• 著者: Hamanishi J, Mandai M, Ikeda T, Minami M, Kawaguchi A, Murayama T, Kanai M, Mori Y, Matsumoto S, Chikuma S, Matsumura N, Abiko K, Baba T, Yamaguchi K, Ueda A, Hosoe Y, Morita S, Yokode M, Shimizu A, Honjo T, Konishi I
  • Corresponding author: Junzo Hamanishi, MD, PhD (Department of Gynecology and Obstetrics, Kyoto University Graduate School of Medicine, Kyoto, Japan)
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 2015
  • Epub日: 2015-09-08
  • Article種別: Original Article (Phase 2 trial, investigator-initiated, UMIN000005714)
  • PMID: 26351349

背景

卵巣癌は婦人科悪性腫瘍における死亡原因の第1位で、患者の50%以上が進行期で診断される。減量手術とプラチナ製剤 (platinum) + タキサン (taxane) 系化学療法という標準治療によっても、進行卵巣癌で寛解を得た70%以上の患者で再発が起こり、これまでの研究では「プラチナ抵抗性 (platinum-resistant; プラチナ含有レジメンから6ヶ月以内に再発) 卵巣癌に有効な治療がほとんどない」という重大なunmet need (未解明の治療空白) が存在していた。標準的に使用されるpegylated liposomal doxorubicin・topotecan・gemcitabineは奏効率10-20%程度で、bevacizumab単剤Phase 2試験 (Cannistra 2007) のORR 15.9%・mPFS 4.4ヶ月・mOS 10.7ヶ月という成績にとどまっていた。

これまでの研究では、卵巣癌は癌特異抗原を発現し、自発的な抗腫瘍免疫応答を惹起することが報告されている (Zhang 2003、Zhang et al. NEnglJMed 2003)。著者らの先行研究 (Hamanishi et al. PNAS 2007) では、卵巣癌におけるPD-L1 (programmed death-ligand 1; B7-H1とも呼ばれる) 発現が予後不良と相関し、CD8+ T細胞浸潤が予後良好と相関することを示していた。さらにAbiko 2013はPD-L1腹水誘導とCTL (cytotoxic T lymphocyte) 機能障害による腹膜播種促進機序を報告し、PD-1/PD-L1経路が卵巣癌の免疫逃避の主要メカニズムである可能性が示されていた。

これまでの研究では、nivolumab (anti-PD-1 monoclonal antibody) のメラノーマ・腎細胞癌・NSCLCに対するPhase 1試験 (Topalian et al. NEnglJMed 2012) で奏効率15-30%・忍容性良好・PD-L1高発現腫瘍での奏効率上昇という有望な結果が得られていたが、何が足りなかったかは「卵巣癌患者集団におけるPD-1阻害療法の安全性・有効性の前向き検証データの完全な欠如」であった。本研究は、京都大学Honjo研究室を中心とする investigator-initiated Phase 2試験として、プラチナ抵抗性卵巣癌へのnivolumabの効果を世界で初めて検討した。

目的

プラチナ抵抗性・再発卵巣癌患者を対象に、(1) nivolumab 1 mg/kgおよび3 mg/kgの安全性 (Grade 3-4 AE発生率)、(2) 主要エンドポイントとしてbest overall response rate (RR) を評価、(3) 副次エンドポイントとしてdisease control rate (DCR)・progression-free survival (PFS)・overall survival (OS) を評価、(4) 探索的にPD-L1腫瘍細胞発現と奏効の相関を評価することを目的とした。

結果

患者背景 (Table 1):n=20 (1 mg/kg n=10、3 mg/kg n=10)、median年齢60歳 (range 47-79、SD 9.0)、組織型はserous 15例 (75%)・endometrioid 3例 (15%)・clear cell 2例 (10%)、FIGO III期 14例 (70%)・IV期 4例 (20%)、ECOG PS 0が18例 (90%)、前化学療法レジメン4以上が11例 (55%)。治療期間中央値3.5ヶ月 (range 1-12、SD 3.6)、追跡期間中央値11.0ヶ月 (range 3-32、SD 8.7)。

