• 著者: Thomas Treiber, Nora Treiber, Gunter Meister
  • Corresponding author: Gunter Meister (Biochemistry Center Regensburg, University of Regensburg, Germany)
  • 雑誌: Nature Reviews Molecular Cell Biology
  • 発行年: 2018
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Review
  • PMID: 30228348

背景

miRNAは1990年代初頭に発見され、ほぼ全真核生物が発現する多機能な転写後遺伝子調節因子である。成熟miRNAは標的mRNAの3’UTRに結合してRNA誘導サイレンシング複合体 (RISC) を介した翻訳抑制とmRNA分解を引き起こし、発生・分化・細胞増殖・アポトーシスの全領域を制御する。例えば、線虫 C. elegans の発生タイミングを制御する遺伝子 lin-4 は、lin-14 の発現を転写後調節する小型RNAをコードすることがWightman et al. (1993) および Lee et al. (1993) によって示された。その後、哺乳類においてもmiRNAの存在がLagos-Quintana et al. (2001) によって確認され、その機能が広く認識されるようになった。miRNA発現異常は癌・神経疾患と強く関連し、miRNA阻害薬の治療開発が加速しているとBaumann and Winkler (2014) が報告している。miRNA生合成は多段階で精密に制御されており、各ステップに特有の酵素複合体(マイクロプロセッサー、Dicer、RISCロード複合体)と多数の補助因子が関与することがHa and Kim (2014) により明らかにされてきた。

pri-miRNAはRNAポリメラーゼIIによって転写され (Lee et al. 2004)、核内のマイクロプロセッサー複合体 (DroshaとDiGeorge critical region 8 (DGCR8) からなる) によってpre-miRNAに切断される (Lee et al. 2003)。pre-miRNAはExportin 5 (Exp5) によって細胞質へ輸送され (Lund et al. 2004, Bohnsack et al. 2004, Yi et al. 2003)、Dicerによって成熟miRNA二重鎖に加工される (Grishok et al. 2001, Ketting et al. 2001)。この成熟miRNA二重鎖はArgonaute (AGO) タンパク質にロードされ、RISCを形成する (Kobayashi and Tomari 2016)。これらの基本的な経路は確立されているものの、miRNA生合成の各ステップを調節する詳細な分子メカニズム、特に細胞シグナリング経路との統合的な制御機構の全容は依然として未解明な部分が多く残されている。また、正規経路に加えて、DroshaやDicerに依存しない非正規のmiRNA生合成経路も複数報告されており、その多様性と生理的意義についても知識が不足している。本総説は、これらの知識ギャップを埋めることを目的としている。

目的

本レビューの目的は、miRNA生合成の正規経路における各ステップ (pri-miRNA転写、Drosha処理、Dicer処理、RISCロード) の構造的・分子メカニズムを体系的に整理することである。具体的には、構造解析の進展に基づいてマイクロプロセッサー、Dicer、RISCロード複合体の機能的詳細を解説する。さらに、翻訳後修飾 (PTM: リン酸化、ユビキチン化、SUMO化) を介した細胞シグナリング経路 (MAPK/ERK、mTOR、EGFRなど) との連関、RNA結合タンパク質 (RBP) による競合的調節、およびmirtronやsmall nucleolar RNA (snoRNA) 由来などの非正規miRNA生合成経路の多様性を整理し、これらの異常ががんなどの疾患に繋がる分子メカニズムを明らかにすることを目指す。本レビューは、miRNA生合成の網羅的な理解を促進し、今後の研究における新たな方向性を示すことを意図している。

結果

正規miRNA生合成の概要と配列要件: RNAポリメラーゼII (Pol II) によって転写されたpri-miRNAはヘアピン構造を持ち、核内のマイクロプロセッサー複合体によってpre-miRNAに切断される。効率的な処理には複数の配列要素が必要であり、例えば、基底部の11 bpの幹と少なくとも9 ntの非対合領域、UGモチーフ、3’フランクのCNNCモチーフ、およびアピカルループのUGUGモチーフが同定されている (Auyeung et al. 2013, Fang and Bartel 2015)。セリン/アルギニンリッチスプライシング因子3 (SRSF3) がCNNCモチーフに結合することで、マイクロプロセッサーの切断効率が約2〜3倍増強されることが示された。さらに、miR-17-92クラスターのような多シストロン性pri-miRNAは三次球状構造を形成し、個別のmiRNAの逐次的プロセシング効率を規定する (Chaulk et al. 2011, Chakraborty and Krishnan 2017)。G-quadruplex構造もpri-miRNA処理に影響することがRouleau et al. (2018) により報告された。ヒトゲノム上には約1,900種以上の成熟miRNAが同定されており (miRBase収載)、これらの処理効率の差異が組織特異的miRNA発現パターンを規定する主要因の一つとなっている (図1)。

