• 著者: Arai S, Noda Y, Kainuma S, Wada I, Yoda K
  • Corresponding author: Koji Yoda (Department of Biotechnology, University of Tokyo)
  • 雑誌: Current Biology
  • 発行年: 2008
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 18595704

背景

出芽酵母 Saccharomyces cerevisiae における細胞分裂(出芽)の際、母細胞から娘細胞(出芽)へ細胞小器官が正確に分配されることは、細胞の生存と機能維持に不可欠なプロセスである。ゴルジ体もその分配対象の一つであり、娘細胞への極性輸送はアクチン細胞骨格およびクラスV型ミオシンモータータンパク質であるMyo2(myosin 2)に依存することが Rossanese et al. (2001) により報告されている。しかし、Myo2モータータンパク質とゴルジ膜を直接連結する分子リンカー(受容体)の同定は未解明なままであった。この分子リンカーの特定は、ゴルジ体の方向性輸送のメカニズムを理解する上で重要な知識ギャップであり、これまでの研究では直接的な結合因子に関する知見が不足していた。

Rab GTPase(Rab guanosine triphosphatase)ファミリーの一員であるYpt11は、ミトコンドリアの継承においてMyo2と相互作用することが Itoh et al. (2002) および Boldogh et al. (2004) の先行研究で示されていた。しかし、Ypt11がゴルジ体輸送において果たす具体的な役割、特にMyo2との連携によるゴルジ体の娘細胞方向性輸送における機能は明確には確立されていなかった。Ypt11がMyo2とゴルジ体を連結する可能性は示唆されていたものの、その直接的な分子機構は不明であり、詳細な解析データが不足していた。

COPI (coat protein I) 被覆小胞は、ゴルジ体内での逆行輸送 (retrograde transport) に深く関与する主要な輸送複合体である。COPI複合体は7つのサブユニットから構成され、そのうちの1つであるRet2 (δ-COP) はCOPI複合体の構成成分として機能する (Cosson et al. 1996)。従来、COPI複合体は主にゴルジ内の逆行性輸送に機能すると考えられてきたが、細胞小器官の継承や極性輸送における役割はほとんど報告されていなかった。もしYpt11がMyo2に結合してゴルジ輸送の方向性を制御するとすれば、その下流エフェクターとしてCOPI coatomerサブユニットとの相互作用が考えられるが、この直接的な分子証拠は不足していた。本研究は、この分子リンカーの同定と、COPI複合体の新規機能の解明を目指すものであった。

目的

本研究の目的は、出芽酵母におけるRab GTPase Ypt11が、クラスVミオシンMyo2とゴルジ膜を連結する分子機構を詳細に解明することである。特に、出芽時のゴルジシスターナの娘細胞方向性輸送において、Ypt11がMyo2とゴルジ体をどのように連携させるのか、その新規分子リンカーを同定することを目的とした。

具体的には、以下の点を明らかにすることを目指した。

  1. Ypt11とCOPI coatomerサブユニットRet2との直接的な相互作用を検証し、その特異性を確立する。
  2. Ypt11-Ret2相互作用が、Myo2依存的なゴルジ体の娘細胞方向性輸送にどのように寄与するかを、遺伝学的および細胞生物学的手法を用いて明らかにする。
  3. Ypt11がアクチン依存的なゴルジシスターナ輸送の方向性決定に果たす役割を、蛍光イメージングと動態解析(FLIP (fluorescence loss in photobleaching) およびSTICS (spatiotemporal image correlation spectroscopy))を用いて定量的に評価する。
  4. これらの知見を通じて、細胞小器官の不対称分配における新規分子メカニズムを提唱し、COPI複合体の新たな生理的機能を提示する。

