- 著者: D. I. Gabrilovich, S. Ostrand-Rosenberg, V. Bronte
- Corresponding author: D. I. Gabrilovich (H. Lee Moffitt Cancer Center and Research Institute, Tampa, FL, USA)
- 雑誌: Nature Reviews Immunology
- 発行年: 2012
- Epub日: 2012-04-01
- Article種別: Review
- PMID: 22437938
背景
ヒト体内で最も豊富な有核造血細胞である骨髄系細胞は、単一の統一システムとして機能するにもかかわらず、がん研究では個別の細胞集団として独立して検討されることが多く、統合的理解が妨げられていた。終末分化した3つの骨髄系細胞群(マクロファージ・樹状細胞・顆粒球)は自然免疫・適応免疫の正常機能に不可欠であり、腫瘍の発生・進展・転移促進における役割は100年以上前から認識されている。一方、骨髄系未熟細胞(MDSC:myeloid-derived suppressor cells)の概念は近年確立されたが (NatRevImmunol et al. Basic 2012)、腫瘍が骨髄系細胞全体を免疫抑制性へ転換する機序の包括的理解は不足していた。
Qian & Pollard (Cell 2010) はマクロファージの多様性と腫瘍進展の関連を示し、Biswas & Mantovani (Nature Immunol. 2010) はマクロファージの可塑性と免疫調節の枠組みを提唱した。Gabrilovich & Nagaraj (NatRevImmunol et al. Basic 2009) はMDSCの免疫抑制機構に関する先行総説を発表し、MDSCという概念の重要性を示したが、骨髄系細胞間の協調制御という視点は欠けていた。Fridlender ら (CancerCell et al. Basic 2009) はTGFβによる腫瘍関連好中球 (TAN) のN2極性化を発見したが、顆粒球・マクロファージ・DCとの統合的な理解は示されていなかった。DC機能不全・TAM極性化・顆粒球変化・MDSC蓄積を貫く統一的メカニズムと治療標的の体系化は未解明であり、これらが「単一の統合システム」として協調制御されるという視点は不足していた。本総説はこの空白を埋め、骨髄系細胞を「単一の統合システム」として腫瘍免疫学的に再定義することを目的とした。
目的
腫瘍微小環境が骨髄系細胞の分化・機能をいかに歪め、腫瘍免疫回避を達成するかを、(1) 終末分化骨髄系細胞(DC・マクロファージ・顆粒球)への影響、(2) MDSCの特性と免疫抑制機構、(3) 腫瘍が骨髄系細胞を制御する分子機序(転写因子ネットワーク)、(4) 治療的標的化の6つの戦略として体系化して概観する。
結果
腫瘍による樹状細胞機能不全: 腫瘍担癌宿主において樹状細胞(DC)の異常は20年以上前から知られており、乳癌・NSCLC・膵臓癌・子宮頸癌・肝細胞癌・前立腺癌・神経膠腫の7癌種以上の臨床試験が成熟DCの減少と機能不全を確認している (Table 1)。主要因は「異常な骨髄球産生」で、①成熟機能的DCの産生減少、②腫瘍部位への未熟DC集積増加、③未熟骨髄系細胞の産生増加という3つの帰結を生む。腫瘍微小環境の特徴である低酸素・細胞外アデノシン増加・乳酸蓄積・pH低下はDC遊走と機能を強く障害し、HIF1α (hypoxia-inducible factor 1α) がアデノシン受容体A2BをDCで誘導してTH2細胞分化を促進し抗腫瘍TH1応答を減弱させる。また脂質蓄積(マクロファージスカベンジャー受容体I/IIの上昇)が溶性抗原処理と腫瘍特異的T細胞刺激を障害する。IDO (indoleamine 2,3-dioxygenase) 発現DC(主にpDC)は腫瘍担癌マウスと一部の患者で蓄積し、L-トリプトファン枯渇によるT細胞増殖抑制と制御性T細胞活性増強を通じて免疫抑制を媒介する。IDOによりL-キヌレニン/トリプトファン比が約2-4倍上昇し、T細胞増殖は50%以上阻害されることが複数のin vitro試験で示されている (Fig 5)。
