- 著者: Estelle Carminita, Lydie Crescence, Nicolas Brouilly, Herve Altie, Christophe Dubois, Laurence Panicot-Dubois
- Corresponding author: Christophe Dubois (Aix Marseille Univ, INSERM 1263, INRAE 1260, C2VN, Marseille, France)
- 雑誌: PNAS
- 発行年: 2021
- Epub日: 2021-07-20
- Article種別: Original Article
- PMID: 34260389
背景
血栓症はヒトの主要な死亡原因の一つであり、虚血性脳卒中、心筋梗塞、肺塞栓症などが一般的な血栓性合併症である。従来、血小板が血栓形成の主要な駆動因子とされてきたが、近年、好中球も動脈および静脈血栓形成において重要な役割を果たすことが示されている。好中球は血管傷害部位に最初に集積する細胞であり、アデノシン三リン酸 (ATP) によって活性化され、その表面に組織因子 (TF) を生成し、凝固カスケードの活性化を介して血栓形成を誘導することが報告されている (Darbousset et al. 2012 Blood)。
活性化された好中球は、深部静脈血栓症 (DVT) モデルにおいても、好中球エラスターゼ (NE) の分泌を介してTF経路インヒビター (TFPI) を分解し、傷害部位でのTF活性を維持することで重要な役割を果たすことが示されている (Brill et al. 2012 J Thromb Haemost, Fuchs et al. 2012 Arterioscler Thromb Vasc Biol)。活性化された好中球は、好中球細胞外トラップ (NETs) を産生することが知られている。NETosisは、活性酸素種 (ROS) 依存性および非依存性の細胞内経路を介してDNAの脱凝縮を引き起こし、DNAおよびヒストン、ミエロペルオキシダーゼ (MPO)、好中球エラスターゼなどの顆粒タンパク質を細胞外に放出する現象である (Papayannopoulos et al. 2010 J Cell Biol)。NETsは、血小板凝集および凝固カスケードの活性化に多岐にわたる方法で関与することがin vitro研究で示されている。例えば、NETsは血小板、赤血球、およびフィブリノゲン、フィブロネクチン、フォン・ヴィルブランド因子 (vWF) などの血小板接着分子の足場を形成する (Fuchs et al. 2010 Proc Natl Acad Sci U S A)。さらに、ヒストンH3およびH4などのヒストンは、フィブリノゲン (Fuchs et al. 2011 Blood) やToll様受容体 (TLR) 2および4 (Xu et al. 2009 Nat Med, Semeraro et al. 2011 Blood) を介して血小板と相互作用し、血小板凝集およびトロンビン生成を引き起こすことが報告されている。また、NE、MPO、カテプシンGなどの好中球セリンプロテアーゼは、TFPIのプロテオリシスを介して外因系凝固経路を、FXIIの結合および活性化を介して内因系凝固経路を増強する (Massberg et al. 2010 Nat Med, von Brühl et al. 2012 J Exp Med)。
in vivoでは、NETsと活性化好中球を区別することは困難であるが、デオキシリボヌクレアーゼI (DNase-I) を用いた実験は、NETsが血栓形成に役割を果たすという主要な概念実証を提供してきた。深部静脈血栓症 (DVT) モデルでは、100 UのDNase-Iの注射が血栓サイズを有意に減少させることが報告されている (von Brühl et al. 2012 J Exp Med)。DNase-IはNETsの骨格DNAを分解する酵素として、NETs依存性血栓の治療候補として臨床試験 (嚢胞性線維症に対するPulmozyme、COVID-19に対する試験) が行われている。しかし、傷害後血栓形成in vivoにおけるNETsの実際の形成とその役割については、直接的な電子顕微鏡による証拠が不足しているという知識ギャップが残されている。特に、急性血栓形成におけるNETsの関与は未解明な点が多く、DNase-Iの抗血栓効果がNETs分解以外の機序による可能性も検討する必要がある。本研究では、レーザー誘導血管傷害マウスcremasterモデルと高解像度電子顕微鏡を用いて、NETs形成を直接検証し、DNase-Iの抗血栓効果の作用機序を解明することを目的とした。
