• 著者: Tiankuo Luan, Xian Yang, Ge Kuang, Tingyu Wang, Jiangling Jiang, Wan Luo, Yu Zhang, Jingyuan Wan, Ke Li
  • Corresponding author: Jingyuan Wan & Ke Li (Department of Pharmacology, Chongqing Key Laboratory of Biochemistry and Molecular Pharmacology, Chongqing Medical University, Chongqing, China)
  • 雑誌: Journal of Inflammation Research
  • 発行年: 2023
  • Epub日: 2023-07-13
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 37671131

背景

変形性関節症 (osteoarthritis, OA) は、高齢者人口において最も一般的な変性関節疾患であり、慢性的な疼痛と関節機能の低下を特徴とする。その病態は複雑であり、関節軟骨の摩耗、滑膜炎、軟骨下骨のリモデリング、半月板の変性、膝蓋下脂肪体の炎症など、多様な関節組織が関与していることが知られている。OAの進行は、加齢、肥満、遺伝的素因、関節損傷といった複数の要因と強く関連している。関節軟骨はクッションとして機能するが、時間の経過とともに摩耗し、疼痛、こわばり、可動域の制限を引き起こす。OA患者の滑膜における炎症反応は、関節軟骨の分解中に放出される損傷関連分子パターン (DAMPs) によって駆動される。この炎症反応は細胞損傷と組織損傷をさらに加速させ、関節構造の破壊を促進する。OAの高齢患者は、日常生活動作の困難、自立性の低下、転倒や骨折のリスク増加を経験する。慢性的な関節痛は睡眠の質の低下や不安を引き起こし、身体機能のさらなる低下を招くこともある。しかし、OAに対する臨床的に有効な治療選択肢は不足しており、その分子メカニズムや誘発因子については未解明な点が多い。

近年、好中球細胞外トラップ (NETs) がOA滑膜で検出され、IL-1βやMMP9などのタンパク質分解ネットワークを駆動することが報告されている。NETsは、DNA、タンパク質、細胞質から構成され、好中球から放出される構造体であり、様々な疾患において重要な役割を果たす。当初、NETsは病原体から宿主を保護し、破壊する特殊なメカニズムと考えられていた。しかし、近年、NETsが関節リウマチや全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患において炎症反応を増強することが示されている。関節リウマチ患者の滑液中では、疾患発症時に高レベルのペプチジルアルギニンデイミナーゼが発現していることが報告されている。先行研究では、NET関連遺伝子 (NRGs) が、がんや虚血再灌流障害患者の予後バイオマーカーとして臨床的価値を持つことが示されている。しかし、OA病理におけるNET関連遺伝子 (NRGs) の体系的な解析と診断バイオマーカーとしての有用性は未確立であり、OAとNETsの関連性に関する包括的かつ詳細な研究は不足していた。本研究は、OAにおけるNRGsの役割を包括的に解析し、診断および治療標的としての可能性を評価することを目的とする。

目的

本研究は、変形性関節症 (OA) の滑膜組織におけるNET関連遺伝子 (NRGs) の発現変動をバイオインフォマティクス手法を用いて包括的に解析することを目的とする。具体的には、複数の機械学習アルゴリズムの収束により、OAの診断および治療標的となりうる核心バイオマーカーを同定する。さらに、これらの核心NRGsと免疫細胞浸潤、関連するシグナル伝達経路との関連性を詳細に解析する。最終的に、in vivoおよびin vitro実験による同定されたNRGsの実験的検証を行い、薬剤予測を通じてOAの診断および治療標的としてのNRG軸を確立することを目指す。本研究は、OAとNETsの間の微妙な関係、NRGs、およびNETs関連シグナル伝達経路(好中球経路、好中球脱顆粒、好中球顆粒成分経路)を包括的に分析することを試みる。

結果

DE-NRGsの同定とNETs関連経路の活性化: GEOデータベースから収集した4つのOA関連データセットを統合し、バッチ効果補正を行った。差次発現解析の結果、133個の下方制御DEGsと120個の上方制御DEGsが同定された (Figure 1A, B)。これらのDEGsと69個のNRGsの共通部分を解析した結果、TLR7, CRISPLD2, SLC25A37, IL1B, IL6, MMP9, TLR8の7つのDE-NRGsがOAプロセスに関与していることが特定された (Figure 1C)。Hanzelmann et al. BMCBioinformatics 2013によるNETs関連経路 (好中球経路、好中球脱顆粒、好中球顆粒成分) の解析では、OA群でこれらの経路活性が健常対照群と比較して有意に上昇していることが示された (Figure 1D)。

