度差が小さく界面の混入が問題となることがあったが、本研究で採用したHistopaque 1119/1077不連続密度勾配法は、より明確な分離を可能にする。
新規性: 本研究で初めて、マウスの4種類の組織源 (骨髄、感染組織、腹腔、末梢血) から好中球を単離するための体系的な手順を確立し、各組織に最適な密度勾配、磁気ビーズ、FACS選別の組み合わせを明確に示した。特に、骨髄好中球の標準法であるHistopaque 1119/1077不連続密度勾配法、および組織好中球のためのPercoll 40/70%勾配の遠心条件 (872×g、30分、ブレーキなし) と細胞懸濁液量の最適化が、純度80-90% (MACS追加で>95%) を達成するための鍵であることが新規に示された。腹腔チオグリコレート誘導法では、n=1マウスから2-7×10^6個という高収率が得られ、これは大規模な機能実験に特に有利である。
臨床応用: 本手順で得られた好中球 (生存率>95%) は、貪食能、活性酸素種 (ROS) 産生、NET形成、ケモタキシス、脱顆粒、サイトカイン産生、トランスクリプトーム解析、in vivo養子移入、蛍光標識後の組織内トラフィッキング解析など、多様な下流アッセイに適用可能である。これらの高品質な細胞は、好中球生物学および生理学の研究において、基礎研究から臨床応用への橋渡しに貢献する臨床的意義を持つ。例えば、感染症モデルにおける好中球の役割解明や、好中球機能不全に関連する疾患の治療戦略開発に繋がる可能性がある。
残された課題: 低活性化・高生存率単離のための配慮点として、(i) 氷上での迅速な操作による活性化抑制、(ii) Ca2+/Mg2+フリー緩衝液とEDTAの使用、(iii) 赤血球溶血処理の20秒以内厳守、(iv) Ly6G抗体結合後の受容体内在化可能性の考慮、(v) 炎症組織におけるLy6G+MDSCの混入チェック (FACSによるCD45+Ly6G+CD11b+Ly6Cint三重ゲーティング推奨) が重要なガイドラインとして示された。感染マウスでは、緊急顆粒球造血により骨髄好中球が顕著に増加するため、細胞懸濁液濃度を1-3mlに調整してグラジエント過負荷を防ぐことが再現性の確保に不可欠である。今後の検討課題として、末梢血からの直接ソーティング法による単離ストレスの最小化、感染組織の腫瘍関連好中球 (TAN) のシングルセルRNAシーケンス (scRNA-seq) 対応プロトコル最適化 (Liberase TL消化時間20分厳守による遺伝子発現変化の回避)、ならびにLy6G-Creレポーター活用による非破壊的系譜追跡法の確立が挙げられる。
方法
本研究では、C57BL/6マウスを用いて、骨髄、感染組織、腹腔、末梢血の4つの異なる供給源から好中球を単離するための複数のプロトコルを確立した。細胞生存率および純度の評価には、トリパンブルー除外法、フローサイトメトリー (APC-CD45、PE-Ly6G、APC-Cy7-CD11b抗体を使用)、およびMay-Grünwald-Giemsa染色による多葉核形態確認を用いた。統計解析は、必要に応じてStudent t-testを用いて群間比較を実施した。
Basic Protocol 1 (骨髄からの好中球単離): C57BL/6マウス (ナイーブまたはCandida albicans感染モデル) の大腿骨および脛骨を、RPMI+10%FBS+2mM EDTAを含む12mlシリンジと25G×5/8インチ針を用いてフラッシュし、骨髄細胞を回収した。回収した細胞は100μmセルストレーナーでろ過し、0.2% NaCl溶液に約20秒間曝露後、等量の1.6% NaClを添加する低張溶血処理により赤血球を除去した。その後、Histopaque 1119 (3ml、密度1.119 g/ml、室温) とHistopaque 1077 (3ml、密度1.077 g/ml、室温) の不連続密度勾配を15mlコニカルチューブ内に作製し、その上に骨髄細胞懸濁液を重層した。遠心分離は872×gで30分間、室温、ブレーキなしで行った。Histopaque 1119/1077界面から好中球層をPasteurピペットで慎重に回収し、RPMI+10%FBS+1%P/Sで2回洗浄 (427×g、7分、4°C) した。
Basic Protocol 2 (感染組織からの好中球単離): Candida albicans感染C57BL/6マウスの腎臓、肝臓、脾臓をPBS灌流後に摘出し、Liberase TL (腎臓・肝臓: 0.2125 mg/ml; 脾臓: 0.125 mg/ml) とDNase I (0.1 mg/ml) を含むRPMIで37°C、20分間酵素消化した。消化後、組織を細かく刻み、40-100μmセルストレーナーでろ過した。腎臓および肝臓の細胞懸濁液は、40% Percoll / 70% Percoll (FACSバッファーで調製) の二層勾配に重層し、872×gで30分間遠心分離後、70%/40% Percoll界面の細胞を回収した。その後、抗Ly6G biotin抗体とanti-biotin microbeadsを用いたMACS QuadroMACS separatorによるポジティブ磁気選別を実施した (Miltenyi、クローン1A8抗体、2-8°Cで10分間インキュベーション)。代替プロトコルとして、FACS (Fluorescence-activated cell sorting) による選別も実施し、CD45+Ly6G+CD11b+細胞をソーティングした。FcR (Fc receptor) ブロックには抗CD16/CD32抗体 (クローン93) を使用した。
Basic Protocol 3 (腹腔液からの好中球単離): 3%チオグリコレート培地 (1-3ml) をC57BL/6マウスの腹腔内注射し、4-6時間後に腹腔洗浄液を回収した。回収した細胞はPercoll密度勾配遠心分離法を用いて単離した。具体的には、3-5×10^7個の腹腔滲出細胞を9mlのPercoll勾配溶液と混合し、60,650×gで20分間、4°Cで超遠心分離を行った。好中球は第2の不透明な層から回収された。
Basic Protocol 4 (末梢血からの好中球単離): ナイーブC57BL/6マウスから心穿刺または後眼窩採血によりEDTA採血を行った。血液を200×gで10分間、室温で遠心分離し、血漿界面に現れる白っぽいバフィーコート層を回収した。回収したバフィーコート細胞 (3-5×10^7個) を1mlのPBSに再懸濁し、Basic Protocol 3と同様のPercoll密度勾配遠心分離法を用いて好中球を単離した。代替法として、Histopaque 1077/1119不連続密度勾配遠心分離法も腹腔滲出細胞および末梢血バフィーコート細胞の単離に適用可能であることを示した。