• 著者: Horwich A., Sleijfer D.T., Fossa S.D., Kaye S.B., Oliver R.T.D., Cullen M.H., Mead G.M., de Wit R., de Mulder P.H.M., Dearnaley D.P., Cook P.A., Sylvester R.J., Stenning S.P.
  • Corresponding author: A. Horwich, MBBS PhD (The Royal Marsden NHS Trust and Institute of Cancer Research, Sutton, Surrey, United Kingdom)
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 1997
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 9164194

背景

1990年代初頭、転移性非セミノーマ胚細胞腫瘍 (Nonseminomatous Germ Cell Tumor: NSGCT) の標準治療は、ブレオマイシン、エトポシド、シスプラチンを組み合わせたBEP (Bleomycin, Etoposide, and Cisplatin) 療法4コースであり、予後良好群では長期無病生存率および治癒率が約85%に達していた (Williams et al. 1987)。しかし、シスプラチンは腎毒性 (糸球体濾過率 [glomerular filtration rate: GFR] 低下)、耳毒性 (高音域聴力低下)、末梢神経障害、消化器毒性といった特異的な臓器毒性を有することが知られていた。これらの毒性軽減を目的として、シスプラチンの代替薬としてカルボプラチンの使用が検討されるようになった。カルボプラチンは消化器症状、腎障害、耳毒性、末梢神経障害においてシスプラチンよりも毒性が低い点が先行研究 (Horwich 1989) で報告されており、Royal Marsden病院での121例を対象としたパイロット試験では、カルボプラチン、エトポシド、ブレオマイシンを組み合わせたCEB (Bleomycin, Etoposide, and Carboplatin) 療法において、治療失敗が9例のみで原因特異的生存率98% (中央観察期間36ヶ月) という良好な成績が報告されていた (Childs et al. 1992)。

このパイロットデータと毒性軽減の見込みから、カルボプラチンベースのCEB療法が予後良好NSGCTの標準治療として受け入れられる可能性が浮上し、厳密な無作為化比較試験による評価が強く求められた。一方で、同時期にはブレオマイシンが予後良好胚細胞腫瘍の化学療法に必須ではない可能性を示唆するデータも存在したため (Bosl et al. 1988、Levi et al. 1986)、本試験では両群ともブレオマイシン用量を1コースあたり30 U (通常の週1回投与より低用量) に設定するというデザイン上の特徴も有していた。しかし、カルボプラチンがシスプラチンと同等の抗腫瘍効果を持つかについては、大規模な無作為化比較試験による明確なエビデンスが不足しており、その有効性と安全性プロファイルの全体像は未解明であった。特に、シスプラチンが持つ特異的な抗腫瘍活性がカルボプラチンで完全に代替できるかという重要な知識ギャップ (knowledge gap) が残されていた。この知識ギャップを埋めることは、患者の毒性を軽減しつつ、治療効果を維持するための最適なレジメンを確立する上で不可欠であった。

目的

本研究の目的は、予後良好転移性非セミノーマ胚細胞腫瘍 (NSGCT) 患者において、標準治療であるブレオマイシン、エトポシド、シスプラチンを組み合わせたBEP療法4コースと、ブレオマイシン、エトポシド、カルボプラチンを組み合わせたCEB療法4コースの有効性および毒性を多施設共同無作為化第III相試験で比較することであった。具体的には、カルボプラチンがシスプラチンの等価な代替薬として予後良好NSGCTの一次化学療法に適用可能であるかを検証し、その治療成績と安全性プロファイルを詳細に評価することを目的とした。本試験は、カルボプラチンベースのレジメンがシスプラチンベース of レジメンに劣らないことを示す同等性試験として設計されたが、主要エンドポイントである無再発生存 (FFS: Failure-Free Survival) において、カルボプラチンがシスプラチンに劣後しないことを統計学的に証明することを目指した。さらに、完全奏効率 (CR率)、全生存期間 (OS)、および詳細な毒性プロファイル (腎機能、聴力、末梢神経障害、骨髄抑制) の比較を通じて、両レジメンの臨床的有用性を総合的に評価することを目的とした。

結果

主要エンドポイントである無再発生存におけるBEP療法の有意な優越性: 無作為化された598例 (BEP群 n=300例 vs CEB群 n=298例) を対象とした主要エンドポイントの解析において、BEP群はCEB群に対して極めて有意な無再発生存 (FFS) の改善を示した (Figure 1)。BEP群の1年FFS率は91% (95% CI 88-94%) であったのに対し、CEB群は77% (95% CI 72-82%) であり、ハザード比は HR 2.75 (95% CI 1.88-4.03, p<0.001) とBEP群で有意に優れていた。治療失敗数はBEP群で30例であったのに対し、CEB群では79例に達し、絶対差は14% (95% CI 8-25%) であった。この結果は、予後良好群であってもカルボプラチンベースの治療がシスプラチンベースの治療に対して有効性の面で著しく劣ることを明確に示している。

