• 著者: Ashley B. Strickland, Yanli Chen, Donglei Sun, Meiqing Shi
  • Corresponding author: Meiqing Shi (Division of Immunology, Virginia-Maryland College of Veterinary Medicine, University of Maryland, College Park, MD, USA)
  • 雑誌: iScience
  • 発行年: 2023
  • Epub日: 2023-04-20
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 37216116

背景

環境中に広く存在する莢膜性担子菌酵母である Cryptococcus neoformans (C. neoformans) は、胞子または乾燥酵母菌体の吸入により肺感染を成立させる。特にHIV/AIDS患者などの免疫抑制宿主では、肺から血行性に中枢神経系へ播種し、致死的なクリプトコッカス髄膜脳炎を引き起こす。世界的には年間22万件超のクリプトコッカス髄膜脳炎発症と18万件を超える死亡が推定されており、抗真菌薬治療下でも診断後数ヶ月以内に約20%の患者が死亡する重大な感染症である Rajasingham et al. Lancet Infect Dis 2017。肺は感染の起点であり、肺内での早期封じ込めが全身播種防止の鍵となるが、そのメカニズムは未だ完全に理解されていない。

肺常在マクロファージは、肺胞マクロファージ (AM; SiglecF+CD11c+CD64+) と間質マクロファージ (IM; CD11b+CX3CR1+MerTK+CD64+) の2種類で構成され、C. neoformans との最初の接触細胞として機能する Nelson et al. Front Cell Infect Microbiol 2020。AMは早期の研究で C. neoformans の「トロイの木馬」として全身播種に関与することが報告されていた Walsh et al. PLoS Pathog 2019。しかし、IMの C. neoformans 感染時の役割、動態、および極性化については、その分離の困難さから Liegeois et al. Cell Immunol 2018 十分に解明されていなかった。近年、IMの異なるサブセットが同定され、病原体刺激に対する応答がAMとは異なる可能性が示唆されているが Kopf et al. NatImmunol 2015、微生物感染に対するIMの応答は依然として不明な点が多い Chakarov et al. Science 2019。特に、C. neoformans 感染におけるIMの機能的役割、特に真菌クリアランスや増殖への寄与については、知識のギャップが残されている。先行研究では、C. neoformans の分泌タンパク質CPL1がIMの代替活性化を誘導し、貪食細胞内での真菌増殖を促進することが示唆されているが Dang et al. Nature 2022、AMとIMの双方の極性化状態と、それらが真菌の宿主内増殖に与える影響を包括的に評価した研究は不足している。本研究は、これらの未解明な点を明らかにし、肺マクロファージのサブセットがクリプトコッカス感染症の病態にどのように寄与するかを解明することを目指す。

目的

本研究の目的は、Cryptococcus neoformans H99株(病原性野生型)によるC57BL/6マウス肺感染モデルを用いて、肺胞マクロファージ(AM)および間質マクロファージ(IM)の感染後の細胞数的動態と極性化状態を経時的に詳細に解析することである。さらに、CSF2遺伝子欠損マウス(AM選択的除去)またはCSF1R阻害薬PLX5622(IM選択的除去)を用いた機能実験により、各マクロファージ集団が肺内真菌量の制御に果たす役割を定量的に解明することを目的とする。具体的には、AMとIMが真菌を取り込み、代替活性化(M2様極性化)状態に移行するかどうか、そしてこれらのマクロファージ集団が真菌の増殖を促進する宿主ニッチとして機能するかどうかを検証する。最終的に、これらの知見がクリプトコッカス感染症の新たな治療戦略開発に繋がる可能性を探る。

結果

C. neoformans感染後のCD68hiマクロファージ集団の劇的拡大: C. neoformans感染後の肺において、CD68hiマクロファージ(MerTK+CD64+F4/80+)が感染後1週以内に急激に増加し、CD45+白血球に占める割合が有意に上昇した(Figure 1C, 1D)。CD68hi細胞数は感染後3週間(致死前)にかけて継続して拡大し、感染前の約10倍に達した。ナイーブ肺ではCD68hi細胞の約88%をAMが、6%未満をIMが占めていたが、感染1週後にはIMが78%超、AMが17%未満に逆転した(Figure 3A)。IMの実数は感染1週後に急増し(最大3×10^6細胞レベル)、感染3週後まで拡大が継続した(Figure 3B)。このことは、クリプトコッカス感染においてマクロファージが重要な役割を果たす可能性を示唆している。

