• 著者: Claire A. Naveh, Kiran Roberts, Przemysław Zakrzewski, Christopher M. Rice, Fernando M. Ponce-Garcia, Kathryn Fleming, Megan Thompson, Nawamin Panyapiean, Huan Jiang, Stephanie Diezmann, Pedro L. Moura, Ashley M. Toye, Borko Amulic
  • Corresponding author: Ashley M. Toye; Borko Amulic (University of Bristol, UK)
  • 雑誌: Journal of Translational Medicine
  • 発行年: 2024
  • Epub日: 2024-10-04
  • Article種別: Published Erratum
  • PMID: 39367420

背景

好中球は、ヒトにおいて最も豊富かつ強力な抗菌エフェクター細胞であり、食菌、活性酸素種 (reactive oxygen species; ROS) 産生、脱顆粒、および好中球細胞外トラップ (neutrophil extracellular traps; NETs) 形成を通じて細菌・真菌病原体に対する宿主防御を担う。骨髄における好中球産生過程である顆粒球形成 (granulopoiesis) は、CD34+顆粒球・単球前駆細胞 (granulocyte-monocyte progenitor; GMP) から開始し、成熟好中球の循環血液中への放出まで約14日間を要する。感染・炎症時には顆粒球コロニー刺激因子 (granulocyte colony-stimulating factor; G-CSF) の上昇が緊急顆粒球形成 (emergency granulopoiesis) を誘導し、未熟好中球が骨髄から末梢血に動員される「左方移動 (left shift)」が生じる。この循環未熟好中球の増加は、全身性エリテマトーデス (systemic lupus erythematosus; SLE)、COVID-19、進行がんなど重症疾患で不良予後と関連することが複数の臨床研究で示されており、免疫病理における重要な細胞集団として注目されている。

G-CSF投与健康ドナー (GCSF-D) を対象とした先行研究では、循環未熟好中球が成熟好中球と比較して特異的な機能プロファイルを示すことが示されており、インターロイキン-6 (interleukin-6; IL-6) 等の炎症性サイトカインの産生亢進、Candida albicansに対する殺菌能の低下、および走化性の変化が報告されている。しかしこれらの機能的差異の分子基盤については、in vivoでの検体採取の困難さもあり、十分な解析が行われておらず、重要な知識のギャップが残されていた。

好中球研究の根本的な課題として、末梢血成熟好中球の寿命が極めて短く (循環中1〜5日)、遺伝子操作が困難であることがあげられる。HL-60などの骨髄系細胞株は代替モデルとして用いられてきたが、二次顆粒の欠如など重要な機能的欠陥を有しており、生体好中球の生理機能を完全には再現できない。これまでに、胚性幹細胞 (embryonic stem cell; ESC)、人工多能性幹細胞 (induced pluripotent stem cell; iPSC)、骨髄・末梢血由来の造血幹・前駆細胞 (hematopoietic stem and progenitor cell; HSPC) からのex vivo好中球分化プロトコルが複数報告されており、培養好中球が核形態・表面マーカー発現・ROS産生・細菌殺菌能の点で生体好中球に類似することが示されている。しかしこれらのプロトコルは細胞収率・純度・分化期間・ゲノム編集容易性において改善の余地があり、特に未熟好中球の表現型・機能・プロテオームを統合した包括的な特性評価は手薄であった (Naveh et al. JTranslMed 2024)。本研究 (訂正版) は、このギャップを埋めるべくアフェレーシス廃棄物由来CD34+ HSPCからの最適化ex vivoプロトコルを確立し、多角的な特性評価とCRISPR/Cas9ゲノム編集の実証を行った。

目的

本研究の目的は、ヒトCD34+ HSPCからのex vivo好中球分化プロトコルを最適化し、高収率かつ高純度の機能的好中球を産生することである。具体的には、培養好中球の免疫表現型・機能的特性・プロテオームプロファイルをGCSF-D未熟好中球および定常状態末梢血成熟好中球と系統的に比較し、培養系が未熟好中球の特性を忠実に再現するかを多角的に検証する。さらに、CD34+前駆細胞段階でのCRISPR/Cas9ゲノム編集の実行可能性を実証し、未熟好中球の分子機能解析に有用なプラットフォームとしての確立を目指した。

