- 著者: Oygul Mirzalieva, Meredith Juncker, Joshua Schwartzenburg, Shyamal Desai
- Corresponding author: Shyamal Desai (Department of Biochemistry and Molecular Biology, LSUHSC-School of Medicine)
- 雑誌: Cells
- 発行年: 2022
- Epub日: 2022-02-04
- Article種別: Review
- PMID: 35159348
背景
ISG15 (interferon-stimulated gene 15) は、インターフェロン (IFN) 刺激によって誘導されるユビキチン様タンパク質 (UBL) であり、成熟型の分子量は15 kDaである。ユビキチンと同様にE1→E2→E3酵素カスケードを通じて標的タンパク質に共有結合 (ISGylation) する翻訳後修飾を媒介する。生理的条件下ではほぼ発現しないが、I型インターフェロン刺激、DNA傷害、細菌・ウイルス感染など多様なストレスシグナルにより急速に誘導されることが知られている (Haas et al. 1987)。ISGylationはプロテアソーム依存的タンパク質分解を阻害する一方で、遊離型細胞外ISG15はサイトカイン様の免疫調節機能を発揮するという「諸刃の剣」的二面性が注目されており、がん・神経変性疾患・感染症を横断する疾患制御因子として位置付けられてきた (D’Cunha et al. 1996)。
ISG15とその修飾経路が多様なヒト疾患の病態にどのように関与し、その二面性が具体的にどのような分子メカニズムに基づいているのかについては、依然として未解明な点が多く、包括的な理解が不足している。特に、ISG15の異なる形態(遊離型細胞内、結合型、分泌型)が疾患の進行においてどのような役割を果たすのか、またそれらが診断や治療の標的としてどのように活用できるかについての統合的な視点がこれまで報告されておらず、知識のギャップが残されていた。例えば、ISG15はがん細胞の増殖、移動、転移に関与し、抗がん剤感受性を変化させることが示されているが (Desai et al. 2006)、その詳細なメカニズムは完全には解明されていない。また、神経変性疾患においてもISG15の異常な発現が報告されているが (Wood et al. 2011)、その病態への寄与は複雑であり、単純な促進または抑制の枠には収まらない。さらに、感染症におけるISG15の抗ウイルス・抗菌機能についても、ウイルスがISGylation経路を回避するメカニズムが存在するなど、その調節機構は多岐にわたる (Yuan et al. 2001)。これらの複雑な相互作用を包括的に理解し、疾患の診断や治療に繋げるための統合的なレビューが不足していた。
目的
本レビューの目的は、ISG15とISGylation経路の現状の理解、ヒト疾患 (がん・神経変性疾患・ウイルス/細菌感染・炎症性疾患) における役割、診断/予後バイオマーカーおよび治療標的としての可能性を包括的にレビューすることである。ISG15の発見から30年間の研究成果を統合し、その多面的な機能と疾患病態における複雑な役割を明らかにする。特に、ISG15の細胞内遊離型、共有結合型、細胞外分泌型という異なる形態が、それぞれの疾患コンテキストにおいてどのように機能し、病態形成に寄与するのかを詳細に分析する。これにより、ISG15経路が疾患の進行に与える二面的な影響を明確にし、将来的な診断および治療戦略開発のための基盤情報を提供することを目指す。
結果
ISG15の構造とISGylation経路: ISG15はpro-form (17 kDa、165アミノ酸) として生合成され、C末端のLAPGG配列をプロセシングして成熟型 (15 kDa) となる。成熟ISG15はUBL1 (N末端ドメイン) とUBL2 (C末端ドメイン) の2つのユビキチン様ドメインからなるタンデム構造を持ち、UBL2が共有結合形成の主役となる (Narasimhan et al. 2005)。ISGylation酵素カスケードはE1活性化酵素UBA7 (UBE1L) →E2結合酵素UBCH8 (UBE2L6) →E3リガーゼHERC5 (主要な細胞質E3) またはTRIM25の順に進行し、標的タンパク質のリジン残基にチオエステル結合を介したアミド結合形成でISG15が付加される (Zhao et al. 2004)。脱ISGylation酵素USP18 (UBP43) がISGylation修飾を可逆的に除去し、遊離ISG15を再生する (Malakhov et al. 2002)。ISG15がユビキチンと共有結合したハイブリッド鎖 (ISG15-ubiquitin hybrid chain) の形成も報告されており、標的タンパク質の分解動態をユビキチン単独の場合と異なる方向へシフトさせる複合的制御が示唆される (Fan et al. 2015)。(Figure 1)
