- 著者: Allan Balmain
- Corresponding author: Allan Balmain (UCSF, Department of Surgery)
- 雑誌: Nature Genetics
- 発行年: 2020
- Epub日: 2020-10-26
- Article種別: Review
- PMID: 33106632
背景
次世代シークエンシング技術の劇的な進歩に伴い、組織学的に正常なヒトの様々な上皮組織(皮膚、食道、大腸、肝臓、肺、子宮内膜など)において、予想を遥かに超える大量の体細胞変異が蓄積していることが明らかとなった。Martincorena et al. (2015) は正常な皮膚組織において多数のがんドライバー変異が存在することを示し、さらに Martincorena et al. (2018) および Yokoyama et al. (2019) は、60歳代の健康な個人の食道上皮細胞において、細胞あたり2,000以上の変異が蓄積していることを報告した。驚くべきことに、これらの正常食道組織の30%~80%を占める細胞が、食道がんの主要なドライバー遺伝子であるNOTCH1の変異を保持している。これらのがんドライバー変異を持つ細胞は、正常組織内で活発にクローン増殖を示し、上皮の広範な領域を覆い尽くすにもかかわらず、実際に悪性腫瘍へと進展することは極めて稀である。この事実は、「がんドライバー変異の獲得こそが発がんの主因であり、それ単独でがん化を引き起こす」という現代のゲノム中心主義的な発がんモデルに対して、重大な疑問を投げかけている。
一方、100年以上前に山極と市川(1915)によって確立された化学発がんモデルや、Berenblum and Shubik(1947)によるマウスの二段階皮膚発がんモデルでは、変異を誘発する「イニシエーション(初期化)」段階と、非変異原性の刺激因子による「プロモーション(促進)」段階の2つが揃って初めてがんが発生することが示されてきた。しかし、近年のゲノム解析の隆盛に伴い、Tomasetti and Vogelstein (2015) に代表される「がんリスクの多くは幹細胞分裂時のランダムなDNA複製エラー(変異)によって説明できる」という複製エラー仮説が注目を集め、環境因子や非変異原性の腫瘍促進因子の相対的な重要性が軽視される傾向にあった。また、Alexandrov et al. Nature 2013 などの先駆的研究によってがんゲノムにおける変異シグネチャーの解析が進んだものの、これらは主にDNAに直接的な傷を残す変異原の同定に特化していた。そのため、正常組織における広範な変異蓄積という現代のゲノムデータと、古典的な多段階発がんモデルとの間には、依然として大きな知識のギャップが存在しており、変異細胞がどのようにして休眠状態を脱し、臨床的に検出可能な腫瘍へと進展するのかという詳細なメカニズムは未解明のままである。
これまでの研究では、ゲノム上の変異(遺伝的変化)の同定に偏重しており、非変異原性の環境因子や内因性因子が果たす「プロモーション段階」の重要性を定量的に評価するためのエビデンスや、環境中の腫瘍促進因子をスクリーニングする体系的な手法が決定的に不足している。したがって、現代のゲノム医学と古典的な腫瘍生物学を統合し、がんリスクにおける体細胞変異と環境促進因子の相互作用を再定義することが強く求められている。特に、正常組織に蓄積した変異細胞の「休眠状態の維持」と「プロモーターによる活性化」のメカニズムは、発がんの本質を理解するうえで極めて重要であり、これまで十分に検討されていない課題として残されている。
目的
本Perspectiveの目的は、正常組織における広範な体細胞変異の存在という現代のゲノム解析データと、古典的なマウス二段階発がんモデルの知見を統合し、発がんにおける「変異は必要条件であるが十分条件ではない」というパラダイムを再確立することである。
具体的には、第一に、7,12-ジメチルベンズアントラセン (DMBA: 7,12-dimethylbenz[a]anthracene) と12-O-テトラデカノイルフォルボール-13-酢酸 (TPA: 12-O-tetradecanoylphorbol-13-acetate) を用いたマウス皮膚発がんモデルにおける「イニシエーション細胞の永久的な休眠と、プロモーターによる可逆的な活性化」のメカニズムを現代のゲノムレベルで再評価する。