結果

Ypt11とRet2 (COPI δ-COP) の直接結合の同定: GST-Ypt11融合タンパク質を用いたプルダウンアッセイにより、酵母全細胞ライセートからCOPI (coat protein I) coatomerサブユニットであるRet2が特異的かつ高効率に共沈降することを示した。さらに、共免疫沈降 (coIP) 解析によって、内在性タンパク質レベルでもYpt11とRet2が安定した複合体を形成することが確認された (Figure S1)。この相互作用は、Ypt1、Ypt6、Ypt32、Sec4など他のRab GTPaseではほとんど観察されず、Ypt11-Ret2結合の特異性が確立された。また、別のcoatomerサブユニットであるSec21もYpt11結合分画に検出されたことから、Ret2がcoatomer複合体の一部としてYpt11と会合する可能性が示唆された。変異体解析では、Myo2結合欠損のYpt11G40DはRet2結合を保持したが、ret2-u1変異体ではYpt11との結合が消失した (Figure 2A, 2B)。これにより、Ypt11-Ret2 (COPI) 相互作用は特異的かつ直接的であり、Myo2結合とは独立した結合面を介することが明らかになった。さらに、YPT11過剰発現が野生型RET2株の増殖を強く阻害した一方で、ret2-u1株では増殖阻害が消失したことから (Figure S4)、Ypt11-Ret2相互作用が生理的に有意であることが遺伝学的に支持された。

Ypt11過剰発現によるRet2-GFPおよびゴルジマーカーの出芽側極性集積: Ypt11をGAL1プロモーター下で2時間誘導した細胞では、出芽サイズ (bud area/母細胞断面積比) が0.4-0.6の中サイズ出芽細胞において、80%の細胞でRet2-GFPが出芽側(娘細胞側)に極性集積した (Figure 1C)。この観察は、n=30 cells以上の定量解析で確認された。対照的に、Myo2結合欠損のYpt11G40D過剰発現細胞では、Ypt11自身は出芽側に偏在するにもかかわらず、Ret2-GFPは母娘細胞間でほぼ均等分布を示した (Figure 1B)。さらに、早期ゴルジマーカーOch1-GFPおよび後期ゴルジマーカーSft2-GFPも、YPT11過剰発現細胞では娘細胞側に集積したが、ypt11G40D過剰発現では集積が見られなかった (Figure S2A, S2B)。また、ret2-u1変異体にYPT11を過剰発現しても、Ypt11の出芽側偏在は正常であるにもかかわらずRet2-u1-GFPは均等分布のままであり、ゴルジ全体の娘細胞集積も消失した (Figure 2D)。これらの結果は、Ypt11-Ret2相互作用とYpt11-Myo2相互作用の両方が、ゴルジ体の娘細胞方向性輸送に必須であることを確定した。

ypt11Δにおけるゴルジシスターナの移動方向性の変化と速度の維持: 後期ゴルジマーカーSec7-GFPのタイムラプス解析では、YPT11細胞において出芽サイズ0.2-0.6のsmall~middle budの細胞で出芽側へのSec7-GFP集積が頻繁に観察されたが、ypt11Δおよびypt11G40Dでは全bud-sizeカテゴリにわたってSec7-GFPは均等分布を示した (Figure 3A, 3B)。分裂溝 (cytokinesis site) への集積はypt11Δおよびypt11G40Dでも保存されており、分裂後期の輸送はYpt11非依存的であることが示された。移動速度の定量解析では、少なくとも40フレーム (=4秒) 以上継続した出芽方向移動シスターナを追跡した結果、95-319 nm/sの範囲で中央値221 nm/sであった (n=12 cisternae, n=10 cellsから追跡) (Figure 4B)。この値はin vitroでのMyo2アクチン上の速度 (287±22 nm/s) や液胞の移動速度 (100-200 nm/s) と一致し、観察されたゴルジ移動がMyo2駆動であることを支持した。ypt11Δ細胞ではこの出芽方向の指向性移動がほぼ消失し、またLatA (ラトランクリンA) 処理細胞でも同様であった。STICS (spatiotemporal image correlation spectroscopy) 解析でも、YPT11ベクターマップでは出芽方向を向くベクターが優位であったが、ypt11ΔおよびLatA処理YPT11ではランダムなベクターパターンを示した (Figure 4A)。

