• 著者: Engelman, Jeffrey A., Zejnullahu, Kreshnik, Gale, Christopher-Michael, Lifshits, Eugene, Gonzales, Andrea J., Shimamura, Takeshi, Zhao, Feng, Vincent, Patrick W., Naumov, George N., Bradner, James E., Althaus, Irene W., Gandhi, Leena, Shapiro, Geoffrey I., Nelson, James M., Heymach, John V., Meyerson, Matthew, Wong, Kwok-Kin, Ja¨nne, Pasi A.
  • Corresponding author: Pasi A. Ja¨nne (Dana-Farber Cancer Institute)
  • 雑誌: Cancer Res
  • 発行年: 2007
  • Epub日: 2007-12-15
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 18089852

背景

非小細胞肺がん(NSCLC)の治療において、上皮成長因子受容体(EGFR)チロシンキナーゼ阻害剤であるゲフィチニブやエルロチニブは、特定のEGFR活性化変異を有する患者に対して有効な治療法として確立されている (Paez et al. 2004; Lynch et al. 2004)。しかし、これらの薬剤に対する初期反応にもかかわらず、ほとんどの患者で最終的に薬剤耐性が獲得されることが臨床的課題として認識されている (Kobayashi et al. 2005; Pao et al. 2005)。獲得耐性の約50%は、EGFRキナーゼドメインにおける二次変異であるT790M変異の出現に起因することが報告されている (Pao et al. 2005)。このT790M変異は、ゲフィチニブやエルロチニブがEGFRキナーゼ活性を阻害する能力を著しく低下させるため、T790M変異を有するEGFRタンパク質を効果的に不活性化できる新規EGFR阻害剤の開発が喫緊の臨床的ニーズとなっている。

また、EGFR変異とは異なる耐性メカニズムも存在する。例えば、MET遺伝子増幅は、ゲフィチニブ耐性の約20%に関与するとされており (Engelman et al. 2007)、EGFR非依存的にERBB3シグナル伝達経路を活性化することで耐性を引き起こす。さらに、肺がん患者の2〜3%に認められるERBB2変異も、ゲフィチニブやエルロチニブに対するde novo耐性に関連することが示されている (Stephens et al. 2004)。これらのERBB2変異を有する肺がん細胞株も、in vitroでゲフィチニブおよびエルロチニブに耐性を示すことが報告されている (Shimamura et al. 2006)。

これまでのEGFR阻害剤は、ATP模倣薬として作用する可逆的阻害剤であった。これに対し、不可逆的EGFR阻害剤は、ATP模倣薬として機能するだけでなく、EGFRのCys-797に共有結合することで、T790M変異が存在する場合でもEGFRキナーゼ活性を阻害できる可能性が示されている (Kwak et al. 2005)。CL387,785、EKB-569、HKI-272などの不可逆的EGFR阻害剤は、T790M変異を有するNSCLC細胞株の増殖を抑制することが報告されており (Engelman et al. 2006)、HKI-272やBIBW2992は現在臨床試験で評価されている。

PF00299804は、現在臨床開発中の不可逆的パン-ERBB阻害剤であり、第一世代の不可逆的パン-ERBB阻害剤であるCI-1033と比較して、より良好な薬物動態特性(高いバイオアベイラビリティ、長い半減期、大きな分布容積、低いクリアランス)を持つことが示されている (Schellens et al. 2007)。しかし、ゲフィチニブ耐性を示すEGFRおよびERBB2変異を有する肺がんモデルにおけるPF00299804の有効性は、まだ十分に評価されておらず、詳細な検討が不足していた点が未解明であった。特に、T790M変異やERBB2変異といった主要な耐性メカニズムを克服できるかどうかの詳細な検討が不足していた。

目的

本研究の目的は、新規の不可逆的パン-ERBB阻害剤であるPF00299804が、ゲフィチニブ耐性を示すEGFRおよびERBB2変異を有する肺がんモデルにおいて、in vitroおよびin vivoで有効性を示すかどうかを評価することである。具体的には、以下の点を明らかにすることを目指した。

