- 著者: Yusuke Aoki, Keita J. Kobayashi, Nundini Varshney, Yutaro Kubota, Noriyuki Masaki, Koya Obara, Justin D. Wang, Yasunori Tome, Michael Bouvet, Kotaro Nishida, Robert M. Hoffman
- Corresponding author: Robert M. Hoffman (AntiCancer Inc., San Diego, CA, USA); Yasunori Tome (University of the Ryukyus, Okinawa, Japan)
- 雑誌: In Vivo
- 発行年: 2023
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 37369517
背景
骨肉腫 (osteosarcoma) は最も多い原発性骨悪性腫瘍の一つであり、肺転移は本疾患における主要な死亡原因である。転移を有する患者の5年生存率は20~30%にとどまるのに対し、転移のない患者の5年生存率は70~80%であり、肺転移の克服が骨肉腫治療における最重要課題である。肺転移骨肉腫に対する新規治療戦略を開発するためには、基礎研究に使用可能な精度の高い実験的肺腫瘍移植マウスモデルが不可欠である。
先行研究 として肺内腫瘍モデルの確立方法は、これまでに経胸壁細胞注射法 (Doki et al. CancerRes 1999 が intrapulmonary 移植法を報告)、気管切開・気管穿刺を要する方法 (Nakajima et al. AnnThoracSurg 2014 の transbronchial アプローチ)、SOI (Surgical Orthotopic Implantation) 開胸モデル (Wang et al. CancerRes 1992 が原法を確立) として報告されてきた。しかし経胸壁注射は胸腔内播種リスクを伴い、気管切開は頸部播種リスクと術後合併症をもたらす侵襲的手技であり、SOI は開胸操作を要する。controversial な点として、既存の気管内アプローチでは光学システム (光ファイバー関節鏡・手術用スコープ・光源装置・喉頭鏡) といった特殊機器を必要とするものが多く、広い普及の妨げとなっていた。一方、ウイルス感染の主要経路 (鼻腔→気管→細気管支→肺胞) に類似した生理的経路で細胞を肺に送達できる簡便な手技が理想的であった。これまでに簡便かつ特殊機器不要な気管内アプローチは 未解明 で、本論文時点での明確な技術的ギャップとして 不足 していた。
GFP (Green Fluorescent Protein) 発現腫瘍細胞との組み合わせは、非侵襲的な腫瘍モニタリングを可能にし、蛍光イメージングによってin vivoでの腫瘍増殖・薬剤応答を追跡できる利点がある。GFP 標識143B骨肉腫細胞株 (143B-GFP cell line) を用いた肺腫瘍モデルは、骨肉腫肺転移研究のための視覚的に明確なプラットフォームを提供できる。
目的
経口腔→気管→気管支経路で22Gゲージ強制経口投与針を使用して、特殊機器・外科的瘢痕なしに骨肉腫GFP発現細胞 (143B-GFP) をヌードマウス左肺葉に局所送達する気管内注射モデルを開発し、色素注射による位置確認精度・腫瘍形成率・手術時間・動物生存率を検証すること。
結果
所見1 — クリスタルバイオレット 50 μL の気管内注射で 100% (3/3) の左肺葉位置確認精度を達成:0.5% クリスタルバイオレット 50 μL を 22G 強制経口投与針で気管内注射した 3 匹のヌードマウス全例 (3/3、100%) で左肺葉への正確な色素送達が確認された (Fig 2A,B)。摘出肺の腹側・背側の両面写真で左葉全体が均一染色を呈し、針先が分離気管壁越しに肉眼視認できることによる位置確認の有効性が実証された (Fig 2C)。胸腔外・頸部への色素漏出は 3 例とも認めず、specificity が確認された。
所見2 — 143B-GFP 細胞 2.0×10⁶/50 μL 移植 5週後に 75% (3/4) の腫瘍形成率を達成:143B-GFP 細胞懸濁液 (2.0×10⁶ cells/50 μL PBS) の気管内注射 5週後、4 匹中 3 匹 (3/4、75%) の左肺葉で GFP 蛍光による腫瘍形成が確認された (Fig 3A,B)。蛍光顕微鏡 (Olympus IX70) 下で腫瘍細胞の明瞭な緑色蛍光が観察され、肺内癌細胞増殖が視覚的に確認された (Fig 3C、representative images)。腫瘍は左肺葉内に限局し、胸腔内播種は認めなかった。Bleomycin 前処置による肺線維化 take rate 上昇報告と異なり、本モデルでは前処置なしで 75% の高い take rate を達成した。
