- 著者: Sun Hye Kim, Man Li, Sebastian Trousil, Yaqing Zhang, Marina Pasca di Magliano, Kenneth D. Swanson, Bin Zheng
- Corresponding author: Bin Zheng (Cutaneous Biology Research Center, Massachusetts General Hospital, Harvard Medical School, Charlestown, MA, USA)
- 雑誌: Journal of Investigative Dermatology
- 発行年: 2017
- Epub日: 2017-04-19
- Article種別: Original Article
- PMID: 28433543
背景
骨髄由来抑制細胞 (Myeloid-derived suppressor cells: MDSCs) は、腫瘍が誘導する免疫抑制および免疫回避において中心的な役割を果たす未熟な骨髄性細胞の集団である。マウスモデルにおいて、MDSCsは主に顆粒球性MDSC (Granulocytic MDSC: G-MDSC、CD11b+Ly6G^hi Ly6C^int) と単球性MDSC (Monocytic MDSC: M-MDSC、CD11b+Ly6C^hi Ly6G^lo) の2つの主要なサブタイプに分類されることが Youn et al. (2008) らの先行研究によって確立されている。これらの細胞は、アルギナーゼ1 (arginase 1) や誘導性一酸化窒素合成酵素 (inducible nitric oxide synthase: iNOS) の発現、および活性酸素種 (Reactive oxygen species: ROS) の放出など、多様な分子メカニズムを介してT細胞の活性化や増殖を強力に抑制する (Youn et al. 2008)。さらに、MDSCsは抗CTLA-4抗体や抗PD-1抗体などの免疫チェックポイント阻害薬に対する治療抵抗性や不応答性にも深く関与していることが Martens et al. (2016) や Sade-Feldman et al. (2016) などの臨床研究および前臨床研究で報告されている。このため、MDSCsを標的とした免疫抑制の解除は、がん免疫療法の治療効果を最大化するための極めて有望なアプローチとして注目されてきた (Draghiciu et al. 2015)。
ビグアナイド (Biguanide) 系抗糖尿病薬であるメトホルミン (metformin) やフェンホルミン (phenformin) は、呼吸鎖のミトコンドリア複合体Iを阻害して細胞内のAMP/ATP比を上昇させ、AMP活性化プロテインキナーゼ (AMPK) を活性化することで抗腫瘍活性を示すことが知られている (Pollak 2013; Wheaton et al. 2014)。しかし、これまでのビグアナイド系薬剤に関する研究の多くは、がん細胞に対する直接的な増殖抑制効果などの細胞自律的な作用機序に焦点を当てており、宿主の免疫系や腫瘍微小環境内の免疫抑制細胞に対する影響についてはほとんど未解明のままであった。特に、生体内においてビグアナイド系薬剤がMDSCsの蓄積や免疫抑制能に直接与える影響については、詳細な解析が不足しており、治療標的としての有用性を評価する上での大きな知識ギャップ (knowledge gap) が残されていた。
我々はこれまでの研究において、BRAF阻害薬とビグアナイド系薬剤の併用療法がメラノーマモデルにおいて優れた抗腫瘍効果を示すことを報告してきた (Zheng et al. 2009; Yuan et al. 2013)。その過程で、脂溶性の高いフェンホルミンがメトホルミンと比較して強力な抗腫瘍活性を示すことを見出したが、腫瘍微小環境における免疫細胞、特にG-MDSCおよびM-MDSCに対する選択的な作用機序や、PD-1阻害療法との相乗効果については十分に検証されておらず、詳細なメカニズムの解明が強く求められていた。
目的
本研究の目的は、抗糖尿病薬であるフェンホルミンが腫瘍微小環境における免疫細胞、特に骨髄由来抑制細胞 (MDSCs) の蓄積、分化、および機能に与える影響をin vivoおよびex vivoの実験系を用いて詳細に解析することである。さらに、フェンホルミンがG-MDSCとM-MDSCのどちらのサブタイプに対して選択的に作用するのか、その分子機序(AMPK経路やROS産生など)を明らかにすることを目的とする。最終的には、遺伝子改変マウスを用いたメラノーマモデルにおいて、フェンホルミンと抗PD-1抗体の併用療法が、単剤療法と比較して腫瘍内CD8+ T細胞の浸潤を促し、相乗的な抗腫瘍効果を発揮するかどうかを検証し、メラノーマ治療における新たな複合免疫療法の科学的根拠を提示することを目指す。
