- 著者: Yunlu Jia, Xiaogang Ying, Jichun Zhou, Yongxia Chen, Xiao Luo, Shudu Xie, Qin chuan Wang, Wenxian Hu, Linbo Wang
- Corresponding author: Linbo Wang (Department of Surgical Oncology, Sir Run Run Shaw Hospital, Zhejiang University, Hangzhou, China)
- 雑誌: Cell Death & Disease
- 発行年: 2018
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- DOI: 10.1038/s41419-018-0580-3
背景
肺がん (LC) は世界的に極めて一般的かつ蔓延している悪性腫瘍であり、依然としてがん関連死の主要な原因となっている。根治的治療が行われたとしても、不治の段階における再発や転移の拡大が一般的であり、これらが患者の予後に悪影響を及ぼしている。そのため、がんの進行に関与する生化学的経路や潜在的な分子を明らかにすることは、新たな治療標的の探索および臨床的アウトカムの改善において極めて重要である。
Placenta-specific 8 (PLAC8, 別名 Onzin) は、マウス胎盤の spongiotrophoblast 層に限定して発現することから命名された分子であり、免疫調節、細胞分化、アポトーシスなどの様々な細胞物理的プロセスに関与していることが既報により示されている。また、感染症、糖尿病、および様々なヒト腫瘍を含む疾患の制御にも関わっていることが報告されており、例えば前立腺がんや膵がんの増殖および転移において重要な役割を果たすことが先行研究で示されている。大腸がんにおいては、PLAC8 の過剰発現がリン酸化 extracellular signal-regulated kinase 2 (p-ERK2) を増加させ、細胞運動性とがん浸潤を亢進させることが報告されている。さらに、肝細胞がんのバイオマーカーとしての役割や、透明細胞型腎細胞がんにおける悪性進行および予後不良との関連も報告されている。
一方で、Kruppel-like factor 4 (KLF4) は亜鉛指転写因子として、皮膚や腸の終末分化上皮細胞に高発現し、細胞運命の再プログラミングや胚性幹細胞の自己複製を調節することが知られている。KLF4 は組織型に応じて腫瘍抑制因子としてもオンコジーンとしても機能する複雑な役割を持ち、肺がん、膵がん、胃がん、大腸がん、髄膜腫、子宮頸がんなどでは細胞増殖を抑制することが報告されている。著者らの過去の研究では、原発性肺がん組織において KLF4 が減少していること、および hTERT や SPARC の転写抑制を介してがんの発生と進行を制御することが示されている。
しかしながら、肺がんの進行過程における PLAC8 の発現プロファイルや生物学的役割については、これまで報告がなく、その詳細な機能および潜在的な制御メカニズムは未解明である。特に、転写因子である KLF4 と PLAC8 の間にどのような相互作用が存在し、それが肺がんの増殖にどのように寄与しているかという点について、知識の不足があり、さらなる解明が課題となっていた。
目的
本研究の目的は、肺がんの発生および進行における PLAC8 の発現プロファイルを明らかにするとともに、その臨床病理学的および予後的な意義を検討することである。また、内因性 PLAC8 の発現ががん細胞の増殖をどのように調節しているかという生物学的効果を検証し、さらに KLF4 による PLAC8 の転写制御を含む新規な KLF4/PLAC8 制御軸の存在とそのメカニズムを解明することを目的とした。
結果
PLAC8 発現と臨床病理学的特徴および予後の相関: Oncomine データベースおよび既報のコホートを用いたデータマイニングにより、多くのヒトがんにおいて PLAC8 mRNA は正常組織より低下していたが、6 つの肺がんコホート(Garber, Landi, Su, Hou, Selamat, Okayama)では PLAC8 の過剰発現が悪性進行を予測する傾向が観察された。肺がん組織マイクロアレイ (TMA) および細胞株を用いた解析では、H322, H1299, H1650 細胞で PLAC8 が高発現し、H460, A549, PC9 等では低発現であった (Fig. 1a)。90 例の原発性肺がん患者の TMA 解析において、PLAC8 発現レベルは腫瘍サイズ (P=0.0400)、TNM ステージ (P=0.0460)、および腫瘍分化度 (P=0.0298) と有意に相関していた (Table 2)。カプラン・マイヤー法による生存曲線解析では、PLAC8 高発現群の全生存期間 (OS) は低発現群と比較して有意に不良であった (P=0.0102, Fig. 1d)。さらに、多変量 Cox 比例ハザード解析の結果、PLAC8 発現は OS に対する独立した予後不良因子であることが示された (HR 2.317, 95% CI 1.402-3.830, p=0.001, Table 3)。