OA患者における免疫細胞浸潤プロファイル: Newman et al. NatMethods 2015を用いた免疫細胞浸潤解析により、OA患者の滑膜では、活性化CD4記憶T細胞、M0マクロファージ、休止肥満細胞の割合が健常対照群と比較して有意に高かった。対照的に、形質細胞、休止CD4記憶T細胞、単球、活性化肥満細胞は健常対照群でより高い浸潤率を示した (Figure 2A, B)。

5つの核心DE-NRGsの同定と相互作用解析: LASSO、SVM-RFE、Random Forestの3つの機械学習アルゴリズムの結果を統合し、OAプロセスにおいて最も重要な5つの核心DE-NRGsを特定した。LASSO回帰により、CRISPLD2, IL1B, SLC25A37, MMP9, TLR7の5つの重要なDE-NRGsが確立された (Figure 3A, B)。SVM-RFEおよびRandom Forest解析でも、これらの5遺伝子が最も高い重要度でランク付けされた (Figure 3C-F)。これら5つのDE-NRGs間の相関解析では、TLR7とMMP9が有意に正の相関を示し、SLC25A37, CRISPLD2, IL1Bは有意に負の相関を示した (Figure 4A)。GeneMANIAツールを用いたDE-NRGのPPI共発現ネットワーク構築とKEGG/GO富化解析では、KEGG結果はMAPKシグナル伝達経路およびサイトカイン-サイトカイン受容体相互作用に焦点を当てていた (Figure 4B-D)。GO生物学的プロセスでは、サイトカイン媒介シグナル伝達経路、サイトカイン受容体結合、コラーゲン含有細胞外マトリックスが富化していた。

NETs関連ノモグラムモデルの構築と検証: 5つの核心DE-NRGs (CRISPLD2, IL1B, SLC25A37, MMP9, TLR7) に基づいて、OA患者の診断支援ツールとしてNETs関連ノモグラムモデルを開発した (Figure 5A)。キャリブレーション曲線解析では、ノモグラムモデルの予測精度が実際の陽性率と非常に類似していることが示された (Figure 5B)。ROC曲線解析では、CRISPLD2 (AUC 0.823)、IL1B (AUC 0.795)、SLC25A37 (AUC 0.785)、MMP9 (AUC 0.743)、TLR7 (AUC 0.731) の全ての遺伝子が優れた分類性能を示した (Figure 5E-I)。5遺伝子統合ノモグラムモデルではAUC 0.876と、個々のマーカーよりも優れた診断能を示した。

DE-NRGs標的薬剤の予測: DGIdbデータベースを用いたDE-NRGs標的薬剤の予測では、CRISPLD2を標的とする薬剤は予測されなかったが、合計34種類の薬剤がDE-NRGsに影響を与える可能性が示唆された (Figure 6)。特に、TLR7を標的とする4種類の薬剤、IL1Bを標的とする28種類の薬剤、MMP9を標的とする1種類の薬剤が同定された。HYDROXYCHLOROQUINE SULFATEはTLR7のアンタゴニストとして、IMIQUIMODはTLR7のアゴニストとして、RILONACEPTおよびCANAKINUMABはIL1Bの阻害剤として利用できる可能性が示唆された。

NETs形成経路の探索: ssGSEAアルゴリズムを用いてGSE55235データセットで好中球経路、好中球脱顆粒、好中球顆粒成分経路の活性を検証した結果、OA群でこれらの経路活性が有意に高かった (Figure 7A)。TLR7は好中球脱顆粒および好中球顆粒成分経路と有意な正の相関を示し、MMP9の上方制御もこれらの経路活性を増強する可能性が示唆された。CRISPLD2とIL1Bは好中球脱顆粒および好中球顆粒成分経路と有意な負の相関を示した。SLC25A37は好中球顆粒成分経路とのみ負の相関を示した (Figure 7B)。GSEA解析では、TLR7が高発現するOA患者群において、GSE55235およびGSE55457の両データセットで好中球細胞外トラップ形成経路が有意に富化していることが示された (Figure 7C, D)。

バイオインフォマティクス結果の実験的検証: サフラニンO-ファストグリーン染色により、ヒトOAサンプルおよびマウスOAモデルの軟骨損傷が確認された (Figure 8A-E)。RT-qPCRの結果、ヒトおよびマウスサンプルにおいて、TLR7, CRISPLD2, IL1B, MMP9のmRNA発現レベルがバイオインフォマティクス解析と一致して有意に異なっていた (Figure 8F, G)。SLC25A37のmRNA発現差はマウスOAモデルでのみ観察された。ATDC5軟骨細胞株においてTNF-α刺激によりTLR7, MMP9, IL6のmRNA発現レベルが有意に上昇し、CRISPLD2, IL1B, SLC25A37は有意に下方制御された (Figure 8H)。免疫蛍光染色により、ヒトOAサンプルおよびマウスOAサンプルにおいてTLR7の発現が健常対照と比較して有意に増加していることが確認され、NETsマーカー (citH3, MPO) との共局在も観察された (Figure 8I-L)。