腫瘍関連マクロファージ(TAM)の極性化と腫瘍促進機能: TAMはM2様マクロファージとして腫瘍血管新生・腫瘍細胞浸潤・転移促進・化学療法抵抗性付与など多彩な非免疫的機序を持ち、その高密度は多くのがんで予後不良と相関する。ホジキンリンパ腫ではTAM特異的遺伝子シグネチャーが一次治療失敗と直接関連し (Steidl 2010、n=130、p<0.001)、TAM高密度群では5年無増悪生存率が約20%低下した。腫瘍担癌マウスの乳腺腺癌ではTH2細胞が産生するIL-4がTAMをM2表現型に極性化させ、TAMが産生するEGF (epidermal growth factor) が悪性乳腺上皮細胞のEGFR経路を介して浸潤・遊走・転移を促進した。CCL22産生による制御性T細胞誘引、PGE2・TGFβ産生による免疫抑制、PDL1発現によるT細胞アポトーシス誘導、ARG1産生によるL-アルギニン枯渇 (T細胞増殖阻止)が主要抑制機構である。単一腫瘍内にもLy6C (lymphocyte antigen 6C)/MHC-II/CX3CR1/CCR2/CD62L発現に基づく7つのTAMサブセットが同定されており (マウス乳腺癌・肺腺癌)、低酸素部位にTIE2 (アンギオポイエチン受容体)高発現の血管新生促進サブセットが局在し、浸潤先端にWnt7b (Wingless-related integration site family member 7b)高発現サブセットが集積する。腫瘍担癌B細胞がTAMをIL-10産生M2表現型へ極性化させ、自己抗体がFc受容体経由で白血球を腫瘍促進表現型へ誘導する経路も同定された。
顆粒球・好中球のN1/N2二元極性化: 腫瘍への好中球浸潤は独立した予後因子となりうるが、TGFβが好中球を「N2」(腫瘍促進)表現型へ誘導し、TGFβ阻害は「N1」(抗腫瘍)表現型を誘導してCD8+ T細胞活性を増大させた。TGFβ誘導N2好中球ではARG1発現が対照好中球と比較して約2-3倍増加し、TNF/CCL3/ICAM1は50%以上低下することが特徴で (Fig 3)、N2好中球は免疫刺激能を大幅に失う。腫瘍由来G-CSFは骨髄から好中球を肺の転移前ニッチへ動員してその後の転移形成を支持し、プロキネティシン2 (prokineticin 2)が腫瘍細胞遊走を助ける。動員好中球はMMP9 (matrix metalloproteinase 9)を介してVEGF誘導と腫瘍血管新生スイッチを促進し、エラスターゼはIRS1 (インスリン受容体基質1、insulin receptor substrate 1)を分解してPDGF (血小板由来増殖因子)受容体—PI3K経路を活性化し腫瘍細胞増殖を促進する。一方、in vitro好中球は腫瘍細胞を直接溶解でき、N1/N2の二元極性化概念が血中IL-10産生について完全には再現されない例も報告されている。
MDSCの特性と免疫抑制機構の4分類: MDSCは元々マウスでCD11b+GR1+共陽性細胞として同定され、現在は単球系MDSC (M-MDSC) と多形核MDSC (PMN-MDSC、顆粒球系MDSC) の2亜集団が確立されている (Table 1)。ヒトではLIN (lineage marker、系列抗原陽性)−HLA-DR−CD33+CD11b+細胞が神経膠芽腫・乳癌・結腸癌・肺癌・腎癌患者血中で単離され、その頻度が乳癌・大腸癌では腫瘍量・予後不良と相関した。複数の臨床コホートでMDSC頻度は担癌患者の末梢血において健常対照の平均3-5倍増加しており (n=30-100、p<0.05)、腫瘍ステージが進行するにつれ増加する傾向が示された。PMN-MDSCはROS産生による抗原特異的CD8+ T細胞抑制が主要機構で、per cell基準では単球系MDSCより抑制力が約3-5倍低い。