PLAC8 ノックダウンによる肺がん細胞増殖の抑制: PLAC8 の機能を評価するため、H322 および H1299 細胞株において 2 種類の siRNA を用いて PLAC8 をサイレンシングした。その結果、PLAC8 の mRNA およびタンパク質レベルが有意に減少した (Fig. 2a)。MTT アッセイにより、PLAC8 のノックダウンが H322 および H1299 の細胞生存能を抑制することが示された (Fig. 2c)。また、コロニー形成アッセイにおいても、PLAC8 の欠損によりコロニー形成効率が低下した (Fig. 2b)。さらに、5-ethynyl-2’-deoxyuridine (EdU) 取り込みアッセイにより、PLAC8 サイレンシングが細胞増殖能を低下させることが定量的に示された (Fig. 2d)。これらの結果は、PLAC8 が肺がん細胞の増殖を促進する因子であることを示唆している。
PLAC8 過剰発現による細胞増殖および腫瘍形成の促進: レンチウイルスベクターを用いて H460 および PC9 細胞に PLAC8 を過剰発現させたところ、mRNA およびタンパク質レベルが著しく上昇した (Fig. 3a)。MTT アッセイでは、lenti-PLAC8 導入後の細胞生存能が定常的に増加し (Fig. 3c)、コロニー形成アッセイでもコロニー形成能が亢進した (Fig. 3b)。EdU 取り込みアッセイにおいても、PLAC8 過剰発現により細胞増殖が促進された (Fig. 3d)。in vivo 試験では、H460/PLAC8 細胞を導入したヌードマウス (n=5) において、コントロール群と比較して腫瘍の成長速度が有意に速く、腫瘍体積および重量が著しく増加した (Fig. 4a, 4b)。また、免疫組織化学 (IHC) 染色により Ki67 陽性細胞が増加し、TUNEL アッセイによりアポトーシス細胞が減少していることが確認された (Fig. 4d, 4e)。
KLF4 による PLAC8 発現の負の制御: KLF4 と PLAC8 の関係を調べるため、H322 および H1299 細胞に KLF4 を過剰発現させたところ、PLAC8 のタンパク質および mRNA 発現が減少した (Fig. 5a, 5b)。逆に、H460 および PC9 細胞で KLF4 をノックダウンすると、PLAC8 発現が著しく上昇した。肺がん TMA を用いた解析では、KLF4 低発現の検体において PLAC8 が高発現しており、両者の発現レベルには負の相関が認められた (Fig. 5c, 5d)。
KLF4 による PLAC8 プロモーターへの直接結合と転写抑制: KLF4 がどのように PLAC8 を制御するかを検証するため、PLAC8 プロモーター領域 (-1450 から +300) を含む 1750-bp の断片を組み込んだルシフェラーゼレポーター (pEZX-1750) およびその欠損変異体 (pEZX-1393, pEZX-435) を作成した。H1299 細胞を用いた解析の結果、KLF4 はこれら全てのレポーター活性を抑制した (Fig. 6a)。また、H1299 および H460 細胞において、KLF4 の過剰発現は PLAC8 プロモーター活性を減弱させ、KLF4 のノックダウンは活性を上昇させた (Fig. 6b)。クロマチン免疫沈降 (ChIP) アッセイでは、H322, H1299, PC9 細胞において KLF4 が PLAC8 プロモーター領域に直接結合することが示された (Fig. 6d)。さらに、H460 細胞への KLF4 導入により anti-KLF4 抗体による免疫沈降分画が有意に増加し、H1299 細胞での KLF4 ノックダウンでは逆の結果となった (Fig. 6e, 6f)。
PLAC8 による KLF4 誘発性増殖抑制の部分的な解除: KLF4 による増殖抑制が PLAC8 のダウンレギュレーションに依存しているかを検証した。H1299 細胞において PLAC8 を過剰発現させたところ、KLF4 導入によって誘導される細胞増殖の遅延が部分的に回復した (Fig. 7a)。また、KLF4 過剰発現によるアポトーシスの増加は、PLAC8 の共発現により有意に抑制された (Fig. 7c)。細胞周期解析では、KLF4 導入により G1 期で停止していた細胞が、PLAC8 の過剰発現により S 期への移行が増加し、G1 期の割合が減少することが示された (Fig. 7d)。以上の結果から、KLF4 による肺がん細胞の増殖抑制効果は、部分的に PLAC8 の発現抑制を介して行われていることが明らかとなった。
考察/結論
先行研究との違い: PLAC8 の機能は細胞型によって異なり、これまでの報告では、ラット線維芽細胞でのアポトーシス抑制や、一部のリンパ球でのアポトーシス誘導、また肝細胞がんでは発現低下が癌化に関連するとされており、組織特異的な挙動を示すことが知られていた。本研究は、これらの報告と異なり、肺がんにおいては PLAC8 が明確なオンコジーンとして機能し、その高発現が腫瘍の進行および予後不良に直結することを実証した。