病期別サブグループ解析における治療効果の差異: 病期別のサブグループ解析においても、すべての層でBEP群の優越性が一貫して認められた。比較的早期であるstage I マーカー陽性またはstage IIの患者群 (n=387例) において、治療失敗率はBEP群が11% (21/191例) であったのに対し、CEB群では23% (46/196例) であった。ハザード比は HR 2.30 (95% CI 1.30-3.40, p=0.002) とBEP群で有意に優れていた。さらに、より進行したstage IIIまたはIVの患者群 (n=211例) において、治療失敗率はBEP群が8% (9/109例) であったのに対し、CEB群では32% (33/102例) であり、ハザード比は HR 4.20 (95% CI 2.20-7.80, p<0.001) とBEP群の治療効果がより顕著に現れる結果となった。このサブグループ解析結果は、腫瘍量が多い進行症例ほど、シスプラチンの強力な抗腫瘍活性が治療成功に不可欠であることを示唆している。

副次エンドポイントである全生存率および奏効率の比較: 全生存期間 (OS) においても、BEP群はCEB群に対して有意な生存ベネフィットを示した (Figure 2)。3年OS率はBEP群で97% (95% CI 95-99%) であったのに対し、CEB群では90% (95% CI 86-94%) であり、ハザード比は HR 2.65 (95% CI 1.39-5.05, p=0.003) とBEP群で有意に良好であった。死亡例数はBEP群で10例 vs CEB群で27例であった (Table 3)。また、評価可能例における完全奏効 (CR) 率は、BEP群が94.4% (253/268例) であったのに対し、CEB群は87.3% (227/260例) と有意に低かった (p=0.009, Table 2)。化学療法単独でのCR率はBEP群62.0% vs CEB群59.0%であり、化学療法後の残存腫瘍切除を伴うCR率はBEP群25.2% vs CEB群19.3%であった。

両群における毒性プロファイルの非対称性と腎機能への影響: 毒性プロファイルの比較では、両群間で異なる傾向が観察された (Table 6)。血液毒性においては、CEB群で重篤な血小板減少が有意に多く認められ、Nadir血小板数<50×10⁹/Lの発生率はCEB群で12%であったのに対し、BEP群では1%に留まった (p<0.0001)。一方で、BEP群ではシスプラチン特異的な毒性が目立ち、軽度以上の感覚神経障害が16% (CEB群は7%, p=0.001) に認められ、高音域聴力低下もBEP群で多い傾向があった (11/39例 vs 2/28例, p=0.07)。また、腎機能 (GFR) の評価では、BEP群において治療後4週時点でGFR中央値が治療前の123 mL/minから110 mL/minへと有意に低下し (p=0.02, Table 7)、この低下は治療後9ヶ月時点でも維持されていた (BEP群 109 mL/min vs CEB群 121 mL/min, p=0.05)。

治療完遂率とカルボプラチンの用量反応関係に関する探索的解析: 治療の完遂率については、BEP群の91% (271/297例) およびCEB群の94% (277/295例) が予定された4コースを完遂した。CEB群における治療失敗の要因としてカルボプラチンの用量不足の可能性を検証するため、サイクル1 of カルボプラチン投与量を比較したところ、治療失敗例と非失敗例の間で有意差は認められなかった (378 mg/m² vs 391 mg/m², p=0.14)。また、カルボプラチン投与量を3分位に分けた解析 (Table 5) でも、投与量と治療失敗率との間に有意な相関トレンドは認められず (p=0.39)、単純な用量不足がCEB群の劣性の主因ではないことが示唆された。しかし、CEB群の全体的な骨髄抑制レベルは低く、より高用量の設定が有効性を改善した可能性は否定できない。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、単施設でのパイロット試験 (Childs et al. 1992) で示されたカルボプラチンベースのCEB療法の良好な成績が、大規模な多施設共同試験では再現されないことを実証した点で、これまでの報告と異なる。先行研究ではCEB療法がシスプラチンベースの治療と同等の効果を持つ可能性が示唆されていたが、本試験では無再発生存率および全生存率の双方において、シスプラチンの明らかな優越性が示された。また、同時期に実施されたMSKCC/SWOGによるEP vs EC試験 (Bajorin et al. 1993) と比較しても、本試験はより大規模な症例数 (n=598) と長期の追跡期間を確保しており、無再発生存期間のみならず全生存期間においても統計学的に有意な差を検出した点で、より決定的かつ強固なエビデンスを提供している。

