- 著者: Ehara
- Corresponding author: Hiroaki Ikeda (Nagasaki University Graduate School of Biomedical Sciences)
- 雑誌: CancerImmunolRes
- 発行年: 2026
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 38927890
- pmid: 38927890
- category: Basic-Others
- topics:
- Tumor Heterogeneity
- Immunotherapy Resistance
- Ferroptosis
- TCR-T Cell Therapy
- IFN-gamma Signaling
- tags:
- Melanoma
- Adoptive Cell Therapy
- RSL3
- β2mKO
- Immune Escape
- entities:
- IFN-γ
- RSL3
- MART-1-specific TCR-T cells
- β2 microglobulin (β2m)
- NOGマウス
- SLC7A11
- SLC3A2
- GPX4
- Ferrostatin-1
- IRF1
- STAT1
背景
腫瘍の不均一性は、がん免疫療法における主要な課題の一つである。特に、抗原提示機構や腫瘍抗原の発現を欠損する免疫逃避バリアントクローンは、T細胞による認識と排除を免れ、治療抵抗性や再発の原因となることが知られている (Shah et al. 2019, Lee et al. 2023)。養子細胞療法 (ACT) は、腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) や遺伝子改変T細胞 (CAR-T細胞、TCR-T細胞) を用いて、悪性腫瘍に対して有望な結果を示してきた (Klebanoff et al. 2016, June et al. 2018)。しかし、CD19やBCMAを標的とするCAR-T療法では標的抗原の喪失、ネオアンチゲンを標的とするTIL療法では主要組織適合遺伝子複合体 (MHC) 分子の喪失により、患者の再発が報告されている (Majzner et al. 2018, Tran et al. 2016)。これらの報告は、腫瘍の不均一性が免疫療法効果を制限する重要な要因であることを示唆している。
フェロトーシスは、鉄依存性の脂質過酸化によって駆動される制御された細胞死の一形態であり、様々な腫瘍細胞において効果的な細胞死を誘導することが示されている (Jiang et al. 2021, Chen et al. 2021)。近年、インターフェロンガンマ (IFN-γ) がシステムXc(-)の発現を抑制し、フェロトーシス誘導を増強することが報告された (Wang et al. 2019)。システムXc(-)は、グルタチオンペルオキシダーゼ4 (GPX4) の発現に必要なシステインの取り込みを担うため、その抑制はフェロトーシス感受性を高める。このメカニズムは、腫瘍細胞の脆弱性を高める新たな経路として注目されている。
これらの背景から、抗原特異的T細胞が腫瘍抗原を認識した際に産生するIFN-γが、フェロトーシス誘導剤の効果を腫瘍微小環境で増強し、抗原陽性腫瘍細胞だけでなく、抗原陰性の免疫逃避腫瘍細胞クローンに対しても効率的な細胞死を誘導する可能性が考えられる。しかし、このメカニズムが腫瘍の不均一性を克服する新たな治療戦略となり得るかについては、これまで十分に検討されておらず、その詳細な作用機序は未解明な点が残されている。特に、T細胞由来のIFN-γがフェロトーシス感受性を高めることで、抗原提示を欠く腫瘍細胞を含む不均一な腫瘍に対する免疫療法の効果をどの程度改善できるかについては、知識のギャップが存在し、さらなる研究が不足している。本研究は、この知識のギャップを埋めることを目的としている。
目的
本研究の目的は、抗原特異的T細胞由来のIFN-γがフェロトーシス誘導剤の効果を増強し、抗原提示を欠損する免疫逃避バリアントを含む不均一な腫瘍に対する免疫療法の治療効果を克服できるか否かを検証することである。具体的には、フェロトーシス誘導剤RSL3とMART-1特異的TCR-T細胞の併用が、ヒトメラノーマ細胞とそのβ2マイクログロブリン (β2m) 欠損株からなる不均一な腫瘍モデルの排除に有効であるかを評価する。さらに、IFN-γがシステムXc(-)のサブユニットであるSLC7A11およびSLC3A2の発現を抑制し、フェロトーシス感受性を高めるメカニズムを詳細に解析し、腫瘍の不均一性による免疫逃避を克服する新たな治療戦略としての可能性を明らかにすることを目指す。本研究は、T細胞が産生するIFN-γが、抗原提示を欠損する腫瘍細胞のフェロトーシス感受性を高めることで、免疫療法の効果を増強するという新規の治療戦略を提案する。