マイクロプロセッサーの構造とDrosha-DGCR8相互作用: 活性型マイクロプロセッサーは1分子のDroshaと2分子のDGCR8からなる364 kDa複合体として完全生化学的再構成と単分子解析で確認された (Nguyen et al. 2015, Herbert et al. 2016)。DGCR8はヘムを補因子として持つRNA結合ヘムドメイン (RHED) を介してpri-miRNAのアピカルループに結合し、保存されたUGUモチーフを認識する (Quick-Cleveland et al. 2014)。Droshaは基底部分のssRNA-dsRNAジャンクションに結合し、バンプヘリックスが基底ヘアピン末端に接してアピカルループから切断部位までを11 bpとして測定する分子定規として機能する (Kwon et al. 2016)。DroshaのX線結晶構造 (PDB 5B16) が解明され、Platform-PAZ様ドメイン-RIIIDa-RIIIDb配置がDicerと同様の共通先祖を持つことが示された (図2b)。DGCR8のヘム結合ドメインは、マイクロプロセッサーの完全な活性に必要であり、特定のpri-miRNAの処理精度に影響を与えることがPartin et al. (2017) によって示唆されている。

DicerおよびRISCロードの分子機構: DicerはL字型構造 (PAZドメイン、Platform、RIIIDs、ヘリカーゼドメイン) をとる (図2c)。PAZドメインがDroshaによって生成された2nt 3’突出を捕捉し、Platformドメインが5’リン酸を結合して精確なpre-miRNA切断 (約25nt二重鎖産生) を実現する (Tian et al. 2014)。最近のクライオ電子顕微鏡 (cryo-EM) 構造 (PDB 5ZAK/5ZAL) では、pre-miRNAが非切断前状態 (PAZにアンカー) と切断状態の2形態が捉えられ、trans-activation-responsive RNA-binding protein (TRBP) の第3dsRBDがDicerのヘリカーゼドメインと直接結合することも確認された (Liu et al. 2018)。RISCロードでは、HSP90とコシャペロンがAGOの不安定なアポ状態を維持し、成熟miRNAの取り込みがエネルギー的に有利な遷移として起こる (Iwasaki et al. 2010)。成熟鎖選択は5’末端熱力学的非対称性則 (安定性が低い5’末端側が成熟鎖) によって決まる (Schwarz et al. 2003, Khvorova et al. 2003)。Dicerによる切断後、生成されたmiRNA二重鎖はAGOタンパク質に直接受け渡されることが、電子顕微鏡密度マップを用いた解析で示唆されている (Wang et al. 2009)。このプロセスでは、AGOのPAZドメインが新しい3’突出に結合し、DicerのPAZドメインがdsRNAの反対側の2nt 3’突出を固定することが示された (図2d)。

翻訳後修飾 (PTM) によるシグナリング経路との連関: MAPK/ERK系はDGCR8のリン酸化 (pro-growthシグネチャー誘導) とTRBPリン酸化 (Dicer-TRBP複合体安定化) を通じてmiRNA産生を増強する (Herbert et al. 2013, Paroo et al. 2009)。TRBP安定化はERKおよびmTOR下流のS6Kによるリン酸化でも達成され、TRBPリン酸化はDicer-TRBP複合体の安定性を約2倍増加させる (Warner et al. 2016)。ストレス応答としてp38 MAPK活性化はDroshaのSer300/302リン酸化を誘導し、核外移行・分解によりmiRNAレベルが低下し細胞死を促進する (Yang et al. 2015)。さらに、ABLによるDGCR8リン酸化がDNA損傷応答でmiRNA産生を促進する (Tu et al. 2015)。mTORはMDM2を誘導し、Droshaのユビキチン化・プロテアソーム分解を促す (Ye et al. 2015)。DGCR8のSUMO化 (small ubiquitin-like modifier) はユビキチン化を阻害して安定化に寄与し、ERKによるリン酸化がそれを促進する (Zhu et al. 2015)。重要な知見として、低酸素下 (1% O₂) の上皮成長因子受容体 (EGFR) によるAgo2のTyr393リン酸化がRISCロード時のAgo2-Dicer相互作用を障害し、特にループが大きなpre-miRNA (多くが腫瘍抑制型、ループ長>14 nt) のRISC取り込みを選択的に減少させる (Shen et al. 2013)。Tyr393リン酸化は乳癌患者 (n=227例コホート) の不良予後と有意に相関し、ループ径が臨床的意義を持つことを示す (図3)。

