- 著者: Khetam Sounbuli, Ludmila A. Alekseeva, Oleg V. Markov, Nadezhda L. Mironova
- Corresponding author: Nadezhda L. Mironova (Institute of Chemical Biology and Fundamental Medicine SB RAS, Novosibirsk, Russia)
- 雑誌: International Journal of Molecular Sciences
- 発行年: 2023
- Epub日: 2023-12-08
- Article種別: Original Article
- PMID: 38139101
背景
好中球は自然免疫の中心的エフェクター細胞であり、人体血液中最多の白血球である (マウスでは2番目)。好中球細胞外トラップ (neutrophil extracellular trap; NET) の発見、腫瘍随伴好中球 (tumor-associated neutrophil; TAN) の抗腫瘍・促腫瘍二面性の解明、顆粒球系 MDSC (myeloid-derived suppressor cell) との関係など、近年の好中球研究は急速に進展している。しかし活性酸素種 (reactive oxygen species; ROS) 産生・食作用・走化性といった好中球機能の解析には、高純度・高機能の好中球を ex vivo で安定供給することが不可欠である。
問題は、好中球の単離・培養が技術的に困難な点にある。好中球は終末分化細胞であり培養下での増殖能を持たず、凍結保存も不可能で ex vivo 生存期間が極めて短い。ヒト末梢血は好中球の豊富な供給源であるが、研究用途には制約があるため、マウス骨髄が主要な実験ソースとして利用されてきた。腫瘍休眠と免疫系の相互作用の理解には適切な好中球解析が不可欠であるが、古典的な密度勾配法は好中球機能を損なう可能性があり、また免疫磁気分離法は高コストという課題がある。
知識のギャップ: マウス骨髄由来好中球の単離については複数のプロトコルが存在するが、それらを同一条件で純度・生存率・収量・コスト・機能保持の観点から直接比較した研究は不足していた。また脾臓は骨髄に次ぐ第二の好中球供給源であり、in vivo での機能を反映した好中球研究に有用であるにもかかわらず、脾臓由来好中球の効率的な単離法は未確立であった。緊急顆粒球産生と脾臓の役割に関する研究でも純度の高い脾臓好中球が必要とされるが、標準化された方法が存在しなかった。
目的
マウス骨髄および脾臓からの好中球単離プロトコル 4 種を、純度・生存率・収量・コスト・機能保持 (NET 形成能・ROS 産生能) の観点から体系的に比較・評価し、目的に応じた最適プロトコルを提示すること。
結果
骨髄由来好中球の純度・収量・生存率比較:
骨髄細胞 (bone marrow cell; BMC) から 4 プロトコルで単離した好中球の特性は顕著に異なった (Table 1)。純度は 2FLG: 72.4±1.7%、3FLG: 76.7±5.0%、INS: 80.3±0.3%、IPS: 99.3±0.3% の順であり、IPS プロトコルが最高純度を達成した (Fig. 2)。生存率は全プロトコルで約 90% と均等であり: 2FLG 89.8±1.4%、3FLG 91.0±2.9%、INS 94.3±0.8%、IPS 91.6±0.3%。好中球収量 (純度補正後) は INS > 2FLG > IPS >> 3FLG の順であり、INS 8.6±0.9×10^6 個、2FLG 6.3±2.1×10^6 個、IPS 4.3±1.4×10^6 個、3FLG 0.4±0.04×10^6 個であった。3FLG と 2FLG の好中球収量差は 14-fold 超 (p<0.05) に達し、3FLG の低収量が最大の欠点として浮き彫りになった。コスト面では 2FLG が最低コスト、3FLG が中程度、IPS が高コスト、INS が最高コストであった (Table 1)。以上から骨髄からの好中球単離では、純度・収量・生存率・コストの総合評価で 2FLG プロトコルが推奨される。
脾臓由来好中球の純度・収量比較:
脾臓由来好中球の単離では、骨髄と比較して全プロトコルで純度が著しく低下した (Table 2)。Ficoll 密度勾配法 (2FLG: 8.6±1.2%、3FLG: 10.5±1.7%) は脾臓好中球単離には不適であり、脾臓の細胞組成の複雑さから密度勾配による分離が困難であることが示された (Fig. 3)。INS プロトコルは骨髄では 80.3% の高純度を示したが、脾臓では 48.6±4.3% に留まり最適化されていないことが判明した。IPS プロトコルのみが脾臓でも 98.7±0.5% の高純度を維持し、生存率 88.5±4.5% と良好であった (Table 2)。ただし IPS による脾臓好中球収量は 0.69±0.25×10^6 個と低く、健常マウス脾臓における好中球割合が全脾臓細胞の <10% であることが制限因子となった。これらの結果から脾臓好中球単離には IPS (Dynabeads) が唯一の推奨プロトコルと結論された。
NET 形成能の評価:
骨髄由来好中球 (2FLG 単離) の機能検定では、LPS 100 μg/mL はいずれの単離法でも有意な NET 増加を誘導しなかった。PMA 50 nM で糸状 NET が観察され、PMA 500 nM では核拡大・クロマチン拡散 (diffused NET / chromatin cloud) を伴う形態変化が生じた。A23187 5 μM は最も強力な NET 誘導薬であり、INS 単離好中球の NET 形成率 (82.9±5.9%) は 2FLG 単離 (46.8±11.2%) より有意に高かった (A23187 条件、Tukey 検定 p<0.0001)。PMA 50 nM 条件でも INS (47.6±4.7%) が 2FLG (23.3±3.3%) を上回った (p<0.05)。2FLG は密度勾配遠心の機械的ストレスにより好中球機能が軽度低下する可能性があるが、臨床目的のバルク研究には十分な機能が保持されていた (Fig. 6)。脾臓由来好中球 (IPS 単離) では PMA 500 nM で 24.2±6.1%、A23187 で 38.7±5.6% の NET 形成 (対照 9.7±1.9%、p<0.05) を示し、骨髄好中球と同様の刺激応答性が確認された (Fig. 6C)。
ROS 産生能の評価:
DCFDA (2′,7′-dichlorofluorescein diacetate; 蛍光 ROS プローブ) ベース ROS 検出アッセイにより、A23187 5 μM 刺激後 90 分間の ROS 動態を評価した。骨髄・脾臓由来の両好中球で刺激後 ROS 蓄積が未刺激対照を上回り、活性化に伴う酸化バーストが確認された。注目すべき知見として、脾臓好中球の ROS ベースレベルが骨髄好中球の 2–2.5 倍高く、これは脾臓好中球が in vivo での機能発揮後に脾臓へクリアランスされることで成熟・活性化状態を反映している可能性が示唆された (Fig. 7)。この ROS プロファイルの差異は、腫瘍担持マウスにおける活性化好中球の機能解析に脾臓ソースが有用であることを示す重要な発見であり、骨髄・脾臓を使い分ける合理的根拠となる。
考察/結論
先行研究との違いと位置づけ: 本研究は Heib ら (骨髄フラッシュ法の影響)、Blanter ら (ヒト好中球プロトコル比較) の先行研究を発展させ、マウス骨髄と脾臓の両ソースを同一条件下でマルチパラメーター比較した最初の包括的研究として位置づけられる。先行研究との大きな違いは、脾臓という新たなソースを比較軸に加え、IPS (Dynabeads) プロトコルの脾臓好中球への有用性を初めて系統的に示した点にある。特に先行研究では骨髄での有用性が示されていた INS プロトコルが脾臓では効果が半減する (80% vs 49%) という組織特異的な差異は、既存の推奨プロトコルを盲目的に脾臓に適用することの危険性を明らかにした。
新規性 (novelty): 本研究の新規的貢献は、①脾臓好中球の実用的単離法として IPS を初めて推奨した点、②骨髄と脾臓の好中球 ROS ベースレベルに 2–2.5 倍の差異を定量的に示し成熟状態の違いを示唆した点、③2FLG で単離した骨髄好中球が NET 形成能を保持しつつも INS と比較して機能が軽度低下することを定量化した点にある。各プロトコルのコスト・純度・収量・機能の全パラメーターを統合した意思決定ガイドラインを提供したことが本研究の実践的新規性である。
臨床応用: 本研究の成果は直接的には基礎研究ツールの最適化に資するが、CAR 好中球療法・腫瘍免疫解析・自己炎症疾患研究への応用を考えると、高純度 (99%) 好中球の迅速供給法として IPS が in vitro 機能解析・CAR 修飾実験に有用な選択肢を提供する。一方 2FLG は低コストで十分な機能を保持するため、大規模スクリーニング研究への適用が合理的である。脾臓好中球の ROS 高基底値という知見は、腫瘍担持個体における活性化好中球プールの特性解析に直接応用できる。
残課題: 本研究にはいくつかの限界がある。健常マウスのみを対象としており、腫瘍担持・炎症状態のマウスではプロトコル適合性が異なる可能性がある。INS プロトコルの脾臓への最適化 (Coquery ら提案の抗体カクテル修正版) については費用対効果の検証が必要である。IPS で使用する Dynabeads 抗 Ly6G 抗体が Ly6G 介在シグナリングを活性化し好中球機能に影響する可能性は、本研究でも軽度の形態変化として確認されており完全には解消されていない。また本研究はフローサイトメトリー・蛍光顕微鏡・DCFDA アッセイに限定しており、食作用・走化性・脱顆粒等の包括的な機能評価は今後の課題である。G-MDSC と TAN の単離・区別においても本プロトコルの適用可能性を検証することが重要な次ステップとなる。
方法
モデル: C57BL/6 雄マウス (3–4 カ月齢)、Institute of Cytology and Genetics (ロシア科学アカデミーシベリア支部) 倫理委員会承認 (Ethical approval #49, 2019-05-23)、欧州共同体理事会指令 Directive 2010/63/EU 準拠。
比較プロトコル 4 種:
- 2FLG: Ficoll 1.077/1.119 g/mL 2層密度勾配遠心
- 3FLG: Ficoll 1.083/1.090/1.110 g/mL 3層密度勾配遠心
- INS: EasySep Mouse Neutrophil Enrichment Kit による免疫磁気陰性選択 (negative selection)
- IPS: Dynabeads 抗 Ly6G 抗体による免疫磁気陽性選択 (positive selection; Dynabeads)
すべての手順は室温で実施 (好中球活性化回避のため)。純度評価は CD11b+/Ly6G+ 二重陽性を好中球とするフローサイトメトリーで実施。機能検定: NETosis 試験 (LPS 100 μg/mL・PMA 50 または 500 nM・A23187 5 μM で 3 時間刺激、DAPI/DIOC6/抗 MPO 抗体による蛍光顕微鏡)、ROS 産生試験 (DCFDA 10 μM ローディング後 A23187 5 μM 刺激、プレートリーダーで 90 分間計測)。統計解析: Tukey 多重比較検定 (ANOVA ベース)。