結果

プロトコル最適化: 高収率・高純度好中球の安定産生: 最適化された17日間4ステージプロトコルにより、CD34+ HSPCから平均326±248-fold (n=7-11) の増殖を達成した (Fig. 1B)。分化終了時にはCD66bとCD15を共発現する好中球が平均75.45% (n=4) の純度で得られ、細胞生存率は80%以上を維持した (Fig. S1B, F)。CD34発現はDay 5以降に段階的に消失し、Day 7以降にCD66bおよびCD11bの発現が漸進的に増加したことで、順序立った好中球分化が確認された (Fig. 1C-E)。Wright-Giemsa染色では、分化終了時の培養好中球は成熟好中球のような多葉核ではなくコイル状〜クローバー状の核形態を示し、形態学的未熟性が確認された (Fig. 1A)。本プロトコルの収率 (326-fold) と純度 (75.45%) は、同様にアフェレーシス由来HSPCを用いたKuhikar et al. の72.4-foldおよびCD66b陽性率57.37%を上回るものであった。一方でドナー間の増殖率のばらつきは依然として大きく (SD=248)、その生物学的原因解明が今後の課題として残されている。

免疫表現型: GCSF動員未熟好中球との高い類似性: フローサイトメトリーにより、培養好中球は成熟マーカーであるCD10およびCD101の発現が定常状態末梢血好中球と比較して有意に低値であり (p<0.01)、GCSF-D好中球の未熟表現型と酷似していることが示された (Fig. 2C-E)。一方、顆粒球マーカー (CD66b、CD15、CD11b) の発現は3群間で類似しており、CD66bには培養好中球で増加傾向が認められた (Fig. 2F-H)。前方散乱光 (FSC) は3群で同程度であったが、側方散乱光 (SSC) は培養好中球で減少しており、細胞質顆粒の量的減少が示唆された (Fig. 2A, B)。この表現型プロファイルは、骨髄から動員される生体内未熟好中球がCD10low/CD101lowであるという既知の知見と一致しており、本培養系が緊急顆粒球形成に相当する未熟化状態を体外で再現することを示している。

機能的特性: 部分的な抗菌能の保持と特異的欠損の共存: ROS産生については、PMA刺激に対するルミノールAUC法 (n=3) およびAPF蛍光法ともに培養好中球と成熟好中球の間に有意差はなく、NOX2およびMPO活性が同等であることが確認された (Fig. 3A, B)。S. aureus JE2株に対する殺菌活性においても両群間に有意差はなく (n=3、all non-significant)、細菌性病原体への抗菌能が保持されていることが示された (Fig. 3J)。一方、ザイモサン刺激後のNE放出は成熟好中球と比較して27%有意に減少しており (p<0.05、n=3-5)、一次顆粒の脱顆粒障害が示された (Fig. 3F)。C. albicansに対する殺菌活性は、MOI 2.5および5の両条件で成熟好中球と比較して約50%低下していた (p<0.05、n=3) (Fig. 3I)。LPSおよびR-848刺激に対するIL-6産生は成熟好中球と比較して有意に亢進していたが (p<0.05)、IL-8産生には差を認めなかった (Fig. 3G, H)。NETs形成については、C. albicansおよびカルシウムイオノフォアA23187刺激に対するNOX2非依存性NETosisは成熟好中球と同等であったが、PMA刺激に対するNOX2依存性NETosisは4時間時点では観察されなかった (Fig. 3C-E)。これらの結果は、培養好中球がROS産生・細菌殺菌能を維持しながら顆粒タンパク質依存性機能 (脱顆粒・抗真菌活性) と免疫制御機能 (IL-6産生) において成熟好中球と異なる半機能的プロファイルを示すことを明確に示している。

プロテオミクス: ミトコンドリア活性亢進と顆粒タンパク質合成の不完全性: TMT質量分析によるプロテオーム解析では、FDR ≤1%のフィルタリング後に合計2359種のタンパク質が同定された。このうち74% (1745種) は両群間で変動がなく、390種 (16.5%) が差次的に発現しており、225種が培養好中球で濃縮、165種が低下していた (Fig. 4B, C)。GO term解析では培養好中球における上位濃縮経路に「細胞呼吸 (cellular respiration)」「タンパク質安定化」「ヌクレオチド異化過程」が含まれ、Reactome解析でも「TCAサイクルと呼吸鎖電子伝達」が最も濃縮された経路として同定された (Fig. 4D)。Seahorse代謝フラックスアナライザーでは、培養好中球は基礎OCR・予備呼吸能・ミトコンドリアATP産生の全てが成熟好中球と比較して有意に増加しており (p<0.001、n=3分化)、ミトコンドリア活性亢進が実験的に確認された (Fig. 4E-H)。一方、一次顆粒タンパク質 (NE)、二次顆粒タンパク質 (lactoferrin)、三次顆粒タンパク質 (MMP9、CRISP3) および抗菌ペプチド (cathelicidin antimicrobial peptide; CAMP) が成熟好中球と比較して有意に減少しており、顆粒タンパク質合成の不完全性が示された (Fig. 4I)。さらに、C. albicansの抗体オプソニン化を媒介するFcγRIIIB (CD16B) の発現低下も確認され、抗真菌殺菌能低下の分子機序として注目される (Fig. 4J)。

