• 著者: Shuang Liang, Yingying Sun, Zelei Miao, Bang-yan Li, Ziyuan Xing, Yuting Xie, Tiannan Guo, et al.
  • Corresponding author: Tiannan Guo (Westlake University); Yi Zhu (Westlake University); Yu-ming Chen (Sun Yat-sen University); Ju-Sheng Zheng (Westlake University)
  • 雑誌: Cell Metabolism
  • 発行年: 2026
  • Epub日: 2026-02-13
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 41831436

背景

ヒト腸内マイクロバイオームは、宿主の生理作用、代謝調節、および免疫系の恒常性維持に極めて重要な役割を果たしている。これまでの多くの研究において、腸内細菌叢の構成変化が T2D (type 2 diabetes; 2型糖尿病) や肥満、心血管疾患などの代謝性疾患、さらには加齢に伴う生理的機能低下と密接に関連していることが示されてきた。例えば、Cani et al. (2018) や Shreiner et al. (2015) などの先行研究は、腸内細菌の多様性の低下や特定の代謝産物の減少が宿主の健康状態に悪影響を及ぼすことを報告している。また、腸内細菌叢の機能変化と宿主の代謝健康との関連については、Fan 2021 などの総説でも包括的に議論されている。しかしながら、これら従来のマイクロバイオーム研究の大部分は、DNAまたはRNAの次世代シーケンシング技術に依存していた。シーケンシング解析は微生物の「遺伝的な潜在能」を明らかにするものの、実際に発現して機能している「タンパク質レベルの活性」を直接的に測定することはできない。そのため、腸内細菌叢が宿主の加齢や病態において果たす実際の機能的役割については、依然として多くの部分が未解明のままであった。タンパク質レベルでの機能的活性を直接測定するメタプロテオーム解析 (metaproteomics) は、腸内細菌叢の動的な機能プロファイルを明らかにする上で極めて有望なアプローチである。しかし、これまでのメタプロテオーム研究は、サンプルサイズが極めて小さく、タンパク質同定の技術的限界やデータ解析の複雑さといった課題を抱えていた。大規模な集団レベルにおける腸内メタプロテオームの包括的な解析は未開拓の領域であり、加齢や代謝性疾患、さらには薬物介入が微生物の機能に与える影響を十分に評価するためのデータは著しく不足していた。したがって、大規模コホートを対象とした高深度なメタプロテオーム解析の実施と、それに基づく宿主の表現型との関連性の解明が強く求められており、この技術的・データ的な gap を埋めることが本分野の重要な課題であった。

目的

本研究の目的は、中高年の中国人集団を対象とした大規模コホートである GNHS (Guangzhou Nutrition and Health Study; 広州栄養健康研究) の参加者から得られた大規模な糞便サンプルを用いて、高深度なメタプロテオーム解析を実施することである。これにより、ヒト腸内マイクロバイオームのコアとなる機能的アーキテクチャを包括的に定義し、加齢、代謝性疾患である T2D、HBP (hypertension; 高血圧)、DLP (dyslipidemia; 脂質異常症)、および MetS (metabolic syndrome; メタボリックシンドローム) 、ならびに薬物治療に伴う微生物の機能的シフトをタンパク質レベルで明らかにすることを目指した。さらに、T2Dに関連するマイクロバイオームの機能的メカニズムを深く掘り下げ、独立した検証コホートおよび機械学習モデルを用いてその再現性を検証するとともに、T2Dのハブ種として同定された Megasphaera elsdenii の薬物応答性と、宿主の血糖恒常性維持における因果関係およびその分子機序を、in vitro 培養実験および無菌マウスを用いた動物実験により実証することを目的とした。