考察/結論

本研究は、変形性関節症 (OA) の病態における好中球細胞外トラップ (NET) 関連遺伝子 (NRGs) の役割を、バイオインフォマティクスと実験検証を統合したアプローチで包括的に解析した。GEOデータベースの4つのデータセットと3つの機械学習アルゴリズム (LASSO, SVM-RFE, Random Forest) の収束により、CRISPLD2, IL1B, SLC25A37, MMP9, TLR7の5つの核心NRGsを同定したことは、本研究で初めて報告される新規な知見である。これらの遺伝子は、OAの診断バイオマーカーとしての高い潜在能力を示し、特にTLR7は機械学習解析において最も重要度が高く、GSEAによりNET形成経路との強い関連が示唆された。

先行研究との違い: これまでの研究では、個々のNET関連因子がOAに関与することが報告されてきたが、本研究は複数の機械学習アルゴリズムを統合し、OAにおける核心的なNET関連遺伝子群を体系的に同定した点で、これまでの研究と異なる。特に、CRISPLD2とTLR7はOA研究においてこれまで十分に検討されていなかった遺伝子であり、本研究でその重要性が示されたことは新規な発見である。

新規性: 本研究は、5つの核心NRGsに基づくノモグラムモデルが、個々のマーカーよりも優れたOA診断能を持つことを初めて実証した。また、OA滑膜における活性化肥満細胞、γδ T細胞、M2マクロファージの増加といった免疫浸潤プロファイルと、これらのNRGsとの関連性を詳細に解析した点も新規性がある。さらに、TLR7がNET形成を介してOAの進行に影響を与える可能性をin vitroおよびin vivo実験で検証したことは、TLR7-NET-IL-1βカスケードがOAの進行を駆動する主要なメカニズムであるという新たな仮説を提示する。

臨床応用: 本研究で同定された5つの核心NRGsは、OAの早期診断および疾患進行モニタリングのためのバイオマーカーパネルとして臨床応用される可能性がある。特に、ノモグラムモデルはOAの早期スクリーニングツールとして高い翻訳可能性を持つ。また、薬剤予測により同定されたHYDROXYCHLOROQUINE SULFATE (TLR7/9阻害剤) やCANAKINUMAB (抗IL-1β抗体) は、既存薬のOAへのリポジショニングの根拠となり、新たな治療戦略開発に繋がる臨床的意義を持つ。HYDROXYCHLOROQUINE SULFATEはSLE治療薬として安全性プロファイルが確立されており、OAへの臨床試験リポジショニングが期待される。CANAKINUMABはCANTOS試験においてOAによる関節置換術の減少が示唆されており、OA疼痛治療への応用が考えられる。

残された課題: 本研究にはいくつかのlimitationが存在する。第一に、GEOデータベースのデータセットのサンプルサイズが比較的小さく、結果にバイアスが生じる可能性がある。今後の研究では、より大規模なサンプルサイズとシーケンシング技術の進歩により、より正確な予後モデルを構築する必要がある。第二に、TLR7がNET形成に影響を与える具体的なメカニズムについては、さらなる詳細な調査が残された課題である。TLR7がOA滑膜において好中球由来であるのか、あるいは滑膜線維芽細胞やマクロファージ由来であるのか、細胞特異的な起源は未確定である。第三に、動物OAモデル(手術誘導またはMIA化学誘導)におけるTLR7の機能的役割の批判的な検証が不足している。第四に、ノモグラムモデルは単施設での発見であり、外部検証コホートでの検証が未完である。第五に、予測された薬剤のOAに対する直接的な臨床効果の証拠はまだ得られていない。最後に、核心NRGsがOA進行のドライバーであるのか、あるいは結果であるのか、因果関係の方向性は未解明であり、年齢、性別、BMIなどの交絡因子の調整も不十分であった。今後の研究では、シングルセルRNAシーケンスや空間トランスクリプトーム解析を統合することで、NETsとOAの関連性に関する理解を深めることが期待される。

方法

本研究では、OAにおけるNET関連遺伝子 (NRGs) の包括的解析のため、多段階統合アプローチを採用した。

データ収集と前処理: Gene Expression Omnibus (GEO) データベースから、OA滑膜組織のトランスクリプトームデータセットであるGSE55235 (健常 n=10, OA n=10)、GSE55457 (健常 n=10, OA n=10)、GSE98918 (健常 n=12, OA n=12)、GSE117999 (健常 n=10, OA n=10) の計4つのデータセットをダウンロードした。これらのデータセットを統合し、その後の解析における誤差を最小限に抑えるため、バッチ効果補正を実施した。また、既報の文献から69個のNRGsのセットを収集した。