CRISPR/Cas9によるゲノム編集の高効率実証: 培養3日目のCD34+ HSPCへのRNPヌクレオフェクションにより、分化終了後 (Day 17) の培養好中球においてβ2Mの表面発現が92.5%消失し、CD11bの表面発現が88.1%消失した (n=3) (Fig. 5A, B)。ゲノム編集は選択操作なしで高効率を達成し、細胞生存率および好中球分化 (CD66b発現) に有意な影響を与えなかった (Fig. S4A, B)。プラスミドコンストラクトを必要としないRNPベースのヌクレオフェクションにより、好中球分化への障害を最小化しながら前駆細胞段階での遺伝子機能解析が可能であることが実証された。

考察/結論

本研究 (訂正版) は、ヒトCD34+造血幹・前駆細胞からのex vivo好中球分化系を最適化し、産生される培養好中球がGCSF動員未熟好中球の表現型・機能・プロテオームを多角的に再現することを実証した (Naveh et al. JTranslMed 2024)。本系はゲノム編集にも対応可能であり、これまで十分な研究ツールが存在しなかった未熟好中球生物学の探索に有用な実験基盤を提供する。

先行研究との違い: 既報のex vivo分化プロトコルと比較すると、本プロトコルは17日間という短期間での分化・高収率 (326±248-fold)・高純度 (75.45%) を同時に達成した点でこれまでの研究と異なる。Kuhikar et al. (2021) はアフェレーシス由来HSPCから72.4-foldの増殖と57.37%のCD66b発現好中球を報告しているが、本研究はこれを上回る収率と純度を実現している。また既報のプロトコルの多くが単一の機能指標評価にとどまっているのに対し、本研究はプロテオミクス・代謝フラックス解析を統合した多層的特性評価を実施した点が対照的である。特に培養好中球がPMA誘導性NETs形成 (NOX2依存性) に障害を示す一方でNOX2非依存性NETosisを保持するという二分法的なNET応答パターンは、既報では十分に報告されていない新知見である。

新規の知見: 本研究で初めて、培養好中球が「ROS産生・細菌殺菌能の保持」と「顆粒タンパク質合成不完全に起因する脱顆粒障害・抗真菌活性低下・IL-6産生亢進」とを同時に示す半機能的プロファイルをプロテオミクスで実証した。ミトコンドリア代謝の亢進が未熟好中球の代謝的未熟性の特徴であることの実験的確認と、ミトコンドリア活性がS. aureus殺菌能の維持に貢献する可能性の指摘は新規な視点である。CD34+前駆細胞段階でのCRISPR/Cas9編集が選択操作不要で90%超の高効率で機能することを示した点も、未熟好中球研究ツールとして新規の意義を持つ。また本系は試験管内赤血球分化から得られる未熟網赤血球と類比的に、骨髄由来の未熟細胞を体外で産生するモデルとして位置付けられる。

臨床的意義: SLE・COVID-19・進行がんで不良予後と関連する未熟好中球の病態への関与が注目される中、本モデルは未熟好中球が示すIL-6産生亢進が慢性移植片対宿主病 (chronic graft-versus-host disease; cGVHD) や成人発症スティル病の自己炎症病態に果たす役割の解明に直接活用できる臨床的含意を持つ。先天性好中球減少症 (congenital neutropenia) などの遺伝性疾患を持つ患者由来CD34+細胞と本プロトコルを組み合わせることで、原因遺伝子変異が好中球機能に与える影響を解析する臨床応用が期待される。本系はHL-60等の不完全な細胞株モデルやマウスモデルでは再現できないヒト固有の好中球生物学の探索に向けた橋渡しモデルとして重要な位置を占める。