結果

大規模メタプロテオームリソースの構築とデータ品質: GNHSコホートの n=1,399 名から得られた1,967サンプルの糞便メタプロテオーム解析により、合計452,619個のペプチドプレカーサー、1,456個のヒト特異的タンパク質、および92,082個の微生物タンパク質グループを同定した (Fig 1)。同定された微生物は46門、325属、456種に及び、機能的には2,753個の COG クラスターおよび2,973個の KO クラスターを網羅した (Fig 1)。各サンプルにおける平均同定数は、微生物タンパク質グループが 16,731 ± 5,769 個、ヒトタンパク質が 561 ± 127 個であった。微生物タンパク質の総量はヒトタンパク質と比較して約 5.8-fold 高い豊度を示した。545個の QC (quality control; 品質管理) サンプルを用いた検証では、高い相関性と再現性が確認され、バッチ間誤差は極めて小さかった。分類学的には Bacillota 門や Bacteroidota 門が優勢であり、種レベルでは Segatella copriFaecalibacterium prausnitzii が最も豊富であった。

表現型および加齢に伴う微生物機能の変容: GLMを用いた解析により、44の表現型とメタプロテオーム特徴量との間に26,249件の有意な関連を同定した (BH-adjusted p ≤ 0.05) (Fig 2)。最も影響力の大きい表現型はT2D治療薬であり、次いで Bristol 糞便スケール、TG (triglycerides; トリグリセリド)、T2D、茶の消費、加齢の順であった。加齢との関連解析では、横断解析と縦断解析の双方で共通して変化する161個の加齢関連特徴量を同定した (Fig 3)。特に、プロピオン酸産生菌である Phascolarctobacterium 属が加齢に伴い有意に減少した (beta = -0.02, p ≤ 0.01)。機能レベルでは、DNA修復やイオン輸送に関わる KO が減少する一方で、ストレス応答タンパク質 (FkpA) やエネルギー代謝関連酵素 (SucC/D, PdhC) が増加しており、加齢に伴う炭素代謝や三カルボン酸サイクル、バイオフィルム形成経路の再編成が示された。

代謝性疾患における共通のメタプロテオームシグナチャー: T2D、HBP、DLP、MetSの4つの代謝性疾患に共通する特徴を解析したところ、宿主側では炎症マーカーである A1AG1 (alpha-1-acid glycoprotein 1) や、糖・エネルギー代謝に関わる GAA、CKMT がすべての疾患で正の相関を示した (Fig 4)。微生物側では、主要な酪酸産生菌である F. prausnitzii および Brotaphodocola catenula の顕著な枯渇が共通して観察された。機能的には、炭素代謝、ペントースリン酸経路、アミノ酸合成、および脂肪酸合成に関わる微生物タンパク質が一貫して減少しており、代謝性疾患における共通の機能的ディスバイオシス (dysbiosis: 菌叢崩壊) パターンが明らかになった。

薬物治療に伴う微生物機能の修飾作用: 未治療の疾患群 (untreated disease: UD) と治療中の疾患群 (treated disease: TD) を非疾患対照群 (non-diseased: ND) と比較することにより、薬物治療に関連する43,034個のメタプロテオーム特徴量を同定した (Fig 5)。特に F. prausnitzii 由来のタンパク質は、T2D、HBP、DLPのいずれにおいても薬物治療に対して顕著な応答性を示したが、その変化パターンは疾患ごとに異なっていた。例えば、T2Dにおいては糖輸送システムやアミノ酸代謝に関わる F. prausnitzii タンパク質が治療群で修飾されていた。また、宿主のミオシン、リボソームタンパク質、シトクロムcサブユニットなどの発現パターンも、治療介入によって病態特異的に修飾される傾向が確認された。