結果
IFN-γとRSL3の併用によるメラノーマ細胞死の増強: ヒトメラノーマ細胞株526MELおよび624MELにおいて、フェロトーシス誘導剤RSL3とIFN-γの併用が細胞死を相乗的に増強することが示された (Figure 1A-H)。RSL3単独またはIFN-γ単独と比較して、併用療法では7-AAD陽性細胞およびAnnexin V陽性細胞の割合が有意に増加した (526MELで7-AAD陽性細胞がRSL3単独の約20%から併用で約60%に増加、624MELで7-AAD陽性細胞がRSL3単独の約15%から併用で約50%に増加)。単純加算モデルおよびBliss独立モデルでは、この併用効果が相乗的であることが示唆された (Supplementary table 2-3)。また、別のフェロトーシス誘導剤であるエラスチンを用いた場合も同様の結果が得られた (Supplementary figure 1)。これらの結果は、IFN-γがフェロトーシス誘導剤の効果を増強することを示している。
システムXc(-)サブユニットの発現抑制: IFN-γとRSL3の併用は、システイン取り込みを担うシステムXc(-)のサブユニットである SLC7A11 および SLC3A2 のmRNA発現を有意に抑制した (Figure 1I-L)。624MEL細胞では、RSL3単独では SLC7A11 の発現に変化はなかったが、IFN-γとの併用により両遺伝子の発現が有意に抑制された (SLC7A11 で約0.5-fold、 SLC3A2 で約0.4-fold)。526MEL細胞では、RSL3単独で SLC7A11 の発現が上昇する代償機構が観察されたが、IFN-γとの併用によりこの上昇が有意に抑制された (SLC7A11 でRSL3単独の約2.5-foldから併用で約1.5-foldに減少)。この代償機構は888-melおよびSK-MEL-21細胞株でも確認され、IFN-γがRSL3によるGPX4阻害時のシステムXc(-)のアップレギュレーションを抑制することが示唆された (Supplementary Figure 2)。RNAシーケンス解析により、IFN-γがシステムXc(-)経路の抑制に加え、FSP1-CoQ軸、DHODH-CoQ軸、CyB5R軸、PRDX/TXN軸など、複数のフェロトーシス修復関連経路を阻害する可能性が示唆された (Supplementary figure 3)。この解析は526MEL細胞をRSL3単独またはRSL3+IFN-γで処理した2 replicatesのサンプルを用いて実施された。
MART-1特異的TCR-T細胞のMHCクラスI依存的細胞傷害性: MART-1特異的TCR遺伝子導入Tリンパ球 (MART-1-TCR-T) は、野生型メラノーマ細胞 (526MEL, 624MEL) に対してのみ特異的な細胞傷害活性を示し、β2m欠損 (β2mKO) 細胞に対しては活性を示さなかった (Figure 2C, D)。MART-1-TCR-T細胞は、野生型メラノーマ細胞との共培養時にIFN-γを産生したが、β2mKO細胞との共培養時には産生しなかった (Figure 2E, F)。RSL3の添加はMART-1-TCR-T細胞によるIFN-γ産生に影響を与えなかった。MART-1特異的TCRをγδT細胞に導入した場合も同様の結果が得られた (Supplementary Figure 4)。これらの結果は、MART-1-TCR-T細胞がMHCクラスI依存的に機能することを示している。
不均一な腫瘍モデルに対する併用療法の効果: MART-1-TCR-T細胞と526MEL細胞の共培養上清は、526MEL β2mKO細胞の細胞死をRSL3と相乗的に誘導した (Figure 3A-D)。この相乗効果は、抗IFN-γ中和抗体の添加により消失し (Figure 3A, B)、フェロトーシス阻害剤Ferrostatin-1によっても消失した (Figure 3C, D)。IFN-γとRSL3の併用は、526MELおよび624MEL細胞において脂質過酸化を顕著に増加させ、Ferrostatin-1により抑制された (Supplementary figure 6)。システイン取り込みはIFN-γによりほぼ完全に阻害され、RSL3とIFN-γの併用でも同様の阻害が観察された (Figure 3E, F)。
