- 著者: Muthulekha Swamydas, Michail S. Lionakis
- Corresponding author: Michail S. Lionakis (Fungal Pathogenesis Section, Laboratory of Clinical Infectious Diseases, National Institute of Allergy and Infectious Diseases (NIAID), National Institutes of Health (NIH), Bethesda, MD, USA; lionakism@mail.nih.gov)
- 雑誌: Journal of Visualized Experiments
- 発行年: 2013
- Epub日: 2013-10-10
- Article種別: Protocol
- PMID: 23892876
背景
好中球 (neutrophil) は自然免疫系の最前線で機能するエフェクター細胞であり、細菌、真菌、寄生虫に対する宿主防御において中心的な役割を担う。その機能は、貪食作用、活性酸素種 (ROS: reactive oxygen species) 産生、顆粒プロテアーゼの脱顆粒、そしてNETosis (neutrophil extracellular trap formation) など多岐にわたる。これらのメカニズムを通じて、好中球は感染部位に迅速に動員され、病原体を排除する。しかし、好中球の研究にはいくつかの技術的な課題が存在する。まず、好中球の半減期はin vivoで8-24時間と非常に短く、ex vivoでは急速なアポトーシスを起こしやすい。さらに、好中球は様々な刺激に対して非常に敏感であり、単離や操作の過程で容易に活性化 (プライミング) されてしまう。これらの特性が、好中球の機能解析を困難にしてきた。
ヒト末梢血好中球の単離プロトコルは、HistopaqueとPercollを用いた2段階密度勾配遠心分離法が標準化されている。しかし、マウスの好中球研究においては、マウス特有の生物学的特性と組織処理の違いから、独自のプロトコルが必要となる。マウスでは骨髄が好中球の主要な貯蔵庫であり、末梢血中の好中球数は全白血球のわずか10-30%に過ぎない。このため、十分な数の好中球を末梢血から単離することは困難である。従来のPercollを用いた3段階密度勾配遠心分離法は、単離に4-5時間を要し、多数のピペッティングステップが必要であり、コストも高いため、大規模な実験やハイスループットな解析には不向きであった。また、免疫磁気分離法も高純度な好中球を回収できるが、抗体標識や磁気カラムへの結合が細胞機能に影響を与える可能性があり、時間とコストの面で課題が残されている。
先行研究である Lehrer et al. (1988) は好中球の宿主防御における基礎的役割を報告し、Rot et al. (2004) はケモカインによる遊走制御機構を提唱した。さらに Boxio et al. (2004) はマウス骨髄に機能的に成熟した好中球が豊富に存在することを示した。しかし、これらの知見にもかかわらず、未活性化状態を保ったまま、高純度かつ高生存率のマウス好中球を迅速に単離し、さらにそれをin vivoでの追跡実験に直接応用する標準的プロトコルは未確立であった。特に、遺伝子欠損マウス由来の好中球と野生型好中球を同一のレシピエント内で直接比較する手法は、技術的ハードルが高く、研究の進展を阻む大きなギャップとなっていた。このように、細胞の活性化を最小限に抑えつつ、十分な収量と純度を確保する簡便な手法が不足しているという課題が残されていた。
目的
本研究の目的は、NIH Lionakis groupが開発した、単一のHistopaque-1119および1077密度勾配遠心分離法を用いたマウス骨髄好中球の単離プロトコルを提示することである。このプロトコルは、約2時間という短時間で、高純度 (80-95%) かつ高生存率 (>95%) の好中球を経済的に単離することを可能にする。さらに、単離した好中球をCellTracker色素で標識し、in vitroでの機能アッセイ (走化性、貪食作用、ROS産生、殺菌能、NETosisなど) およびin vivoでの養子移入実験、特に組織内トラッキングや競合的再構成アッセイに直接応用できることを実証する。これにより、マウス好中球生物学研究における実験的な障壁を低減し、特定の遺伝子が好中球の機能や生体内動態に与える直接的な役割を分子レベルで解明するための強力なツールを提供することを目指す。
