- 著者: Ivan Vannini, et al.
- Corresponding author: N/A
- 雑誌: Nature Communications
- 発行年: 2017
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 29180617
背景
転写超保存領域 (Transcribed Ultraconserved Regions, T-UCRs) は、ヒト、マウス、ラットゲノム間で100%配列同一性を持つ200 bp以上の領域から転写されるlong non-coding RNA (lncRNA) の一種である。これらのT-UCRsは、多くの固形がんおよび血液悪性腫瘍において発現異常が認められることが報告されており、その発がんにおける役割が注目されている (Calin et al. 2007)。これまでに、uc.73Aが結腸直腸癌 (CRC) においてがん遺伝子活性を持つこと (Sana et al. 2012)、またuc.338が肝細胞癌 (HCC) で同様の機能を持つこと (Braconi et al. 2011) が示されていた。しかし、非小細胞肺癌 (NSCLC) におけるT-UCR全般のメカニズムと、その発現を制御する因子については、依然として未解明な点が多かった。
uc.339は、ATP5G2ホスト遺伝子のアンチセンス鎖に位置し (12q13.13)、HCC細胞およびHCC由来エクソソームでの過剰発現が報告されており (Kogure et al. 2013)、腫瘍微小環境への寄与が示唆されていた。しかし、NSCLC原発巣におけるuc.339の役割、その上流制御因子、および具体的な作用機序については、詳細な解明が不足していた。
また、腫瘍抑制遺伝子であるTP53は、全ヒト腫瘍の50%以上で変異または欠失しており (Hollstein et al. 1991)、NSCLCにおいても主要なドライバー遺伝子の一つであることが知られている (Bodner et al. 1992; Takahashi et al. 1989)。このことから、T-UCR遺伝子の転写制御におけるTP53の役割が注目されていたが、uc.339とTP53との直接的な関連性については、これまで報告されていなかった。T-UCRsの機能と制御に関する知識には依然として大きなギャップが残されており、特にNSCLCにおけるその役割の解明は、新たな診断・治療戦略の開発に不可欠であると考えられた。
目的
本研究の目的は、NSCLC原発巣における転写型超保存領域 (T-UCR) であるuc.339の発現レベルとその予後との相関を明らかにすることである。さらに、uc.339がNSCLC細胞の増殖と遊走に与える影響をin vitroおよびin vivoで評価し、その腫瘍促進機能の分子メカニズムを解明することを目指した。特に、uc.339がmiRNAデコイとして機能する可能性、およびそのmiRNAとの相互作用が従来のceRNA (competing endogenous RNA) 機序と異なる「entrapping」型であるかを検証する。最後に、TP53がuc.339の転写を直接制御する可能性を検討し、TP53-uc.339-miRNA-CCNE2軸がNSCLCの発がんにおいて果たす役割を包括的に解明することを目的とした。これらの知見を通じて、uc.339がNSCLCの新たな診断バイオマーカーおよび治療標的となり得るかを評価する。
結果
uc.339の発現上昇と予後不良相関: 30例の凍結NSCLC原発巣では、隣接正常肺組織と比較してuc.339 RNAが有意に上昇していた (線形倍率20.6倍、paired t-test P < 0.0001) (Fig 1a)。TCGAデータベースの210名のLUSC患者コホート解析では、高uc.339発現群が有意に低い全生存率 (OS) と相関した (P = 0.02, ログランク検定) (Fig 1b)。これはuc.339がNSCLCにおいて腫瘍促進的な役割を持つ可能性を示唆する。
uc.339による腫瘍増殖・遊走促進: レンチウイルスを用いたuc.339の過剰発現は、A549およびLoVo細胞 (n=4 cell lines) の72時間後の生存率を有意に上昇させ (P < 0.05)、スクラッチアッセイでは24時間後の細胞移動を促進した (P < 0.01) (Fig 2a, b)。逆に、siRNAによるuc.339のサイレンシングは、H460、H1299、LoVo細胞においてG0/G1期停止とS期細胞の減少を誘導し、PARP切断によるアポトーシスを促進した (Fig 2e, f)。A549細胞ではこれらの効果は弱かったが、これはA549細胞のuc.339内因性発現レベルが最も低いことに起因すると考えられる。In vivo異種移植モデルでは、uc.339過剰発現A549細胞を移植したヌードマウス (n=7 mice/群) は、対照群と比較して23日目から有意に速い腫瘍増殖を示し (P < 0.05)、腫瘍体積も増大した (Fig 3a, c)。