目的
本研究の目的は、レーザー誘導血管傷害モデルにおけるNETsの血栓形成への寄与を詳細に解明することである。具体的には、以下の点を検証する。
- マウスcremaster筋のレーザー誘導血管傷害モデルにおいて、傷害部位における好中球の蓄積とNETs形成を、生体内蛍光顕微鏡、透過型電子顕微鏡 (TEM)、およびserial block-face走査型電子顕微鏡 (SBF-SEM) を用いて直接的に検証する。
- DNase-Iの前投与が血栓形成、好中球蓄積、および好中球活性化に与える影響を定量的に評価する。
- DNase-Iの抗血栓効果が、NETsの分解によるものか、あるいは別の酵素活性を介したものかを分子レベルで解明する。
- ATP/ADPおよびアピラーゼ、アデノシン受容体拮抗薬を用いた実験により、DNase-Iの作用機序を詳細に解析する。
- 生理学的急性血栓形成におけるNETsの非必須性を確立し、DNase-Iの臨床応用における作用機序の再評価を促す。
これらの目的を達成することで、急性血栓形成におけるNETsの役割とDNase-Iの抗血栓作用の真のメカニズムに関する理解を深めることを目指す。
結果
DNase-Iによる血栓形成および好中球動員抑制: レーザー誘導血管傷害cremasterモデルにおいて、DNase-I (100 U/mouse) の前投与は、血小板血栓形成を有意に抑制した。生体内蛍光顕微鏡による観察では、DNase-I投与群 (n=22 thrombi in 3 mice) において、血小板蓄積が最大65%減少し (Fig 1B, C)、フィブリン生成も最大52%減少した (Fig 1D, E)。さらに、DNase-Iは傷害部位への好中球蓄積を最大89%抑制し (Fig 2B, C)、好中球エラスターゼ (NE) 分泌も最大53%減少させた (Fig 2E, F)。これらの結果は、DNase-Iが血栓形成、好中球蓄積、および好中球活性化を強く阻害することを示唆した。対照群 (NaCl, n=29 thrombi in 3 mice) と比較して、DNase-I群では血小板蓄積の曲線下面積 (AUC) が有意に低く (p<0.05)、フィブリン生成のAUCも有意に減少した (p<0.01)。好中球蓄積のAUCはDNase-I群で極めて有意に減少し (p<0.0001)、NE活性のAUCも有意な減少を示した (p<0.001)。
急性血栓形成におけるNETs非形成の電子顕微鏡による直接証明: 生体内蛍光顕微鏡観察では、レーザー誘導血管傷害部位に血小板血栓が形成され、好中球が迅速に蓄積することが確認された。しかし、TEMおよびSBF-SEMを用いた高解像度電子顕微鏡解析では、傷害部位に蓄積した好中球 (n=数細胞) がNETs (染色質放出やシトルリン化ヒストンH3陽性構造) を形成していないことが直接的に証明された (Fig 5B, C)。蓄積した好中球は細胞膜が intact であり、細胞外DNA線維は観察されなかった。対照的に、in vitroでPAF (25 μM) やPMA (50 nM) で刺激した好中球ではNETs形成が明確に観察された (Fig 3A)。これらの結果は、急性レーザー誘導血管傷害モデルにおける血栓形成には好中球が関与するものの、NETsの形成は必須ではないことを強く示唆した。また、ATP (25 μM) やADPによるin vitroでの好中球刺激では、PAD4やCitH3の発現は誘導されたものの、NETosisは観察されなかった (Fig 3B, C, Fig 4A-J)。これはCitH3やPAD4がNETosisの特異的マーカーではなく、好中球活性化のマーカーである可能性を示唆している。ATP刺激好中球 (n=3 replicates) において、CitH3の発現は有意に上昇し (p<0.05)、PAD4の発現も有意に増加した (p<0.01)。