T2Dにおける M. elsdenii のハブ種としての同定と予測モデル: T2Dに関連する2,219個の特徴量を同定し、共起ネットワーク解析および機械学習モデルを統合した結果、Megasphaera elsdenii がT2D関連の強力なマイクロバイオームハブ種として浮上した (Fig 6)。M. elsdenii 由来の36個のタンパク質が、独立したFHコホート (n=103) においても有意に関連していることが検証された。KOベースの特徴量と臨床リスク因子を組み合わせた XGBoost モデルは、FHコホートにおいて AUC (area under the receiver operating characteristic curve) 0.734 という高い予測性能を示した (Fig 6)。ネットワーク解析により、M. elsdenii の乳酸利用、酪酸産生、およびエネルギー共役システム (RNF 複合体や ATP 合成酵素) に関わるタンパク質群がT2Dにおいて高度に連携してアップレギュレートされていることが示された。この知見は、先行研究である Qin 2012 などのメタゲノム関連解析で報告された糖尿病患者の腸内細菌叢の機能シフトとも整合する。

M. elsdenii による血糖調節と酪酸産生の実験的実証: M. elsdenii の存在量および有病率は、非T2D群 (49.6%) と比較してT2D群 (60.0%) で有意に高かった (p < 0.001) (Fig 7)。さらに、非服薬T2D群から服薬T2D群にかけて存在量が段階的に増加しており、抗糖尿病薬がその増殖を促進している可能性が示唆された。in vitro 培養実験 (n=12 replicates) において、メトホルミン (20 mM) およびアカルボース (20 mM) の添加は M. elsdenii の増殖を有意に促進した (p < 0.001) が、グリメピリド (50 μM) は影響を与えなかった (Fig 7)。 この治療薬誘導性の M. elsdenii の血糖調節能を検証するため、高脂肪食を給餌した C57BL/6 系統の無菌雄マウス (n=7 mice per group) に M. elsdenii を経口投与した。その結果、投与開始16日目から空腹時血糖値が有意に低下し (p < 0.001)、その効果は既知の血糖降下菌である L. reuteri 投与群と同等であった (Fig 7)。さらに、M. elsdenii 投与群のマウスでは、腸管内の酪酸濃度が対照群と比較して有意に上昇していた (p < 0.01) (Fig 7)。これにより、抗糖尿病薬によって増殖が促進された M. elsdenii が、酪酸産生を介して宿主の血糖恒常性を維持するという新たな治療機序が実証された。

考察/結論

先行研究との違い: 従来のマイクロバイオーム研究は、DNAやRNAのシーケンシング技術に基づく分類学的組成や遺伝子存在量の記述に留まっており、実際に機能しているタンパク質レベルの動態を捉えることは困難であった。これに対し、本研究は1,967サンプルという過去最大規模の臨床メタプロテオームコホートを構築し、データ独立捕捉質量分析法を用いることで、遺伝的ポテンシャルではなく「発現された微生物機能」を直接評価した。このアプローチは、小規模なサンプリングに依存していたこれまでのメタプロテオーム研究と異なり、集団レベルでの高度な不均一性を克服し、加齢や代謝性疾患に伴う機能的変化を極めて高い統計的信頼性をもって同定することを可能にした。

新規性: 本研究で初めて、大規模集団における腸内メタプロテオームのコア機能アーキテクチャを定義するとともに、加齢や代謝性疾患 (T2D、HBP、DLP) に共通する微生物の機能的ディスバイオシスを新規に明らかにした。特に、T2Dのハブ種として同定された Megasphaera elsdenii が、メトホルミンやアカルボースといった特定の抗糖尿病薬によって直接的に増殖促進されることを新規に同定した。さらに、無菌マウスモデルを用いて、M. elsdenii の投与が腸管内酪酸産生を増加させ、空腹時血糖を有意に低下させるという因果関係を実証し、薬物-微生物-宿主代謝を結ぶ新しい機能的軸を本研究で初めて提示した。

臨床応用: 本研究の知見は、マイクロバイオームを標的とした個別化医療や創薬における臨床応用に直結する。特に、メトホルミンやアカルボースの治療効果の一部が、M. elsdenii の増殖促進とそれに伴う酪酸産生を介している可能性を示したことは、臨床的意義が極めて大きい。酪酸は腸管L細胞からの GLP-1 (glucagon-like peptide-1) 分泌を刺激して血糖恒常性を改善することが Gao 2009 などの動物実験でも示されており、本知見は M. elsdenii 自体を次世代のプロバイオティクス製剤として活用する、あるいはその代謝経路を標的とした新規のT2D治療戦略の開発に貢献する。また、構築されたKOベースの予測モデルは、独立コホートにおいて高い予測能を示しており、臨床現場における疾患リスク予測や診断補助ツールとしての臨床的有用性が期待される。

