- 著者: Federica Pisaneschi, Seth T. Gammon, Vincenzo Paolillo, Sarah A. Qureshy, David Piwnica-Worms
- Corresponding author: David Piwnica-Worms (Department of Cancer Systems Imaging, University of Texas MD Anderson Cancer Center, Houston, TX, USA; dpiwnica-worms@mdanderson.org)
- 雑誌: Nature Biotechnology
- 発行年: 2022
- Epub日: 2022-01-17
- Article種別: Original Article
- PMID: 35190688
背景
自然免疫活性化の in vivo (生体内) 非侵襲的イメージングは、敗血症、自己免疫疾患、感染症、癌免疫療法における診断および治療モニタリングバイオマーカーとして極めて重要である。既存のPET (positron emission tomography; 陽電子放出断層撮影) プローブである[¹⁸F]FDG (2-deoxy-2-[18F]fluoro-D-glucose) は、代謝活性を反映し炎症巣に集積するが、その炎症特異性は低いという課題がある。これは、腫瘍、脳、心筋などの高代謝組織でも集積が見られるため、自然免疫に特異的な情報を提供できないためである。
自然免疫応答において、MPO (myeloperoxidase; マイエロペルオキシダーゼ) は好中球およびマクロファージの一次顆粒酵素であり、過酸化水素 (H₂O₂) と塩化物イオン (Cl⁻) から次亜塩素酸 (HOCl; hypochlorous acid) を生成する。NOX2 (NADPH oxidase 2; NADPHオキシダーゼ2) は、スーパーオキシド (O₂⁻) からH₂O₂、そしてHOClへと続くカスケードの上流に位置する酵素である。HOClやペルオキシナイトライト (ONOO⁻; peroxynitrite) は、高酸化還元電位 (≥0.5 V) を持ち、自然免疫に特異的なエフェクターラジカルとして機能する。一方、低電位の活性酸素種であるH₂O₂ (0.3 V) やO₂⁻ (0.2 V) は、ミトコンドリア代謝の副産物として組織のベースラインに広く存在し、非特異的なシグナルとなる可能性がある。
これまでの研究では、MPO活性を可視化する試みとして、ルミノール誘導体やトリプトファン誘導体を用いたPETプローブが開発されてきたが、高酸化還元電位の活性酸素・窒素種 (RONS; reactive oxygen and nitrogen species) と低電位の活性酸素種 (ROS; reactive oxygen species) を区別する原理に基づいたプローブ設計は未開拓であった。例えば、Wang et al. (2019) の報告やShao et al. (2013) によるTSPO (translocator protein; トランスロケータータンパク質) 標的プローブの研究、さらにWu et al. (2020) によるジヒドロエチジウム系プローブの検討が行われてきたが、いずれも特異性や感度の面で課題を残していた。この酸化還元電位の区別をプローブ選択性の設計原理として活用する合理的アプローチが不足しており、自然免疫活性化を特異的に検出できる新規PETプローブの開発において大きな技術的ギャップが残されていた。特に、全身性炎症性疾患における自然免疫の活性化状態を非侵襲的に識別する手法は未確立であり、局所的な代謝フラックスと自然免疫特異的活性化を区別する技術が不足していた。
目的
本研究の目的は、高酸化還元電位RONSを選択的に酸化するredox-tuned (酸化還元電位調整型) ¹⁸F標識PETプローブである[¹⁸F]4FN (4-[18F]fluoro-1-naphthol) を合理的に設計・合成することである。さらに、このプローブのNOX2/MPO依存性酸化化学をin vitroで検証し、その特異性を確立する。最終的に、LPS (lipopolysaccharide; リポ多糖) 敗血症、PMA (phorbol-12-myristate-13-acetate; ホルボール-12-ミリスタート-13-アセタート) 誘導接触皮膚炎、およびLPS誘導関節炎の3つのマウス炎症モデルにおいて、[¹⁸F]4FNのin vivo PET検出能を評価し、既存のPETプローブである[¹⁸F]FDGとの比較性能評価を行うことで、自然免疫特異的PETイメージングプラットフォームの概念実証を達成することを目指す。これにより、自然免疫活性化の非侵襲的かつ定量的なin vivoモニタリングを可能にする新たな分子イメージング技術を確立する。
結果