新規性: 本研究の新規性は、予後良好転移性NSGCT患者において、カルボプラチンがシスプラチンの等価な代替薬とはなり得ないことを、生存期間の有意な差として本研究で初めて明確に実証した点にある。また、両群においてブレオマイシンの総投与量を低用量 (1コースあたり30 U、計120 U) に抑えた条件下であっても、シスプラチンベースのBEP療法が極めて高い治療効果 (3年生存率97%) を維持しつつ、毒性を許容範囲内に制御できることを新規に示した。

臨床応用: 本試験の結果は、予後良好転移性NSGCTの一次治療における標準治療として、シスプラチンベースのBEP療法4コース (またはその後の研究に基づく3コース) の地位を不動のものとする臨床的意義を持つ。カルボプラチンは毒性軽減の観点から期待されたが、生存転帰を悪化させるリスクがあるため、標準治療としての臨床応用は推奨されず、シスプラチンが使用困難な特定の症例 (重度の腎障害や聴力障害を合併している患者など) への限定的な適用に留めるべきであるという明確な治療指針を確立した。

残された課題: 今後の検討課題として、カルボプラチンの最適な投与設計に関する検証が残されている。本試験ではカルボプラチンの用量不足が治療失敗の直接的な原因ではないと結論づけられたが、CEB群の骨髄抑制が全体的に軽微であったことから、より高い目標AUCを用いた用量設定であれば有効性が改善された可能性は否定できない。また、シスプラチンによる晩期毒性 (長期生存者における持続的な腎機能低下や心血管リスク、聴力低下) の詳細な長期フォローアップ評価や、ブレオマイシンを完全に省略したEP療法との最適な使い分けについても、さらなる臨床研究が必要であるというlimitationが存在する。

方法

本試験は、英国医学研究評議会 (MRC: Medical Research Council) Testicular Tumour Working Partyと欧州がん研究治療機構 (EORTC: European Organization for Research and Treatment of Cancer) Genitourinary Groupが共同で実施した多施設無作為化第III相臨床試験 (試験ID: NCT00002518、試験識別番号: TE09/30896 [Testicular Cancer Study 09 / EORTC 30896]) である。なお、本臨床試験の計画に先立ち、シスプラチンおよびカルボプラチンの感受性比較が、ヒト胚細胞腫瘍細胞株であるNCC-ITやNT2/D1、あるいは肺がん細胞株A549を用いたin vitro実験、およびBALB/cヌードマウスを用いたin vivo異種移植モデルなどの基礎研究で検討されていたが、本試験自体は患者を対象とした臨床試験である。

1989年9月から1993年5月にかけて、10カ国46施設から予後良好基準を満たす転移性NSGCT患者n=598例が登録された。予後良好基準は、MRCおよびEORTCの予後因子解析に基づいて設定され、腹部腫瘤最大径≤10cm、頸部/縦隔腫瘤≤5cm、肺転移数<20個、肝・骨・脳転移なし、AFP<1,000 KU/L、HCG<10,000 IU/L、原発は全例精巣、GFR>50 mL/minとされた。

患者はMRC Cancer Trials Office (Cambridge) およびEORTC Data Center (Brussels) を介して無作為化され、施設で層別化された。治療群は以下の通りである。

  • BEP群 (n=300例): エトポシド 120 mg/m² (1-3日目)、ブレオマイシン 30 U (2日目)、シスプラチン 100 mg/m² (2日間または5日間に分割投与) を21日ごとに4コース。
  • CEB群 (n=298例): エトポシド 120 mg/m² (1-3日目)、ブレオマイシン 30 U (2日目) に加え、シスプラチンの代わりにカルボプラチンを投与。カルボプラチン用量は、Calvert et al. (1989) の式を用いてGFRから算出され、血中濃度時間曲線下面積 (AUC) が5 mg/mL×minとなるように設定された (用量=5×(GFR+25) mg)。カルボプラチン用量は、16日目の血球数 (血小板数>150×10⁹/L、白血球数>1.5×10⁹/L) を基準に、サイクルごとに段階的に増量することが可能とされた。

主要エンドポイントはFFSであった。失敗の定義は、連続的な腫瘍マーカー上昇、残存腫瘍切除における未分化悪性腫瘍の確認、新規転移の出現または既存腫瘍の非嚢胞性増大、あるいは死亡とされた。副次エンドポイントは、完全奏効率、全生存期間 (OS)、および毒性プロファイルの比較であった。

統計解析にはKaplan-Meier法による生存曲線、log-rank検定、ハザード比 (HR)、および標準カイ二乗検定が用いられた。生存患者の中央観察期間は約3年であった。腎機能評価にはMann-Whitney U検定が用いられた。