• 著者: Jayavelu AK, Schnöder TM, Perner F, Herzog C, Meiler A, Krishnamoorthy G, Huber N, Mohr J, Edelmann-Stephan B, Austin R, Brandt S, Palandri F, Schröder N, Isermann B, Edlich F, Sinha AU, Ungelenk M, Hübner CA, Zeiser R, Rahmig S, Waskow C, Coldham I, Ernst T, Hochhaus A, Jilg S, Jost PJ, Mullally A, Bullinger L, Mertens PR, Lane SW, Mann M, Heidel FH
  • Corresponding author: Mann M (Max Planck Institute of Biochemistry, Munich); Heidel FH (Universitätsmedizin Greifswald)
  • 雑誌: Nature
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-11-25
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 33239784

背景

JAK2 (Janus kinase 2) は造血細胞においてサイトカイン・ホルモン・増殖因子シグナルを伝達する中心的キナーゼであり、その体細胞変異、特にV617F変異は加齢造血系で高頻度に発生する。JAK2 V617F変異は骨髄増殖性腫瘍 (MPN: myeloproliferative neoplasm) の主要ドライバーとして機能し、真性多血症 (PV: polycythemia vera)・本態性血小板増多症 (ET: essential thrombocythemia)・骨髄線維症 (MF: myelofibrosis) の発症を駆動する (Forbes 2017 COSMIC)。JAK2変異は加齢に伴う体細胞変異の蓄積に起因するクローン性造血のドライバーとしても注目されており、MPN発症リスクを高めることが示されている。

臨床的には、ruxolitinibに代表されるJAK1/2阻害薬がMPNにおける炎症症状・過増殖・脾腫を有意に改善することが第III相試験 (COMFORT-II) などで示されているが、長期追跡においてもJAK2 V617Fアレル頻度の持続的低下・分子的寛解が得られず、JAK2変異クローンが治療下でも生存し続けることが深刻な課題として残存している (Harrison Leukemia 2016; Deininger Blood 2015)。JAK2下流のシグナル経路としてはSTAT5・STAT3・PIM・ERK等が知られており、ERKシグナルがJAK阻害薬投与下でも持続する可能性が一部で示唆されていた (Stivala J Clin Invest 2019)。しかしながら、JAK阻害薬治療後も生存し続ける細胞の維持を担う細胞内自律的機序の全貌は不明であった。

特に、mRNAスプライシング・プロセシング因子がJAK2変異腫瘍の生存維持に果たす役割については知見が手薄であり、JAK2変異細胞の疾患持続機序とERKシグナル制御の接点を説明する分子モデルが存在しないという gap in knowledge が本研究の出発点となった。JAK阻害薬治療後も残存するJAK2変異クローンを排除しうる新規治療戦略の確立は、MPN患者の予後改善において不足している重要な課題であった。

目的

JAK2 V617F変異造血細胞において網羅的リン酸化プロテオミクス解析を実施し、疾患持続に関与するJAK2下流の新規エフェクターを同定すること。特に、JAK阻害薬による治療後も生存する細胞の維持に必要な分子経路を明らかにし、その治療標的としての有用性をin vitro・in vivo・患者由来モデルで検証し、JAK2変異クローンの分子的寛解を誘導しうる新規併用療法の前臨床的基盤を確立すること。

結果

リン酸化プロテオミクスによるYBX1の同定:JAK2 V617F細胞において6,517のリン酸化サイトがJAK2野生型との比較で有意に調節されており、うち5,191サイト (1,758タンパク質上) がJAK2 V617F特異的であった (FDR 5%)。既知のJAK2標的STAT5・STAT3・PIMに加え、GSK3・ERKおよびサイクリン依存性キナーゼ (CDK: cyclin-dependent kinase) のキナーゼモチーフが顕著に富化された。遺伝子オントロジー (GO: gene ontology) 解析でJAK2 V617F細胞において最も高度に富化された細胞プロセスはmRNAスプライシング・プロセシング経路であり (Fig. 1e)、47のパスウェイメンバーのうち上位15候補に対して70 shRNA (4-5 shRNA/遺伝子) によるスクリーニングを実施した。HNRNPK・SRSF2・SRSF9はドロップアウトして増殖障害を示したが、Y-box結合タンパク質1 (YBX1: Y-box binding protein 1) は4/4のshRNA全てでJAK阻害薬存在下においてのみJAK2 V617F細胞の細胞死を増強する唯一の候補として同定された (Fig. 1h)。YBX1はコアスプライセオソームタンパク質であり多様な細胞コンテキストでmRNAスプライシングを制御することが知られる。