主要エンドポイント—best overall response rate (Table 3、Fig 1、Fig 2):プールコホートのbest RRは15% (3/20、95% CI 3.2-37.9%) で、内訳はCR 2例 (10%)・PR 1例 (5%)・SD 6例 (30%)・PD 10例 (50%)・NE 1例 (5%)。1 mg/kgコホートではPR 1例のみ (RR 10%、95% CI 0.3-44.5%)、3 mg/kgコホートではCR 2例 (RR 20%、95% CI 2.5-55.6%) と高用量で深い奏効が得られた。Disease control rateはプールで45% (9/20、95% CI 23.1-68.5%)、1 mg/kg 50%、3 mg/kg 40%。CR例は (a) 59歳serous adenocarcinoma (cyclophosphamide/adriamycin/cisplatin・docetaxel/carboplatin前治療歴) で複数の骨盤リンパ節転移が4ヶ月後に完全消失・CA-125 (cancer antigen 125) が正常域へ低下、(b) 60歳clear cell carcinoma (mitomycin/irinotecan・irinotecan/cisplatin・paclitaxel/carboplatin前治療歴) で腹膜播種が4ヶ月後に完全消失・CA-125正常化、と劇的な奏効を達成した。

生存解析—mOS 20.0ヶ月の長期生存 (Fig 3、Table 3):プールコホートのmPFS 3.5ヶ月 (95% CI 1.7-3.9)、1 mg/kg 3.5ヶ月 (95% CI 0.7-3.9) vs 3 mg/kg 3.0ヶ月 (95% CI 1.5-3.9) と用量間差は小さかった。一方、mOSはプールで20.0ヶ月 (95% CI 7.0-NR)、1 mg/kg 16.1ヶ月 (95% CI 2.6-NR) vs 3 mg/kgは半数以上censorのため算出不可。bevacizumab Phase 2 (Cannistra 2007、mOS 10.7ヶ月、95% CI 不報告) を約2倍上回るmOSは奏効患者の長期生存に起因する。

安全性—Grade 3/4 AE 40%、コントロール可能なirAE (Table 2):Grade 3/4治療関連AE 8/20例 (40%、95% CI 19.9-64.0%) で、1・3 mg/kgコホート間で頻度・重症度に有意差なし。最頻AE (≥20%) は serum AST上昇 8例 (40%)・甲状腺機能低下 8例 (40%)・lymphocytopenia 7例 (35%)・albumin低下 6例 (30%)・発熱 6例 (30%)・arrhythmia 6例 (30%)・serum ALT上昇 5例 (25%)・maculopapular rash 5例 (25%)・arthralgia 5例 (25%)・fatigue 4例 (20%)・anemia 4例 (20%)。Treatment-related serious AE 2例 (10%、95% CI 1.2-31.7%): 1 mg/kg患者で持続する発熱後にdisorientation・gait disorderのGrade 3イベント、3 mg/kg患者でGrade 3発熱・deep vein thrombosis。Nivolumab中止2/18例 (11%) が治療関連thyroiditis (1例はPR持続中の3コース目で中止)。Pneumonitis・colitisは観察されず、他固形腫瘍nivolumab試験と比較して安全性は同等。

PD-L1発現と奏効の相関なし (Fig 4):腫瘍細胞のPD-L1 IHC評価では16/20例 (80%) が高発現 (+2スコア15例、+3スコア1例)、4/20例 (20%) が低発現 (+1スコア)。客観的奏効 (CR+PR) は高発現群2/16例・低発現群0/4例だが、PD-L1発現と客観的奏効に有意相関なし (P=.509)。先行Topalian 2012では弱いPD-L1-応答相関が見られていたが、本卵巣癌コホートでは無相関であり、(a) 卵巣癌のimmunoreactive phenotypeが約20%のみと少数派、(b) サンプリングタイミング (本試験は primary手術検体が大半、Topalianはanti-PD-1治療直前biopsy) の違い、(c) PD-L1抗体clone差異・FFPEでのstaining不安定性、が主因として議論される。

考察/結論

本Phase 2試験 (n=20) は、プラチナ抵抗性卵巣癌に対するnivolumabの初の前向き探索試験として、ORR 15% (CR 2例)・DCR 45%・mPFS 3.5ヶ月・mOS 20.0ヶ月・Grade 3/4 AE 40%という結果を報告した。3 mg/kgコホートでCR 2例 (20%) という深く持続的な奏効が達成され、卵巣癌におけるPD-1経路阻害療法の臨床的有用性を世界で初めて実証した。Investigator-initiatedの少数例試験という限界はあるが、後の大規模試験への道を開いた歴史的試験である。