  1. PF00299804がERBBファミリーキナーゼに対してどの程度の特異性と阻害活性を持つかを評価する。特に、野生型EGFRおよびERBB2に対する阻害能を、他のプロテインキナーゼに対する阻害能と比較検討する。
  2. EGFR活性化変異(L858R、エクソン19欠失)およびゲフィチニブ耐性変異(T790M)を有するNSCLC細胞株およびBa/F3細胞株におけるPF00299804の増殖抑制効果を、ゲフィチニブと比較して検討する。
  3. PF00299804がEGFR T790M変異を有する細胞において、EGFRおよび下流シグナル伝達経路のリン酸化を抑制するかどうかを評価し、アポトーシス誘導との関連を明らかにする。
  4. ERBB2変異(Ins774YVMA)を有するNSCLC細胞株におけるPF00299804の有効性を評価し、ゲフィチニブとの比較を行う。
  5. EGFR T790M変異を有する異種移植モデルにおいて、PF00299804のin vivoでの抗腫瘍効果を評価し、ゲフィチニブ耐性を克服できるか検証する。

これらの検討を通じて、PF00299804がゲフィチニブ耐性肺がんに対する新たな治療選択肢となる可能性を検証し、今後の臨床開発の根拠となる前臨床データを提供することを目的とした。

結果

PF00299804のERBBファミリーキナーゼに対する特異的阻害活性: PF00299804は、in vitroキナーゼアッセイにおいて、野生型EGFRのキナーゼ活性をゲフィチニブ、エルロチニブ、CI-1033と同等の効力で阻害した (Table 1)。さらに、ゲフィチニブやエルロチニブとは対照的に、PF00299804は野生型ERBB2も効果的に阻害した。38種類の他のプロテインキナーゼに対するスクリーニングでは、LCKとSRCがPF00299804によって阻害された唯一の他のキナーゼであったが、そのIC50値はEGFRに対するものよりも10倍以上高かった。この結果は、PF00299804がERBBファミリーキナーゼに対して高い特異性を持つことを示唆する。

ゲフィチニブ感受性および耐性NSCLC細胞株におけるPF00299804の有効性: EGFR活性化変異(L858Rおよびエクソン19欠失)を有するNSCLC細胞株(H3255、HCC4006、HCC827、PC-9)は、いずれもゲフィチニブに感受性を示したが、PF00299804はこれらの細胞株に対してさらに低いIC50値を示した。例えば、H3255 (L858R) 細胞株では、PF00299804のIC50値はゲフィチニブと比較して10-fold低い値であった (Table 2)。Ba/F3細胞モデルにおいても、PF00299804は一般的なEGFR活性化変異を有する細胞の増殖をゲフィチニブよりも効果的に阻害した。5つの一般的なエクソン19欠失変異に対するゲフィチニブのIC50値が4.1~306 nmol/Lの範囲であったのに対し、PF00299804のIC50値はすべての変異で1~2 nmol/Lであった (Table 3)。K-ras変異を有するA549およびH441細胞株は、両薬剤に対して耐性を示した。

EGFR T790M耐性変異を有する細胞株におけるPF00299804の有効性: EGFR L858R/T790M変異を有するH1975およびH3255 GR細胞株、ならびにEGFRエクソン19欠失/T790M変異を有するH820細胞株は、in vitroでゲフィチニブに耐性を示したが、PF00299804はこれらの細胞株の増殖を効果的に阻害した(3細胞株すべてでIC50 <1 µmol/L) (Table 2)。同様に、PF00299804は、EGFR T790M変異を活性化変異とシスに発現するように操作されたBa/F3細胞の増殖も強力に阻害した (Table 3)。H3255 GR細胞を用いたウェスタンブロット解析では、ゲフィチニブがERBB3およびAktのリン酸化を維持するのに対し、PF00299804はEGFR、ERBB3、およびAktのリン酸化を完全に阻害した (Fig. 1A)。また、H3255 GR細胞において、ゲフィチニブ処理ではPARP切断がわずかであったのに対し、PF00299804処理では顕著なPARP切断が誘導され、アポトーシスが促進されることが示された (Fig. 1B)。NIH3T3細胞にEGFR T790M単独、またはL858Rやエクソン19欠失とシスに発現させたモデルでは、ゲフィチニブはEGFRリン酸化を阻害しなかったが、PF00299804はすべてのEGFR T790M変異タンパク質のリン酸化を阻害した (Fig. 2A)。特に、EGFR L858R/T790Mのリン酸化は1 nmol/LのPF00299804で完全に阻害された。