不均一な腫瘍モデルにおけるβ2mKO細胞の細胞死: 526MELまたは624MELとβ2mKO細胞を1:1で混合した不均一な腫瘍モデルにおいて、MART-1-TCR-T細胞とRSL3の併用は、MART-1-TCR-T細胞単独と比較して有意に細胞傷害活性を増強した (Figure 3I, J)。特に、β2mKO細胞のみを標識して細胞傷害性を評価した実験では、RSL3単独やMART-1-TCR-T細胞単独ではβ2mKO細胞に対する細胞傷害性は認められなかったが、併用療法によりMHCクラスI欠損腫瘍細胞において有意な相乗的細胞死が誘導された (Figure 3L, M)。これは、抗原陽性細胞がT細胞を活性化し、産生されたIFN-γが抗原陰性細胞のフェロトーシス感受性を高めることで、不均一な腫瘍全体を排除するメカニズムを示唆する。この実験はn=3 biological replicatesで実施された。
in vivoにおける不均一な腫瘍モデルの増殖抑制: NOGマウス (n=6 mice/group) を用いた動物実験では、MART-1-TCR-T細胞によるACTは526MEL腫瘍の増殖を有意に抑制したが、526MEL β2mKO腫瘍に対しては効果がなかった (Figure 4B, C)。526MELとβ2mKO細胞を1:1で混合した不均一な腫瘍モデルにおいて、RSL3単独療法もACT単独療法も腫瘍増殖を効率的に抑制しなかったが、併用療法群では腫瘍増殖が有意に抑制された (Figure 4E, F)。ACT後22日目には、エフェクター細胞を投与したマウスの腫瘍中にHLA陽性細胞が少数認められた。HLAクラスI陰性腫瘍の推定体積は、ACT単独群と比較して併用療法群で低かった (Figure 4J)。併用療法群では、腫瘍浸潤T細胞の数が有意に増加しており (Figure 4K)、腫瘍微小環境の改善が示唆された。
IFN-γシグネチャー遺伝子と SLC3A2 発現と予後: 皮膚メラノーマ患者 (n=458) および頭頸部扁平上皮癌 (HNSC) 患者 (n=518) のデータ解析では、 SLC3A2 の低発現がメラノーマ患者の良好な予後と関連していた (Figure 5A)。対照的に、 IRF1 および STAT1 の高発現は良好な予後と関連し、これらの遺伝子と SLC3A2 の間には負の相関が観察された ( SLC3A2 と IRF1 の相関R = -0.22, p=1.5e-6; SLC3A2 と STAT1 の相関R = -0.15, p=0.0017) (Figure 5C, E)。HNSC患者でも同様の傾向が確認された (Figure 5F)。これらの結果は、腫瘍細胞のフェロトーシス感受性とIFN-γへの曝露が、がん患者の腫瘍進行において重要な役割を果たす可能性を示唆する。
考察/結論
本研究は、抗原特異的T細胞療法とフェロトーシス誘導剤の併用が、抗原提示を欠損する免疫逃避バリアントを含む不均一な腫瘍細胞の細胞死を増強し、有意な抗腫瘍効果をもたらすことを初めて実証した。これは、腫瘍の不均一性が免疫療法の主要な課題であるというこれまでの認識 (Alexandrov et al. 2013) と異なり、T細胞の活性化によって生じる微小環境の変化が、抗原陰性細胞の脆弱性を高めるという新規の治療戦略を示唆する。
本研究で初めて、T細胞由来のIFN-γがフェロトーシス誘導剤RSL3の効果を増強し、特にβ2mKO細胞のような免疫逃避バリアントに対しても細胞死を誘導することを示した。このメカニズムは、IFN-γがシステムXc(-)のサブユニットである SLC7A11 および SLC3A2 の発現を抑制し、システイン取り込みを阻害することで、腫瘍細胞のフェロトーシス感受性を高めることによる。さらに、RNAシーケンス解析により、IFN-γがシステムXc(-)経路だけでなく、FSP1-CoQ軸、DHODH-CoQ軸、CyB5R軸、PRDX/TXN軸など、複数のフェロトーシス修復関連経路を抑制する可能性が示唆された。これは、IFN-γがフェロトーシス感受性を広範に再構築する多面的なメカニズムを持つことを示唆するものであり、これまで報告されていない知見である。
本知見は、腫瘍の不均一性によって生じる免疫療法抵抗性を克服するための新たな治療アプローチとして、臨床応用に直結する可能性を秘めている。特に、TCR-T細胞療法とフェロトーシス誘導剤の併用は、抗原陽性細胞と抗原陰性細胞の両方を標的とすることで、治療効果の向上と再発率の低下に貢献し得る。臨床的意義として、既存の免疫療法で効果が得られにくい患者群、特に抗原発現が不均一な固形がん患者に対する新たな治療選択肢を提供する可能性がある。