YBX1の機能的依存性と分子メカニズム:MPN患者76例の骨髄生検では、YBX1が健常ドナー (n=18) と比較して著明に高発現していた (Fig. 2a, b)。JAK2 V617F細胞でYBX1はJAK2と共局在・結合し、MAPK1とのインタラクション (JAK阻害薬耐性) を介してSer30・Ser34のリン酸化が維持されることで核内移行が安定化することが示された。YBX1リン酸化変異体 (pS30A・pS34A・pS30A/S34A二重変異) の発現はYBX1の核内移行を阻害し、JAK阻害薬存在下での細胞死増強を再現した。YBX1欠失単独では細胞生存・増殖・細胞周期・活性酸素種 (ROS: reactive oxygen species) 産生・DNA損傷に有意な影響を与えなかったが、JAK阻害薬存在下でのみJAK2 V617F細胞 (Ba/F3・HEL・SET-2細胞株・初代マウス骨髄細胞) でアポトーシスを選択的に誘導し、ruxolitinibに対するIC50が1,000 nMから275 nMへと4倍低下した (Fig. 2c)。

in vivoでの分子的寛解誘導:Mx1-Cre誘導性競合骨髄移植実験において、Jak2 VF Ybx1 +/+骨髄移植レシピエントは白血球増多・血小板増多・有症候性脾腫を来したが、Jak2 VF Ybx1 -/-+JAK阻害薬群では16週以内に有症候性疾患が有意に抑制された (Fig. 2g-i)。20週時点での末梢血キメリズム解析で、Ybx1欠失+JAK阻害薬群では9例中5例 (56%) でJak2 VFクローンが末梢血・骨髄で<1%以下に消失し「分子的寛解」が達成された (Fig. 2k)。HEL細胞ゼノグラフトモデルでも、YBX1 RNAi+JAK阻害薬投与群は全生存期間が著明に延長し (OS: 対照+溶媒 27日 vs 対照+JAK阻害 72日)、12例中4例で疾患消失が認められた (Fig. 2m、log-rank検定)。重要なことに、正常造血幹前駆細胞 (LSK細胞: lineage-Sca-1+Kit+) でのYbx1欠失は定常状態造血・コロニー形成能・連続移植後の長期造血幹細胞 (HSC: hematopoietic stem cell) 機能に有意な障害をもたらさず、適切な治療域が示された。

YBX1-MKNK1-ERK軸の解明と薬理学的標的化:YBX1不活化後のRNA-seq解析では、コントロール比70%増加となる1,064件のイントロン保持 (retained intron) イベント (P<0.05、ΔPSI >0.1) が検出された (Fig. 3c)。このうちERKシグナル分子 (Araf・Braf・Mknk1) での顕著なイントロン保持増加が観察され (Fig. 3d)、MKNK1 (MAPK-interacting serine/threonine-protein kinase 1) がmRNAおよびタンパク質レベルで著明に低下した。Mknk1のRNAiノックダウンも同様にERKリン酸化を低下させ、JAK阻害薬存在下での細胞死を増強した。YBX1欠失JAK2 V617F細胞のリン酸化プロテオーム解析では、ERK基質モチーフを含むリン酸化タンパク質が広汎に低下 (マウス2,012サイト・ヒト2,390サイト、FDR <0.01) し、ERKリン酸化そのものも有意に減少した一方でSTATシグナルは大きく影響を受けなかった (Fig. 4a-d)。ERK下流のMCL-1リン酸化低下とBIMタンパク質誘導が確認され、MCL-1の強制発現でアポトーシスが救済された。薬理学的に、MKNK1阻害薬 (CGP57380; 2 μM) またはMEK/ERK阻害薬トラメチニブ (100-200 nM) とruxolitinibの併用がマウスJAK2 V617F細胞でアポトーシスを増強し (Fig. 4e-g)、健常ドナー由来CD34+細胞では有意な影響を認めなかった (Fig. 4h)。患者由来PDXモデルでは、ruxolitinib (90 mg/kg)+トラメチニブ (1 mg/kg) 併用投与により20週後に骨髄ヒトCD45+キメリズムが有意に低下し、5例中2例でピロシーケンシングによりJAK2 V617Fアレル頻度の消失が確認された (Fig. 4l-n)。

考察/結論

本研究は、JAK阻害薬による治療後も持続するJAK2変異クローンの維持機序として「JAK2-YBX1-MKNK1-ERK軸」という新規の細胞内自律的シグナル経路を確立した。この発見は、JAK2変異MPN治療における根本的な未解決課題である「なぜJAK阻害薬でクローンが消えないのか」への明確な分子的回答を提供する。

