• 著者: Salladay-Perez I, Covarrubias AJ, et al.
  • Corresponding author: AJ Covarrubias (UCLA)
  • 雑誌: Nature Aging
  • 発行年: 2026
  • Epub日: 2026-04-16
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 41991686

背景

老化は、生殖後の生存において徐々に不適応的なプロセスとなり、生理機能の進行性低下、各種老化関連疾患への感受性亢進、および「inflammaging」と呼ばれる全身性慢性炎症を引き起こすことが知られている (Covarrubias et al. 2026)。細胞老化 (cellular senescence) はこのinflammaging組織の主要な源として台頭しており、老化関連分泌表現型 (SASP) を通じて強い炎症性シグナルを放出することが報告されている。前臨床研究では、老化細胞の除去が健康寿命と寿命の両方を改善することが示されているが、老化中にどの細胞型が老化を起こすのか、また他の炎症性細胞集団、特にマクロファージから老化細胞を区別するための特異的バイオマーカーの不足が大きな課題であった。

マクロファージは極めて多様な自然免疫細胞であり、微小環境に応じて多様な分極状態を採る。特筆すべきことに、マクロファージは老化細胞の多くのホールマーク特徴を共有している (Covarrubias et al. 2026)。これらには炎症性サイトカイン分泌、代謝リプログラミング、免疫調節性代謝産物産生、細胞サイズ増大、ならびに老化関連マーカー (Cdkn1a (p21)、Cdkn2a (p16)、SASP因子、老化関連β-ガラクトシダーゼ (SA-β-gal) 活性) の一過性発現が含まれる。この表現型的重複は根本的な未解決の問いを提起している:マクロファージは真の細胞老化状態に入ることができるのか、そしてもしそうなら、老化マクロファージをどのように他の活性化状態 (M1、M2) から区別できるのか。これまでの多くの研究は限定的・可逆的・文脈依存的なマーカーに頼っており、マクロファージ老化の定義は依然として課題が残されている。

他の免疫細胞とは異なり、組織常在マクロファージ (特にクッパー細胞などの肝臓常在マクロファージ) は放射線耐性があり、代謝的に柔軟で、組織ニッチ内で長寿命である (Covarrubias et al. 2026)。これらの特徴は、ストレスの高い微小環境下での生存を可能にする一方で、累積的なDNA損傷と代謝ストレスに耐える素地を与え、加齢に伴う老化への感受性を高める可能性がある。例えば、Haston et al. CancerCell 2023では、KRAS駆動型肺がんにおける老化マクロファージの除去が腫瘍形成を改善することが報告されており、マクロファージ老化の病態生理学的意義が示唆されている。しかし、加齢に伴う代謝機能障害に関連した脂肪性肝疾患 (MASLD) の原因としての老化マクロファージの役割は未解明であった。

世界的な高齢化の進行と肥満の流行が重なるなか、加齢に伴う慢性炎症と代謝機能障害に関連した脂肪性肝疾患 (MASLD) の原因としての老化マクロファージの役割を明らかにする必要性が喫緊の課題となっていた。本研究では、DNA損傷と過剰なコレステロール蓄積がマクロファージ老化の重要な要因であることをin vitroおよびin vivoで同定し、マクロファージ老化をより良く検出・定量するための重要なバイオマーカーを特定し、老化マクロファージを標的とすることが、高齢肝臓およびMASLD患者の炎症を軽減するための有望な治療戦略となる可能性を示唆する。

目的

本研究の目的は以下の通りである: (1) マクロファージが不可逆的かつ安定した細胞老化状態に入りうることを実証すること; (2) 老化マクロファージを他のマクロファージ分極状態から区別できる特異的バイオマーカー (特にp21-TREM2シグネチャー) をマルチオミクス解析により同定すること; (3) マクロファージ老化が炎症性老化 (inflammaging)、代謝組織における老化細胞蓄積、およびMASLDの主要なドライバーであることを示すこと; (4) 老化マクロファージを標的とするセノリティクス (ABT-263) 治療が、加齢マウスおよびMASLDマウスモデルにおいて肝臓炎症および脂肪沈着を軽減できることを示すこと。これらの目的を達成することで、マクロファージ老化が慢性炎症と代謝性肝疾患の中心的なドライバーであり、治療標的となる可能性を確立することを目指した。