新規性: 本研究で初めて、肺がんにおいて KLF4 が PLAC8 プロモーターに直接結合してその転写を抑制するという新規な KLF4/PLAC8 シグナル経路を同定した。KLF4 が肺がんの腫瘍抑制因子として機能することは既知であったが、その下流標的として PLAC8 を制御し、細胞周期の停止やアポトーシスを誘導するというメカニズムを明らかにした点は、本研究の重要な新規性である。
臨床応用: 本研究により、PLAC8 が肺がんの進行における中心的なメディエーターであることが示された。PLAC8 の発現レベルが腫瘍サイズや TNM ステージと相関し、独立した予後予測因子 (HR 2.317, p=0.001) であることは、PLAC8 が肺がんの診断における有望なバイオマーカーとなり得ることを示唆している。また、KLF4/PLAC8 軸を標的とした治療戦略の構築は、肺がんの増殖を抑制するための新たな translational なアプローチとなる可能性がある。
残された課題: 本研究では PLAC8 が KLF4 の抑制効果を部分的に解除することを示したが、KLF4 が制御する他の下流分子との相互作用や、PLAC8 が具体的にどの細胞周期制御因子を介して S 期移行を促進しているかという詳細な分子メカニズムについては、今後の検討課題として残されている。また、in vivo における KLF4/PLAC8 軸の操作が治療的に有効であるかを検証するためのさらなる研究が必要である。Limitation として、本研究の TMA 解析は 90 例のコホートに基づいているため、より大規模な患者群での検証が望まれる。
結論: 総括すると、PLAC8 は肺がんの悪性進行を促進するオンコジーンとして機能し、KLF4 によって転写レベルで抑制される。この新規な KLF4/PLAC8 シグナル経路が、肺がん細胞の増殖とアポトーシスを制御していることが明らかとなった。
方法
細胞培養および導入: H322, H460, H1299, H1650, H1975, A549, PC9 のヒト肺がん細胞株を RPMI-1640 Medium (10% FBS, 5% glutamine) にて 37°C, 5% CO2 下で培養した。KLF4 の過剰発現にはアデノウイルスベクター (Ad-KLF4, pcDNA3.1) を用い、LacZ をコントロールとした。PLAC8 の過剰発現にはレンチウイルスベクターを用いた。KLF4 および PLAC8 のノックダウンには、商用合成された siRNA (si-KLF4, si-PLAC8) を Lipofectamine 3000 を用いて導入した。
分子生物学的解析: Trizol Reagent を用いて全 RNA を抽出し、HiFiScript cDNA Synthesis Kit で逆転写後、セミクオンティタティブ RT-PCR を実施した。タンパク質発現は、抗 PLAC8 (1:1000)、抗 KLF4 (1:1000)、抗 Ki67 (1:500)、抗 GAPDH (1:500) 抗体を用いた Western blot で解析した。細胞内局在は、Alexa 488 共役抗体を用いた免疫蛍光染色により共焦点顕微鏡で観察した。
機能解析アッセイ: 細胞生存能は MTT アッセイ (Promega) により、増殖能はコロニー形成アッセイおよび EdU 取り込みアッセイ (20 mM EdU, 2h 処理) により評価した。アポトーシス解析には Annexin V-FITC/PI 染色および TUNEL アッセイを用いた。細胞周期解析は、S-phase および G1-phase の割合をフローサイトメトリー (Accuri model C6) で測定した。
プロモーター解析および ChIP: PLAC8 プロモーター領域 (-1450 to +300) を含む pEZX-1750 およびその欠損変異体 (pEZX-1393, pEZX-435) を構築し、デュアルルシフェラーゼアッセイにより活性を測定した。クロマチン免疫沈降 (ChIP) アッセイは、SimpleChIP Enzymatic Chromatin IP Kit を用い、anti-KLF4 抗体で免疫沈降後、特異的プライマーを用いてリアルタイム PCR で結合量を定量した。
in vivo 試験: H460/PLAC8 および H460/CON 細胞をそれぞれ 2 × 10^6 cells ずつ、ヌードマウス (n=5) の皮下に注入した。3 週間後、腫瘍体積 (V = 0.5 length width^2) および重量を測定し、Ki67 染色および TUNEL アッセイにより増殖能とアポトーシス率を評価した。
統計解析: GraphPad Prism 6.0 を使用した。2 群間の比較には two-tailed unpaired Student’s t-test を用い、臨床病理学的特徴の相関には χ² 検定を、生存解析には Kaplan-Meier 法および log-rank test を用いた。多変量解析には Cox proportional hazards analysis を適用した。p < 0.05 を統計的有意とした。