HCC827細胞におけるEGFR T790M発現によるゲフィチニブ耐性の克服: EGFR活性化変異を有するHCC827細胞にT790M変異を導入すると、ゲフィチニブ耐性を示した。しかし、これらの細胞はPF00299804に対して感受性を維持した (Table 4)。HCC827 Del/T790M細胞では、ゲフィチニブがEGFR、ERBB3、およびAktのリン酸化を阻害できなかったのに対し、PF00299804は10 nmol/Lからこれらのタンパク質のリン酸化を阻害した (Fig. 2C)。

in vivo異種移植モデルにおけるPF00299804の抗腫瘍効果: nu/nuマウスにHCC827 GFPおよびHCC827 Del/T790M細胞を用いて異種移植モデルを構築した。HCC827 GFP異種移植片では、ゲフィチニブとPF00299804の両方が腫瘍増殖を効果的に抑制し、腫瘍の完全消失を誘導した (Fig. 3A)。対照的に、HCC827 Del/T790M異種移植片はゲフィチニブに対して耐性を示し、腫瘍が増殖を続けたが、PF00299804は腫瘍増殖を著しく抑制した (Fig. 3B)。PF00299804の治療は95日間継続され、腫瘍の再増殖は認められなかった。この結果は、PF00299804がT790M変異による獲得耐性をin vivoで克服できることを明確に示した。

ERBB2変異を有する細胞株におけるPF00299804の有効性: ホモ接合性ERBB2変異を有するH1781 NSCLC細胞株は、ゲフィチニブに耐性を示したが、PF00299804には高い感受性を示した (Table 2)。NIH-3T3細胞に野生型ERBB2または一般的なERBB2変異(Ins774YVMA)を発現させたモデルでは、ゲフィチニブはERBB2のリン酸化にほとんど影響を与えなかったが、PF00299804は100 nmol/L以上の濃度で両方のERBB2のリン酸化を効果的に阻害した (Fig. 4A)。HCC827細胞にERBB2 Ins774YVMA変異を導入すると、ゲフィチニブ耐性が誘導されたが、PF00299804に対しては感受性を維持した (Table 4)。HCC827 ERBB2 Ins774YVMA細胞では、ゲフィチニブがEGFR、ERBB3、またはAktのリン酸化を阻害できなかったのに対し、PF00299804はこれらのリン酸化を効果的に抑制した (Fig. 4B)。この結果は、PF00299804がERBB2変異によるゲフィチニブ耐性も克服できることを示している。

考察/結論

本研究は、不可逆的パン-ERBB阻害剤であるPF00299804が、ゲフィチニブ耐性を示すEGFR T790M変異およびERBB2変異を有する肺がんモデルにおいて、in vitroおよびin vivoで有効であることを初めて示した。

先行研究との違い: これまでの可逆的EGFRチロシンキナーゼ阻害剤であるゲフィチニブやエルロチニブは、EGFR活性化変異を有するNSCLC患者に有効であったが、T790M変異やERBB2変異による獲得耐性やde novo耐性に対しては効果が限定的であった。本研究の結果は、ゲフィチニブが効果を示さないEGFR T790M変異やERBB2変異を有するモデルにおいて、PF00299804が強力な抗腫瘍効果を発揮するという点で、これまでの薬剤とは対照的な作用機序と有効性を示す。特に、HCC827 Del/T790M異種移植モデル (n=5 nu/nu mice/group) において、ゲフィチニブが耐性を示す中、PF00299804が腫瘍増殖を効果的に阻害し、ゲフィチニブと比較して10-fold低いIC50値を示したことは、既存の治療法では対応できなかった耐性メカニズムを克服する可能性を強く示唆する。

新規性: 本研究で初めて、PF00299804がEGFR活性化変異およびT790M耐性変異、ならびにゲフィチニブ耐性ERBB2変異を強力に阻害し、これらの変異を有する細胞株の増殖を抑制することを明らかにした。特に、PF00299804が野生型ERBB2だけでなく、肺がんで同定された発がん性ERBB2変異 (Ins774YVMA) も効果的に阻害することは、これまで報告されていない重要な知見である。このパン-ERBB阻害活性は、複数のERBBファミリーメンバーの異常が関与する肺がんにおいて、より広範な治療効果をもたらす可能性を秘めている。

臨床応用: 本知見は、EGFR T790M変異による獲得耐性、またはERBB2変異によるde novo耐性を示すNSCLC患者に対するPF00299804の臨床応用を強く支持するものである。特に、ゲフィチニブやエルロチニブ治療後にT790M変異を獲得した患者集団において、PF00299804が新たな治療選択肢となる可能性が高い。また、ERBB2変異を有する肺がん患者においても、PF00299804が有効な治療薬となることが期待される。これらの前臨床データは、PF00299804の臨床試験における評価を加速させるための重要な根拠となる。