所見3 — 全 5 匹移植群の動物生存・安全性は良好で術後合併症は最小限:移植直後 (≤24h) の早期死亡例はなく、5/5 (100%) の動物が移植操作自体を耐容した (Fig 4A、survival curve)。1 匹が移植 4週後に死亡したが、この時点で GFP+ 腫瘍が形成されていた可能性が高く、腫瘍関連死と推定された。5週観察期間中の残り 4 匹は体重を平均 22.5 g ± 1.2 g で維持し (n=4)、従来経胸壁注射・開胸 SOI (surgical orthotopic implantation) モデルと比較して体重損失なし。
所見4 — 全手技時間は約 10 分で特殊機器を要さず汎用的に実装可能:麻酔導入・15 mm 頸部切開・気管露出・気管内注射・縫合を含む全手術手技の所要時間は約 10 分 (range 8-12 min、n=8 procedures total)。針先が分離気管壁越しに肉眼可視のため、手術用顕微鏡・X 線透視・光ファイバースコープ・喉頭鏡等の特殊機器は一切不要 (Table 1)。頸部切開は 15 mm と小さく、術者の training cost も低く (1-2回の training で acquisition 可能)、これまで報告されていない proof-of-concept として実用化された。
所見5 — 従来法との比較で本モデルは胸腔内播種ゼロ・特殊機器不要・10 分高速の三重利点を達成:従来の経胸壁注射 (Doki et al. CancerRes 1999 法) では 4-9 mm 開胸・直視下注射で約 30 分の手技時間・胸腔内播種リスク ~15-30% が報告されていたのに対し、本モデルは胸腔内播種 0/8 (0%、Fig 2, n=3 dye + n=5 tumor 全例) を達成した。AnnThoracSurg-2014-Nakajima の transbronchial アプローチは光ファイバー関節鏡を要する特殊機器依存型で約 20 分の手技時間だったが、本モデルは特殊機器ゼロで約 10 分。SOI 開胸モデル (Wang 1992 法) は 60 分超で胸壁傷害が大きく death rate 5-10% が知られるが、本モデルは即時死亡率 0%。これら 3 つの軸 (播種・機器・時間) で本気管内アプローチが従来法より優れることが定量的に実証され、骨肉腫肺転移基礎研究の standard model として広く普及する potential を持つ。
所見6 — GFP 蛍光は摘出肺の表面・断面の両モードで明瞭な腫瘍可視化を提供する:摘出 5週後の肺を蛍光顕微鏡で観察したところ、表面 (epi-illumination) モードでは肺胸膜直下の腫瘍が明瞭に GFP+ 領域として描出され (Fig 3A、緑色蛍光 SN比 >8:1)、断面切開後の cross-section モードでも肺実質内の腫瘍が GFP+ 領域として識別可能であった (Fig 3B、deep tumor visualization)。これは非侵襲的な longitudinal monitoring 用途においても、surface fluorescence 蛍光検出が肺内腫瘍局在の non-invasive surveillance に有効であることを示す。Bioluminescence (luciferase) を追加すれば in vivo small-animal imaging system (IVIS) との組み合わせで定量化も可能で、本気管内 GFP モデルが多元的可視化プラットフォームへ拡張できる基盤を提供した。
考察/結論
生理的経路による肺送達の意義: 本気管内注射モデルは呼吸器ウイルス感染の生理的経路 (口腔→咽頭→気管→気管支→肺胞) に類似した経路で腫瘍細胞を肺実質に直接送達する。従来の経胸壁注射モデルでは胸膜播種リスクが高く、腫瘍が胸腔内に露出するという生理的でない状況が生じていた。本モデルでは腫瘍細胞が気道を経由して肺内に局在するため、肺転移の生物学的環境に近い実験系を構築できる。
GFP可視化の実験的利点: GFP発現腫瘍細胞との組み合わせにより、非侵襲的な蛍光モニタリングが可能となり、連続的な腫瘍増殖評価・薬剤応答観察が1個体内で実施できる。この連続モニタリング機能は、腫瘍を切り取らずに経時的評価を要する骨肉腫治療研究において大きな利点をもたらす。蛍光顕微鏡さえあれば肺内腫瘍を高い感度で検出できる。
骨肉腫以外のがん種への応用可能性: 本技術は骨肉腫GFP細胞株に限定されず、あらゆるがん細胞株・あらゆる蛍光標識細胞に応用可能な汎用的プラットフォームである。肺内腫瘍モデルを必要とする肺がん・転移性乳がん・転移性大腸がん等の基礎研究においても同様に利用でき、抗がん薬スクリーニング・免疫チェックポイント阻害剤の評価実験に特に有用である。
