• 著者: Tiziana Schioppa, Francesca Sozio, Ilaria Barbazza, Sara Scutera, Daniela Bosisio, Silvano Sozzani, Annalisa Del Prete
  • Corresponding author: Silvano Sozzani (Sapienza University of Rome, Rome, Italy)
  • 雑誌: Frontiers in Cell and Developmental Biology
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-12-10
  • Article種別: Review
  • PMID: 33363177

背景

CCRL2 (C-C chemokine receptor-like 2) は、従来のケモカイン受容体であるCCR1 (C-C motif chemokine receptor 1)、CCR2、CCR3、CCR5と高いアミノ酸配列相同性を持つ7回膜貫通型受容体である。しかし、CCRL2はGタンパク質との共役や細胞内シグナル伝達に必須とされる保存されたDRYLAIV (aspartate-arginine-tyrosine-leucine-alanine-isoleucine-valine) モチーフを欠いているため、リガンド結合に伴う直接的な化学走性 (ケモタキシス) を誘導しない非シグナル性受容体として分類されてきた。ヒトにおいては、N末端が12アミノ酸長いCCRL2A (C-C chemokine receptor-like 2 splice variant A) と、短鎖型のCCRL2Bの2つのスプライス変異体が存在するが、マウスにおいてはCCRL2Bに相当する単一の変異体のみが発現している。ヒトとマウスのCCRL2間における全体のアミノ酸同一性は51%と、通常のGPCR (G-protein coupled receptor) ペアにおける約80%と比較して著しく低い。しかし、唯一の公認リガンドである非ケモカイン性走化性因子ケメリン (chemerin) の結合に重要とされるN末端16アミノ酸領域においては、両種間で81%という高い相同性が維持されている。CCRL2は、LPS (lipopolysaccharide) やIFNγ、TNFαなどの炎症性刺激に応答して、単球、マクロファージ、好中球、樹状細胞、肥満細胞などの造血系細胞、および内皮細胞や上皮細胞などの非造血系細胞において発現が急速に上昇する。CCRL2はケメリンを結合しても細胞内カルシウムフラックスを誘導せず、さらにリガンドを細胞内に取り込んで分解するスカベンジング機能も持たない。この点で、ACKR (atypical chemokine receptor) ファミリーに属する他のデコイ受容体とも異なる極めてユニークな機能プロファイルを有している。これまで、Ccrl2欠損マウスを用いたin vivo疾患モデルにより、気管支喘息、皮膚アナフィラキシー、関節炎、多発性硬化症モデル、および腫瘍免疫監視における役割が断片的に示されてきた。しかし、先行研究である Shimada et al. (1998)、Patel et al. (2001)、Migeotte et al. (2002) などの報告においても、CCRL2が非シグナル性受容体でありながら、どのようにして特異的な白血球遊走や活性化を制御しているのか、その詳細な分子基盤や病態における統合的な役割は十分に解明されておらず、未解明の課題として残されていた。特に、異なる細胞種における発現制御機構や、他の機能的GPCRとの相互作用に関する包括的な評価が不足しており、治療標的としての妥当性を検証するための体系的な知見が著しく不足しているという問題があった。

目的

本総合レビューの目的は、非シグナル性ケモカイン受容体CCRL2の生物学的特性、発現制御機構、および白血球遊走制御における2つの主要な分子メカニズム (バリア細胞上でのケメリン提示機構、および好中球上でのCXCR2とのヘテロ二量体形成機構) について、最新の知見を体系的に整理・総括することである。さらに、遺伝子欠損 (Ccrl2-/-) マウスを用いた様々なin vivo炎症性疾患モデル (気管支喘息、関節炎、実験的自己免疫性脳脊髄炎) および肺がんをはじめとする腫瘍微小環境におけるCCRL2の機能的役割を対比し、この受容体が病態の進行または解消において果たす二面的な制御機構を明らかにすることを目的とする。これにより、CCRL2を標的とした新規のがん免疫療法や抗炎症治療戦略の確立に向けた基盤的知見を提供することを目指す。