FLIP解析によるゴルジシスターナ輸送動態とアクチン依存性の確認: FLIP (fluorescence loss in photobleaching) 実験では娘細胞領域を繰り返し退色させ、母細胞のSec7-GFP蛍光消失半減期 (t₁/₂) をn=10 cellsで測定し、平均値をプロットした。二相指数関数減衰モデルに適合させた結果、野生型 (YPT11) でt₁/₂=79秒であったのに対し、ypt11Δでは148秒と約1.9-foldの延長を示した (Figure 4C)。アクチン重合阻害剤LatA処理では、YPT11細胞のt₁/₂が79秒から116秒へ延長し(約1.5-fold increase, p<0.001)、アクチン依存性輸送が抑制されることが確認された。一方、ypt11Δ細胞ではLatA処理前後で148秒から144秒とほぼ変化せず(p=0.85)、既にアクチン依存性輸送が機能停止していることが示された。同様の結果はret2-u1変異体でも再現され (Figure S6)、Ypt11-Ret2両者の欠損が等しくアクチン依存性ゴルジ輸送を障害した。これらの知見は、Ypt11がアクチン・Myo2依存性ゴルジシスターナ輸送の必須の分子スイッチであり、欠損時には輸送経路自体が使われなくなることを確定した。

考察/結論

本研究は、Rab GTPase Ypt11がCOPI (coat protein I) coatomerサブユニットRet2を介してMyo2 (クラスVミオシン) に連結し、出芽時のゴルジシスターナの娘細胞方向性輸送を制御するという新規分子機構を初めて解明した。Ypt11-Ret2-Myo2という3者複合体の形成がゴルジシスターナの移動方向性を決定するという知見は、細胞小器官の不対称分配機構の分子的基盤として重要な貢献をするものである。

先行研究との違い: Myo2はミトコンドリア (Itoh et al. 2002; Boldogh et al. 2004)、液胞 (Hill et al. 1996)、分泌小胞など多様なカーゴを輸送することが知られていたが、ゴルジ体輸送における直接の分子リンカーは不明であった。本研究は、従来の知見と異なり、Ypt11がMyo2のゴルジ輸送における核心的リンカーとして機能することを初めて確立した。

新規性: 本研究で初めて、COPIコートが逆行輸送小胞形成以外の機能、すなわちゴルジシスターナのアクチン・ミオシン依存性前進輸送においてカーゴリンカーとして機能するという概念的に新しい役割が提唱された。δ-COPサブユニットRet2が直接Ypt11を介してモータータンパク質に連結するという構造は、COPI機能の多様性を示す重要な発見であり、これまで報告されていない新規の機能である。

輸送速度が野生型とypt11Δで同等 (中央値221 nm/s) であったという知見は、Ypt11がモーター活性そのものではなく、カーゴの積み込みと輸送の方向性設定に機能することを示唆する。FLIP (fluorescence loss in photobleaching) 解析でのt₁/₂延長 (79秒→148秒) は、ゴルジシスターナの娘細胞側への優先的蓄積が既存の母・娘間のシスターナプール急速な更新によるものであることを示唆し、Ypt11非依存性の遅い輸送経路が残存することも示唆される。LatA (ラトランクリンA) 実験でのYPT11細胞における79秒→116秒の延長は、野生型細胞においてもアクチン依存性経路と非依存性経路が並存することを示しており、複数の輸送経路によるゴルジ体分配の冗長性を示唆する。

残された課題: 今後の検討課題として、GTP結合型・GDP結合型Ypt11それぞれのRet2結合親和性の定量的比較、Ypt11活性化GEF (guanine nucleotide exchange factor) の出芽期における空間的制御機構、およびYpt11-Ret2相互作用面の構造的解析が挙げられる。