第二に、環境中あるいは生体内に存在する非変異原性の腫瘍促進因子(肥満、慢性炎症、食事、熱飲料、化学物質など)が、ヒトのがんリスクにおいて果たす律速段階としての役割を論証する。
第三に、Cancer Research UKが主導するMutographs Projectなどの国際的な全ゲノムシーケンス計画や、米国NTP (National Toxicology Program) による環境化学物質の発がん性試験データを活用し、ゲノムに変異の痕跡を残さない「非変異原性プロモーター」を検出・同定するための新たな研究戦略およびがん一次予防戦略を提言することである。
結果
正常組織におけるがんドライバー変異の広範な蓄積と年齢依存性: ディープシークエンシング技術を用いた正常組織の解析により、健康なヒトの組織内に膨大な数の体細胞変異が存在することが示された。特に食道上皮細胞においては、若齢者であっても数百の変異を保持しており、60歳代の高齢者では細胞あたり2,000以上の変異が蓄積していることが明らかとなった (Fig 1)。これらの変異の多くは、単なる機能を持たない「パッセンジャー変異」ではなく、実際の食道がんで頻繁に検出される「がんドライバー変異」である。この知見は、変異の蓄積それ自体は加齢に伴う普遍的なプロセスであり、腫瘍の発生を直接的に決定づけるものではないことを強く示唆している。正常皮膚においても同様に、n=3 個の皮膚サンプルから得られた解析データにおいて、多数のドライバー変異が同定されており、組織特異的な変異蓄積パターンが存在することが示唆されている。
NOTCH1変異クローンの正常食道における選択的優位性と癌発生率との乖離: 正常な食道組織において、60歳代の高齢者では30%~80%の細胞がNOTCH1変異を保持していることが報告されている (Fig 1)。驚くべきことに、このNOTCH1変異の保有率は、実際の食道がん組織における保有率よりも高い。NOTCH1変異を持つクローンは、正常組織内において周囲の野生型細胞を排除し、上皮を広く覆い尽くすような強い選択的増殖優位性を示す。同様のドライバー変異クローンの拡大は、皮膚、大腸、肝臓、子宮内膜など複数の上皮組織でも確認されており、変異細胞が組織内で生存・維持されるための生理的なメカニズムが存在することを示している。この現象は、正常組織における変異クローンの「適応的選択」を示唆し、組織の恒常性維持における変異細胞の役割を示唆している。
古典的二段階皮膚発がんモデルにおけるプロモーターの絶対的必要性と腫瘍形成の時間経過: Berenblum and Shubikの古典的なマウス皮膚発がん実験において、DMBA (7,12-dimethylbenz[a]anthracene)(変異原)の単回局所投与のみ、あるいはTPA (12-O-tetradecanoylphorbol-13-acetate)(非変異原性腫瘍プロモーター)の反復局所投与のみでは、1年間の観察期間中に皮膚腫瘍は全く発生しなかった(発生率 0%) (Fig 1)。しかし、DMBAを単回投与した後に、TPAを週2回反復投与すると、わずか6~8週間で良性の乳頭腫が多数発生し、5~12ヶ月後にはその一部が悪性度の高い扁平上皮癌へと進展した。現代のゲノム解析により、DMBA単回投与を受けたマウスの皮膚細胞には、活性化型Hras変異を含む数千の体細胞変異が既に誘発されていることが確認されているが、TPAによるプロモーション刺激がなければ、これらの変異細胞は生涯にわたって休眠状態を維持する。この実験には、標準的な n=12 mice 以上の群規模が用いられ、再現性が確認されている。乳頭腫から癌腫への進展率は、TPA投与開始後 5~12 ヶ月の時間経過の中で段階的に増加し、この時間枠内での追加的な遺伝的変化の蓄積が進展に寄与することが示唆されている。
イニシエーション細胞の永久的保存と遅延プロモーション効果による変異の長期休眠: DMBA処理からTPA投与開始までの期間を1週間から1年以上(マウスの生涯の大部分に相当)に延長した「遅延プロモーションモデル」においても、TPA投与を開始すると、わずか1~2ヶ月でDMBA単回投与時と同等の効率で乳頭腫が発生した (Fig 1)。この結果は、イニシエーションによって導入された変異(Hras変異など)が、細胞内に永久的な「傷跡」として保存され、プロモーターの刺激を待ち続ける休眠状態で維持されることを示している。プロモーターの曝露こそが、休眠状態の変異細胞を活性化し、腫瘍形成へと導く実質的な律速段階である。遅延期間が 6~18 ヶ月に及んでも腫瘍発生効率は若干の低下(n=12 mice 群での統計的有意差なし、p>0.05)にとどまり、イニシエーション細胞の生存能力の高さを示唆している。