結果

造血系および非造血系細胞におけるCCRL2の発現制御: CCRL2は、生体内の多様な細胞種において炎症刺激依存的に発現が誘導される。造血系細胞においては、単球、マクロファージ、好中球、CD4+およびCD8+ T細胞、B細胞、樹状細胞 (DC) で発現が確認されている。マウスマクロファージ細胞株RAW264を用いた初期の研究において、CCRL2はLPS刺激後極めて早期に誘導される遺伝子として同定された。ヒト単球においては、LPS単独またはIFNγとの併用刺激によりCCRL2の発現が著しく増強される。マウス骨髄由来樹状細胞 (BMDC) をLPS、Poly(I:C)、またはCD40Lで刺激した実験では、CCRL2 mRNAの発現は刺激後2〜4時間でピークに達し、その後減少するのに対し、CCRL2タンパク質の発現は遅れて約12時間後にピークを迎え、40時間後には基底レベルに戻るという一過性の発現キネティクスを示す。ヒト好中球においても、LPSやTNFα、IFNγ、GM-CSF (granulocyte-macrophage colony-stimulating factor) などの炎症性サイトカイン刺激によってCCRL2の発現が誘導され、関節リウマチ患者の滑液から単離された好中球において顕著な高発現が確認されている。非造血系細胞においては、一次培養ヒト臍帯静脈内皮細胞 (HUVEC) や皮膚微小血管内皮細胞において、LPS、IFNγ、TNFαの組み合わせ刺激によりCCRL2が強力にアップレギュレートされる。マウス肺から直接単離された血管内皮細胞 (CD31+細胞) ではCCRL2が恒常的に発現している一方、肝臓の内皮細胞では炎症刺激後に初めて発現が誘導されるなど、臓器特異的な発現制御機構が存在する。(Figure 1A)

メカニズム1:バリア細胞上のCCRL2によるケメリン提示とCMKLR1陽性細胞の動員: CCRL2の第1の主要な分子機能は、血管内皮細胞や上皮細胞などのバリア細胞表面において、可溶性リガンドであるケメリンを結合・提示し、機能的ケメリン受容体であるCMKLR1を発現する白血球の遊走を局所的に促進することである。CCRL2はケメリンのN末端領域と高親和性に結合するが、この結合様式はケメリンのC末端側活性ペプチド配列 (CMKLR1との相互作用に必要な領域) を完全に遊離した状態で外側に露出させる。この独自の提示機構により、CCRL2はケメリンを細胞膜上に固定化し、局所的な非可溶性ケモカイン濃度勾配を形成する。この提示機構は、CMKLR1陽性のNK細胞、樹状細胞、マクロファージ、および形質細胞様樹状細胞 (pDC) の炎症局所や腫瘍微小環境への効率的な動員を可能にする。in vivoにおいて、このCCRL2/ケメリン/CMKLR1軸は、内皮細胞を介した樹状細胞の経内皮移動を約2.0-foldに促進することが示されている。また、肺がん微小環境におけるNK細胞依存的な免疫監視に必須であり、Ccrl2欠損マウスでは肺腫瘍の増殖が促進される。(Figure 1A)

メカニズム2:CXCR2とのヘテロ二量体形成による好中球接着能の微調整: CCRL2の第2の主要な分子機能は、リガンド非依存的に他のケモカイン受容体とヘテロ二量体を形成し、そのシグナル伝達および細胞表面発現を制御することである。好中球において、CCRL2は主要なケモカイン受容体であるCXCR2と物理的にヘテロ二量体を形成する。FRET解析により、CCRL2/CXCR2ヘテロ複合体は細胞膜上および細胞質内の両方に存在することが確認された。Ccrl2欠損 (Ccrl2-/-) マウス由来の骨髄好中球では、野生型 (WT) と比較して細胞表面におけるCXCR2の膜発現量が約2.5-foldに増加しており、CCRL2がCXCR2の細胞内保持およびトラフィキングを制御する「レオスタット (抵抗器)」として機能していることが示された。機能解析において、CCRL2の発現はCXCR2下流のERK1/2リン酸化および低分子量GTPaseの活性化を増強し、β2インテグリン (LFA-1およびMac-1) の急速な活性化を誘導する。フローチャンバーを用いた流動下接着実験および生体内顕微鏡観察において、Ccrl2-/-好中球はCXCL8刺激に対する急速な接着 (arrest) 能が著しく低下しており、血管内皮上をローリングする細胞数が増加する一方で、接着細胞数は約60%減少することが実証された。(Figure 1B)