がんにおけるISG15とISGylationの二面性: ISG15 mRNAおよびタンパク質の発現増加は乳がん、大腸がん、食道がん、肝細胞がん (HCC)、膵がん、鼻咽頭がんの患者検体および細胞株で広汎に報告されている (Desai et al. 2006; Bektas et al. 2008)。乳がんでは、ISG15がトポイソメラーゼI (Topo I) をISGylationから保護してその安定化に寄与し、カンプトテシン (トポイソメラーゼI阻害剤) 感受性の変化をもたらすことが示された (Desai et al. 2008)。ISGylationはユビキチン依存的プロテアソーム分解を競合的に阻害するため、腫瘍促進タンパク質(NFAT5、S100A4など)の蓄積に繋がり得る (Desai et al. 2012)。例えば、乳がん患者の腫瘍組織 (n=185) ではISG15の高発現がリンパ管浸潤、高組織学的グレード、大きな腫瘍サイズ、ホルモン受容体陰性、HER2陽性、および不良な患者予後と関連することが報告されている (Kariri et al. 2021)。一方で、ISG15は分泌型としても機能し、腫瘍微小環境において周辺免疫細胞への免疫調節シグナルを伝達する (Chen et al. 2020)。遊離型ISG15はNK細胞の活性化を介して腫瘍免疫を強化する側面もあり、ヌードマウスに移植された腫瘍 (n=12 mice) においてISG15の細胞外添加が腫瘍増殖を抑制し、NK細胞の浸潤を誘導することが示された (Burks et al. 2015)。このように、ISG15はがん種やコンテキストによって腫瘍促進と腫瘍抑制の両方向に機能するという複雑な二面性を示す。
神経変性疾患におけるISG15の役割: ISG15は神経変性疾患において特に重要な役割を担う。毛細血管拡張性運動失調症 (A-T) 患者の小脳組織ではISG15が健常対照と比較して約3倍高値を示す (Kim et al. 2017)。A-TではATMキナーゼ欠損によるDNA傷害応答異常が慢性的IFN-I産生を誘導し、ISG15/ISGylation経路を持続的に活性化する (Wood et al. 2011)。過剰なISGylationはプロテアソーム機能を障害し、ミスフォールドタンパク質や酸化損傷タンパク質の異常蓄積を引き起こすと提唱されている (Desai et al. 2011)。さらにISGylationはミトコンドリア機能にも影響し、ミトファジー (ミトコンドリアオートファジー) の障害を通じて小脳プルキンエ細胞の変性・喪失を促進する可能性がある (Juncker et al. 2021)。ALS患者の腰髄脊髄組織では、健常者と比較してISGylation修飾タンパク質の有意な増加が確認されており (Wang et al. 2011)、外傷性脳損傷 (TBI) 経験の退役軍人の脳脊髄液 (CSF) においても、ISGylationの増加が長期的神経炎症の生化学的指標として検出された (Schwartzenburg et al. 2019)。これらの知見は、ISGylationが神経変性疾患の早期バイオマーカーとなり得る可能性を示す。