これまでの研究において、JAK2変異MPN細胞のJAK阻害薬下での持続は主にサイトカイン環境依存性や代償的STAT活性化の文脈で議論されてきた。本研究はこれとは対照的に、mRNAスプライシング因子による転写後制御がERKシグナル維持の直接的機序であることを、網羅的リン酸化プロテオミクス・RNA-seq・ChIP-seq・インタラクトーム解析・多数の遺伝学的/薬理学的in vivoモデルという多次元アプローチで実証した。特に、YBX1が核内でMkNK1プリmRNAのスプライシングを制御し、これを介してERK経路活性を維持するという接続は本研究で初めて確立されたものであり、これまで報告されていない新規なメカニズムである。既報では一部でERKシグナルの役割が示唆されていたが (Stivala 2019)、スプライシング依存的ERK制御という分子モデルを提示した点で先行研究と異なる本研究独自の貢献がある。

新規な発見として特筆すべきは、JAK2-MAPK1軸によるYBX1のSer30/Ser34リン酸化制御が核内移行に不可欠であり、かつこのYBX1-MAPK1インタラクションがJAK阻害薬非依存的に持続するという点である。これは「なぜJAK阻害薬がERKシグナルを抑制できないのか」という長年の問いに対する明確な分子的説明を提供する。また、in vitroスプライシングアッセイでYBX1がMknk1プリmRNAのスプライシングに直接必要であることを実証した点も新規な知見として重要である。

臨床応用の観点から、ruxolitinibなど既承認JAK阻害薬とトラメチニブ等の承認済みERK阻害薬との組み合わせが、患者由来初代細胞のin vivo PDXモデルでJAK2変異クローンの根絶を達成した事実は、この治療原則の臨床的意義を直接支持する強力な前臨床的エビデンスである。正常HSCでYbx1欠失が定常状態造血および長期幹細胞機能に影響しないという臨床的含意のある所見は、YBX1標的療法の安全域の存在を支持し、橋渡し研究としての位置づけを強化する。

残された課題として、YBX1の直接的薬理学的阻害剤は現在存在しないため、遺伝学的手法以外でのYBX1標的化戦略 (タンパク質-タンパク質相互作用阻害など) の開発が必要である。今後の検討課題として、二次性白血病への移行を含むMPN疾患進化、MPN以外のJAK2変異を持つ血液腫瘍への応用可能性、長期的な正常造血への安全性評価、およびCALR変異・MPL変異など他のMPNドライバー変異における類似機序の探索も重要である。また、JAK+ERK阻害の最適な投与スケジュール・用量・患者選択基準の確立はfuture researchとして残されており、本知見の臨床応用を加速するためのトランスレーショナルな検討が求められる。

方法

エリスロポエチン受容体を発現するマウス造血細胞 (Ba/F3細胞、JAK2野生型またはJAK2 V617F) に対し、エリスロポエチン単独またはruxolitinib (0.5 μM) 存在下でシングルショットLC-MS/MSによる深層リン酸化プロテオミクスを実施した。Q-Exactive質量分析計を使用して140分グラジェントで測定し、MaxQuantで処理 (UniProt FASTA 2015_08、FDR <0.01) した。4,135タンパク質上の21,764リン酸化サイトを定量し、Student’s t-testおよびANOVA (permutation-based FDR 0.01/0.05) で有意差解析を行った (Perseus 1.5.2.11)。

mRNAスプライシング・プロセシング経路の上位15候補に対して70 shRNA (4-5 shRNA/遺伝子) のライブラリスクリーニングを実施し、MTS増殖アッセイ (8技術反復×4生物学的反復) で評価した。最有力候補YBX1の機能解析では、条件付きノックアウトマウス (Ybx1 F/F × Jak2 VF × Mx1-Cre、C57BL/6背景) を作製し競合的骨髄移植実験 (12 Gy照射レシピエント) でin vivo効果を検証した。さらに、HEL細胞を用いたゼノグラフトモデル (NSGS mice、2 Gy照射) および患者由来ゼノグラフト (PDX: patient-derived xenograft、NSGW41 mice、非照射) モデルも実施した。

RNA-seqにはSTARアライナー (Dobin et al. Bioinformatics 2013) を使用してマウスゲノム (GRCm38) にマッピングし、遺伝子カウントはfeatureCounts (Liao et al. Bioinformatics 2014) で定量した。差次的発現解析はlimma-voomパイプライン (Ritchie et al. NucleicAcidsRes 2015) で実施し、スプライシングイベント解析にはEventPointerパッケージを使用した (two-tailed検定)。YBX1クロマチン免疫沈降シーケンシング (ChIP-seq) およびYBX1インタラクトーム解析 (YBX1親和性精製+定量的インタラクションプロテオミクス) も統合的に実施した。MPN患者76例 (ET n=32、PV n=23、MF n=21) と健常ドナー18例の骨髄生検でYBX1発現を免疫組織化学で定量した。生存解析にはKaplan-Meier法 (log-rank検定)、群間比較にはStudent’s t-test、Fisher’s exact testを用いた。