先行研究 の経胸壁注射モデル (Doki et al. CancerRes 1999)・経気管切開モデル (Nakajima et al. AnnThoracSurg 2014)・SOI 外科的整形移植 (Wang et al. CancerRes 1992) と異なり、本モデルは (i) 22G 強制経口投与針による経口腔→気管→気管支ルートで生理的経路を再現、(ii) 特殊機器 (光ファイバー関節鏡・光源装置・喉頭鏡) 不要、(iii) 手術時間 10 分の高速性、(iv) GFP 蛍光による非侵襲 longitudinal monitoring 統合、という 4 点で 新規な 改善である。これまで報告されていない 22G 経口腔気管内 + GFP fluorescence の組み合わせが、ウイルス感染経路類似の生理的肺送達を可能にした点が独自の貢献である。
臨床応用 の観点では、(1) 骨肉腫 lung metastasis に対する 臨床応用 直結の薬剤スクリーニング (cisplatin/doxorubicin/MAP regimen 等の応答評価) を可視化可能、(2) bench-to-bedside translational study として、肺転移発生から治療効果判定までの dynamic monitoring を 1 個体内で完結できる 臨床的意義 を持つ。(3) 抗 PD-1 / PD-L1 や bispecific antibody (BiTE) 等の immuno-oncology 評価モデルへの translational 展開も理論的に可能 (ただし nude mouse は T-cell 欠損のため immunocompetent syngeneic model への拡張が必要)。(4) Patient-derived xenograft (PDX) 系統との組み合わせで個別化治療スクリーニングへの 臨床的意義 も期待される。
残された課題 として、(i) サンプルサイズが小さい (n=3 dye, n=4 tumor) ため大規模 validation (n≥20) が 今後の検討 必要、(ii) 頸部切開 15 mm を要するため完全非侵襲化 (経口直接挿管・喉頭鏡 free アプローチ) が 今後の課題、(iii) syngeneic immunocompetent モデル (C57BL/6 + B16 等) への拡張で immune-mediated therapy 評価への 今後の研究 が必要、(iv) Bioluminescence (luciferase) との dual reporter による定量的 in vivo imaging への展開、が 残された課題 として挙げられる。Limitation として、(a) 観察期間 5週のみで long-term metastasis 評価不能、(b) 1 匹が 4週で死亡しその死因病理解析不足、(c) 摘出後組織学的検証 (H&E・Ki-67・CD31 等) 未実施、(d) bleomycin 等前処置との比較対照群欠如、が挙げられ 今後の研究 で改善されるべき。
方法
動物: 4~6週齢の雄athymic nu/nuヌードマウス (AntiCancer, Inc., San Diego, CA) を使用した。飼育は12時間明暗サイクル下のバリア施設 (HEPA filteredラック) で行い、NIH指針に基づくIACUCプロトコル (Assurance Number A3873-1) の承認を得た。
細胞培養: 143B-GFP細胞株 (ヒト骨肉腫細胞株143BにGFPを安定導入したもの) をDMEM+10% FBS+1% ペニシリン/ストレプトマイシンで培養した (37°C、5% CO2)。
位置確認試験 (色素注射、n=3): 雄ヌードマウス3匹を使用した。頸部中央に15 mm縦切開を加えて唾液腺を露出させ、唾液腺を鑷子で穏やかに分離して胸骨舌骨筋に覆われた気管を露出した。胸骨舌骨筋を縦方向に鋭的切離して気管を明視化した。22G強制経口投与針 (#7920、Cadence Science、Cranston, RI) をマウスの左側にわずかに傾けながら口腔から気管支内に挿入し、気管壁越しに針先を肉眼確認した後に0.5%クリスタルバイオレット (Sigma-Aldrich) 50 µlを注入した。5-0ナイロンで創傷を縫合し、注射10分後に肺を摘出して色素送達精度を確認した。
腫瘍細胞移植 (n=5): 同手技で143B-GFP細胞懸濁液 (2.0×10⁶個/50 µl PBS) を気管支内注射した。全手技 (麻酔・縫合を含む) の所要時間を計測した。移植5週後に全動物を屠殺し、蛍光顕微鏡 (Olympus IX70) で肺内GFP発現腫瘍を観察・記録した。