miRNAデコイ機序 (‘entrapping’) の同定: RNAhybridアルゴリズムによる構造解析の結果、uc.339がmiR-339-3p、miR-663b-3p、miR-95-5pの3種類のmiRNAと相補的配列を持つことが予測された (Fig 5a)。uc.339を過剰発現させた細胞 (n=4 cell lines) ではこれら3種のmiRNAが下方制御され (P < 0.05)、uc.339をサイレンシングした細胞では逆にmiRNAレベルが上昇した (P < 0.05) (Fig 5b, c)。RNA免疫沈降 (RIP) 実験により、uc.339過剰発現細胞においてこれら3種のmiRNAがuc.339と共沈降することが確認された (Fig 6a)。特筆すべきは、これらmiRNAの過剰発現または阻害がuc.339の発現レベルに有意な変化を与えなかった点である (Fig 5d)。これは、miRNAがuc.339を分解しないことを示唆し、従来のceRNA機序とは異なる「entrapping」型の相互作用メカニズムであることを示唆する。
CRISPR/Cas9によるmiRNA結合部位の機能検証: H1299細胞においてCRISPR/Cas9技術を用いてmiR-339結合エレメント (MBE) を両アレル欠失したクローン102、および片アレル欠失と逆位を持つクローン20を作製した。これらのMBE欠失クローンは、コントロールクローン18と比較して細胞増殖が有意に低下し (P < 0.05)、コロニー形成能も減少した (Fig 6d)。in vivo異種移植モデルでも、MBE欠失クローン (n=5 mice/群) は腫瘍形成が抑制された (Supplementary Fig 4c, d)。重要なことに、MBE欠失はuc.339本体およびホスト遺伝子ATP5G2の発現に影響を与えなかった (Supplementary Fig 5a, b)。この結果は、uc.339の腫瘍促進効果がmiRNA結合能に依存することを明確に裏付けている。
Cyclin E2の脱抑制とTP53による上流制御: miR-339-3p、miR-663b-3p、miR-95-5pの3種のmiRNAはいずれも癌遺伝子であるCyclin E2 (CCNE2) を直接標的とすることがルシフェラーゼレポーターアッセイで確認された (Supplementary Fig 7a)。uc.339によるmiRNAの「entrapping」は、これらのmiRNAのCCNE2への結合を阻害し、結果としてCCNE2タンパク質の発現を上昇させることで細胞周期を促進することが示された。uc.339過剰発現細胞ではCCNE2タンパク質レベルが上昇し (Fig 7a)、uc.339サイレンシング細胞ではCCNE2が下方制御された (Fig 7b)。さらに、TP53はuc.339のプロモーター領域に直接結合し、その転写を抑制することがChIPアッセイおよびルシフェラーゼレポーターアッセイで示された (Fig 9d, e)。TP53の喪失はuc.339の脱制御につながり、NSCLCにおけるuc.339の高発現はTP53の機能不全と逆相関することが患者検体 (n=22 patients) で確認された (P < 0.0001) (Fig 9b)。
TP53によるuc.339-miRNA-CCNE2軸の制御: TP53の過剰発現はmiR-339、-663b、-95の発現を誘導し、その標的であるCCNE2の発現を抑制した (P < 0.05) (Fig 10a)。逆に、TP53のサイレンシングはこれらmiRNAの発現を低下させ、CCNE2の発現を上昇させた (P < 0.05) (Fig 10a)。TP53欠損H1299細胞においてTP53を再導入するとCCNE2の発現が抑制されたが、uc.339を同時に過剰発現させるとCCNE2の発現抑制が回復した (Fig 10b)。これは、TP53によるCCNE2の制御が、少なくとも部分的にuc.339のサイレンシングを介していることを示唆する。NSCLC患者検体 (n=22 patients) では、TP53発現低下とuc.339発現上昇が相関し、これに伴いmiR-339、-663b、-95が下方制御され (P < 0.05)、CCNE2タンパク質発現が増加していた (P < 0.05) (Fig 10c, d)。
考察/結論
本研究は、転写型超保存領域 (T-UCR) であるuc.339がNSCLCにおいて高発現し、TP53によって直接転写抑制されること、そしてmiR-339-3p、-663b-3p、-95-5pを「entrapping」型デコイ機序で捕捉することにより、癌遺伝子Cyclin E2 (CCNE2) の発現を脱抑制し、腫瘍増殖と遊走を促進するという新規の発がんメカニズムを解明した。
先行研究との違い: これまでの研究では、T-UCRsがmiRNAの標的となることが示されていたが (Calin et al. 2007)、本研究は逆にT-UCRがmiRNAをデコイする、しかもmiRNAによって分解されない独特の「entrapping」機序を初めて実証した点で独創的である。従来のceRNA (competing endogenous RNA) 機序では、miRNAとceRNAの相互作用はceRNAの分解を伴うことが想定されるが (Salmena et al. 2011; Cesana et al. 2011)、uc.339の場合、miRNAレベルの変動がuc.339の発現に影響を与えない点が対照的である。この「entrapping」機序は、uc.339転写物中の「trapping-related elements (TRE)」と呼ばれる特定の配列がmiRNA結合部位周辺の二次構造変化を誘導し、miRNAを結合・保持するが分解しないという、これまでに報告されていないメカニズムである。