感染症と免疫応答におけるISG15の抗ウイルス・抗菌機能: ISG15/ISGylationは複数のウイルスに対して抗ウイルス活性を発揮する。エボラウイルスのVP40基質タンパク質へのISGylationはウイルス出芽を阻害し、感染性ウイルス粒子の産生を抑制する (Okumura et al. 2008)。HIV-1のGag多タンパク質へのISGylationは粒子放出効率を低下させる (Woods et al. 2011)。インフルエンザウイルスNS1タンパク質がISGylation経路を阻害する「脱出機構」を持つことは、ISGylationが実際の抗ウイルス圧力として機能することを間接的に示す (Yuan et al. 2001)。SARS-CoV-2は自身のパパイン様プロテアーゼ (PLpro) でISGylationを解除するdeISGylation活性を持ち、これが自然免疫回避の一機序として機能する (Schwartzenburg et al. 2022)。COVID-19症候性患者の末梢血単核細胞 (PBMCs) では、ISGylationレベルが非症候性患者および非感染者と比較して有意に増加していた (Schwartzenburg et al. 2022)。遊離型分泌ISG15はLFA1 (リンパ球機能関連抗原1) を介してNK細胞・Tリンパ球を活性化し、IFNγ産生を増強する間接的抗ウイルス機能も果たす (Swaim et al. 2017)。また、ISG15/ISGylation欠損 (ISG15変異) がメンデル型マイコバクテリウム易感染症 (MSMD) の一原因として同定されている (Bogunovic et al. 2012)。ISG15変異患者ではUSP18の安定化が障害され、結果としてIFN-α/β下流シグナリングが過活性化される逆説的機序が明らかになった。すなわちISG15の喪失→USP18減少→IFN-α/βシグナリング持続→IL-12産生抑制→NK細胞・マクロファージ機能低下→マイコバクテリウム感染増悪、という経路が提唱されている。この発見は、ISGylationが免疫系の「ブレーキ」機能を通じて過剰なIFN応答を制御するという重要な調節的役割を持つことを示している。(Table 3)
ISG15の「諸刃の剣」機能の分子基盤: ISG15の二面性は以下のように整理される。(Figure 2) ①細胞内遊離型ISG15:USP18タンパク質の安定化を通じてIFN-α/βシグナリングの過活性化を防ぎ、自己免疫的炎症を抑制するブレーキとして機能する (Speer et al. 2016)。ISG15欠損患者 (n=6 individuals) では、USP18の安定性が損なわれ、IFN-Iシグナリングが過剰に活性化され、全身性ループスエリテマトーデス (SLE) や炎症性筋炎などの自己免疫疾患様の症状を呈することが報告されている (Bogunovic et al. 2012; Schwartzenburg et al. 2022)。②ISGylation (標的タンパク質への共有結合型):プロテアソーム分解を競合阻害して標的タンパク質を安定化し、文脈によっては腫瘍促進・神経変性促進に働く (Desai et al. 2006)。ISG15-ユビキチンハイブリッド鎖の形成は、ユビキチン化タンパク質の細胞内ターンオーバーを負に制御し、分解シグナルを伝達しないことが示されている (Fan et al. 2015)。③細胞外分泌型 (サイトカイン型):LFA1受容体への結合を通じてNK細胞のIFNγ産生を誘導し、抗ウイルス・抗腫瘍免疫を活性化する (Swaim et al. 2017)。この3形態が疾患コンテキストに応じて異なる比重で機能することが、ISG15の多面的疾患役割の根本的説明となっている。
診断・予後バイオマーカーとしての可能性: ISG15および特定のISGylation標的タンパク質のプロファイルは疾患状態と活動性を反映する。乳がん患者では血中ISG15濃度と腫瘍負荷の相関、術後低下が報告されており、非侵襲的モニタリングへの応用が期待される (Bektas et al. 2008)。A-T、ALS、TBIにおける神経変性バイオマーカーとしての可能性も示されており、CSF中ISGylation修飾タンパク質の定量が疾患進行のサロゲートエンドポイントとなり得る (Schwartzenburg et al. 2019)。SARS-CoV-2感染重症化予測においてもISG15を含むIFN応答遺伝子発現プロファイルの活用が提案されている (Schwartzenburg et al. 2022)。
考察/結論
ISG15は「諸刃の剣」として機能し、文脈依存的に免疫防御、疾患促進、免疫調節の3方向に作用するという統合的理解が本レビューの核心である。従来のユビキチン研究のパラダイムを拡張し、ISGylationが単なる分解シグナルではなく「安定化」「局在制御」「タンパク質間相互作用変化」などの多様な機能調節機構として働くことが明確に示されている。