結果

DNA損傷誘発マクロファージ老化の確立と特徴付け: 電離放射線 (10 Gy) またはドキソルビシン (Doxo) 処理のBMDMは、処理10日後に安定した細胞周期停止を示した (Fig. 1a)。Ki-67とLamin B1の減少、SA-β-gal活性の増加、細胞サイズ増大 (>4N DNA含量)、核形態の異常 (DAPI染色での拡大・不規則な核形)、深層学習による老化スコア (p(senescence) 0.75 vs 0.74、p<0.001) が確認された (Fig. 1b-g)。遺伝子発現ではCdkn1a (p21)、Gdf15、Mmp9が顕著に上昇したが、Cdkn2a (p16) は逆に低下した (Fig. 1i)。p16-3MRマウスを用いた実験では、老化マクロファージはGCV誘発アポトーシスに抵抗性を示し、p16+細胞とp21+細胞が異なる老化表現型 (セノタイプ) を示すことが示唆された。LPSまたはIL-4による前処理はDNA損傷誘発老化を予防せず、Cd38欠損もSA-β-gal活性やSASP遺伝子発現に影響を与えなかった。

老化マクロファージはM1/M2とは異なる独自のクラスターを形成し、SASPとI型インターフェロンシグナルを特徴とする: バルクRNA-seq (n=13,395遺伝子、ANOVA q<0.05)、プロテオミクス (n=1,661タンパク質、q<0.01)、メタボロミクス (n=2,791 m/zフィーチャー、q<0.01) のPCA解析により、老化マクロファージはM0、M1、M2から明確に分離した独自のクラスターを形成した (Fig. 1j-l)。Sen(IR)とSen(Doxo)は転写プロファイルの50% (747遺伝子) を共有し、Cdkn1a、Ccnd2、Ccr5、Cmpk2、Fn1、Mmp9/12/13、Pla2g7、Ifi44、Ifi209、Ifi213などのSASPおよびI型IFN応答関連遺伝子が上昇した (Fig. 2a-c)。SASPプロテオームではMMP12、APOE、LGALS3、CMPK2が最も豊富に分泌された (Fig. 2e,f)。KEGG解析ではI型IFN応答と炎症経路が高度に濃縮された (Fig. 2d,g)。STING阻害剤H-151はIfna・Ifnb発現を有意に低下させ、Sen(IR)・Sen(Doxo)細胞では二本鎖DNA (dsDNA) がミトコンドリアから細胞質へ再局在した (Fig. 2h,i)。sgCmpk2で編集した老化マクロファージでは、細胞質dsDNAの減少とIfna・Ifnb mRNA発現の低下が確認された (p<0.05)。

加齢肝臓におけるp21+老化マクロファージの蓄積とTREM2発現: 加齢 (21-24カ月) マウスでは若齢 (2-4カ月) と比較し、Cdkn1a発現が肝臓で最も大きく増加した (p=0.0012)。免疫蛍光染色でもp21+F4/80+ (老化マクロファージ) の増加を確認した (Fig. 3a-c)。Tabula Muris Senisデータセットの解析では、肝臓のCdkn1a+細胞が最も増加率が高く、クッパー細胞が主体であった (Fig. 3d-h)。Sen(IR)マクロファージと加齢クッパー細胞の比較では67遺伝子のMSenシグネチャーが同定され (Fisher exact p=7.86×10^-34、odds ratio=8.1)、GSVAスコアリングでM1・M2マクロファージよりも高い感度で老化クッパー細胞を識別した (Fig. 3j-l)。老化マクロファージはM0・M1・M2と比較してTREM2が顕著に上昇し、p21との同時発現かつp16の低下が老化の特異的シグネチャーであった (Fig. 4f)。Trem2 KO老化マクロファージではp21発現が低下し、MSenスコアが抑制された (Fig. 4i)。

老化マクロファージは脂肪滴を形成し、コレステロール過剰負荷が老化を誘導する: 老化マクロファージはコレステロールエステルやセラミドの蓄積を示し (Fig. 5a)、LipoTOXとBodipy染色で脂肪滴形成が確認された (Fig. 4d,e)。Ac-LDL (100μg/ml、10日間) 処理では、時間依存的なTREM2とp21の上昇、SA-β-gal活性増加、細胞増殖 (S期細胞率) の低下が確認された (Fig. 5f-h)。SASP遺伝子 (Gdf15、Mmp9、Mmp12) も有意に上昇した (p=0.0479) (Fig. 5i)。これによりコレステロール過剰がマクロファージ老化の生理的ドライバーであることが示された。