新規性: 本研究で初めて、uc.339がNSCLCの予後不良と相関する新規のがん遺伝子であることを示した。また、TP53がuc.339の転写を直接抑制するという、TP53とT-UCRsの間の直接的な制御関係を新規に同定した。さらに、uc.339が複数の腫瘍抑制miRNA (miR-339-3p、-663b-3p、-95-5p) を同時に捕捉し、その結果として共通の標的であるCCNE2を脱抑制するという、多重miRNAデコイ機能を明らかにした点も新規性がある。CRISPR/Cas9を用いたmiRNA結合部位の欠失実験により、このmiRNA結合能がuc.339の腫瘍促進効果に不可欠であることを明確に示した。
臨床応用: uc.339の高発現がLUSC患者の予後不良と相関することから、uc.339はNSCLCにおける新たな予後バイオマーカーとして臨床応用できる可能性がある。また、TP53機能不全のNSCLC患者においてuc.339の発現が上昇していることから、uc.339またはその下流経路を標的とした治療戦略の開発につながる可能性も示唆される。このTP53-uc.339-miRNA-CCNE2軸は、TP53変異を有する他のがん種にも適用可能な、より広範な治療標的となる可能性を秘めている。
残された課題: 今後の検討課題として、in vivoでの機能的検証はヌードマウス異種移植モデルにとどまっており、免疫系との相互作用を考慮した免疫能を有するモデルや、患者由来腫瘍オルガノイドを用いた検証が必要である。また、uc.339-miRNA-CCNE2軸以外のuc.339の作用機序 (例えば、他のmiRNAとの相互作用、転写制御、クロマチンリモデリング、またはホスト遺伝子ATP5G2のアンチセンスとしての機能) が存在する可能性も排除されておらず、包括的なゲノムワイド解析が必要である。さらに、uc.339の安定性がmiRNAレベルに影響されない理由としてTREsを同定したが、その詳細な分子メカニズム、特にTREsがuc.339の二次構造にどのように影響し、miRNAの結合と分解を制御するのかについては、さらなる構造生物学的研究が残された課題である。
方法
患者検体および細胞株: 30例のNSCLC患者から採取された凍結腫瘍組織および隣接正常肺組織を用いて、uc.339の発現を定量した。細胞株としては、A549、H460、H1299 (NSCLC細胞株)、およびLoVo (CRC細胞株) を使用し、マイコプラズマ検査を2ヶ月ごとに実施した。
uc.339発現定量と予後解析: 30例の凍結NSCLC腫瘍および隣接正常肺組織におけるuc.339 RNAの発現をqRT-PCRで定量した。また、The Cancer Genome Atlas (TCGA) データベースから210名の肺扁平上皮癌 (LUSC) 患者のRNA-seqデータを取得し、uc.339発現と全生存率 (OS) との相関をKaplan-Meier解析およびログランク検定で評価した。uc.339の発現量はRPKM (reads per kilobase per million mapped reads) で算出した。
機能解析: レンチウイルスベクターを用いたuc.339の過剰発現 (LVuc.339) およびsiRNAによるuc.339のサイレンシング (siuc.339) をA549、H460、H1299、LoVo細胞で実施した。細胞生存率 (72時間後)、スクラッチ移動アッセイ (24時間後)、細胞周期解析 (フローサイトメトリーによるヨウ化プロピジウム染色)、およびPARP切断によるアポトーシス評価をそれぞれ行った。In vivoでは、5週齢のヌードマウス (n=7 mice/群) にuc.339過剰発現A549細胞または対照細胞を皮下移植し、29日間腫瘍増殖を測定した。
miRNAデコイ機序の検証: RNAhybridアルゴリズム (Rehmsmeier et al. 2004) を用いてuc.339とmiRNAの補完的配列を予測した。uc.339過剰発現およびサイレンシング細胞におけるmiR-339-3p、miR-663b-3p、miR-95-5pの発現変動をqRT-PCRで評価した。RNA免疫沈降 (RIP) 実験により、uc.339とこれらmiRNAの共沈降を検証した。さらに、CRISPR/Cas9技術を用いてH1299細胞においてmiR-339結合エレメント (MBE) を欠失させたクローン (クローン20、102) を作製し、その細胞増殖能、コロニー形成能、およびin vivoでの腫瘍形成能を評価した。
下流標的およびTP53制御の解析: Affymetrix mRNAアレイ解析により、uc.339過剰発現細胞で発現が変動する遺伝子を同定し、特にCyclin E2 (CCNE2) に着目した。ルシフェラーゼレポーターアッセイにより、CCNE2がmiR-339-3p、miR-663b-3p、miR-95-5pの直接標的であることを確認した。TP53によるuc.339の転写制御を調べるため、TP53コンセンサス配列 (CS) をuc.339遺伝子座で探索し、クロマチン免疫沈降 (ChIP) およびTP53過剰発現/ノックダウン実験を行った。ルシフェラーゼレポーターアッセイを用いて、TP53がCS#4に結合し、uc.339プロモーター活性を抑制することを検証した。
統計解析: データは平均±標準偏差 (s.d.) で示し、2群比較には両側t検定、多群比較にはBonferroni補正を伴うANOVA検定を用いた。P値<0.05を統計的有意差ありと判断した。生存解析にはログランク検定とKaplan-Meier法を用いた。