結果
フェンホルミンによる脾臓G-MDSCの選択的減少: BP01メラノーマ細胞を移植したFVBマウス(n=9-10 mice per group)において、フェンホルミンを10日間投与した結果、脾臓におけるG-MDSC (CD11b+Ly6G^hi Ly6C^int) の割合が対照群と比較して有意に減少した (p<0.05) (Figure 1b)。これに対し、M-MDSC (CD11b+Ly6C^hi Ly6G^lo) の割合には有意な変化は認められなかった (Figure 1c)。また、メトホルミン投与群ではG-MDSCの有意な減少は観察されなかった。この薬剤間の効果の差異は、MDSCsにおける有機カチオントランスポーター2 (Organic cation transporter 2: OCT2) の発現レベルが極めて低いことに起因することが示された。メトホルミンの細胞内取り込みにはOCT2が必要であるが、脂溶性の高いフェンホルミンはOCT2非依存的に細胞内に取り込まれるためである。なお、フェンホルミンおよびメトホルミンは、脾臓における総マクロファージ、M2マクロファージ、CD4+ T細胞、CD8+ T細胞、および制御性T細胞の割合には影響を与えなかった。
Ex vivo培養系におけるG-MDSCの選択的阻害とAMPK依存性: BP01腫瘍細胞と共培養して分化させた骨髄由来MDSC (BM-MDSC) を用いたex vivo実験において、フェンホルミン (1 mM) およびAMPK活性化剤であるAICAR (1 mM) は、G-MDSCの割合を有意に減少させたが、M-MDSCの割合には影響を与えなかった (Figure 2a, b)。このフェンホルミンによるG-MDSC減少効果は、AMPK阻害剤である Compound C (20 μM) の併用によって完全に消失したことから、フェンホルミンの作用がAMPK経路に依存していることが確認された (Figure 2c)。さらに、フェンホルミン処理はG-MDSCにおける Annexin V 陽性アポトーシス細胞の割合を有意に増加させ、BrdUの取り込み(細胞増殖)を有意に抑制した。
ROS過剰産生を介したG-MDSC特異的毒性メカニズム: G-MDSCはM-MDSCと比較して、内因性のROSレベルが高い特徴を持つ。実際に、骨髄から単離したCD11b+Ly6G+ G-MDSCは、CD11b+Ly6G-細胞と比較して高いROSレベルを示した (Figure 2d)。フェンホルミン (1 mM) の処理は、G-MDSCにおけるROSレベルをさらに有意に上昇させた (Figure 2e)。抗酸化剤であるN-アセチル-L-システイン (NAC, 10 mM) を併用すると、フェンホルミンによるROSの上昇が抑制され、G-MDSCの減少効果が消失した (Figure 2e, f)。この結果は、フェンホルミンがG-MDSC内のROSを毒性閾値まで過剰に上昇させることで、選択的にアポトーシスを誘導することを示している。
免疫抑制因子の発現抑制: 定量的PCR解析の結果、フェンホルミン処理したBM-MDSCにおいて、MDSCの免疫抑制活性を担う主要因子である arginase 1、S100A8、および S100A9 のmRNA発現レベルが有意に低下した。一方で、M-MDSCの抑制機能を主導する iNOS の発現には有意な変化は見られなかった。また、G-MDSCにおけるROS上昇と一致して、抗酸化酵素である NQO1 の発現が著しく低下し、MDSCの生存と活性化に関与するストレスセンサータンパク質である CHOP の発現も抑制された。
抗PD-1抗体との併用によるメラノーマ増殖抑制効果の増強: Tyr::CreER; Braf^CA/+; Pten^lox/lox 遺伝子改変マウスメラノーマモデル(n=7 mice per group)において、抗PD-1抗体単独またはフェンホルミン単独の治療では、対照群と比較してわずかな腫瘍増殖抑制効果しか得られなかった (Figure 3b, c)。しかし、フェンホルミンと抗PD-1抗体の併用療法は、腫瘍増殖を極めて強力かつ有意に抑制した (p<0.0001) (Figure 3b)。一方で、メトホルミンと抗PD-1抗体の併用では、このような相乗効果は認められなかった。フェンホルミン単独および併用療法群では、腫瘍組織および脾臓の両方においてG-MDSCの割合が有意に減少していたが、M-MDSCには変化がなかった (Figure 4a-d)。免疫蛍光染色および免疫組織化学染色においても、併用療法群の腫瘍組織内で CD11b+Gr1+ 細胞および arginase 1 陽性細胞の顕著な減少が確認された (Figure 5a, b)。