ABT-263による老化マクロファージの選択的除去とin vivoでの治療効果: アポトーシス関連遺伝子解析でBcl2 (抗アポトーシス) 上昇とBak1・Bax (プロアポトーシス) 上昇が確認された (Fig. 6a)。BCL-2阻害剤ABT-263 (Navitoclax) はIC50がnMオーダーで老化マクロファージを選択的に除去した (Fig. 6c,d)。M1・M2マクロファージには毒性を示さず、老化マクロファージのみを選択的に除去した (Fig. 6e)。加齢 (24カ月) マウスでは肝臓のp21+F4/80+マクロファージが約5% (若齢) から約50%に増加し、ABT-263投与により約10%まで有意に低下した (p<0.05) (Fig. 6g,h)。脾腫も軽減し、炎症性サイトカイン・ケモカイン (Isg15、Ccl4、Il6、Il18) が有意に低下した (p<0.05) (Fig. 6i,j)。肝臓の油赤O染色では脂肪滴面積・体積がABT-263投与群で有意に低下した (p<0.05) (Fig. 6k)。

MASLD モデルでの治療効果: HFHCD誘発MASLDモデルのCETP-APOE*3-Leiden transgenicマウスでは、BXD19/TyJバックグラウンド (高線維化) においてMSenスコアが最も高く、線維化とMSen蓄積の正の相関が示された (Fig. 7d,e)。ABT-263投与 (week 12-17) により、体重が有意に低下 (p<0.05)、脾重量と血清TNF-αが低下 (p<0.05)、肝臓NAD+量が30%増加 (p<0.05)、NAFLDアクティビティスコア (NAS) が低下 (p<0.05)、Oil Red O染色での脂肪滴面積・体積が有意に低下 (p<0.05) した (Fig. 7h,j,k,q,r,s)。MSen転写シグネチャーおよびCdkn1a・Trem2・Cd68・Cd38発現も抑制された (Fig. 7n,o,p)。

ヒト肝臓での老化マクロファージの検証: ヒトPBMC由来マクロファージのSen(IR)・Sen(Doxo)モデルでもCDKN1A (p21)、TREM2、GDF15、CD38の有意な上昇が確認された (Fig. 8b)。肝硬変患者の単一細胞RNA-seqデータではCD45+免疫細胞中でマクロファージが最もMSenシグネチャーに富み (p<2.22×10^-16)、硬変肝ではクッパー細胞と単球/マクロファージが瘢痕関連マクロファージ (SAM:TREM2+) へ移行しヒトMSenスコアが全CD45+細胞種の中で最高であった (p<2.22×10^-16) (Fig. 8k,l,m,n)。

考察/結論

本研究は、DNA損傷およびコレステロール誘発性老化モデルを用いて、p21+TREM2+老化マクロファージが炎症性老化 (inflammaging) と代謝機能関連脂肪性肝疾患 (MASLD) の主要な原因であることを同定した。

先行研究との違い: これまでの多くの研究がp16を老化マクロファージの主要なマーカーとして用いてきたのに対し、本研究ではp21発現が老化中に顕著に上昇し、p16はマウスおよびヒトマクロファージモデルの両方で逆説的に低下または変化しないことを示した。この結果は、p21+とp16+の老化細胞が異なるセノタイプを示すという最近の報告と一致する。しかし、p21またはp16単独では老化マクロファージを明確に識別するには不十分であり、複数のマーカーと細胞特異的なアプローチの必要性が強調される。

新規性: 本研究で初めて、老化マクロファージが古典的なM1およびM2分極状態とは異なる独自の細胞状態を形成し、高TREM2発現、核形態の変化、脂質代謝異常、I型IFNの過剰活性化を特徴とすることを新規に同定した。特に、脂質代謝解析により、コレステロール貯蔵、特にコレステロールエステルとセラミドの貯蔵が老化マクロファージのマーカーであるだけでなく、老化状態の生理的ドライバーとしても機能することが示された。これは、老化と代謝機能障害を結びつける、これまで未開拓であった重要な脂質軸を明らかにするものである。

臨床応用: セノリティクスABT-263がin vitroおよびin vivoでp21+老化マクロファージを選択的に除去し、肝臓の脂肪沈着と全身性炎症を軽減することを示した。この治療効果は、食事過剰と加齢によって引き起こされる代謝性疾患の世界的負担が増大している現状において、特にタイムリーである。本知見は、ABT-263による老化マクロファージの除去が、臓器機能と代謝健康の改善に寄与する可能性を示唆し、MASLDだけでなく、アテローム性動脈硬化症などの他のコレステロール駆動型疾患の臨床応用に直結する可能性がある。