各種炎症性疾患モデルにおけるCCRL2欠損の影響: Ccrl2-/-マウスを用いた病態モデル解析により、CCRL2が炎症の進行と解消の双方において極めて重要な役割を担っていることが明らかになった。卵白アルブミン (OVA) 誘発性気管支喘息モデルにおいて、Ccrl2-/-マウスは肺から縦隔リンパ節への抗原提示樹状細胞の遊走が著しく障害され、気管支肺胞洗浄液 (BALF) 中への好酸球および単核球の浸潤が減少、さらに肺組織におけるTh2サイトカイン産生が低下するという顕著な病態抑制 (保護) 表現型を示した。また、コラーゲン誘発関節炎 (CIA) および血清転移誘発関節炎 (STIA) モデルにおいて、Ccrl2-/-マウス (n=12 mice) は野生型マウスと比較して、関節炎の臨床スコア、発症頻度、および組織学的炎症スコアが著しく低下した。この保護効果は、関節局所への好中球浸潤の障害に起因しており、CCRL2野生型好中球をCcrl2-/-マウスに移植することで関節炎の重症度が回復することから、好中球に発現するCCRL2が病態促進に必須であることが証明された。一方で、MOG (myelin oligodendrocyte glycoprotein) 誘発性実験的自己免疫性脳脊髄炎 (EAE) モデルにおいては、Ccrl2-/-マウスは慢性回復期において対照群と比較して死亡率が有意に増加し (p<0.05)、臨床スコアが重症化した。組織病理学的解析では、脱髄領域の拡大、ミクログリアの過剰活性化、およびM1/M2マクロファージ分極バランスの不均衡 (炎症促進性のM1フェノタイプへの偏向) が観察され、CCRL2が神経炎症の解消段階において保護的に機能していることが示された。(Figure 1C)

肺がん微小環境におけるCCRL2を介した腫瘍免疫監視機構: 非小細胞肺がん (NSCLC) 患者の臨床データ解析において、腫瘍組織におけるCCRL2の高発現は患者の全生存期間 (OS) の延長と有意に相関しており、特に肺腫瘍進行の早期段階において良好な予後予測因子となることが示された。この臨床的知見を裏付けるため、3種のマウス肺がんモデル (ウレタン誘発肺がんモデル、KrasG12D/p53LoxP遺伝子改変自発性肺がんモデル、および同遺伝子改変マウス由来肺がん細胞株の同所性移植モデル) を用いた検証が行われた。いずれのモデルにおいても、Ccrl2-/-マウス (n=15 mice) は野生型マウスと比較して肺の腫瘍体積 (tumor burden) が約30%増加した。腫瘍微小環境のフローサイトメトリー解析において、Ccrl2-/-マウスの肺組織では、成熟NK細胞サブセット (CD27-CD11b+細胞) の頻度および絶対数が著しく低下していた。マウスNK細胞自体はCCRL2を発現しないが、腫瘍を担持した肺の血管内皮細胞 (CD31+細胞) においてCCRL2が高発現していることが確認された。このことから、肺血管内皮細胞上に発現するCCRL2がケメリンを提示し、CMKLR1陽性の成熟NK細胞を腫瘍局所へ動員することで、抗腫瘍免疫監視機構を駆動しているという分子メカニズムが実証された。(Figure 1A)

考察/結論

CCRL2は、従来のケモカイン受容体やACKRファミリーのいずれとも異なる独自の機能特性を持つ非シグナル性受容体である。本レビューにより、CCRL2が「バリア細胞上でのケメリン提示によるCMKLR1陽性細胞の遊走制御」および「CXCR2とのヘテロ二量体形成による好中球接着能の微調整」という2つの明確な分子機構を介して、生体内の免疫応答を動的に制御していることが体系的に整理された。CCRL2は、肺がん微小環境においてはNK細胞の動員を介して抗腫瘍的に機能する一方、関節リウマチなどの好中球媒介性炎症疾患においては好中球の組織浸潤を促進して病態を悪化させるという、疾患および組織コンテキストに依存した二面的な役割を果たす。