単球系MDSCはARG1とiNOS (誘導型一酸化窒素合成酵素、inducible nitric oxide synthase)を高発現し、活性酸素・窒素種(過酸化亜硝酸塩、H2O2)産生で複数の分子ブロックをT細胞に引き起こす。免疫抑制機構は4分類される: ①リンパ球必須栄養素 (L-アルギニン・L-システイン)の枯渇→TCRζ鎖の下制御・T細胞増殖50-70%停止、②酸化的ストレス (ROS・窒素種)によるTCRニトロ化と信号障害、③リンパ球トラフィッキング/生存の障害 (ADAM17 (A disintegrin and metalloproteinase 17)によるCD62L切断、ペルオキシニトライトによるCCL2変性→エフェクターT細胞の腫瘍コアへの遊走阻害、ガレクチン9—TIM3 (T cell immunoglobulin and mucin-domain 3)経路によるT細胞アポトーシス)、④制御性T細胞の誘導・拡大 (CD40-CD40L接触、IFNγ/IL-10/TGFβ産生を介した自然制御性T細胞拡大と誘導制御性T細胞への変換)。MDSCはさらにIL-10産生を介してマクロファージのIL-12産生を減弱させM2極性化を促進し、IL-10でDCのTLR誘導性IL-12を抑制する (Fig 4)。
転写因子ネットワークと腫瘍由来因子: 腫瘍細胞と腫瘍関連間質細胞はGM-CSF・G-CSF・M-CSF・SCF (幹細胞因子、stem cell factor)・VEGF・IL-3などで骨髄球産生を亢進させ成熟を阻害する。STAT3が中心的役割を担い、BCL-XL・MYC・cyclin D1・survivinを上方制御して骨髄細胞の増殖・抗アポトーシスを促進すると同時に、S100A8/S100A9を介するDC分化阻害とMDSC蓄積を促進する。STAT3はNADPH酸化酵素構成要素p47phox (NCF1; neutrophil cytosol factor 1)・gp91phox (NADPH酸化酵素触媒サブユニット)を上方制御しROS産生を2-4倍増加させMDSC抑制能を高める (Fig 5)。C/EBPβ (CCAAT/enhancer-binding protein-β)は骨髄前駆細胞のMDSC分化を制御する重要因子で、IL-1β/IL-6/S100A8/S100A9などの炎症性サイトカインで誘導されSTAT3の下流で機能する。STAT6はIL-4/IL-13誘導によるTAMのARG1発現とM2分化においてヒストンH3K27脱メチル化酵素を介したエピジェネティック調節で役割を担う。NF-κBはTLR4—MYD88経路経由でMDSCの炎症駆動型免疫抑制能を制御し、STAT3・NF-κBの両方を阻害するアプローチが複数の骨髄系異常を同時に是正できる可能性がある。
MDSCの腫瘍進展における二段階モデルと治療標的: 自発腫瘍モデルの検討から二段階モデルが提唱された: 第一段階として未成熟骨髄系細胞が腫瘍部位へ普遍的に動員されるが(初期は免疫抑制なし)、第二段階として腫瘍由来可溶性因子によるSTAT3などを介した活性化がMDSCを免疫抑制性に転換する。Krasがん遺伝子駆動膵臓癌マウスでは骨髄系細胞動員の連続的波が認められ、局所IL-6/IL-11産生→STAT3活性化→腫瘍促進のループが形成される。治療的標的化は6つの戦略として整理された (Table 2): ①リンパ球増殖阻害分子の標的化(ARG1阻害・ROS消去剤・COX2/PGE2阻害など)、②骨髄前駆からのMDSC産生抑制またはMDSCのアポトーシス誘導 (VEGFR遮断・SCF (幹細胞因子)受容体阻害など)、③MDSCの有能APC (抗原提示細胞)への成熟促進 (レチノイン酸誘導体・ビタミンD3・IL-13Rα2標的化)、④骨髄から末梢リンパ器官・腫瘍へのMDSC動員阻止(CCR2阻害・CXCR2遮断)、⑤TAMのM1様マクロファージへの再極性化または除去(CSF1R阻害・PPARγリガンド)、⑥DCとマクロファージの抗原提示能回復(STAT3阻害・sildenafil等のPDE5阻害でMDSC機能抑制→T細胞活性化増強)。これらの共通標的化が複数の骨髄系細胞異常を同時に正常化できる可能性を本総説は強調した。