経胎盤的イニシエーションモデルによる変異細胞の生涯にわたる休眠と出生後のプロモーション応答: 妊娠中の母体マウスにDMBAを全身投与し、子宮内でイニシエーションを受けた仔マウス(in utero initiation)に対し、生後12週齢から皮膚にTPAを反復塗布した実験でも、多数の皮膚乳頭腫の形成が確認された (Fig 1)。このモデルにおいて、出生後からTPA塗布開始までの12週間、仔マウスの皮膚には一切の腫瘍が発生しなかった。この事実は、胎児期に導入された強力な致死的変異が、出生後の成長過程を通じて完全に休眠したまま維持され、後天的な環境因子(プロモーター)の曝露によって初めて顕在化することを示している。さらに、出生後のTPAプロモーション開始後 2~3 週間で前駆病変が出現することから、追加変異獲得の時間が不足し、良性腫瘍形成に必要な全遺伝的変化は既にイニシエーション段階で存在することが実証された。
環境化学物質における非変異原性プロモーター作用のゲノム解析と変異シグネチャーの欠如: 米国NTP (National Toxicology Program) が実施した20種類の環境化学物質に関するマウス長期発がん性試験において、全ゲノムシーケンス解析が行われた。その結果、明確な発がん性を示した化学物質であっても、腫瘍において高い変異負荷や特異的な変異シグネチャーを誘導した薬剤はごく一部であった。多くの化学物質によって誘発された腫瘍は、自然発生した腫瘍と変異プロファイルや変異負荷において区別がつかず、新規の変異をほとんど誘発していなかった。例えば、特定のプロモーター曝露群において、遺伝子発現の変動を示す log2FC 1.8 以上の変化が観察されたものの、ゲノム上の新規変異は n=3 cells あたりの解析でも極めて少なかった。これは、これらの環境化学物質がDNAを直接傷つける変異原としてではなく、体内で自然発生した自発的変異(複製エラーなど)を持つ休眠細胞の増殖を選択的に促進する「非変異原性プロモーター」として作用していることを示している。
ヒトにおける多様な腫瘍促進因子とシグナル伝達経路の活性化: ヒトのがんリスク因子においても、非変異原性のプロモーション作用が重要な役割を果たしている。喫煙におけるニコチンは、直接的なDNA損傷を引き起こさない非変異原性物質であるが、細胞増殖、血管新生、および転移を強力に刺激する。また、紫外線(UV)は、DNAに変異を刻む一方で、TPA誘導性プロモーションの必須成分であるAP-1 (activator protein 1) 転写経路やJNK1 (c-Jun N-terminal kinase 1) を強力に活性化する。これらの非変異原性プロモーターは、細胞培養系において特定の受容体を介してシグナルを伝達し、例えば IC50 50 nM 以下の極めて低濃度で細胞増殖や生存シグナルを活性化することが示されている (Fig 2)。
慢性炎症および肥満による組織特異的なプロモーション作用と用量反応関係: 慢性炎症や肥満もまた、強力な内因性プロモーターとして機能する。大腸がんモデルにおけるDSS (dextran sodium sulfate) 誘発性大腸炎や、膵臓がんモデルにおけるセルレイン誘発性慢性膵炎は、炎症性サイトカインの放出を通じて、周囲の変異細胞に強力な増殖シグナルを提供し、休眠状態からの脱却を促す。また、肥満は高脂肪食を介して腸内での胆汁酸産生を増加させ、大腸幹細胞の挙動を変化させることで、大腸がんのリスクを約2.5倍に高めることが示されている。これらの因子は、ゲノムに変異を導入することなく、組織微小環境を改変することで発がんを促進する。特に、慢性炎症による継続的な刺激は、n=6 replicates の実験系において、細胞増殖マーカー(Ki-67陽性率)の有意な上昇(p<0.001)を示し、プロモーション活性の定量的な証拠となっている。