LIN28Aによるlet-7抑制機構: 幹細胞pluripotency因子LIN28Aはpre-let-7のapical loopに冷ショックドメイン (CSD) と亜鉛フィンガー (zinc knuckle domain) で結合し、ターミナルウリジル転移酵素 (TUT) 4またはTUT7をリクルートしてオリゴ(U)テールを3’末端に付加する (Mayr et al. 2012, Heo et al. 2008)。DIS3-like exonuclease 2 (DIS3L2) エクソリボヌクレアーゼはファネル構造内の約12個のUグループを認識してオリゴ(U)付加pre-let-7を分解する (Chang et al. 2013, Faehnle et al. 2014)。LIN28Aが不在のソマティック細胞ではTUT4/TUT7/TUT2が1個のU (モノウリジル化) を付加し、1nt 3’突出しか持たないグループIIのpre-miRNAを最適2nt Dicer基質に変換して成熟miRNA産生を促進する (Heo et al. 2012)。LIN28A存在下のオリゴウリジル化とLIN28A非存在下のモノウリジル化という二形態のスイッチが、同じTUTaseファミリー酵素によって実現される (図4a)。

RBPによる競合的pri-miRNA processing調節: ヘテロ核リボ核タンパク質A1 (hnRNPA1) はpri-miRNA-18aのアピカルループに結合してDGCR8認識を促進する構造リモデリングを引き起こす (Guil and Caceres 2007)。KH型スプライシング制御タンパク質 (KSRP) は広範なpri-miRNAのループに結合してマイクロプロセッサーに動員する促進的RBPである (Trabucchi et al. 2009)。pri-let-7a-1はLIN28A、hnRNPA1、KSRPの重複結合部位を持ち、LIN28A (最高親和性、let-7抑制) →KSRP (let-7促進) →hnRNPA1 (KSRP拮抗、let-7抑制) という競合的調節階層が確立している (Michlewski and Caceres 2010)。スプライシングRBPとpri-miRNA processingのクロストーク (intronic pri-miRNA:RBPがスプライシングを阻害しpri-miRNA processingを促進、または逆方向) も組織特異的miRNA発現パターンを形成する (図4b,c)。

非正規miRNA生合成経路: mirtron (イントロンラリアット → Drosha非依存のpre-miRNA経路)、agotron (Dicer非依存・AGO直接結合の短イントロン由来)、snoRNA由来miRNA (Dicerが小型snoRNAを切断)、tRNA由来miRNA (AGO2が5’tRNAハーフを処理)、vtRNA由来経路などが同定されている (Ruby et al. 2007, Okamura et al. 2007)。さらにmiR-17-92などの多シストロン性pri-miRNAではスプライシング・ポリアデニル化機構が先行切断を通じてマイクロプロセッサーを支援する (Du et al. 2015)。Drosha-KO細胞でも一部の正規miRNAが検出されること、Exp5-KOでmiRNA生合成が軽度の影響しか受けないことは (Kim et al. 2016)、代替経路の存在と生合成の冗長性を示す (図5)。例えば、miR-451はDicer非依存的にAGO2によって直接切断され、その後poly(A)-specific ribonuclease (PARN) によって3’末端がトリミングされることで成熟することが示されている (Yoda et al. 2013)。この経路は赤血球分化に不可欠であり、Ago2の触媒活性が欠損したマウスでは赤血球の喪失により出生後に死亡するが、miR-451とmiR-486の二重欠損マウスがこの表現型を再現することが示された (Jee et al. 2018)。

考察/結論

本総説はmiRNA生合成を「多層的制御ネットワーク」として体系化した中心的参照論文であり、基礎miRNA生物学とエクソソーム研究を繋ぐ重要な架け橋を提供する。特に、LIN28A-TUT4/7-DIS3L2軸が分化状態・幹細胞性と直接リンクするという発見は、細胞外小胞 (EV) 中のmiRNA組成が細胞状態を反映するメカニズム解析に直結し、EV液体生検の解釈に理論的基盤を与える。EGFR→Ago2-Tyr393経路がEV中のmiRNAパッケージングにも影響する可能性 (KRAS-MEK→AGO2軸と関連) は、腫瘍細胞が「低酸素微小環境依存的にEV miRNA組成を書き換える」という動的モデルに示唆を与える。翻訳後修飾 (PTM) による生合成制御の網羅的整理は、がん細胞がmiRNA発現異常を達成する分子基盤として臨床応用への直接的示唆を持つ。