DNase-IによるATP/ADP加水分解とアデノシン生成機序の同定: DNase-Iの抗血栓効果がNETs分解とは異なる機序による可能性を探るため、DNase-IのATPおよびADPに対する酵素活性を評価した。DNase-I (25 U) はATPを最大32% (Fig 6A)、ADPを最大17%加水分解し (Fig 6B)、アデノシンを生成することが示された (Fig 6C)。傷害部位ではATPおよびADPが好中球および血小板の主要なアゴニストとして作用するため、DNase-Iによるこれらのヌクレオチドの枯渇とアデノシン生成が抗血栓効果の分子基盤であると推測された。in vitro実験では、DNase-Iの存在下でATP (20 μM) による好中球のCD11b発現が有意に抑制され (Fig 6G, H, p<0.05)、ADP (10 μM) による血小板凝集もマウスPRP (n=3 replicates) で最大49% (Fig 6D)、ヒトPRP (n=3 replicates) で30% (Fig 6E)、ヒト洗浄血小板 (n=3 replicates) で52%抑制された (Fig 6F)。アデノシン生成はDNase-I添加群で最大28%増加した (Fig 6C)。
アピラーゼおよびP2Y12ノックアウトマウスによる機序の検証: ATPおよびADPのin vivoでの血栓形成における役割をさらに確認するため、ATP/ADP加水分解酵素であるアピラーゼをWTマウスに投与した。アピラーゼ (10 U/mouse) の前投与は、DNase-Iと同様に血小板蓄積を有意に抑制した (Fig 7A, B, p<0.001)。これは、ATP/ADPの加水分解が血栓形成抑制に十分であることを示している。さらに、P2Y12ノックアウト (KO) マウスを用いた実験では、P2Y12 KOマウス単独でも血小板蓄積が減少したが、DNase-Iを併用することで血栓形成がほぼ完全に消失した (Fig 7C, D, p<0.0001)。P2Y12 KOマウス (n=38 thrombi in 3 mice) とWTマウス (n=45 thrombi in 4 mice) を比較すると、P2Y12 KOマウスで血小板蓄積が有意に減少した (p<0.0001)。さらに、P2Y12 KOマウスにDNase-Iを投与した場合 (n=32 thrombi in 3 mice) は、P2Y12 KOマウス単独と比較して血栓形成がさらに顕著に抑制された (p<0.0001)。この結果は、DNase-IがATP依存性の好中球活性化とATP/ADP依存性の血小板活性化の両方を抑制することを示唆している。
考察/結論
本研究は、マウスcremaster筋のレーザー誘導血管傷害モデルと高解像度電子顕微鏡を用いて、急性血栓形成in vivoにおいて好中球は傷害部位に蓄積するものの、NETsは形成しないことを電子顕微鏡レベルで直接証明した点で新規性がある。これまで、DNase-Iの抗血栓効果はNETs分解に起因すると考えられてきたが、本研究ではDNase-Iの抗血栓効果がNETs分解ではなく、ATP/ADP加水分解を介したアデノシン生成によるものであることを確立した。これは、DNase-Iの作用機序に関する従来の理解と異なり、その再解釈を促す重要な知見である。
本研究で初めて、DNase-IがATPおよびADPをアデノシンに加水分解する追加酵素活性を有し、この経路が血小板および好中球の活性化抑制を介して抗血栓作用を発揮することを明らかにした。この発見は、NETs依存性血栓症仮説 (Fuchs et al. 2010 Proc Natl Acad Sci U S A, Laridan et al. 2017 Ann Neurolなど) の再評価を必要とさせるパラダイムシフト的な貢献である。PAD4やCitH3がNETosisの特異的マーカーではなく、好中球活性化のマーカーであるという我々の知見も、NETs研究における重要な知識ギャップを埋めるものである。
本知見は、DNase-I (Pulmozyme, ドルナーゼアルファ) の臨床応用における作用機序の再解釈に直結する。従来、NETs分解が主要な作用機序とされてきたが、ATP/ADP分解によるアデノシン生成機序が主要な役割を果たす可能性が示唆された。これは、COVID-19関連血栓症に対するDNase-Iの臨床試験の作用機序再考にもつながる。さらに、アピラーゼやアデノシン受容体アゴニストを標的とした新規抗血栓薬の合理的な設計に向けた理論的基盤を確立する臨床的意義がある。また、血栓症の文脈特異性、すなわちレーザー急性傷害、深部静脈血栓症 (DVT) の鬱滞、敗血症など、異なる病態におけるNETs形成の頻度を認識することの重要性も示唆される。