今後の検討課題として、IFN-γがフェロトーシス感受性を高める詳細な分子メカニズムのさらなる解明が残されている。特に、RNAシーケンスで示唆された複数のフェロトーシス修復経路への影響について、機能的な検証が必要である。また、本研究ではNOGマウスを用いた異種移植モデルで有効性を示したが、より臨床に近い同系マウスモデルやヒト臨床試験での検証が不可欠である。さらに、フェロトーシス誘導剤の全身投与による非腫瘍細胞への影響、特に免疫細胞への影響についても詳細な評価が必要である。Limitationとして、本研究のRNAシーケンス解析のサンプル数が限られていたため、統計的有意性が常に観察されたわけではない点が挙げられる。
方法
本研究では、ヒトメラノーマ細胞株526MELおよび624MEL、ならびにそのβ2m欠損 (β2mKO) 株を用いて、フェロトーシス誘導剤RSL3とIFN-γ、およびMART-1特異的TCR遺伝子導入T細胞 (MART-1-TCR-T) の併用効果を評価した。
細胞株と試薬: メラノーマ細胞株は、526MEL、624MEL、888-mel、SK-MEL-21、Mel-2、SK-MEL-139、SK-MEL-3、SK-MEL-36を使用した。β2mKO細胞株は、CRISPR/Cas9システムを用いてβ2mを標的とするsgRNAを導入し、HLA-A2陰性細胞をセルソーティングにより精製して作製した。フェロトーシスは0.5 μM RSL3または40 μM エラスチンを用いて誘導し、10 ng/mLのヒトIFN-γを併用した。
TCR-T細胞の作製: 末梢血単核球 (PBMC) は、3名の健常ドナーから同意を得て採取した。MART-1特異的TCR (DMF-5 TCR由来) をコードするレトロウイルスベクターをsiTCR™ベクターシステム (Takara Bio) を用いて作製し、PBMCに遺伝子導入した。遺伝子導入T細胞は、MART-1-TCR-T細胞として使用した。
細胞死およびフェロトーシス評価: 細胞死は7-AADおよびAnnexin V染色によるフローサイトメトリーで評価した。脂質過酸化はBODIPY™ 581/591 C11アッセイで測定した。システイン取り込みはCystine Uptake Assay Kit (Dojindo Laboratories) を用いて評価した。アポトーシスはCleaved Caspase-3染色により評価した。
遺伝子発現解析: SLC7A11 および SLC3A2 のmRNA発現は定量的RT-PCRで解析した。RNAシーケンス解析は、526MEL細胞をRSL3単独またはRSL3+IFN-γで処理したサンプルを用いて実施し、フェロトーシス修復関連遺伝子の発現を評価した。この解析には2 replicatesのサンプルが用いられた。
細胞傷害性アッセイ: MART-1-TCR-T細胞の細胞傷害性は、N-SPC® Non-Radioactive Cellular Cytotoxicity Assay Kit (Techno Suzuta Co., Ltd.) を用いて評価した。不均一な腫瘍モデルでは、野生型細胞とβ2mKO細胞を1:1で混合し、細胞傷害性を測定した。特に、β2mKO細胞のみをBM-HTキレートで標識し、β2mKO細胞特異的な細胞死を評価した。
ELISA: MART-1-TCR-T細胞とメラノーマ細胞の共培養上清中のIFN-γ濃度はELISAで測定した。
動物実験: 8週齢の雌NOGマウス (NOD.Cg- Prkdc [scid] Il2rg [tm1Sug] /ShiJic) に2.0-2.5 Gyの放射線照射後、526MEL細胞および/またはそのβ2mKO細胞を皮下注射し、腫瘍モデルを構築した。MART-1-TCR-T細胞を静脈内投与し、RSL3 (10 mg/kg/mouse) を腹腔内投与した。腫瘍体積を測定し、腫瘍浸潤リンパ球をフローサイトメトリーで解析した。動物実験プロトコルは長崎大学動物実験倫理委員会により承認された (承認番号: 2112211764-9)。
患者データ解析: GEPIA2 (http://gepia2.cancer-pku.cn) を用いて、The Cancer Genome Atlas (TCGA) の皮膚メラノーマ患者 (n=458) および頭頸部扁平上皮癌 (HNSC) 患者 (n=518) のデータセットから、 SLC3A2 、 IRF1 、 STAT1 の発現と全生存率の関連をKaplan-Meier法で解析した。遺伝子発現間の相関はPearsonの相関係数を用いて評価した。
統計解析: 統計的有意差は二元配置分散分析 (two-way analysis of variance) を用いて評価し、p値 < 0.05を有意とした。全ての統計解析はGraphPad Prism (version 8.0) を用いて実施した。