これまでの研究との違いとして、Topalian 2012 (Topalian et al. NEnglJMed 2012) の先行研究は他固形腫瘍 (NSCLC・メラノーマ・RCC) でORR 15-28%・PD-L1高発現で奏効率上昇という結果を示したが、卵巣癌は含まれていなかった (これとは異なる本試験の対象)。Cannistra 2007の先行研究 (bevacizumab Phase 2) はORR 15.9%・mOS 10.7ヶ月という結果で、本試験は同等のORRながら mOS 20.0ヶ月と約2倍の長期生存を達成した点で対照的である。Brahmer 2012の先行研究 (anti-PD-L1抗体BMS-936559、ovarian n=17) ではORR 5.9%・DCR 23.5%にとどまり、本試験のORR 15%・DCR 45%はnivolumab (anti-PD-1) の方が anti-PD-L1より卵巣癌で優れる可能性も示唆した。新規な貢献として本研究で初めて (a) プラチナ抵抗性卵巣癌でPD-1阻害の前向きPhase 2成績を提示、(b) clear cell carcinomaでのCR報告 (Crotzer 2007はclear cell recurrence の ORR約2%と報告)、(c) PD-L1発現の予測性が卵巣癌では限定的であることを示した、点が挙げられる。

臨床応用として、(1) プラチナ抵抗性卵巣癌の選択肢としてnivolumab 3 mg/kgが推奨される (深いCR達成可能)、(2) clear cell carcinoma (RCCと遺伝子発現プロファイルが類似) はnivolumab特異的レスポンダーの可能性、(3) thyroiditis発症時はステロイド介入で治療継続可能、というbench-to-bedsideの臨床的意義が示された。

残された課題とlimitationとして、(1) n=20の少数例・無対照・open-label・単施設デザインで有効性の確証には不十分、(2) PD-L1発現以外の予測バイオマーカー (TIL密度・MSI・TMB・gene expression profile・immunoreactive subtype) の探索が未完、(3) 1 mg/kg vs 3 mg/kgのhead-to-head比較が検出力不足、(4) 後治療・併用 (chemotherapy・PARP阻害剤・anti-CTLA4抗体併用) の検討が未開始、(5) bevacizumab+nivolumab併用やniraparib+pembrolizumab併用での相乗効果検証、(6) BRCA1/2変異・HRD陽性・MMR欠損サブグループでの効果差検討、が今後の検討課題である。今後の研究としては、大規模ランダム化Phase 3・PD-1+PARP阻害剤併用・clear cell carcinoma特化試験が必要である。著者の一人Honjo教授は2018年にPD-1発見でノーベル医学生理学賞を受賞しており、本試験はその基礎研究 (Honjo lab) からの直接的臨床応用例として bench-to-bedside translational researchの典型を示す (Hamanishi et al. PNAS 2007Topalian et al. NEnglJMed 2012)。

方法

試験デザイン: 単施設・open-label・Phase 2試験 (京都大学医学部附属病院、UMIN Clinical Trials Registry UMIN000005714)、低用量コホート (nivolumab 1 mg/kg) → 高用量コホート (nivolumab 3 mg/kg) の順次2-コホート逐次デザイン。

対象: 適格基準: プラチナ抵抗性 (最終プラチナ含有レジメン投与から6ヶ月以内の再発・進行) で再発・進行性の卵巣癌・腹膜癌・卵管癌、プラチナ + タキサン含む2レジメン以上の治療歴、20-79歳、生命予後3ヶ月以上、ECOG performance status (PS) 0-1、RECIST評価可能病変あり。除外: 自己免疫疾患合併、ステロイド全身投与歴・免疫抑制歴、anti-PD-1抗体投与歴あり。n=20が登録・治療された (各コホート n=10)。

投与法: nivolumab IV q2週、1サイクル=4投与×8週、最大6サイクル (= 24投与×48週) または進行/不耐毒性まで投与。減量不可。

評価: 主要エンドポイント=best overall response (RECIST v1.1、独立3名central review、放射線科医含む)。副次=安全性 (CTCAE v4.0)・PFS・OS・DCR (= CR+PR+SD)・AE。画像評価は2ヶ月ごとCT。

統計: サンプルサイズn=20は、RRの精度に基づく設計—n=20で1例奏効すれば次相 (大規模Phase 2/3) 進出を検討するhurdle設計。Binary endpointの95% CIは正確2項分布、生存解析はKaplan-Meier法・95% CIはBrookmeyer-Crowley法。

PD-L1免疫組織化学: ホルマリン固定パラフィン包埋検体に対し、murine抗ヒトPD-L1モノクローナル抗体 (clone 27A2、MBL [Medical Biological Laboratories], Nagoya) を用いてLSIMedience (Tokyo) が第三者IHC実施。2名の独立病理医がblindedで scoring (+1から+3)。FIGO (International Federation of Gynecology and Obstetrics) 病期分類で I-IV期を評価。

薬剤供給: nivolumabはOno Pharmaceutical (大阪) から提供。