残された課題として、本研究で用いたcremaster筋レーザー傷害モデルの生理学的代表性が限定的である点が挙げられる。深部静脈血栓症 (Virchowの三徴、鬱滞) との関連性や、COVID-19や敗血症におけるNETs依存性血栓症への外挿可能性は未検証である。また、DNase-IのATP/ADP加水分解活性における特定の活性部位の同定は未完であり、ヒト血栓における本機序の検証も不足している。今後の検討課題として、これらの限界を克服し、本研究で同定されたDNase-Iの新規作用機序の臨床的妥当性をさらに検証する必要がある。
方法
動物モデルと生体内イメージング: C57BL/6Jマウス (5~9週齢) を使用し、cremaster筋のレーザー誘導血管傷害モデルを確立した。麻酔下で気管挿管および頸静脈カニューレを挿入し、体温を37°Cに維持した。cremaster筋を露出させ、恒温バッファーで灌流した。血管傷害は、532 nmのレーザー (MicroPoint, Photonics Instruments) を顕微鏡対物レンズを通して血管壁に照射することで誘導した。血栓形成は、抗CD41 (血小板、X649 DyLight 649)、抗Ly6G (好中球、Ly6G-PE)、および好中球エラスターゼ活性プローブ (BODIPY-FL labeled DQ-elastin) を用いた生体内蛍光顕微鏡 (Olympus BX51WI + CCDカメラ) でリアルタイムに観察した。DNase-I (Pulmozyme, 100 U/mouse i.v.) またはアピラーゼ (10 U/mouse i.v.) は、傷害の5~10分前に静脈内投与した。
電子顕微鏡解析: レーザー誘導血栓部位の好中球の形態およびDNA放出を検証するため、透過型電子顕微鏡 (TEM) およびserial block-face走査型電子顕微鏡 (SBF-SEM) を用いた。TEMでは、血栓を形成したcremaster筋を灌流固定後、OsO4で後固定し、エタノールで脱水後、Epon 812樹脂に包埋した。超薄切片 (60 nm) を作製し、酢酸ウラニルで染色後、JEM 1400 JEOL透過型電子顕微鏡で観察した。SBF-SEMでは、血栓を形成したcremaster筋をグルタルアルデヒドおよびオスミウム酸で固定し、Durcupan樹脂に包埋した。90 nm厚の連続切片をTeneo VS SEM (Thermo Fisher Scientific) で取得し、3D画像を再構築した。
in vitro実験:
- 好中球の単離と活性化: マウスおよびヒトの多形核好中球 (PMNs) を、それぞれ骨髄および全血から磁気ビーズ法で単離した。PMNsはTNF-α (2 ng/mL) でプライミング後、25 μM血小板活性化因子 (PAF)、50 nM PMA、またはATP/ADPで刺激し、NETs形成、CD11b発現、好中球エラスターゼ分泌などを評価した。
- NETs形成の評価: 接着させたPMNsを刺激後、4%パラホルムアルデヒドで固定し、抗シトルリン化ヒストンH3 (CitH3) 抗体または抗PAD4抗体とHoechst 33342 (DNA染色) を用いて免疫蛍光染色を行った。NETs形成は、DNAとCitH3またはNEの共局在として評価した。
- ATP/ADP加水分解の評価: DNase-I (25 U) またはアピラーゼ (3.5 U) とATPまたはADPをインキュベートし、高速液体クロマトグラフィー (HPLC) および質量分析によりATP、ADP、アデノシンの濃度を測定した。
- 血小板凝集試験: マウスおよびヒトの多血小板血漿 (PRP) またはヒト洗浄血小板を用い、ADP (10 μM) 刺激による血小板凝集をアグレゴメーターで測定した。DNase-I (25 U) またはアピラーゼの存在下での影響を評価した。
- 好中球活性化の評価: ATP (20 μM) 刺激による好中球のCD11b発現をフローサイトメトリーで測定し、DNase-Iの影響を評価した。
統計解析: in vitro実験では、少なくとも3回の独立した実験を行い、統計的有意差は両側不対Studentのt検定で評価した。in vivo実験では、不対Mann-Whitney U検定を用いた。P値が0.05未満を有意とした。