• 著者: Neri F, Rapelli S, Krepelova A, Incarnato D, Parlato C, Basile G, Maldotti M, Anselmi F, Oliviero S
  • Corresponding author: Oliviero S (University of Turin / HuGeF); Neri F (Leibniz Institute on Aging)
  • 雑誌: Nature
  • 発行年: 2017
  • Epub日: 2017-02-15
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 28225755

背景

エピジェネティック制御の観点から、DNAメチル化はゲノム安定性と遺伝子発現制御に不可欠な修飾であり、CpGプロモーターメチル化が遺伝子サイレンシングと関連することは広く知られていた。一方で高発現遺伝子の遺伝子本体 (gene body) に見られる5mCの機能的役割は長年不明であった。Carrozza et al. 2005およびKeogh et al. 2005は酵母でH3K36me3 (転写伸長中にSet2によって付加されるヒストン修飾) がHDAC (Rpd3Sコンプレックス) をリクルートして遺伝子本体のクロマチンをコンパクトに保ち、クリプティック (偽) 転写開始を防ぐことを示した。Baubec et al. 2015は哺乳類でSetD2によるH3K36me3の添加後にDnmt3b (de novoメチルトランスフェラーゼ) が遺伝子本体に結合することを報告したが、DNAメチル化が直接的に偽転写を抑制するという証拠は間接的なものにとどまっていた。Jones 2012は遺伝子本体メチル化の一般的な意義を論じたが、偽転写抑制における機能的役割は未証明であった。特に哺乳類Dnmt3b KO細胞でのゲノムワイドな偽転写の定量的解析・機能実証が不足していた。

目的

マウスES細胞においてDnmt3b依存的な遺伝子内DNAメチル化の機能的役割を解明すること。具体的にはDnmt3bが遺伝子本体への不正なRNAポリメラーゼII (Pol II) エントリーを防ぎ、偽転写開始を抑制するかを検証すること。さらに偽転写産物の細胞内での運命を追跡し、その生物学的影響を明らかにすること。

結果

Dnmt3bの遺伝子本体局在とDNAメチル化確立:マウスES細胞 (E14株、TALEN KO 2系統) の内因性Dnmt3b ChIP-seqにより、Dnmt3bは発現量第3〜4四分位の遺伝子の遺伝子本体に優先的に結合し、H3K36me3分布と強い正相関 (Pearson r=0.82) を示した (Fig. 1a-c)。WGBSでDnmt3b KO細胞では全ゲノムのDNAメチル化が全体的に低下し、エクソン・イントロンでの5mC低下はH3K36me3占有度と強く相関した (Pearson r=0.74; Fig. 1e)。この相関はKO 2系統 (n=2 independent samples 各系統) で再現性があり、Dnmt3bがH3K36me3を介してゲノム全域に遺伝子本体メチル化を確立することを示す。解析対象はn=8028 samples (RPKM>1の発現遺伝子) であり、このうち18%の1,445遺伝子で偽転写が同定された。H3K36me3軸とDnmt3bの連関はエピジェネティック制御の中核的機序である。

偽転写開始の定量的実証:Dnmt3b KO細胞では全RNA-seqで発現遺伝子 (RPKM>1、全8,028遺伝子) の18% (n=1445 cases) において、中間エクソンのRPKMが第1エクソンに対してlog2比>1を示し、偽転写が定量的に証明された (Wilcoxon rank-sum検定; Fig. 2a, b)。RT-qPCRで複数の個別遺伝子 (Fn1・Phb2等) を検証し偽転写を確認した。DECAP-seqではn=2627 samples (高発現RPM>6) の偽転写開始点がDnmt3b KO細胞特異的に同定され (野生型特異的は936点)、780点は両細胞に共通した (Fig. 3c)。KO特異的偽転写開始点の総マップリード中の割合は2.76%、共通TSSは5.22%であった (Fig. 3d)。

RNAポリメラーゼIIの不正遺伝子内エントリーの実証:DRB (75 µM) 処理下のChIP-seqで、Dnmt3b KO細胞では遺伝子本体への開始型Pol II (Pan-Pol II・Ser5リン酸化型) の蓄積が増加した (発現量第3・4四分位の遺伝子で特に顕著; Fig. 2c, d)。H3K36me3とPol IIのゲノムプロファイルは非DRB処理下では野生型と差異なく、偽転写はDNAメチル化喪失後にPol IIが遺伝子本体内に新規エントリーすることによって生じることが示された。偽転写開始点近傍50 bp以内にCpGジヌクレオチドの有意な濃縮とSp1・Etsファミリーのモチーフが同定された (chi-squared検定; Fig. 3g, h)。

SetD2→H3K36me3→Dnmt3b経路の機能的実証:SetD2ノックダウン (shRNA 2系統) でH3K36me3が消失し、Dnmt3bの遺伝子内結合も消失した (Fig. 4a-c)。SetD2ノックダウン細胞では3,560のRPM>6偽転写開始点が同定され、うち2,759が特異的で2,000以上がDnmt3b KO細胞と共通した (Extended Data Fig. 8)。触媒不活化Dnmt3b (V725G) またはH3K36me3結合不全変異体 (S277P・VW-RR) の再発現では偽転写は救済されず、野生型Dnmt3bの再発現のみが偽転写を有意に減少させた (Wilcoxon rank-sum検定; Fig. 4f-j)。これによりSetD2→H3K36me3→Dnmt3b→遺伝子本体DNAメチル化という一方向的カスケードが確立された。