先行研究との違い: 本研究は、ISG15が欠損すると逆説的にマイコバクテリウム感染脆弱性が生じるというUSP18安定化機序を強調しており、これはISG15の過剰も欠損も有害であるという適正量制御の重要性を示す点で、これまでのISG15の単純な抗ウイルス・抗腫瘍機能の理解とは対照的である。また、ISG15-ユビキチンハイブリッド鎖の形成がタンパク質分解を負に制御する可能性は、これまで報告されていない複雑な制御機構を示唆する。
新規性: 本レビューは、ISG15が細胞内遊離型、共有結合型、細胞外分泌型という異なる形態で機能し、それぞれの形態が疾患の病態生理において特異的な役割を果たすという新規の統合モデルを提示した。特に、ISG15-ユビキチンハイブリッド鎖の形成がタンパク質分解を負に制御する可能性は、これまで報告されていない複雑な制御機構を示唆する。
臨床応用: 本知見は、ISGylation経路の治療標的として、HERC5/TRIM25 E3リガーゼ阻害(神経変性疾患・がんでISGylation過剰を抑制)、USP18活性化(MSMD患者でのIFN-I応答正常化)、組換え型遊離ISG15投与(NK細胞活性化による抗腫瘍・抗ウイルス応用)の3方向が有望であることを示唆し、臨床応用への道を開く。ISG15およびISGylationは、がん、神経変性疾患、感染症、炎症性疾患の診断、予後予測、および治療戦略開発のための重要なバイオマーカーおよび治療標的となる臨床的意義を持つ。
残された課題: 今後の検討課題として、ISGylation基質タンパク質の網羅的同定 (ISGylome解析)、細胞種別・組織別のISGylation修飾ダイナミクスの定量的理解、ISG15-ユビキチンハイブリッド鎖の生物学的意義の解明が必要である。また、各がん種・神経変性疾患での予後バイオマーカーとしての前向き臨床検証が残されている。さらに、ISG15の異なる形態が疾患の進行に与える影響をin vivoモデルで詳細に解析し、その結果をヒトの病態生理にどのように適用できるかを検討することも重要である。
方法
本レビューは、ISG15の発見から30年間の研究成果を基に、その構造、ISGylationメカニズム、およびヒト疾患における機能に関する文献を網羅的に調査した。文献検索はPubMed、Web of Science、Embaseなどの主要な医学データベースを用いて実施され、関連する基礎研究、臨床研究、およびレビュー論文が対象とされた。検索期間はISG15が初めて報告された1979年から2021年末までとした。検索キーワードには「ISG15」、「ISGylation」、「ubiquitin-like protein」、「cancer」、「neurodegeneration」、「infection」、「inflammation」などが含まれた。
特に、がん、神経変性疾患(毛細血管拡張性運動失調症 (A-T)、筋萎縮性側索硬化症 (ALS)、外傷性脳損傷 (TBI))、ウイルス・細菌感染症、および炎症性疾患におけるISG15とISGylationの役割に焦点を当てた。ISG15の細胞内および細胞外機能、ISGylationによるタンパク質安定性への影響、免疫応答調節、および疾患バイオマーカーとしての可能性に関する知見が統合的に分析された。文献の選定においては、関連性の高い原著論文および質の高いレビュー論文を優先し、エビデンスレベルの高い知見をまとめるよう努めた。
本レビューの性質上、統計手法の適用は行われていないが、各疾患におけるISG15発現レベルの変化やISGylation修飾のパターンに関する定量的データが引用されている。例えば、A-T患者の小脳組織におけるISG15発現が健常対照と比較して約3倍高値を示すこと (Kim et al. 2017) や、COVID-19症候性患者の末梢血単核細胞 (PBMCs) におけるISGylationレベルの有意な増加 (Schwartzenburg et al. 2022) など、具体的な数値データが各セクションで提示されている。また、ISG15の異なる形態(遊離型細胞内、結合型、分泌型)が疾患の病態生理に与える影響について、それぞれの分子メカニズムを詳細に記述し、その二面性を多角的に評価した。このアプローチにより、ISG15経路の複雑な役割を包括的に理解し、将来的な研究および臨床応用の方向性を提示することを目指した。