IM拡大にCSF1・IL-4が関与し、CCR2・Nr4a1依存性がある: ELISA解析では、肺内CSF1、IL-4、IL-13濃度が感染後に有意に上昇した(Figure 3C)。CSF2レベルも増加傾向を示した。抗CSF1R抗体投与(n=4 mice)はIM数を有意に抑制したが、AM数には影響せず、CSF1によるIM選択的増殖/生存促進が確認された(Figure S1)。CCR2-/-マウス(Ly6Chi単球欠損)およびNr4a1-/-マウス(Ly6Clo単球欠損)では、野生型と比較してIM数が有意に低下し(各n=9-11 mice)、単球由来の補充がIM拡大に貢献することが示された(Figure 3E)。この結果は、IMの拡大が複数のサイトカインと単球補充経路に依存することを示している。

AM・IMの双方がC. neoformansを貪食する: GFP発現C. neoformansを用いた実験では、感染1週後の肺でGFP+真菌と会合するCD68hi細胞の割合が約60%に達した(Figure 4A, 4B)。BAL由来のSiglecF+AMはGFP+C. neoformansを感染後15分以内に内在化し始め、24時間後には約30%のAMが1つ以上の真菌細胞を内包し、平均真菌数は2-3個に達した(Figure 4D, 4E)。CX3CR1+IMも全肺切片でC. neoformansを内包することが免疫組織化学で確認された(Figure 4F)。これらのデータは、AMとIMの両方が感染初期に真菌を取り込む主要な細胞であることを示唆している。

AM・IMの双方が代替活性化(M2様)状態に移行、IMはより高度に極性化: フローサイトメトリー(n=5-8 mice/時点)では、感染AMおよびIM双方でArg1+細胞割合が有意に増加し、iNOS+細胞割合が低下した(Figure 5A)。iNOS/Arg1比はAM・IM両者で感染後に有意に低下した(Figure 5C)。IMはAMよりArg1 MFIが有意に高く(IMs > AMs, p<0.0001)、感染1週後の肺全体のArg1+白血球の約61%、iNOS+白血球の約45%をIMが占めた(Figure 5D, 5E)。CD206(Mrc1)、Ym1(Chi3l3)、RELMα(Retnla)の発現も感染AM・IMで上昇した。肺切片の免疫組織化学ではCD68+Arg1+Ym1+細胞の共存が確認された(Figure 5F)。RNA-seqでもArg1、Mrc1、Chi3l3、Retnla、Mgl2、Ccl17、Ccl22等のM2関連遺伝子群の有意な上昇と、Nos2、Il12b、Tnf、Cxcl9/10等のM1関連遺伝子の限定的誘導が確認された。組織修復・細胞外マトリックスリモデリング関連遺伝子(Mmp12、Fn1、Spp1)も上昇した。これらの結果は、クリプトコッカス感染が肺マクロファージのM2極性化を誘導し、特にIMがより顕著なM2様活性化を示すことを裏付けている。

AM除去は肺真菌量を低下させ生存期間を延長する: CSF2-/-マウスはCSF2シグナル欠損によりAMがほぼ消失し、感染WT対照と比較して肺CFUが有意に低下し(p<0.0001)、生存期間が有意に延長した(Figure 6B, 6C)。クロドロネートリポソーム鼻腔内投与によるAM 67%除去(n=5 mice)でも肺真菌量が有意に減少した(Figure 6E)。感染WT肺では対照と比べてTh2サイトカイン(IL-4、IL-5、IL-10、IL-13)が有意に高く、Th1サイトカイン(IFNγ、IL-12、TNFα)は変化がなかった(Figure 6D)。これらのデータは、AMが肺内での真菌増殖を促進し、宿主の生存に悪影響を及ぼすことを強く示唆している。

IM除去(PLX5622)でも肺真菌量が有意に低下する: PLX5622含有飼料7日間投与でIM数がほぼ完全に消失(87%削減)し、AM数・CD68発現には影響がなかった(Figure 7A, 7B)。感染前からPLX5622食を与え感染中も継続した群(n=8-10 mice)では、感染1、2、3週後すべての時点で野生型対照と比べて肺CFUが有意に低下した(Figure 7D, p<0.0001)。PLX5622のC. neoformans直接的殺菌効果はin vitroで否定された(Figure S6)。さらにPLX5622処置群では脳へのC. neoformans播種も減少する傾向が観察された。PLX5622によるIM除去下でも好中球、炎症性単球、DC、T細胞、NK細胞等の肺浸潤は維持されており(Figure S5)、補助的自然免疫細胞が代償的抗真菌機能を発揮した可能性がある。この結果は、IMもまた肺内の真菌増殖に寄与することを示している。