偽転写産物の多様な運命と翻訳の実証:Dis3・Rrp6 (RNAエクソソーム成分) のノックダウンにより偽転写産物の発現量が有意に増加し (偽転写開始点数は不変)、一部がエクソソーム依存的に分解されることが示された。poly(A)+ RNA-seqとDECAP-seqで偽転写産物の一部がポリアデニル化・核外輸送されることが確認された。DRB処理下でのmRNA半減期解析でイントロン由来RNAの半減期は野生型より若干延長し、全トランスクリプトームの半減期は差異なかった (Extended Data Fig. 11c-g)。ART-seq (リボソームプロファイリング) でDnmt3b KO細胞のイントロン領域にリボソーム占有の増加が検出され、発現量第4四分位の遺伝子で特に顕著であった (Wilcoxon rank-sum検定; Fig. 5i, j)。これにより偽転写産物が安定でリボソームに会合し異常タンパク質産生につながる可能性が実証された。

考察/結論

酵母でH3K36me3がHDAC (Rpd3S) 依存的にクリプティック転写を抑制することが先行研究で示されていたのと異なり、本研究は哺乳類ではHDACではなくDNAメチル化 (Dnmt3b) が主要エフェクターであるという種間の機構的差異を直接証明した。SetD2→H3K36me3→Dnmt3b→遺伝子本体DNAメチル化という一連のエピジェネティッククロストーク機序が転写の忠実性 (fidelity) 維持に必須であることを本研究で初めて実証した。18%の発現遺伝子 (n=1,445/8,028) で偽転写が生じるという発生率の大きさは、遺伝子内メチル化が転写ノイズ抑制において中心的な役割を担うことを示す直接的証拠である。触媒不活化変異体 (V725G) とH3K36me3結合不全変異体 (S277P・VW-RR) の使用により、Dnmt3bのメチル化酵素活性とH3K36me3への結合の両方が偽転写抑制に必須であることが機能的に実証された。

本研究の臨床的意義として、がんで普遍的に観察される遺伝子内低メチル化 (SETD2変異・DNMT3B活性低下に関連する) が偽転写産物産生を通じてがん進化に寄与しうることを初めて提示した。偽転写産物がリボソームに会合し異常タンパク質を産生しうることから、腫瘍特異的ネオアンチゲンの産生が免疫療法の反応予測マーカーとなりうる可能性も示唆される。臨床応用の観点からは、SETD2変異腫瘍でのDECAP-seq解析による偽転写プロファイルの同定が新規バイオマーカー開発につながりうる。

今後の課題として、ヒトがん細胞での遺伝子内低メチル化と偽転写産物の直接的な関係の実証、産生された異常タンパク質の機能的影響の解析、SETD2変異腫瘍での偽転写プロファイルの同定、および治療的介入 (DNMT3B活性化・SETD2機能回復) の可能性探索が挙げられる。本研究はマウスES細胞を主な系として使用しており、ヒト体細胞での普遍性の確認が今後の研究課題となる。本知見はエピジェネティック制御と転写忠実性の接点として、エピゲノム研究の重要な基盤を提供した。

方法

マウスES細胞 (E14株) からTALEN技術を用いてDnmt3bノックアウト (KO) 細胞株を2独立系統で作製した (遺伝的背景・培養期間の交絡を除外)。以下の多段階ゲノムワイド解析を実施した。

  • 全ゲノムバイサルファイトシーケンシング (WGBS): Dnmt3b KO vs 野生型でのDNAメチル化プロファイルをゲノム全域で比較した。
  • ChIP-seq: Dnmt3b・H3K36me3・Pan-Pol II・Ser5リン酸化Pol II (開始型マーカー) の分布をChIP-seqで解析した。転写伸長阻害薬DRB (5,6-ジクロロ-1β-d-リボフラノシルベンズイミダゾール、75 µM) 処理下でのChIP-seqで開始型Pol IIの遺伝子本体エントリーを選択的に検出した。
  • DECAP-seq: RppH酵素でmRNAをデキャップし5’一リン酸末端を利用したアダプター連結でTSSを単塩基解像度でゲノムワイドにマッピングした。RPM>6の閾値を用いた。
  • 高カバレッジ全RNA-seq: 中間エクソンRPKM/第1エクソンRPKMの比率で偽転写を定量した (RPKM>1の全8,028遺伝子を対象)。
  • poly(A)+ RNA-seq・CAPIP-seq (CAP抗体免疫沈降): 偽転写産物のポリアデニル化・核外輸送を追跡した。
  • ART-seq (リボソームプロファイリング): 偽転写産物のリボソーム会合を解析した。
  • SetD2ノックダウン実験: shRNA (#1/#2の2系統) によるSetD2サイレンシング後にH3K36me3喪失・Dnmt3b局在変化・偽転写発生を評価した。
  • Dnmt3b変異体再発現実験: 触媒不活化変異体V725G・H3K36me3結合不全変異体S277P・VW-RRをDnmt3b KO細胞に発現させ救済実験を実施した。 統計解析: 偽転写比率・ChIPシグナル比較にはWilcoxon rank-sum検定、CpGモチーフ濃縮にはchi-squared検定を使用した。