結果
単一ステップ分離プロトコルの効率と収量: 本研究で確立した2時間の単一ステップ密度勾配遠心分離プロトコルにより、非感染C57BL/6Jマウスの大腿骨と脛骨から、平均で 6-12 × 10⁶ cells の好中球を回収可能であった。Candida albicans感染マウス (感染3日目) では、骨髄の緊急顆粒球産生により、好中球の収量は 30-40 × 10⁶ cells/mouse まで大幅に増加した。このプロトコルは、従来のPercoll 3段階勾配法 (4-5時間) と比較して処理時間を半分以下に短縮し、コストも約1/3に削減できることが示された。
好中球の高純度と高生存率の維持: Histopaque-1119とHistopaque-1077の界面から採取された細胞は、フローサイトメトリー解析により、CD11b⁺Ly6G⁺の成熟好中球が 80-95% の純度で含まれることが確認された (Figure 1)。MGG (May-Grünwald Giemsa) 染色による核形態観察でも、分葉核または桿状核を持つ好中球が優位であることが示された。トリパンブルー排除試験により、単離された好中球の生存率は 95% 以上であることが確認された (Figure 1)。この結果は、単一ステップのプロトコルでありながら、従来のPercoll法に匹敵する高品質な好中球を回収できることを示している。
CellTracker標識とin vivo養子移入の追跡: CellTracker Orange CMTMR (5-(and-6)-4-Chloromethyl Benzoyl Amino Tetramethylrhodamine) またはCellTracker Green CMFDA (5-Chloromethylfluorescein Diacetate) (5 μM) を用いた10分間の標識により、98% 以上の高い標識効率が達成された。この標識は細胞の生存率に影響を与えず、標識好中球は 95% 以上の生存率を維持した。養子移入後4時間において、レシピエントマウスの血液、骨髄、および腎臓から回収された細胞を解析した結果、移入された好中球 (PE陽性またはFITC陽性) をレシピエント由来の好中球 (陰性) と明確に区別して追跡可能であった (Figure 2)。特に、Candida感染マウスの腎臓に遊走した好中球では、血液や骨髄に留まる細胞と比較してCD11bの発現強度が約 2.5-fold に上昇しており、標的組織への侵入に伴う活性化状態がin vivoで正常に再現されていることが示された (Figure 2)。
競合的再構成アッセイによる遺伝子機能の定量: WTマウス由来の好中球 (CellTracker Orange CMTMR標識) とCxcr2⁻/⁻マウス由来の好中球 (CellTracker Green CMFDA標識) を1:1の比率で混合して同一のレシピエントマウスに養子移入した。移入後、炎症部位 (ザイモサン空気嚢モデル) における両群の回収比率を測定したところ、WT好中球はCxcr2⁻/⁻好中球と比較して 10-20倍 優位にリクルートされていることが示された (Figure 3)。この結果は、CXCR2が好中球の組織遊走能に対して細胞自律的 (cell-autonomous) に寄与していることを、個体間差の影響を排除した同一環境内で定量的に証明した。
考察/結論
先行研究との違い: 本プロトコルは、従来のPercollを用いた多段階密度勾配遠心分離法や免疫磁気分離法と異なり、Histopaque-1119と1077を組み合わせた単一ステップで好中球を単離するため、操作が極めて簡便であり、単離時間を約2時間に短縮した。また、抗体標識や磁気カラムへの結合を伴わないため、細胞の事前活性化 (プライミング) を最小限に抑え、未刺激状態の生理的活性を保持した好中球を回収できる点で、これまでの複雑な多段階精製法と大きく異なる。
新規性: 本研究は、単一ステップ密度勾配遠心分離法により高純度・高生存率のマウス骨髄好中球を迅速に得る手法を提示し、さらに2色のCellTracker色素を用いた多重標識と組み合わせることで、同一レシピエントマウス内での競合的再構成アッセイを初めて実証した。これにより、特定の遺伝子欠損が好中球の遊走能に与える直接的な影響を、細胞自律的なレベルで極めて正確に定量解析する新規な評価系を確立した。
