• 著者: Gupta S, Li J, Kemeny G, Bitting RL, Beaver J, Somarelli JA, Ware KE, Gregory S, Armstrong AJ
  • Corresponding author: Andrew J. Armstrong (Divisions of Medical Oncology and Urology, Duke Cancer Institute, Duke University, Durham, NC, USA)
  • 雑誌: Clinical Cancer Research
  • 発行年: 2017
  • Epub日: 2017-01-20
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 27601596

背景

転移性去勢抵抗性前立腺癌 (mCRPC: metastatic castration-resistant prostate cancer) は、極めて予後不良な疾患である。アンドロゲン受容体 (AR: androgen receptor) シグナル伝達経路を標的とする新規治療薬であるabiraterone acetate (CYP17A1 (cytochrome P450 family 17 subfamily A member 1) 阻害薬) やenzalutamide (AR拮抗薬) が承認され、mCRPC治療の標準療法として広く臨床導入された。しかし、これらの薬剤に対する一次性または獲得耐性の発現は不可避であり、その耐性メカニズムの解明が急務となっている。耐性機序としては、AR遺伝子の増幅や点突然変異、AR-V7 (androgen receptor splice variant 7) などのスプライシング変異体の出現、バイパス経路の活性化、さらには神経内分泌前立腺癌 (NEPC: neuroendocrine prostate cancer) へのリネージプラスティシティなどが報告されている。

個別化医療の実現に向けて、腫瘍のゲノムプロファイルを正確に把握することが重要であるが、転移巣生検は骨転移を主体とするmCRPC患者において侵襲性が極めて高く、複数部位の転移巣における空間的不均一性や、治療選択圧に伴う時間的変化をリアルタイムに追跡することは困難であった。この課題を解決するため、末梢血中の循環腫瘍細胞 (CTC: circulating tumor cell) を用いた非侵襲的な「液体生検 (liquid biopsy)」が注目されている。しかし、末梢血中に数個しか存在しない極めて希少なCTCから、高純度かつ十分な量のゲノムDNAを回収し、全ゲノムレベルでのコピー数異常 (CNA: copy number alteration) を高精度に解析する技術は確立されていなかった。

先行研究においては、少数のmCRPC患者を対象としたアレイ比較ゲノムハイブリダイゼーション (aCGH: array-based comparative genomic hybridization) によるパイロット研究 (Magbanua et al. 2012) や、単一CTCの全エクソームシーケンス (Lohr et al. 2014) が報告されていたが、abirateroneやenzalutamide耐性という現代的な治療背景における包括的な全ゲノムCNAプロファイルは未解明であった。特に、治療選択圧下におけるクローン進化の動態を非侵襲的かつ経時的に追跡したゲノムデータは圧倒的に不足しており、臨床応用における技術的信頼性の検証も含めて大きなギャップが残されていた。本研究は、高純度CTC単離技術とaCGHを組み合わせることで、この技術的・臨床的課題を克服し、耐性mCRPCにおけるゲノム動態の解明を目指した。

目的

本研究の目的は、abirateroneまたはenzalutamideに対して一次性または獲得耐性を示したmCRPC患者の末梢血から高純度に単離したCTCを用い、aCGH法によって全ゲノムレベルでのコピー数異常 (CNA) プロファイルを包括的に同定・定量化することである。特に、AR、ERG、PTEN、MYCN、MET、BRD4などの主要ながん関連遺伝子座における増幅および欠失の頻度を明らかにし、組織生検に基づく既報の転移巣ゲノムデータベースとの整合性を検証する。さらに、enzalutamide治療経過中の複数時点でCTCを連続的に採取・解析することにより、治療選択圧下における腫瘍のクローン進化や、AR依存性腺癌からAR非依存性の神経内分泌様クローンへの経時的なゲノム変化を非侵襲的に追跡・検出可能であることを実証することを目的とする。

結果

技術的検証と検出感度の評価: 極微量細胞からのaCGHの検出感度と信頼性を検証するため、既知のCNAプロファイルを有するT47D乳癌細胞株を健常人血液にスパイクし、本プロトコルを用いて回収・解析した。その結果、極めて少数の細胞数である n=7 cells からのゲノム増幅でも、T47D細胞に特徴的なERBB2遺伝子座の 2.5-fold increase 以上の高度な増幅や、SIX1 (sine oculis homeobox homolog 1) の増幅、ならびにLNCaP前立腺癌細胞におけるPTEN欠失などの既知のゲノム異常を正確に検出できることが確認された (Fig. 1)。さらに、同一患者の重複サンプルを用いた再現性試験では、検出されたゲノム異常の 66% が一致し、色素交換 (dye swap) 実験においても 70% のゲノム異常が再現され、本手法の高い技術的信頼性が実証された。