腫瘍内CD8+ T細胞浸潤の促進とG-MDSC抑制能の低下: フェンホルミンと抗PD-1抗体の併用療法は、腫瘍内における CD3+CD8+ 陽性T細胞の浸潤を有意に増加させた (p<0.05) (Figure 6e)。フェンホルミン単独ではCD8+ T細胞の浸潤に有意な変化はみられなかった。さらに、BP01腫瘍保有マウスの脾臓から単離したG-MDSCを用いたT細胞抑制アッセイにおいて、ビヒクル処理群のG-MDSCはCD8+ T細胞の増殖を強力に抑制した(T細胞/MDSC比 1:2 および 1:4)のに対し、フェンホルミン処理群から回収したG-MDSCでは、CD8+ T細胞に対する増殖抑制能が有意に減弱していた (Figure 6f)。これらの結果は、フェンホルミンがG-MDSCの数を減らすだけでなく、その免疫抑制能自体を障害することで、抗PD-1抗体によるT細胞活性化作用を最大化することを示している。
考察/結論
本研究は、抗糖尿病薬であるフェンホルミンが、腫瘍細胞に対する直接的な増殖抑制作用にとどまらず、腫瘍微小環境における強力な免疫抑制細胞であるG-MDSCを選択的に標的とし、その数と免疫抑制機能の双方を減弱させることで抗腫瘍免疫を活性化することを明らかにした。さらに、BRAF V600E/PTEN欠損メラノーマモデルにおいて、フェンホルミンと抗PD-1抗体の併用が、腫瘍内へのCD8+ T細胞浸潤を促進し、相乗的な腫瘍増殖抑制効果をもたらすことを示した。
先行研究との違い: 本研究の結果は、ビグアナイド系薬剤であるフェンホルミンが、メトホルミンとは異なり、腫瘍保有マウスにおいてG-MDSCを効果的に減少させることを示している。この効果の違いは、MDSCsにおける有機カチオントランスポーターであるOCT2の発現レベルが極めて低いことに起因する。メトホルミンの細胞内取り込みにはOCT2が必須であるが、脂溶性の高いフェンホルミンはOCT2を介さずに細胞膜を透過して作用を発揮できる。これは、メラノーマ細胞におけるメトホルミンとフェンホルミンの感受性の違いをOCT2発現量で説明した我々の先行研究 (Yuan et al. 2013) と非常に整合的である。また、メトホルミンがT細胞の代謝調整を介して免疫応答を修飾するという報告 (Pearce et al. 2009; Eikawa et al. 2015) とは対照的に、フェンホルミンはG-MDSCを直接標的とすることで腫瘍微小環境の免疫抑制を解除するという異なる機序を有することが示された。
新規性: 本研究は、フェンホルミンがG-MDSCに対して選択的な阻害剤として機能し、細胞内のROS産生を毒性閾値まで誘導することでアポトーシスを引き起こすという新規のメカニズムを本研究で初めて実証した。また、フェンホルミンがG-MDSCの arginase 1、S100A8、S100A9 などの免疫抑制因子の発現を抑制し、T細胞に対する抑制活性そのものを低下させることを明らかにした点も、これまで報告されていない新規の知見である。
臨床応用: 本研究の成果は、メラノーマ患者における既存の免疫チェックポイント阻害療法の低い奏効率を改善するための、極めて有望な translational な治療戦略を提供する。MDSCを標的とする特異的な薬剤が臨床現場で限られている中、既存薬の再配置 (drug repositioning) としてフェンホルミンを活用することは極めて現実的である。特に、G-MDSCの蓄積が治療抵抗性に関与するメラノーマ以外の固形がん(非小細胞肺がんや乳がんなど)への臨床応用も期待される。現在、フェンホルミンとBRAF/MEK阻害薬の併用療法に関する第I相臨床試験 (NCT03026517) が進行中であり、本研究はこれに強固な免疫学的根拠を与えるものである。
残された課題: 今後の検討課題として、G-MDSCとM-MDSCにおけるフェンホルミン感受性およびROS感受性の詳細な差異を分子レベルでさらに解明する必要がある。また、フェンホルミンは稀に重篤な乳酸アシドーシスを引き起こすリスクがあるため、臨床応用においては安全な投与設計とリスク管理が不可欠な limitation となる。さらに、本研究ではM-MDSCに対する抑制効果が限定的であったため、M-MDSCをも標的とするさらなる多剤併用療法の開発や、ヒト患者の臨床検体を用いた免疫プロファイルの変化の検証が今後の重要な研究方向性である。