[¹⁸F]4FNのredox-tuning chemistryの検証: サイクリックボルタンメトリーにより、[¹⁸F]4FNの酸化還元電位 (E₀) が+0.59 V vs NHEであることを確認した。この電位は、HOCl (+1.48 V) およびONOO⁻ (+1.4 V) によって完全に酸化されるが、H₂O₂ (+0.38 V) やO₂⁻ (-0.16 V) といった低電位のROSでは酸化されないように意図的に設計された閾値である (Table 1)。組換えMPO、H₂O₂、Cl⁻を含む反応系において、[¹⁸F]4FNの80%以上が10分以内に酸化生成物 (細胞内に捕捉される形態) に変換された。MPO非存在下では変換は5%未満であった。HOClとの直接反応でも同等の変換が認められた。MPO阻害剤4-ABAHの添加により、[¹⁸F]4FNの酸化は95%以上阻害され、プローブの選択性が分子レベルで確立された (Fig. 2)。
PMA活性化HL-60細胞における5倍の保持増加: 分化させたHL-60好中球様細胞をPMA 1 µMで15分間刺激した後、[¹⁸F]4FNを30分間インキュベートした結果、活性化細胞における細胞関連保持が未刺激対照細胞の5.0-foldに増加した (Fig. 2)。この保持は、4-ABAH (MPO阻害剤) により95%阻害され、DPI (NADPHオキシダーゼ阻害剤) により70%阻害された。さらに、Nox2⁻/⁻マウス好中球 (n=3 cells) を用いた実験では、[¹⁸F]4FNシグナルが71%減少したことから、プローブの集積がNOX2 → H₂O₂ → MPO → HOClカスケードに絶対的に依存することが示された。一次ヒト好中球のPMA刺激でも同様の保持パターンが確認され、自然免疫特異的酸化細胞内捕捉の分子機構が確立された。PMA処理細胞と未処理細胞の比較では、PMA処理によりL-012生物発光シグナルが3桁以上増加し、ROS産生が顕著に活性化されていることが確認された。
LPS敗血症モデルにおけるPET定量: LPS 20 mg/kgを腹腔内投与したC57BL/6Nマウス (n=3 mice) の4時間後のPETイメージングでは、腎臓および肺における[¹⁸F]4FNの集積がsham対照群の3.5-foldに増加した (Fig. 3)。脾臓、肝臓、骨髄でも有意な上昇が認められ、これは好中球の緊急顆粒球産生による組織分布と一致した。Toll-like receptor 4阻害剤 (TAK-242) の前処理により、シグナルは80%減少したことから、プローブの特異性がin vivoで検証された。血中好中球数と[¹⁸F]4FN集積の間には高い相関 (r = 0.82) が認められた。対照的に、⁶⁸Ga-クエン酸はLPS処理群と対照群の間で腎臓および肝臓の取り込みに統計的な差は認められず (Fig. 3)、[¹⁸F]4FNの集積増加はクリアランスの低下によるものではないことが示された。
PMA接触皮膚炎モデルにおける検出能: PMAを耳介に局所塗布したBALB/cマウスおよびC57BL/6Nマウス (n=4 mice) の24時間後のPETイメージングでは、炎症側耳介が対側非処置耳介の4.1-foldのシグナルを示した (Fig. 5)。病理組織学的検査では、好中球浸潤とMPO陽性細胞密度がPET強度と正の相関 (r = 0.79) を示した。薬理学的な好中球除去 (抗Ly6G抗体) により、[¹⁸F]4FNシグナルは65%低下し、好中球依存性が検証された。C57BL/6Nマウスのターゲット/非ターゲット比は3.79 ± 0.9、BALB/cマウスでは2.30 ± 0.89であった。
LPS単関節炎モデルにおける[¹⁸F]FDGとの比較: LPS 20 µgを膝関節内に注射したC57BL/6Nマウス (n=4 mice) の24時間後のPETイメージングでは、炎症関節が対側関節の3.0-foldのシグナルを示した (Fig. 4)。[¹⁸F]FDGとのヘッドツーヘッド比較では、軽度炎症 (低用量LPS 1 ng) の検出において[¹⁸F]4FNが優位性を示した。[¹⁸F]FDGでは炎症巣/健常部比が1.1-fold (p=0.04) であったのに対し、[¹⁸F]4FNでは4.3-foldであり、約4倍の感度優位性が認められた (Fig. 5)。これは、[¹⁸F]FDGが炎症特異性が低く、代謝活性の増加を反映するのに対し、[¹⁸F]4FNが高酸化還元電位ROS/RNSを特異的に検出するメカニズムによるものである。動態解析では、[¹⁸F]4FNは血管相で同様の初期取り込みを示したが、17.5分後から炎症関節で有意な差 (p<0.0001) を示し、正常関節の3倍高い放射能がプラトーに達した。
Nox2⁻/⁻マウスを用いた因果関係の検証: Nox2⁻/⁻マウス (n=4 mice) を用いた3つの炎症モデル全てにおいて、[¹⁸F]4FNの集積が野生型 (WT) マウスと比較して71%減少した (Fig. 5)。これは、[¹⁸F]4FNの集積がNOX2に絶対的に依存することを遺伝学的に証明するものである。Mpo⁻/⁻マウスでも40%の減少が認められ、NOX2 → MPOカスケードの階層性がイメージングによって反映された。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究の[¹⁸F]4FNは、これまでのMPO活性を標的としたPETプローブ (例えば、Wang et al. 2019 が報告した¹⁸F-MAPPなど) と異なり、製剤に抗酸化剤などの安定化剤を必要とせず、in vivoでのシグナルを減衰させることなく高い安定性を示す。酸化還元電位のチューニングという設計原理により、高電位ROS/RNSを選択的に捕捉し、生理的バックグラウンドからの分離を可能にした点で、これまでのプローブとは一線を画す。