考察/結論
① 先行研究との違い: 従来研究ではDC・マクロファージ・顆粒球・MDSCを個別に検討し、統合的視点が欠けていた。Fridlender ら (CancerCell et al. Basic 2009) のN1/N2二元論はTAN研究に枠組みを提供したが、骨髄系細胞の横断的連携と共通制御機構は本総説で初めて体系的に論じられた。個々の細胞集団に特有の抑制経路に加え、STAT3・NF-κB・S100A8/S100A9などの共通分子を介した「統合的骨髄系調節システム」という視点は、これまでの断片的な免疫細胞研究と根本的に異なる。
② 新規性: 腫瘍による骨髄系制御を「単一の統合システム」として再定義し、共通転写因子経路(STAT3・C/EBPβ・NF-κB)が終末分化骨髄系細胞とMDSCの免疫抑制活性を横断的に制御するという新規な概念フレームワークを提唱した。さらにMDSCの「二段階モデル」(動員→活性化→免疫抑制獲得)と、腫瘍微小環境の「マクロ環境」概念(遠隔の骨髄・脾臓まで含む腫瘍駆動型全身制御)も新規観察である。
③ 臨床応用: 共通標的化戦略により複数の骨髄系細胞異常を同時に是正できる可能性が提唱され、STAT3阻害・ARG1阻害・PDE5阻害・COX2/PGE2阻害などが免疫チェックポイント阻害薬との組み合わせに有望と示唆されている。本総説の骨髄系細胞6標的戦略は、現代の抗MDSCアプローチの臨床的意義をいち早く整理した点で癌免疫療法の臨床応用に直接的な指針を与えた。
④ 残された課題: 異常骨髄球産生と病的骨髄系細胞の活性化が時間的にいつから始まるか(腫瘍進展の前か後か)は未解明であり、今後の研究で精緻な腫瘍モデルと技術が必要である。また腫瘍種・疾患段階によるMDSCサブセット頻度の変動の意味、ヒトと動物モデルの差異、治療標的化の最適な組み合わせと投与タイミングも今後の検討課題として残されている。
方法
研究デザイン: PubMed/MEDLINEを主要データベースとして文献を系統的に収集した非系統的レビュー。主に2000年代後半〜2012年時点の基礎・前臨床・臨床データ(マウス移植腫瘍・自発腫瘍モデル・ヒト患者コホート・ex vivo試験)を統合し、骨髄系細胞の腫瘍微小環境における役割を体系化した。引用文献数 >170件。
主要レビュー範囲: ①DC機能不全(7以上の癌種の臨床データ含む)、②TAM/M1/M2分類と腫瘍促進メカニズム(マウス移植腫瘍・自発腫瘍モデル・ヒト組織データ)、③好中球のN1/N2分極(TGFβ誘導モデル)、④2種のMDSCサブセット(M-MDSC・PMN-MDSC)の特性と免疫抑制メカニズムの4分類、⑤共通転写因子(STAT3/C/EBPβ/STAT1/STAT6/NF-κB)による骨髄系分化制御、⑥6カテゴリの治療標的戦略 (Table 2)。
細胞マーカー定義: Table 1に各骨髄系細胞集団の表現型定義を整理。マウスMDSC = CD11b+GR1+; M-MDSC = CD11b+Ly6G−Ly6C高発現; PMN-MDSC = CD11b+Ly6G+Ly6C低発現。ヒトMDSC = LIN (系列マーカー陽性)−HLA-DR−CD33+CD11b+。本総説が引用する原著試験の統計手法にはCox比例ハザード回帰 (Cox regression)・Kaplan-Meier法・Log-rank検定・Student’s t-test・Mann-Whitney U検定・一元配置ANOVAが含まれ、免疫抑制アッセイは増殖率の%阻害を主要指標とする場合が多い。
エビデンスの限界: 本総説はナラティブレビューであり個別のメタ解析は未実施。マウスモデルとヒト試験間の差異、担癌条件の違いが結論の外挿を制限することを著者は明記している。