臨床応用: 本研究の知見は出芽酵母モデルに基づくが、哺乳類においても類似のRab-coatomer-ミオシン連結機構が細胞小器官の非対称分配に関与するかどうかを検討することが今後の重要な課題である。エクソソームやEV (extracellular vesicles) 産生においてゴルジ体の動的輸送が重要な役割を果たすことを考えると、Ypt11-Ret2軸が哺乳類の分泌経路の制御にどのように保存されているかという問いは、基礎的なEV生物学の文脈においても臨床的意義を持つ。

方法

GST-Ypt11(glutathione S-transferase-Ypt11)融合タンパク質を用いたプルダウンアッセイ (GST pulldown) を実施し、酵母全細胞ライセートからYpt11に結合するパートナータンパク質を同定した。この実験では、Saccharomyces cerevisiae BY4741株を用いて、GST融合タンパク質を大腸菌BL21株で発現させ、グルタチオンセファロースビーズを用いて精製した。さらに、共免疫沈降 (coimmunoprecipitation, coIP) 法により、内在性タンパク質レベルでのYpt11とRet2の安定した複合体形成を確認した。この相互作用の特異性を評価するため、Ypt1 (Rab1ホモログ)、Ypt6、Ypt32、Sec4など他のRab GTPaseに対するRet2の結合も検証した。また、Ypt11のMyo2結合欠損変異体であるypt11G40Dと、Ypt11結合欠損変異体ret2-u1を生成し、これらの変異体がYpt11-Ret2相互作用およびゴルジ輸送に与える影響を解析した。ret2-u1変異体は、RET2遺伝子の温度感受性アレルをスクリーニングすることで同定された。

ゴルジシスターナの極性輸送における機能検証のため、Ret2-GFP(Ret2-green fluorescent protein)融合タンパク質の蛍光顕微鏡観察を行った。YPT11過剰発現細胞および各種変異体細胞において、出芽サイズ (bud area/母細胞断面積比) 別に分類した細胞 (各カテゴリで少なくとも30細胞を計測) でのRet2-GFPの娘細胞局在を定量的に評価した。早期ゴルジマーカーOch1-GFPおよび後期ゴルジマーカーSft2-GFPも同様に解析し、ゴルジ全体の輸送動態を評価した。細胞は、オリンパスIX-71倒立顕微鏡とDP70デジタルカメラを用いて観察し、MetaMorphソフトウェアで画像を取得した。

後期ゴルジ/TGN (trans-Golgi network) マーカーであるSec7-GFP (SEC7遺伝子座に3コピータンデムGFP融合) を用いて、ゴルジシスターナのタイムラプス蛍光顕微鏡観察を実施した。YPT11、ypt11Δ、ypt11G40D、およびret2-u1株におけるSec7-GFPの輸送速度と方向性を解析した (10細胞から12シスターナを追跡)。STICS (spatiotemporal image correlation spectroscopy) 解析を適用し、ゴルジ体の移動ベクトルマップを作成することで、移動の指向性を統計的に評価した。STICS解析はKolin and Wiseman (2007) の方法に基づき、ImageJプラグインを用いて実施された。

FLIP (fluorescence loss in photobleaching) 法を用いて、Sec7-GFP蛍光の母細胞からの消失半減期 (t₁/₂) を野生型 (YPT11) とypt11Δ株で比較した (各条件で10細胞を測定)。この際、アクチン重合阻害剤であるラトランクリンA (LatA) 処理の影響も検討し、アクチン依存性輸送の寄与を評価した。FLIPデータは二相指数関数減衰モデル F(t)=A exp(-k1t)+B exp(-k2t)+C に適合させ、移動性のゴルジ構造に起因する遅い成分の速度定数 (k1) を算出した。統計解析および有意差の検定には、Student t-test(スチューデントt検定)および one-way ANOVA(一元配置分散分析)を用い、p値が0.05未満を有意とした。本研究では哺乳類細胞株(HEK293TやA549など)やマウス系統(C57BL/6Jなど)は使用せず、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)をモデル生物として全ての解析を行った。