残された課題: 本研究にはいくつかの重要なlimitationが残されている。第一に、主に雄性マウスをBMDMの供給源およびin vivo研究に用いたため、性染色体が老化の主要な特徴に影響を与える可能性があり、これは今後の検討課題である。第二に、in vivo解析は主に肝臓の老化クッパー細胞の特性評価と識別に焦点を当てている。脳、皮膚、内臓脂肪組織、心臓など、組織常在マクロファージの貯蔵量が多い他の臓器の組織常在マクロファージ集団も老化を起こしやすいと推測されるが、これらは異なるメカニズムで老化を起こし、多様な表現型状態とバイオマーカープロファイルを示す可能性がある。したがって、今後の研究では、複雑な組織や条件下で老化マクロファージを選択的に標的とし追跡できるマクロファージ特異的な老化レポーターマウスの開発を優先する必要がある。これらのツールを確立することで、老化や疾患におけるマクロファージ老化の負担とダイナミクスだけでなく、病態との因果関係や、慢性炎症、代謝機能障害、加齢関連組織の機能低下と戦うための有望な治療介入としてのマクロファージ標的セノリティクス戦略を決定することが可能となる。

方法

in vitro マクロファージ老化モデルの確立 雄性C57BL/6Jマウスの骨髄由来マクロファージ (BMDM) を、電離放射線 (IR; 10 Gy) またはドキソルビシン (Doxo; 500 nM) により処理することでDNA損傷誘発老化 (Sen(IR)、Sen(Doxo)) を誘導した。10日後にSA-β-gal活性、細胞周期解析 (Click-iT EdU labeling with propidium iodide (PI))、Ki-67発現、Lamin B1発現を評価した。また、アセチル化LDL (Ac-LDL) 負荷 (100 μg/ml、10日間) によるコレステロール過剰負荷誘発老化モデルも確立した。ヒト末梢血単核球 (PBMC) 由来マクロファージも同様にSen(IR)・Sen(Doxo)モデルに適用し、ヒトにおけるマクロファージ老化を検証した。

マルチオミクス解析 老化マクロファージの包括的分子プロファイリングのため、バルクRNA-seq、LC-MS/MSを用いたSASPプロテオミクス、ショットガンリピドミクスを実施した。M0 (ナイーブ)、M1 (LPS処理)、M2 (IL-4処理)、老化 (Sen(IR)) 状態を比較した主成分分析 (PCA)、KEGG経路解析を実施した。RNA-seqデータはR (v.4.5.0) とDESeq2 (v.1.48.2) を用いて処理され、log2変換および定量化された。差次的発現遺伝子 (DEGs) はANOVAにより決定され、p値はFDR補正された。

CRISPR編集・遺伝子ノックアウト実験 CRISPR-Cas9を用いたCmpk2遺伝子編集 (sgCmpk2) でSTING経路への影響を解析した。Trem2 KOマウスからBMDMを単離しTREM2の機能的役割を評価した。Cd38 KOマウスを用いたコレステロール誘発老化における役割も解析した。

マクロファージ老化シグネチャー (MSen) の同定 Tabula Muris Senis公開データセットを使用し、加齢マウス肝臓における老化マクロファージ蓄積を単一細胞RNA-seqで解析した。Sen(IR)マクロファージと加齢クッパー細胞を比較し67遺伝子のMSenシグネチャーを定義した。このMSenシグネチャーは、Gene Set Variation Analysis (GSVA) を用いてM1・M2マクロファージと比較し、老化クッパー細胞の識別能力を評価した。

in vivo セノリティクス実験 (1) 若齢 (4カ月) ・加齢 (24カ月) 雄性C57BL/6Jマウスに対し、ABT-263 (Navitoclax) を間欠的「ヒット・アンド・ラン」投与 (週7日間×2ラウンド、50 mg/kg/日) し、肝臓p21+F4/80+マクロファージ数、炎症性サイトカイン発現、脂肪滴面積を評価した。 (2) HFHCD (高脂肪高コレステロール食) 誘発MASLDモデルとして、CETP-APOE*3-Leiden transgenic miceを3つの遺伝背景 (129/SvJ、C57BL/6J、BXD19/TyJ) に交配した。week 12からABT-263または vehicleを投与し、week 17に評価した。肝臓の線維化スコアはMASLD Clinical Research Networkの基準に従い、病理医が盲検下で評価した。

統計解析 データは平均 ± 標準誤差 (s.e.m.) で示された。統計解析にはANOVA、Tukeyの多重比較検定、Studentのt検定、Wilcoxon検定などが用いられた。p値 < 0.05を有意差ありと判断した。