考察/結論

本研究は、C. neoformans肺感染においてAMおよびIM双方が代替活性化(M2様)状態にシフトし、真菌の宿主内生存・増殖を促進する「ニッチ」として機能することを、経時的フローサイトメトリー、RNA-seq、薬理学的除去実験の統合により明確に実証した。

先行研究との違い: これまでの研究ではAMがC. neoformansの「トロイの木馬」として全身播種に関与することが報告されていたが、IMの役割は不明な点が多かった。本研究は、IMがナイーブ肺ではCD68hi集団の6%未満に過ぎないが、感染後に78%超に拡大し、AM以上に強いM2極性化(高Arg1発現)を示すことを初めて定量的に示した点で、これまでの知見と対照的である。また、PLX5622によるIM除去が肺CFUおよび脳播種を有意に減少させることを示し、IMが単なる傍観者ではなく真菌増殖の積極的な支持者であることを実証した。

新規性: 本研究で初めて、C. neoformans感染時に肺内のIMがCSF1およびIL-4の産生増加と相関して劇的に拡大し、CCR2およびNr4a1依存性があることを新規に同定した。さらに、AMとIMの双方が真菌を取り込み、Arg1、Ym1、CD206の発現上昇を伴う代替活性化状態に移行し、特にIMがより高度にM2極性化することを示した。これらの知見は、肺マクロファージサブセットの動態と機能に関する新たな理解を提供する。

臨床応用: 本知見は、HIV感染者や移植後患者などのクリプトコッカス症ハイリスク患者に対する新たな治療戦略開発に繋がる可能性を秘めている。抗真菌薬(アムホテリシンB、フルコナゾールなど)との併用で、CSF1R阻害、Arg1阻害、またはTh2サイトカイン(抗IL-4/IL-13)遮断によるマクロファージ極性化のM1方向へのリプログラミング補助療法の開発が期待される。これにより、マクロファージが真菌の増殖ニッチとして機能するのを抑制し、感染の早期封じ込めと全身播種防止に貢献できる可能性がある。

残された課題: 今後の検討課題として、IM亜集団(CX3CR1+ vs. Lyve1+亜群)の機能的差異のさらなる解析が挙げられる。また、AMとIMの系譜追跡(自己再生 vs. 単球補充)をより詳細に解明する必要がある。本研究はマウスモデルに基づいているため、ヒト肺検体での検証や、薬剤併用前臨床試験を通じて、これらの治療戦略の臨床的有用性を評価することが残された課題である。さらに、in vivoでのマクロファージ内真菌増殖の直接的な証拠を、生体顕微鏡法などの手法を用いて示すことが今後の研究方向性として重要である。

方法

C57BL/6マウスにC. neoformans H99株(野生型またはGFP発現株)を1x10^4細胞/30 µLの用量で経鼻接種し、感染後1、2、3週目(n=7-15/時点、2独立実験のプール)に肺、気管支肺胞洗浄液(BAL)、脾臓を採取した。肺組織はコラゲナーゼIV(1 mg/mL)で消化後、70 µmセルストレーナーでホモジナイズし、Percoll勾配遠心分離により白血球を分離した。フローサイトメトリーによる細胞定量は、CD45+CD68hi細胞をAM(SiglecF+CD11b-)とIM(SiglecF-CD11b+Ly6CintCX3CR1+)に分類し、経時的に計測した。GFP+C. neoformansとCD68hi細胞との会合率および内在化率をフローサイトメトリーと免疫蛍光顕微鏡で評価した。マクロファージ極性化の解析は、iNOS(M1マーカー)およびArg1、CD206(Mrc1)、Ym1(Chi3l3)の発現をフローサイトメトリーおよびRNA-seqで評価し、iNOS/Arg1比を各時点で定量した。IM拡大の機序解析として、肺内CSF1、CSF2、IL-4、IL-13濃度をELISAで定量し(n=4-6)、抗CSF1R抗体および抗CSF2R抗体による受容体阻害実験と、CCR2-/-マウスおよびNr4a1-/-マウスを用いた実験(n=9-11)を行った。AM除去はCSF2-/-マウス(AMがほぼ消失)およびクロドロネートリポソーム鼻腔内投与(AMを67%削減)で達成した。IM除去はPLX5622(CSF1R阻害薬)含有飼料を7日間投与することで、IMの87%除去を確認した。PLX5622の直接的な抗真菌効果はin vitroで評価し、否定された。肺および脳のCFU(colony forming units)を各時点で計測して真菌量を評価した。統計解析にはGraphPad Prismを使用し、2群間の比較にはStudent’s t検定、多群比較には一元配置ANOVA後にTukeyの多重比較検定、生存曲線にはログランク検定を用いた。p値が0.05未満を有意とした。