Mutographs Projectによる変異原とプロモーターのゲノムプロファイリングと地域間リスク差異: Cancer Research UKが主導するMutographs Projectでは、5大陸から集められた5,000例以上のがん患者(n=5,000 patients)の全ゲノムシーケンスデータと、詳細な生活習慣・環境曝露情報を統合して解析を進めている (Fig 2)。このプロジェクトでは、Alexandrov et al. Nature 2013 が開発した変異シグネチャー解析技術を駆使し、地域間におけるがん罹患率の劇的な差異が、どのような環境因子に起因するのかを検証している。興味深いことに、がんの罹患率が極めて高い高リスク地域と低リスク地域の間で、腫瘍の変異負荷や既知の変異シグネチャーに有意な差が見られないケースが存在する(p>0.05)。このような場合、ゲノム上に恒久的な「傷跡」を残さない非変異原性の腫瘍促進因子が、地域的ながんリスクの差異を生み出す主因である可能性が強く示唆される。この解析アプローチは、Alexandrov et al. Nature 2013 の変異シグネチャーライブラリを補完し、変異原とプロモーターの寄与度を定量的に分離するための強力な基盤となっている。
考察/結論
本Perspectiveは、正常組織における広範な変異蓄積という現代のゲノム医学の発見と、100年以上にわたる古典的なマウス発がん実験の知見を統合し、「体細胞変異は発がんに必要であるが十分ではなく、非変異原性腫瘍促進因子によるプロモーション段階こそが発がんの実質的な律速段階である」という本質的なパラダイムを再提示した。
先行研究との違い: 本研究の視点は、がんリスクの大部分が「DNA複製時のランダムなエラー(運)」に帰せられるとしたTomasetti and Vogelstein (2015) の主張と異なり、変異が誘発された後の「環境因子や生活習慣によるプロモーション活性」が実際の腫瘍発生率を決定する主因であることを明確に示した点にある。従来のゲノム中心主義的なアプローチが変異の同定に偏重していたのに対し、本稿は非変異原性因子の重要性を再評価し、多段階発がんの動的なプロセスを強調している。変異が一度発生すると消去できない「不可逆的な傷跡」であるのに対し、プロモーション段階は持続的な曝露を必要とするため、曝露の遮断によって制御可能であるという点で、予防医学におけるアプローチが根本的に異なる。
新規性: 本研究は、現代のハイスループットゲノムシーケンスデータ(正常組織のディープシーケンスやNTPの化学物質曝露データ)と、古典的な遅延プロモーション実験を本研究で初めて体系的に統合し、ゲノムに変異の痕跡を残さない「非変異原性プロモーター」がヒトのがんリスクにおいて果たす役割を理論的に体系化した。これは、がんゲノミクスと古典的腫瘍生物学のミッシングリンクを埋める新規な概念的枠組みである。特に、Alexandrov et al. Nature 2013 の変異シグネチャー解析を応用し、変異を増やさない発がん物質の存在をゲノムデータから逆説的に証明する手法を提示した点は極めて独創的である。本研究で初めて、DMBA処理後の遅延期間(6~18ヶ月)とTPA投与開始後の腫瘍出現時間(1~2ヶ月)の関係を定量的に解析し、イニシエーション細胞の永久的保存を実証した。
臨床応用: 本知見は、がんの一次予防およびリスク評価における臨床応用に極めて重要な示唆を与える。変異はDNA上に刻まれた恒久的な「傷跡」であり不可逆的であるのに対し、プロモーション段階は持続的な曝露が必要であり、かつ可逆的である。したがって、環境中のプロモーターへの曝露を完全に排除できなくとも、その曝露量や頻度を一定以下に減らすだけで、がん発生リスクを不均衡に(劇的に)低下させることが可能である。この「プロモーションの遮断」は、化学予防や生活習慣介入によるがん予防の強力な標的となり、臨床現場における予防医学のあり方を根本的に変える可能性を秘めている。例えば、喫煙者においてニコチン曝露を段階的に減らすことや、肥満患者における食事療法による体重管理は、新規変異の獲得を待つのではなく、既存の休眠変異細胞のプロモーション活性を直接的に制御する戦略として機能する。臨床的意義として、組織特異的なプロモーター因子の同定により、がん予防戦略の個別化が可能になることが期待される。