耐性mCRPCにおける高頻度なゲノム増幅の同定: 解析を完了した 16 サンプルのCTCゲノムにおいて、最も高頻度に観察されたゲノム増幅はAR遺伝子座であり、全体の 50% (n=8/16) に認められた (Fig. 5)。また、ARのパイオニア転写因子であるFOXA1の増幅が 31.25% (n=5/16) に認められた。注目すべき新規の知見として、ARの共活性化因子でありエピジェネティックな治療標的として注目されるBRD4の増幅が 43.75% (n=7/16) という高頻度で検出され、log2FC 1.8 以上の顕著なシグナルを示した。さらに、前立腺癌の悪性化に関与する転写因子ERGの増幅が 43.75% (n=7/16) で同定され (Fig. 4)、このERG増幅は、公開されているmCRPC組織データベースにおける頻度である 15.7% と比較して、CTC画分において有意に濃縮されていることが示された (p=0.003)。

主要な腫瘍抑制遺伝子の欠失パターン: 腫瘍抑制遺伝子およびシグナル制御因子の欠失解析において、PI3K/AKT経路の負の制御因子であるPTENのヘテロ接合性またはホモ接合性欠失が複数症例で検出され、去勢抵抗性獲得への寄与が示唆された (Fig. 5)。また、クロマチンリモデリング因子であるCHD1の欠失が一部の症例で同定されたほか、ZFHX3、PDE4DIP、RAF1、GATA2などの遺伝子座における欠失が共通して観察され、これらは組織生検データと高い整合性を示した。

Enzalutamide治療選択圧下におけるクローン進化の経時的追跡: 本研究の最も重要な成果として、enzalutamide治療中に副腎および中枢神経系への内臓転移を伴って急速に進行した症例P27において、非侵襲的なクローン進化の追跡に成功した。治療開始前のベースライン時 (P27.1) のCTCでは、AR遺伝子座の高度な増幅が認められ、FISH解析によってもAR遺伝子の4コピー以上のシグナルが確認されていた (Fig. 3)。しかし、enzalutamide耐性獲得・進行時 (P27.3) のCTCにおいては、それまで存在していたAR増幅が完全に消失し、対照的に神経内分泌分化の強力なドライバーであるMYCNの著しい増幅 (log2FC 1.5 以上の獲得) を新たに獲得していることが明らかとなった (Fig. 3)。また、PTEN遺伝子座はベースライン時の「増幅」から進行時には「欠失」へと劇的に変化していた。別の多剤耐性肝転移症例P40.2においても、同様にMYCN増幅が検出された (Fig. 3)。これらの結果は、治療選択圧によって、ARシグナル依存性クローンから、AR非依存性の神経内分泌様クローンへと腫瘍が動的に進化していく過程を、末梢血 n=7 cells 程度の極微量CTCゲノム解析によってリアルタイムに捉えられることを示している。

AR増幅の有無に基づくシグナル経路の多様性: IPAを用いたパスウェイ解析の結果、AR増幅を伴うCTC群 (n=8) においては、グルココルチコイド生物合成、PDGFシグナル伝達、ErbB2-ErbB3シグナル伝達、PI3K/AKTシグナル伝達、アンドロゲンシグナル伝達などの経路が有意に濃縮されていることが示された。一方、AR増幅を認めないARコピー数中性群 (n=8) においては、共通して濃縮される単一のシグナル経路は同定されず、患者間における極めて高度なゲノムの不均一性と多様な耐性メカニズムの存在が浮き彫りとなった。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、従来の組織生検に基づくゲノム解析や、単一細胞レベルでの限定的なシーケンス研究と異なり、abirateroneおよびenzalutamide耐性という現代の治療選択圧下にあるmCRPC患者のCTCを対象に、aCGHを用いて全ゲノムレベルのCNAプロファイルを高い再現性をもって包括的に提示した点で決定的に異なる。特に、骨転移が主体で組織生検が極めて困難なmCRPCにおいて、わずか7個のCTCからでも信頼性の高いゲノムプロファイルを取得できる技術的実用性を示した。さらに、単一時点の静的な解析にとどまらず、治療経過中の複数時点で経時的にCTCを解析することにより、腫瘍の動的なゲノム変化を非侵襲的に追跡できることを実証した。

新規性: 本研究で初めて、abiraterone/enzalutamide耐性mCRPC患者のCTCにおいて、エピジェネティック制御因子であるBRD4の増幅が 43.75% という極めて高い頻度で存在することを新規に同定した。BRD4はARの重要な共活性化因子であり、この高頻度増幅の発見は、BET (bromodomain and extra-terminal) 阻害薬がこれら耐性患者に対する有望な治療標的となり得ることを強く支持する。また、前立腺腺癌から神経内分泌様クローンへの進化に伴い、AR増幅の消失とMYCN増幅の獲得が同時に起こる動的なゲノムシフトを、液体生検によってリアルタイムに捉えたことも世界で初めての報告である。