残された課題: ドナー間の増殖率の大きなばらつき (SD=248-fold) の生物学的原因の特定が今後の課題である。PMA誘導性NETs形成障害の分子機序の解明も未解決であり、今後の検討が求められる。本培養系は一部の成熟好中球機能を再現できないlimitationを有するため、疾患モデルとして使用する際にはその特性を考慮した実験設計が必要である。G-CSFシグナルが未熟好中球の機能特性をどのように変化させるかの分子メカニズム解析、および本モデルを用いた疾患特異的な未熟好中球機能の解析が今後の研究課題として位置付けられる (Naveh et al. JTranslMed 2024)。

方法

CD34+細胞の単離と分化プロトコル: ヒトCD34+ HSPCをアフェレーシス廃棄物 (NHSBT、Bristol、UK) から密度遠心法 (Histopaque 1077) とCD34 MicroBead Kit (Miltenyi Biotec) を用いた免疫磁気選択で単離した。倫理委員会承認 (NHS REC 18/EE/0265) のもと実施した。最適化された17日間の4ステージプロトコルは以下の通り: Stage 1 (Day 0-3) では幹細胞因子 (stem cell factor; SCF; 50 ng/mL)、IL-3 (10 ng/mL)、Flt3-L (50 ng/mL) を添加; Stage 2 (Day 3-7) では顆粒球マクロファージコロニー刺激因子 (granulocyte-macrophage colony-stimulating factor; GM-CSF; 10 ng/mL) を追加; Stage 3 (Day 7-10) では GM-CSFとG-CSF (10 ng/mL); Stage 4 (Day 10-17) ではG-CSFのみ。初期細胞密度0.1〜0.2×10^6 cells/mLで開始し、Day 3に完全培地交換後は2〜3日ごとに0.5×10^6 cells/mL維持で追加培地を添加した。

表現型解析: フローサイトメトリー (BD X20 Fortessa、n=3-5ドナー) にて、成熟度マーカー (CD10、CD101) および顆粒球マーカー (CD66b、CD15、CD11b) の発現をZombie Aqua生死染色と組み合わせて定量した。培養好中球をGCSF-D好中球および定常状態末梢血好中球と比較し、FlowJo software (version 9) でデータ解析を行った。形態学的特徴はWright-Giemsa染色で確認した。

機能評価: ROS産生はルミノール化学発光法 (PMA 100nM刺激、n=3) およびアミノフェニルフルオレセイン (aminophenyl fluorescein; APF) 蛍光法で測定した。NETs形成はSYTO Green/SYTOX Orange染色による蛍光顕微鏡 (EVOS FL) で評価した (PMA・C. albicans MOI 5・カルシウムイオノフォアA23187刺激)。脱顆粒能はオプソニン化ザイモサン (opsonized zymosan; OZ; 25µg/mL、1時間) 刺激後の好中球エラスターゼ (neutrophil elastase; NE) をELISAで定量した (n=3-5)。抗真菌活性はC. albicans CaSS1株のalamarBlue増殖アッセイ (MOI 2.5および5、2.5時間)、抗菌活性はStaphylococcus aureus JE2株のコロニーカウント法 (240分) で評価した。サイトカイン産生はLPS (100 ng/mL) またはR-848 (5µM) 刺激後のIL-6・IL-8をDuoSet ELISA (R&D Systems) で定量した (n=3-5)。

プロテオーム解析: 培養好中球と定常状態好中球を同一ドナーからペアで採取し (n=3分化)、CD66b+ FACSソート後にタンデム質量タグ (tandem mass tag; TMT) 標識を施した。ナノLC-MS/MS (Orbitrap Fusion Tribrid) でペプチドを同定し、Proteome Discoverer v.2とヒトUniProtデータベースで解析した (FDR ≤1%)。|Log2FC|>1、p<0.05で差次的発現タンパク質を定義した。GO (Gene Ontology) term解析・Reactome pathway解析・STRING interaction network で機能経路を評価した。代謝活性はSeahorse XFe 96代謝フラックスアナライザーで酸素消費率 (oxygen consumption rate; OCR) を測定し評価した。

ゲノム編集: 培養3日目のCD34+ HSPCにヌクレオフェクター4D (Lonza、P3 Primary Cell 4D-Nucleofector X Kit S) を用いてCas9タンパク質とガイドRNA (guide RNA; gRNA) のリボ核タンパク質 (ribonucleoprotein; RNP) をヌクレオフェクションした。標的はβ2ミクログロブリン (β2 microglobulin; β2M) およびCD11b (各2種gRNA + scrambled control、n=3)。統計解析はGraphPad Prism 8でStudent’s t検定 (2群比較) および一元配置ANOVA (Tukeyの多重比較検定、3群以上) を適用した。