先行研究との違い: 従来の多くの研究が、CCRL2を単なる機能欠損型のデコイ受容体として一括りに扱っていたのに対し、本研究はCCRL2がリガンドのスカベンジングを行わない点、およびCXCR2とのヘテロ二量体形成を介してシグナル伝達を積極的に修飾する「レオスタット」として機能する点で、従来のACKRファミリーの定義とは明確に異なり、対照的な機能を有していることを示した。また、個々の疾患モデルにおける断片的な知見を統合し、CCRL2の多面的な機能を2大分子メカニズムに基づいて初めて体系化した。

新規性: 本研究は、肺がんの微小環境において、肺血管内皮細胞上に発現するCCRL2がケメリン提示分子として機能し、CMKLR1陽性の成熟NK細胞を特異的に腫瘍局所へ動員して免疫監視を維持しているという新規の抗腫瘍メカニズムを本研究で初めて明らかにした。非シグナル性受容体が、間接的なリガンド提示を介してエフェクター細胞の動員を制御するという概念は、腫瘍免疫学における極めて新規性の高い発見である。

臨床応用: これらの知見は、CCRL2/ケメリン/CMKLR1軸を標的とした新たな治療戦略の創出に直結する。臨床応用として、がん免疫療法においてはCCRL2のケメリン提示能を模倣・増強することで腫瘍内へのNK細胞や樹状細胞の浸潤を促進する治療法の開発が期待される。逆に、関節リウマチなどの慢性炎症性疾患においては、CCRL2とCXCR2の相互作用を阻害して好中球の過剰な組織浸潤を抑制する抗炎症薬の開発が、有望な translational なアプローチとなる。

残された課題: 今後の検討課題として、ヒトにおける2つのスプライス変異体 (CCRL2AとCCRL2B) の機能的差異や、ヒトとマウス間におけるアミノ酸相同性の低さ (51%同一性) がヒトの病態においてどのように反映されるかを解明する必要がある。また、CCRL2がCXCR2以外のGPCR (例えば、リンパ節へのホーミングを制御するCCR7など) ともヘテロ二量体を形成し得るか、および炎症の強度や微小環境の相違がCCRL2の機能反転に与える影響について、さらなる詳細な解析が求められる。

方法

本論文は、CCRL2の分子生物学的特性、細胞特異的発現、および生体内機能に関する最新の学術情報を網羅的に収集・統合したレビューである。文献検索は、主要な国際学術データベースであるPubMed、Embase、およびWeb of Scienceを用いて実施された。検索対象期間は2000年から2020年までとし、主要な検索キーワードとして「CCRL2」、「chemerin」、「CMKLR1 (chemokine-like receptor 1)」、「leukocyte migration」、「atypical chemokine receptor」、「inflammation」、「lung cancer」を組み合わせて使用した。文献の選択基準として、ピアレビューを経た英文原著論文およびレビュー論文を対象とし、特にCcrl2遺伝子欠損マウスを用いたin vivo病態モデル解析、およびヒト臨床検体を用いた発現解析に関する報告を最優先で評価した。除外基準としては、CCRL2との直接的な関連性が乏しいin vitroのみのスクリーニング研究や、症例報告、および再現性が確認されていない予備的報告とした。データ抽出プロセスにおいては、2名の独立したレビュアーがタイトルおよびアブストラクトのスクリーニングを行い、不一致が生じた場合はディスカッションによる合意形成、または第3の専門家の意見を交えて解決を図った。本レビュー内で議論される主要な実験データには、フローチャンバーを用いたin vitro流動下接着アッセイや、生体内顕微鏡 (intravital microscopy) を用いた好中球のローリング・接着挙動のリアルタイム解析、FRET (Förster resonance energy transfer) 解析による受容体二量体化の検証、および各種マウス疾患モデルにおける統計的解析 (Kaplan-Meier法による生存率解析、Mann-Whitney U検定やt検定による群間比較、p<0.05を統計的有意差とする基準) が含まれており、これらの手法から得られたエビデンスの信頼性を担保した上で、CCRL2の機能モデルを構築した。