差次発現解析: 統合された発現行列に対し、Ritchie et al. NucleicAcidsRes 2015を用いてOA患者と健常対照群間での差次発現遺伝子 (DEGs) を同定した。スクリーニング基準は、Adjusted p-value < 0.05かつ|logFC| > 0.585とした。これらのDEGsと収集したNRGsの共通部分をとり、差次発現NET関連遺伝子 (DE-NRGs) を特定した。

機械学習による核心DE-NRGsの同定: DE-NRGsの中から最も重要な遺伝子を特定するため、LASSO (Least Absolute Shrinkage and Selection Operator) 回帰、SVM-RFE (Support Vector Machine-Recursive Feature Elimination)、およびRandom Forestの3つの機械学習アルゴリズムを統合的に適用した。LASSOは係数の絶対値にペナルティを適用し、過学習を防ぎモデルの解釈性を向上させる。SVM-RFEはノイズや冗長な特徴を除去することで、最も重要なシグネチャー遺伝子を特定し、データの次元を削減しモデルの精度を向上させる。Random Forestはデータのランダムなサブセットと特徴を用いて決定木を構築し、木間の相関を減らし全体的な性能を向上させる。これらのアルゴリズムの結果を統合し、5つの核心DE-NRGsをフィルタリングした。

診断能評価とノモグラム構築: 同定された核心DE-NRGsの臨床的診断における有用性を検証するため、pROCパッケージを用いてROC曲線解析を実施し、各遺伝子および統合モデルのAUC (Area Under the Curve) を評価した。さらに、これらの核心DE-NRGsに基づき、OAの進行を予測するためのノモグラムモデルを構築し、キャリブレーション曲線を用いて予測と実際の陽性率の一致度を評価した。

免疫細胞浸潤解析: Newman et al. NatMethods 2015を用いて、OA患者と健常対照群間における22種類の免疫細胞サブセットの浸潤量の差を評価し、結果をバイオリンプロットで可視化した。

経路富化解析: Gene Ontology (GO) の生物学的プロセスとKyoto Encyclopedia of Genes and Genomes (KEGG) パスウェイ解析をRパッケージ「clusterprofiler」を用いて実施した。また、Subramanian et al. ProcNatlAcadSciUSA 2005を用いて、TLR7の中央値発現に基づいてOA患者を2つのグループに分け、生物学的に有意な変化を探索した。さらに、Hanzelmann et al. BMCBioinformatics 2013を用いて、好中球経路、好中球脱顆粒、好中球顆粒成分経路といったNETs関連経路の活性変化を解析した。

PPIネットワーク構築: GeneMANIA (http://www.genemania.org) データベースを用いて、DE-NRGs間のタンパク質-タンパク質相互作用 (PPI) ネットワークを構築し、遺伝子機能予測と類似効果を持つ遺伝子の同定を行った。

実験検証:

  • ヒト組織サンプル: 重慶医科大学第一附属病院で全膝関節置換術を受けた患者からヒト軟骨組織を採取した (OA群 n=6, 健常群 n=6)。
  • マウスOAモデル: 8-10週齢の雄C57BL/6Jマウスを使用し、内側半月板不安定化 (DMM) 手術によりOAを誘発した (DMM群 n=5, Sham群 n=5)。
  • 組織学的評価: サフラニンO-ファストグリーン染色により、マウスおよびヒトの膝軟骨破壊をOARSIグレーディングシステムで評価した。
  • 免疫蛍光染色: TLR7に対する抗体を用いて、ヒトおよびマウスの関節軟骨組織におけるTLR7の発現を免疫蛍光染色により評価した。
  • 細胞培養: マウス軟骨細胞株ATDC5細胞を培養し、腫瘍壊死因子α (TNF-α, 20 ng/mL) で24時間刺激するin vitroモデルを構築した。
  • 定量的リアルタイムPCR (RT-qPCR): ヒトおよびマウス組織、ATDC5細胞における5つの核心NRGsのmRNA発現レベルをRT-qPCRにより測定した。

薬剤予測: DGIdb (Drug-Gene Interaction Database) を用いて、同定されたDE-NRGsの発現を逆転させうる治療候補薬剤を予測し、Cytoscapeソフトウェアで可視化した。

統計解析: 全てのデータ解析はRソフトウェアv4.1.2を用いて実施した。実験群と対照群間の比較には両側Studentのt検定を、多重比較には一元配置分散分析 (ANOVA) を適用した。統計的有意水準はp < 0.05とした。