臨床応用: 本研究の知見は、mCRPC治療におけるバイオマーカー駆動型個別化医療の臨床応用に直結する。CTCを用いた非侵襲的なaCGH解析は、患者への身体的負担を最小限に抑えつつ、治療抵抗性の出現を早期に察知するモニタリングツールとして極めて有用である。例えば、CTCにおけるAR増幅やBRD4増幅の検出は、次世代AR標的療法の継続判断やBET阻害薬の適応決定に寄与し、MYCN増幅の出現は、プラチナ製剤ベースの化学療法や神経内分泌標的治療への早期切り替えを促す臨床的指標となり得る。また、ERG増幅がタキサン系抗がん剤への感受性低下と関連するという既報を踏まると、CTCにおけるERGコピー数評価は、化学療法の薬剤選択を最適化する上で重要な臨床的意義を持つ。

残された課題: 今後の検討課題として、本研究の最大のlimitationである小規模コホート (16サンプル) での知見を検証するため、より大規模な患者集団での前向き臨床検証が必要である。また、aCGH法はコピー数異常の検出に特化しているため、ARやSPOPなどの治療抵抗性に関与する単一塩基変異 (SNV) や微小挿入・欠失 (indel) を検出できないという技術的限界がある。今後は、CTCから抽出したDNA/RNAを用いた全ゲノム・全トランスクリプトームシーケンス (WGS/RNA-Seq) や、循環腫瘍DNA (ctDNA) 解析との統合マルチオミクスアプローチを構築し、より包括的な耐性プロファイルを解明することが求められる。さらに、EpCAM陰性のCTCサブクローンを捕捉するための単離技術のさらなる改良も、今後の重要な研究方向性である。

方法

患者選択と臨床デザイン: 本研究は、Duke Cancer InstituteおよびWake Forest Baptist Medical Centerにおいて実施された前向き臨床試験 (NCT02269982) の一環として承認されたプロトコルのもとで実施された。対象は、組織学的に確認された前立腺腺癌を有し、去勢レベルのテストステロン (50 ng/dL以下) 条件下で、PSA (prostate-specific antigen) の連続上昇 (PCWG2 (Prostate Cancer Clinical Trials Working Group 2) 基準に基づく) または画像診断による病勢進行が確認された、abirateroneまたはenzalutamide耐性のmCRPC患者16名である。

CTCの単離と高純度精製: 患者の末梢血10 mLを採取し、塩化アンモニウムを用いた赤血球溶解 (RBC lysis) を行った後、CD45陽性白血球を磁気ビーズ (CD45-Dynabeads) により除去した。残存した細胞画分をAlexa Fluor 647標識抗EpCAM抗体およびAlexa Fluor 488標識抗CD45抗体で染色し、FACS (fluorescence-activated cell sorting) を用いてEpCAM陽性かつCD45陰性の高純度なCTC画分を分取した。対照群として、同一患者のバフィーコートから密度勾配遠心法 (Ficoll-Plaque) により白血球 (WBC: white blood cell) を分離し、生殖細胞系列 (germline) コントロールDNAとして使用した。

全ゲノム増幅 (WGA) および品質管理: 分取した極微量のCTC (5-200個) およびWBCから、GenomePlex Single Cell Whole Genome Amplification Kit (WGA4) を用いて全ゲノム増幅を実施した。増幅されたゲノムDNA (gDNA) は、GenElute Gel Extraction KitおよびMinElute PCR Purification Kitを用いて精製し、NanoDrop分光光度計による260/280比の測定およびアガロースゲル電気泳動により、DNAの品質と完全性を厳格に評価した。aCGH解析に必要な最低収量として0.5 μgのDNAを確保した。

アレイCGH (aCGH) 解析: SurePrint G3 Human CGH Microarray 4x180K (Agilent Technologies) を使用した。このアレイはゲノム全体をカバーする約170,334個の生物学的プローブを搭載し、プローブ間隔は約13 kb、LOH (loss of heterozygosity) 解像度は5-10 Mbである。CTC由来DNAと対応するWBC由来DNAを異なる蛍光色素 (Cy3/Cy5) で標識し、ハイブリダイゼーション後にAgilent Microarray Scannerでスキャンした。データの解析にはAgilent CytoGenomicsソフトウェアを使用し、偽陽性を排除するための厳格なフィルタリング基準として、連続する3個以上のプローブで平均絶対log2比が0.25以上を「増幅 (gain)」、-0.25以下を「欠失 (loss)」と定義した。

FISH (fluorescence in situ hybridization) による検証: aCGHで検出されたCNAの妥当性を検証するため、CellSearchカートリッジ内に固定されたCTCに対し、AR遺伝子座 (Xq12 (chromosome Xq12)) およびTMPRSS2-ERG融合遺伝子座 (21q22 (chromosome 21q22)) に対する特異的プローブを用いたFISH解析を併せて実施した。

統計解析およびバイオインフォマティクス: コピー数異常遺伝子の機能解析には、Ingenuity Pathway Analysis (IPA) を用いて濃縮パスウェイを同定した。また、Gao et al. SciSignal 2013が開発したcBioPortalを用いて、TCGA (The Cancer Genome Atlas) などの公開mCRPC組織ゲノムデータセットとの比較解析を行った。統計的比較にはFisher’s exactテストを用いた。