新規性: 本研究で初めて、1-ナフトール骨格の酸化還元電位を精密に調整することで、NOX2/MPO経路によって生成される高酸化還元電位ROS/RNSを特異的に検出するPETプローブ[¹⁸F]4FNを開発した。このプローブは、in vitroおよびin vivoの複数の炎症モデルにおいて、NOX2およびMPO依存的な細胞内捕捉メカニズムを介して自然免疫活性化を非侵襲的に可視化できることを新規に実証した。特に、Nox2欠損マウスを用いた遺伝学的検証は、このプローブのNOX2依存性を明確に示した点で、これまで報告されていない新規性を持つ。
臨床応用: 本知見は、多岐にわたる炎症性疾患の臨床応用に直結する。臨床的有用性として、COVID-19 (coronavirus disease 2019; 新型コロナウイルス感染症) における肺外病変 (心筋炎、血栓症、サイトカインストーム) の自然免疫PETイメージング、敗血症の早期診断と治療効果モニタリング、関節リウマチ、炎症性腸疾患、肺線維症における炎症巣のサブクリニカル検出、癌免疫療法による免疫関連有害事象の検出、慢性肉芽腫症患者におけるNOX2機能のイメージング、MPOを標的とした治療薬の薬力学的バイオマーカーなどが挙げられる。これにより、臨床現場での精密医療の実現に貢献する可能性が高い。
残された課題: 今後の検討課題として、まず[¹⁸F]4FNのfirst-in-human臨床試験を実施し、ヒトにおける安全性、薬物動態、および線量測定を検証する必要がある。また、HOClとONOO⁻の両者を区別する能力は未確立であり、個別のエフェクター特異性をさらに高めることが望ましい。MPO存在下ではプローブが細胞内に不可逆的に捕捉されるため、動的なROSフラックスのリアルタイムモニタリングは困難である。さらに、好酸球性ペルオキシダーゼもHOClを産生するため、プローブは好中球特異的ではない。¹⁸Fの半減期が110分と短いため、長期的な縦断研究には頻繁な注射が必要となる。正常生理的自然免疫活動によるベースラインシグナルが、癌周囲の低悪性度炎症検出を妨げる可能性も考慮すべきである。
方法
[¹⁸F]4FNの合成と特性評価: 4-フルオロナフタレノール骨格 (電気化学的E₀ = 0.59 Vに調整可能) を¹⁸Fで放射性標識した。合成はGE TRACERlab (TRACERlab FX FN自動合成モジュール) を用いて行われ、放射化学的収率は6.8 ± 2.5% (n=22)、放射化学的純度は99%以上、モル活性は50 GBq/µmol以上であった。酸化還元電位はサイクリックボルタンメトリーにより確認した。プローブのin vitro安定性はPBS (10% EtOH) 中で4時間、マウス血漿中で1時間以上保持された。
In vitro MPO酸化アッセイ: 組換えヒトMPO (rhMPO) とH₂O₂、Cl⁻を含む反応系において、[¹⁸F]4FNから酸化生成物への変換をラジオHPLCで定量した。MPO阻害剤である4-ABAH (4-aminobenzoic acid hydrazide; 4-アミノ安息香酸ヒドラジド) およびNADPHオキシダーゼ阻害剤であるDPI (diphenyleneiodonium chloride; ジフェニレンヨードニウム塩化物) を用いて、MPOおよびNOX2の寄与を評価した。並行して、RONS活性の光学レポーターであるL-012を用いた生物発光イメージングを実施し、結果をクロスバリデーションした。
細胞アッセイ: ヒト急性骨髄性白血病細胞株HL-60細胞をDMSOで好中球様細胞に分化させた。PMA (1 µM) で刺激し、[¹⁸F]4FNの細胞内取り込みおよび保持をγ-カウンターで定量した。4-ABAHおよびDPIを添加した対照実験も行った。さらに、一次ヒト好中球およびNox2欠損 (Nox2⁻/⁻) マウス好中球を用いて、プローブの特異性を検証した。
In vivo 炎症モデル: 以下の3種類のマウスモデルを用いた。(1) LPS 20 mg/kg腹腔内投与による敗血症モデル (C57BL/6N mice、4時間後イメージング)。(2) PMA耳介局所塗布による接触皮膚炎モデル (BALB/c miceおよびC57BL/6N mice、24時間後イメージング)。(3) LPS 20 µg膝関節内注射による単関節炎モデル (C57BL/6N mice、24時間後イメージング)。
PET/CTイメージングと解析: 各モデルマウスに[¹⁸F]4FN 10-15 MBqを静脈内投与し、60分間のダイナミックスキャンを実施した。PET/CT画像から関心領域を設定し、%ID/g (投与量あたりの組織内放射能濃度) および標準化摂取量 (SUV) を定量した。統計解析には、one-way ANOVA、two-way ANOVA、t検定、および相関分析を用いた。