臨床応用: 本知見は、感染症や炎症性疾患、さらには腫瘍微小環境における好中球の病態生理学的役割を解明するための強力な基礎技術を提供する。好中球の異常な動員や活性化が関与する敗血症、自己免疫疾患、がんにおける好中球浸潤などの病態解明において、標的治療薬の効果をin vivo養子移入系で直接評価することが可能となり、新規治療標的の同定やbench-to-bedsideの橋渡し研究を大きく加速する臨床的有用性を持つ。
残された課題: 今後の検討課題として、骨髄から単離される好中球の分化段階における不均一性の影響が挙げられる。骨髄には成熟好中球だけでなく未熟な桿状核好中球や骨髄球も含まれており、本プロトコルで回収される画分 (純度80-95%) におけるこれら未熟細胞の混入が、特定の機能アッセイに与える影響についてはさらなる検証が必要である。また、CellTracker色素による標識は4時間を超える長期のin vivo追跡ではシグナルが徐々に減衰する傾向があるため、より長期の動態追跡には遺伝子組換え蛍光マウスの活用など、手法のさらなる改良というlimitationが残されている。
方法
骨髄細胞の抽出: 8-12週齢のC57BL/6Jマウスを頸椎脱臼により安楽死させた後、大腿骨と脛骨を採取した。骨髄細胞は、25G針と12 ml注射器を用いて、RPMI 1640 (10% FBS, 2 mM EDTA含有) で骨をフラッシングすることにより回収した。回収した細胞懸濁液は、100 μmナイロンメッシュで濾過し、シングルセル懸濁液を得た。この際、細胞の凝集を防ぐため、EDTAを添加した培地を使用した。骨髄細胞の収量は、非感染C57BL/6Jマウス1匹あたり約60-80 × 10⁶個であった。
赤血球の溶解 (RBC lysis): 回収した骨髄細胞懸濁液は、0.2% NaCl溶液を用いて約20秒間処理し、赤血球を低張溶解した。その後、1.6% NaCl溶液を加えて等張に戻し、PBSで洗浄し、細胞数をカウントした。ACK (ammonium-chloride-potassium) 溶解バッファーの使用は好中球の活性化を誘発する可能性があるため、低張NaCl溶液の使用を徹底した。
密度勾配分離: 15 mlコニカルチューブに、まずHistopaque-1119 (密度 1.119 g/ml) 3 mlを底部に静かに敷いた。その上にHistopaque-1077 (密度 1.077 g/ml) 3 mlを重層し、さらにその上に骨髄細胞懸濁液 (1 ml PBSに約60-80 × 10⁶個の細胞を懸濁) を静かに重層した。Histopaqueは使用前に室温 (18-26°C) に温めた。その後、チューブを室温 (25°C) で 2,000 rpm (約 400 × g)、30分間、ブレーキオフの条件で遠心分離した。遠心分離後、Histopaque-1119層とHistopaque-1077層の間の界面に形成された好中球層を採取した。
純度および生存率の評価: 単離した好中球の純度は、フローサイトメトリーによりCD45⁺Ly6G⁺CD11b⁺細胞として評価した。また、MGG (May-Grünwald Giemsa) 染色により核形態を確認し、分葉核または桿状核を持つ細胞を好中球として同定した。細胞の生存率は、トリパンブルー排除試験により評価した。
CellTracker色素による標識: 単離した好中球は、CellTracker Orange CMTMR (5-(and-6)-4-Chloromethyl Benzoyl Amino Tetramethylrhodamine) または CellTracker Green CMFDA (5-Chloromethylfluorescein Diacetate) (5 μM) を用いて、37°Cで10分間インキュベートすることにより標識した。標識後、氷冷RPMI 1640で2回洗浄し、未結合の色素を除去した。
養子移入実験および競合的再構成アッセイ: 野生型 (WT) マウス由来の好中球をCellTracker Orange CMTMRで、遺伝子欠損マウス由来の好中球をCellTracker Green CMFDAでそれぞれ標識した。これらを1:1の比率で混合し、合計 5 × 10⁶ cells/mouse の濃度で調製し、レシピエントマウスの尾静脈から静脈内注射した。移入後4時間で組織を採取し、フローサイトメトリーを用いて、移入好中球の組織内遊走を追跡した。統計解析には、2群間の比較として Mann-Whitney U test を用いた。