残された課題: 本研究にはいくつかの limitation が存在し、これらは今後の検討課題として残されている。第一に、本研究のコホートは単一の中国人集団に限定されており、食習慣や遺伝的背景が異なる他民族集団への一般化可能性については、今後の研究による検証が必要である。第二に、臨床データにおいて複数の薬剤が併用されている場合が多く、個々の薬剤がメタプロテオームに与える独立した影響や相乗効果を完全に分離して評価することは困難であった。第三に、M. elsdenii が酪酸産生を介して血糖を低下させる詳細な分子経路 (例えば、特定のGタンパク質共役受容体を介したGLP-1分泌促進の直接的証明など) については、さらなる基礎研究が必要である。これらの課題を解決することが、今後の方向性として重要である。

方法

本研究では、GNHSコホートの40歳から75歳の中高年中国人参加者1,399名から得られた1,967検体の糞便サンプルを対象とした。このうち568名からは、中央値3.2年の間隔を空けて縦断的に2回目のサンプルを採取した。メタプロテオーム解析には、並行蓄積・連続フラグメンテーションを伴うデータ独立捕捉である diaPASEF (data-independent acquisition with parallel accumulation-serial fragmentation) 質量分析法を用いた。糞便から抽出したタンパク質をトリプシンで消化し、ナノ流量液体クロマトグラフィーとデュアル捕獲イオン移動度分光分析計を搭載した質量分析計 (timsTOF Pro) を用いて測定した。スペクトルライブラリの構築には、MetaExpertPro (version 2.5.1) および DIA-NN (Data-Independent Acquisition Neural Networks; version 1.8.1) を使用した。微生物タンパク質の機能注釈には eggNOG-mapper (version 2.1.5) を用いて COG (Cluster of Orthologous Group) を、GhostKOALA を用いて KO (KEGG Orthology) を割り当てた。分類学的注釈には Unipept を用いた。 宿主の臨床データやライフスタイルに関する50の表現型変数とメタプロテオーム特徴量との関連性は、GLM (general linear model; 一般線形モデル) を用いて解析し、BH (Benjamini-Hochberg) 法により p 値を調整した (有意水準は BH-adjusted p ≤ 0.05)。加齢に伴う縦断的変化の解析には、GLMM (generalized linear mixed effects model; 一般線形混合効果モデル) を適用した。T2D予測モデルの構築には、XGBoost (eXtreme Gradient Boosting) を用いた5分割交差検証を実施し、独立した検証コホートである FH (First Affiliated Hospital; 第一附属病院) コホート (n=103) においてその予測性能を評価した。 M. elsdenii (DSM-20460 株) の抗糖尿病薬に対する応答性を検証するため、嫌気条件下でメトホルミン、アカルボース、グリメピリドを添加した培地での in vitro 培養実験を n=12 replicates で行い、細胞数および吸光度 (OD600) の変化を測定した。さらに、C57BL/6 系統の無菌雄マウス (n=7 mice per group) を用いた動物実験を実施した。マウスに HFD (high-fat diet; 高脂肪食) を給餌し、M. elsdenii または対照として Lactobacillus reuteri を10^9 CFU (colony-forming unit) の用量で経口投与し、FBG (fasting blood glucose; 空腹時血糖) を経時的に測定するとともに、糞便中の酪酸などの SCFA (short-chain fatty acid; 短鎖脂肪酸) 濃度を UPLC-MS/MS により定量評価した。統計解析には、2群間比較として Wilcoxon 符号順位検定や、経時的変化の比較として反復測定二元配置 ANOVA (analysis of variance; 分散分析) を用いた。