方法
動物モデルおよび腫瘍移植: 免疫能を有する6週齢の雌性FVBマウス(Charles River Laboratories)を使用し、BRAF V600E/PTEN欠損メラノーマ由来のBP01 (Braf-PTEN melanoma clone 01) マウスメラノーマ細胞を右側腹部に皮下移植したアログラフトモデルを構築した。また、遺伝子改変マウスモデル (Genetically engineered mouse model: GEMM) として、Tyr::CreER; Braf^CA/+; Pten^lox/lox マウスを使用し、4-ヒドロキシタモキシフェン (4-hydroxytamoxifen) の局所塗布によって自発的メラノーマを誘発した。
薬剤投与プロトコル: 移植腫瘍または誘発腫瘍の体積が 120-180 mm³ に達した時点でランダムに群分けを行い、治療を開始した。フェンホルミンは 100 mg/kg/day、メトホルミンは 300 mg/kg/day の用量で飲水投与した。抗PD-1抗体(Biolegend、rat IgG2a)および対照のIgGアイソタイプコントロール抗体は、1回あたり 100 μg を隔日で腹腔内投与した。腫瘍体積はキャリパーを用いて測定し、(長径 × 短径²) / 2 の式で算出した。
フローサイトメトリー解析: 脾臓および腫瘍組織を採取し、コラゲナーゼIV型 (collagenase type IV) およびDNase Iを含む反応液中で 37℃、45分間処理して単細胞懸濁液を調製した。赤血球をACK (Ammonium-Chloride-Potassium) 溶血バッファーで除去後、Fc受容体を遮断し、CD11b、Ly6G、Ly6C、CD3、CD8、CD4、Foxp3、NK1.1、F4/80 などの抗体を用いて表面および細胞内染色を行った。死細胞の除外には 7-AAD (7-Aminoactinomycin D) を使用した。細胞の取得は Canto Flow Cytometer (Becton Dickinson) で行い、FlowJo ソフトウェアを用いて解析した。
骨髄由来MDSC (BM-MDSC) の分化および培養: FVBマウスの大腿骨および脛骨から骨髄細胞を採取し、Transwellシステムを用いてBP01腫瘍細胞と3日間共培養することでBM-MDSCを誘導した。その後、IL-6、G-CSF、GM-CSF (各 40 ng/ml) を含む培地で、フェンホルミン (1 mM)、メトホルミン (3 mM)、AICAR (5-Aminoimidazole-4-carboxamide ribonucleotide、1 mM)、Compound C (20 μM)、N-アセチル-L-システイン (NAC, 10 mM) などの薬剤を添加して24時間培養し、G-MDSCの割合やアポトーシス(Annexin V染色)、増殖(BrdU取り込みアッセイ)を評価した。
ROSレベルの測定: 腫瘍条件培地で誘導したBM-MDSCをフェンホルミンまたはNACで処理した後、酸化感受性蛍光色素であるジクロロジヒドロフルオレセインジアセテート (dichlorodihydrofluorescein diacetate) または CellROX Deep Red Reagent を用いて 37℃、30分間インキュベートし、フローサイトメトリーで細胞内ROSレベルを定量した。
T細胞抑制アッセイ: FVBマウスの脾臓から磁気ビーズ(Miltenyi Biotech)を用いてCD8+ T細胞を精製し、1 μM のCFSE (Carboxyfluorescein succinimidyl ester) で標識した。抗CD3/CD28抗体で刺激したCD8+ T細胞に対し、ビヒクルまたはフェンホルミンで処理したマウスの脾臓から単離したG-MDSCを様々な比率 (1:1, 1:2, 1:4) で混合し、72時間共培養した。CD8+ T細胞の増殖(CFSE希釈)をフローサイトメトリーで測定した。
統計解析: 2群間の比較には、両側 Student’s t-test またはノンパラメトリックな Mann-Whitney U-test を使用した。統計解析およびグラフ作成には GraphPad Prism を用い、p<0.05 をもって統計学的に有意と判定した。