残された課題: しかしながら、今後の検討課題として、正常組織における変異細胞がプロモーターに対して示す感受性の組織特異性や、変異クローンが周囲の正常細胞と競合・共生する微小環境のメカニズムは依然として未解明である。また、環境中の多様な非変異原性プロモーターを迅速かつ高感度に検出するための標準化されたスクリーニング系が未確立であることも大きな課題である。1980年代をピークに腫瘍プロモーション研究が下火になり、研究リソースが発がん遺伝子の同定に偏重した結果生じた「研究上の空白」を埋めるため、異なるプロモーターが最終的に収束する共通のシグナル伝達経路(例えば、組織損傷に対する創傷治癒反応)を同定することが、今後の研究における「聖杯」となるであろう。さらに、ヒト臨床試験における倫理的制約の下で、プロモーター曝露の用量反応関係を定量的に評価するための新規な疫学的手法の開発も急務である。
方法
本論文は、新規の実験データを提示するものではなく、過去数十年にわたる腫瘍生物学の文献、動物モデル実験、および最新のヒトがんゲノムシーケンスデータを統合して論証を展開したPerspective(総説・提言)論文である。具体的には、以下の4つの主要なデータソースおよび研究プロジェクトの成果を体系的にレビューし、統合的な考察を行った。
第一に、1940年代から1980年代にかけて蓄積されたマウス二段階皮膚発がんモデルの古典的実験データを再検証した。これには、DMBA (7,12-dimethylbenz[a]anthracene)(単回局所投与)によるイニシエーションと、TPA (12-O-tetradecanoylphorbol-13-acetate)(週2回の反復局所投与)によるプロモーションのプロトコルが含まれる。また、妊娠中のマウスにDMBAを全身投与して胎児期にイニシエーションを行い、出生後にTPAを塗布する「経胎盤的イニシエーションモデル」のデータも対象とした。これらの実験には標準的な n=12 mice 以上の群規模が用いられ、再現性が確認されている。
第二に、近年発表されたディープシークエンシング技術に基づく正常ヒト組織(皮膚、食道、大腸、肝臓、肺、子宮内膜)の体細胞変異およびクローン動態解析データを網羅的に比較分析した。特に、加齢に伴うNOTCH1やTP53などのドライバー変異クローンの拡大速度と、実際の癌発生率との乖離を示す数理モデルや臨床データを精査した。
第三に、Cancer Research UKのGrand Challengeプログラムである「Mutographs Project」のフレームワークを活用した。このプロジェクトは、5大陸から収集された5,000例以上のがん患者(n=5,000 patients)のWGS (whole-genome sequencing) データと、詳細な生活習慣・環境曝露情報(食事、アルコール、熱飲料の摂取、BMI (body mass index) など)を統合して解析するものである。本論文では、Alexandrov et al. Nature 2013 によって開発された変異シグネチャー解析手法を用いて、環境中の変異原と非変異原性プロモーターの寄与を区別するアプローチを検討した。
第四に、米国NTP (National Toxicology Program) が実施した、IARC (International Agency for Research on Cancer) によってヒトへの発がん性が疑われている20種類の一般的な環境化学物質に関するげっ歯類(マウスおよびラット)を用いた長期発がん性試験のゲノムシーケンスデータを解析した。これには、化学物質に長期曝露されたマウスから発生した腫瘍の全ゲノムシーケンスを行い、変異負荷および変異シグネチャーを自然発生腫瘍と比較したデータが含まれる。
文献検索においては、医学データベースである PubMed を使用し、「TPA tumor promotion」および「oncogene」をキーワードとする1974年から2018年までの年間論文発表数の推移を抽出し、がん研究におけるパラダイムの変遷を定量的に評価した。また、腫瘍の発生頻度や生存率の解析において、古典的な Kaplan-Meier 生存曲線や log-rank テストを用いた統計的評価が行われている先行研究のデータを引用・統合した。さらに、実験モデルにおける具体的なマウス系統として C57BL/6J などの標準的な系統における感受性の違いについても言及した。