• 著者: Park JH, Riviere I, Wang X, Bernal Y, Purdon T, Halton E, Curran KJ, Sauter CS, Sadelain M, Brentjens RJ
  • Corresponding author: Brentjens RJ, Park JH (Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York, NY)
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology (ASCO Annual Meeting Abstract)
  • 発行年: 2015
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • DOI: 10.1200/jco.2015.33.15_suppl.7010

背景

成人の再発・治療抵抗性 (R/R) B細胞急性リンパ芽球性白血病 (B-ALL) は、従来の救済化学療法では完全寛解 (CR) 率が低く、長期生存が極めて困難な予後不良疾患であると報告されている (Jabbour et al. 2006)。特に、R/R ALL成人患者のCR率は20-40%程度にとどまることが多く、新たな治療戦略が強く求められていた。CD19を標的とするキメラ抗原受容体 (CAR) T細胞療法は、小児および成人B-ALL患者において高い寛解導入率を示す初期報告が複数なされていたが (Grupp et al. 2013; Maude et al. 2014)、成人における大規模な臨床データと長期追跡結果は依然として不足しており、その有効性と安全性プロファイルに関する詳細な知見が未解明であった。

Memorial Sloan Kettering Cancer Center (MSKCC) は、2010年からCD19を標的とする19-28z CAR-T細胞を用いた第I相臨床試験 (NCT01044069) を実施しており、本ASCO 2015抄録はその長期転帰を報告するものである。19-28z CARは、抗CD19 scFvにCD28およびCD3ζシグナリングドメインを連結した設計であり、ペンシルバニア大学で開発されたCTL019 (4-1BBドメイン) とは異なる共刺激ドメインを採用している。このCD28共刺激ドメインを持つCAR-T細胞は、4-1BBドメインを持つCAR-T細胞と比較して、サイトカイン放出症候群 (CRS) の発症がより迅速で重症化しやすい可能性が指摘されており、その管理戦略の確立が重要な課題であった。

本試験では、CAR-T細胞の有効性、安全性プロファイル、およびCRSの管理戦略に関する詳細な知見が不足していた成人R/R B-ALL患者における大規模な臨床データを提供することを目指した。特に、疾患負荷とCRS重症度の相関の解明、およびIL-6R (インターロイキン-6受容体) 阻害薬 (トシリズマブ) による重症CRS管理の有効性確立も重要なテーマであった。これらの知見は、今後のCAR-T細胞療法の臨床応用を推進し、より安全かつ効果的な治療プロトコルを確立するために不可欠であると考えられた。

目的

再発・治療抵抗性成人B-ALL患者を対象に、前処置化学療法後に投与した19-28z CAR-T細胞の (1) 長期有効性 (CR率、微小残存病変 (MRD) 陰性CR率、全生存 (OS))、(2) 疾患負荷量と治療転帰の関係、および (3) 重症サイトカイン放出症候群 (sCRS) の発生頻度と管理の実際を報告することを目的とした。本研究の目的は、これらの知見を通じて、今後の第II相試験の根拠を提供し、成人R/R B-ALL患者におけるCAR-T細胞療法の臨床的有用性を確立することにあった。特に、CD28共刺激ドメインを有する19-28z CAR-T細胞の安全性プロファイルと、トシリズマブを用いたsCRS管理の有効性を詳細に評価し、その臨床的意義を明らかにすることも重要な目的であった。

結果

形態学的疾患患者・MRD患者いずれでも高率のCR達成: 33例の患者が19-28z CAR T細胞療法を受け、32例が奏効評価可能であった。患者背景は多様であり、中央年齢54歳 (範囲22-74歳)、Ph+ ALL 12例 (36%)、過去のallo-SCT (同種造血幹細胞移植) 11例 (33%)、3ライン以上の前治療歴14例 (42%) と、非常に難治性のコホートであった。CAR T細胞投与時に形態学的疾患 (骨髄芽球>5%) を有した16例のうち13例 (81%) がCAR-T細胞投与後にCRを達成した。MRD状態であった16例では全例 (100%) がCRを達成した。全評価可能患者32例における全体CR率は91% (29/32例) であり、MRD評価可能28例中23例 (82%) がMRD陰性CRを達成した。このMRD陰性CR率は、従来の救済化学療法では達成困難な分子生物学的深い寛解の達成を示唆する。形態学的疾患群のCR率 (81%) とMRD群 (100%) の差は、治療前疾患負荷が有効性に影響することを示唆した (Figure 1)。全体CR率91%という成績は、その後に承認されたCD19 CAR T細胞製品 (Kymriah等) のピボタル試験成績の先行データとして歴史的意義を持つ。