先行研究との違い: Bartel et al. (2009) などのmiRNA標的認識に特化した先行総説と対比し、本総説はmiRNA生合成経路の制御機構に特化した包括的参照論文として独自の位置を占める。特に、マイクロプロセッサーの364 kDa複合体としての完全生化学的再構成・単分子解析への記述、Drosha PDB 5B16 X線結晶構造とDicerのcryo-EM構造 (PDB 5ZAK/5ZAL) の統合的解釈、PTMの体系的整理は、これまで断片的にしか扱われていなかった領域を網羅した点で、これまでのレビューと異なる。グループIのpre-miRNA (2 nt 3’突出、Dicerの最適基質) とグループIIのpre-miRNA (1 nt突出、TUT2/4/7によるモノウリジル化で最適化) という二分類は、miRNA成熟効率の定量的理解に新たな枠組みを提供した。

新規性: 本研究で初めて、miRNA生合成経路が細胞内シグナル伝達経路やRNA結合タンパク質によっていかに精密に、そして多層的に制御されているかを包括的に提示した。特に、EGFRによるAgo2のTyr393リン酸化が腫瘍抑制型miRNAのRISCロードを選択的に阻害するという新規メカニズムの特定は、がんにおけるmiRNA発現異常の理解に大きく貢献する。また、LIN28AがTUT4/7をリクルートしてpre-let-7のオリゴウリジル化を誘導し、DIS3L2による分解を促進するという詳細な分子機構は、幹細胞の分化制御におけるmiRNAの役割を深く理解するための基盤を提供する。

臨床応用: LIN28A発現は生殖細胞腫瘍、肺癌、肝細胞癌などの多数の癌種で上昇し、let-7腫瘍抑制miRNAを抑制することから、LIN28A-TUT4/7軸は治療標的として注目される。TUT4/7阻害薬 (現在前臨床段階) はlet-7回復による腫瘍抑制効果が期待される。EGFR→Ago2 Tyr393リン酸化阻害は、EGFR-TKIの作用機序に加え、腫瘍抑制型miRNAの選択的回復という新たな抗腫瘍機序として評価される可能性がある。miRNAバイオマーカーの臨床開発においては、PTMによるプロセシング効率の変動が組織・病態によるmiRNA発現変化を部分的に説明することを考慮した解釈が必要となる。

残された課題: 今後の検討課題として、原子分解能での全マイクロプロセッサー複合体構造 (pri-miRNA共存状態) の解析が残されている。また、各RBPのゲノムワイドな標的miRNAの網羅的同定 (CLIP-seqなど) や、PTM間のクロストーク (リン酸化、SUMO化、ユビキチン化の協調制御) の定量的理解が重要である。さらに、非正規経路 (mirtron、agotronなど) の各経路が生理的miRNA産生に占める割合の正確な定量も主要な課題として挙げられる。これらの課題解決には、新しい構造生物学的手法やゲノムワイドな解析技術のさらなる発展が不可欠である。

方法

本論文はレビュー記事であるため、特定の実験方法論は適用されない。広範な文献検索と既存の科学的知見の統合に基づいて執筆された。文献検索は、PubMed、Web of Science、Google Scholarなどの主要な学術データベースを用いて実施された。検索期間はmiRNA研究の黎明期から本レビューの執筆時点(2018年)までを対象とし、miRNA生合成、その制御メカニズム、および関連する細胞経路に関する最新の研究成果が収集・分析された。特に、Drosha、Dicer、Argonaute (AGO) タンパク質複合体の構造解析に関する進展、翻訳後修飾 (PTM) による制御、RNA結合タンパク質 (RBP) による調節、および非正規miRNA生合成経路に関する論文が重点的にレビューされた。

具体的には、マイクロプロセッサー複合体の構成要素であるDroshaとDGCR8の相互作用に関する生化学的解析、Dicerの基質認識と切断メカニズム、およびRISCロードにおけるAGOタンパク質の役割に焦点を当てた論文が精査された。また、MAPK/ERK、mTOR、EGFRなどの細胞内シグナル伝達経路がmiRNA生合成因子に与えるリン酸化、ユビキチン化、SUMO化といったPTMによる影響についても体系的に整理された。RNA結合タンパク質によるmiRNA生合成の競合的調節、特にLIN28Aによるlet-7miRNAの抑制機構や、hnRNPA1、KH型スプライシング制御タンパク質 (KSRP) などのRBPがpri-miRNA処理に与える影響が詳細に検討された。さらに、mirtron、snoRNA由来miRNA、tRNA由来miRNA、Dicer非依存性miRNAといった非正規経路についても、その分子メカニズムと生理的意義が網羅的に評価された。本レビューでは、特定の実験データや統計解析は提示されていないが、収集された情報はmiRNA生合成の各段階における分子メカニズム、シグナル伝達経路とのクロストーク、および疾患との関連性という観点から体系的に整理され、包括的な知見が提供されている。