残された課題: 今後の検討課題として、MET増幅によるゲフィチニブ耐性を示す腫瘍に対するPF00299804の有効性を詳細に評価する必要がある。本研究では、MET増幅を有するHCC827 GR細胞株がPF00299804に対してT790M変異を有する細胞よりも有意に高い耐性を示す可能性が示唆された(IC50 >3 µmol/L vs 0.06 µmol/L)。これは、MET増幅がEGFR非依存的なERBB3/PI3K/Aktシグナル伝達経路を活性化するため、EGFR阻害剤単独では効果が限定されることを示唆している。したがって、MET増幅を伴う耐性腫瘍に対しては、PF00299804とMET阻害剤の併用療法などが検討されるべきである。また、長期的な治療における耐性メカニズムの出現や、他のEGFRエクソン20挿入変異など、より広範な耐性変異に対するPF00299804の有効性についても、さらなる研究が残された課題である。

方法

細胞培養と試薬: EGFR変異NSCLC細胞株としてH3255 (L858R)、HCC827 (del E746_A750)、H1975 (L858R/T790M)、HCC820 (del 747_L751, Ins S/T790M)、HCC4006 (Del L747_E749)、PC-9 (Del E746_A750) を使用した。ゲフィチニブ耐性H3255 GR細胞は、in vitroでゲフィチニブ耐性株として選択されたもので、EGFR T790M変異をL858Rとシスに含む。EGFR野生型細胞株(A549、H441、H322、Calu-3、H1819)およびERBB2変異細胞株(H1781)はAmerican Type Culture Collectionから入手した。ゲフィチニブは市販品を精製して使用し、PF00299804はPfizer社から供与された。両薬剤のストック溶液(10 mmol/L)はDMSOに溶解し、-20℃で保存した。抗体はCell Signaling Technologyなどから入手した。

細胞増殖および増殖阻害アッセイ: 細胞増殖および増殖阻害は、MTSアッセイを用いて評価した。細胞を72時間薬剤に曝露させ、GraphPad Prism version 3.00 for Windowsを用いてシグモイド用量反応曲線による非線形回帰モデルでデータを解析した。各実験は少なくとも3回繰り返した。

免疫ブロッティング: 細胞ライセートをSDS-PAGEで分離後、ニトロセルロース膜に転写し、抗体を用いてウェスタンブロット解析を行った。抗体結合は強化化学発光システムで検出した。

in vitroキナーゼアッセイ: ERBB1、ERBB2、ERBB4の触媒ドメインは昆虫細胞で発現・精製し、ELISAベースの酵素アッセイとIC50値の決定を行った。他のキナーゼについても同様にIC50値を決定した。

EGFRおよびERBB2変異コンストラクトとレトロウイルス感染: ヒトEGFRおよびERBB2 cDNAのコード領域をpDNR-Dualにクローニングした。EGFR変異体(L858R、del L747_S752, P753S)およびERBB2 Ins774YVMAは、Quick Change Site-Directed Mutagenesis kitを用いて作製した。T790M変異は、EGFR L858RまたはL747_S752del, P753Sコンストラクトに部位特異的変異導入により組み込んだ。NIH-3T3細胞またはNSCLC細胞にレトロウイルスを感染させ、ピューロマイシン選択により安定発現細胞株を得た。Ba/F3細胞には、レトロウイルス感染によりEGFRコンストラクトを導入し、IL-3非依存性となった細胞株を薬剤感受性試験に用いた。

異種移植研究: ヌードマウス(nu/nu、6〜8週齢)をin vivo研究に用いた。HCC827-GFPまたはHCC827-Del/T790M肺がん細胞(5 × 10^6個)を各マウスの右脇腹皮下に接種した。腫瘍はキャリパーで週2回測定し、体積を「長さ × 幅^2 × 0.52」の式で算出した。平均腫瘍体積が400〜500 mm^3に達した時点で、マウスを治療群にランダムに割り付けた (n=5 mice/group)。ゲフィチニブは150 mg/kg/日、PF00299804は10 mg/kg/日で毎日経口投与した。実験は対照群の平均腫瘍サイズが2000 mm^3に達した時点で終了した。統計解析にはGraphPad Prism version 3.00 for Windowsを用いたシグモイド用量反応曲線による非線形回帰モデルを使用した。