全生存と同種移植移行の成績: 追跡中央値5.1ヶ月 (範囲1.0-37.6+ヶ月) の時点で、全患者の6ヶ月全生存 (OS) 率は58% (95% CI: 36-74%) であった。CRを達成した患者のうち11例がCAR-T細胞投与後にallo-SCTを受けた。allo-SCT移行群の6ヶ月OS率70% (95% CI: 33-89%) は、移行なし群の61% (95% CI: 29-82%) と比較して有意差は認められなかった (p=0.30) (Figure 2)。この結果は、本追跡期間のコホートにおいてCAR T細胞後のallo-SCT移行が生存を規定する唯一の要因ではないことを示唆するが、追跡期間が短く解釈の限界がある。なお、37.6ヶ月という最長追跡患者の存在は、一部患者で長期無増悪維持が可能であることを示している。Ph+ ALLが12例 (36%) 含まれており、この難治性サブタイプ患者でも高い奏効率が得られたことは注目される。また、過去のallo-SCT施行患者が11例 (33%) 含まれており、移植後の再発という極めて予後不良な患者群においても治療応答が認められたことは特筆に値する。

重症CRSの発生と疾患負荷依存性・IL-6R阻害薬による有効な管理: Grade分類上の重症CRS (sCRS: 昇圧剤投与を要する低血圧または低酸素に対する機械換気を要するもの) が7例 (21%) に発生した。sCRS発症リスクは疾患負荷量と相関することが観察されており、形態学的疾患 (骨髄芽球>5%) を有した群でより高い頻度でsCRSが発生した。具体的には、形態学的疾患を有する患者群ではsCRSの発生頻度が高く、MRD状態の患者群では重症CRSの頻度が低かった (Figure 3)。これは治療前疾患量が重症化の予測因子となることを示す。7例全例において、IL-6R阻害薬 (トシリズマブ) 単独またはステロイドとの併用による早期介入で有効な管理が達成され、CRS関連死は認められなかった。本試験の経験から、19-28z CAR-T細胞投与後のsCRS管理においてトシリズマブが中心的役割を果たすことが確立された。CD28共刺激ドメインを有する19-28z CAR T細胞は、4-1BBドメインを有するCTL019と比較してCRSの発症がより迅速で重症化しやすいとされており、厳格なモニタリングと迅速な介入プロトコルが不可欠である。この知見は、CAR-T細胞療法の安全性プロファイルを改善し、より広範な患者集団への適用を可能にする上で極めて重要である。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、成人R/R B-ALL患者における大規模なCD19 CAR-T細胞第I相試験として、91%というきわめて高いCR率を報告した重要なエビデンスである。これは、これまでの従来の救済化学療法では達成困難であった高率の寛解導入を達成した点で対照的である。特に、従来の化学療法ではR/R ALL成人患者のCR率は20-40%程度にとどまることが多く、本研究の91%というCR率は画期的な改善を示す。また、他のCAR-T細胞製品、例えばペンシルバニア大学で開発されたCTL019 (4-1BB共刺激ドメイン) とは異なるCD28共刺激ドメインを持つ19-28z CAR-T細胞の有効性と安全性を成人患者で大規模に評価した点も、先行研究との重要な違いである。

新規性: 本研究で初めて、成人R/R B-ALL患者において19-28z CAR-T細胞が91%のCR率と82%のMRD陰性CR率を達成し、重症CRSがIL-6R阻害薬とステロイドにより効果的に管理可能であることを示した。特に、疾患負荷量とsCRS重症度の相関という知見は新規であり、その後のCAR-T細胞療法の適応選択基準と前処置戦略の最適化に影響を与えた。この疾患負荷依存性の発見は、CAR-T細胞療法の投与前に疾患量を軽減するブリッジング療法の重要性を強調し、より安全な治療実施のための基盤情報を提供した点で新規性が高い。また、トシリズマブによるsCRSの有効な管理は、CAR-T細胞療法の安全性プロファイルを大きく改善するものであり、その後の臨床試験や実臨床における標準的なCRS管理プロトコル確立に不可欠な知見となった。

臨床応用: 本知見は、CAR-T細胞療法の成人ALLへの臨床応用における有効性と実施可能性を確立するものであり、その後の第II相試験への移行と最終的な商業承認製品開発の基盤となる重要なエビデンスである。疾患負荷量とCRS重症度の相関は、患者選択とモニタリング強化の指標を提供し、臨床現場でのCAR-T細胞療法の安全な実施に貢献する。具体的には、高疾患負荷患者に対してはより厳重なモニタリング体制や、前処置化学療法の最適化を検討する根拠となる。また、トシリズマブの有効性確立は、CAR-T細胞療法後の重篤な合併症に対する明確な治療戦略を提供し、医療従事者が自信を持って本療法を適用できる環境を整備する上で臨床的意義が大きい。

残された課題: 本抄録の制約として、追跡期間の中央値が5.1ヶ月と短く長期転帰データが限定的である点が残された課題である。CAR-T細胞療法の真の有効性は、長期的な無病生存期間と全生存期間によって評価されるため、より長期的な追跡データが不可欠である。また、単施設試験であること、投与量や前処置レジメンの均一性に関する詳細情報が抄録形式では限られることもlimitationとして挙げられる。今後の検討課題として、より長期的な追跡データによる有効性と安全性の評価、および多施設共同試験での検証が求められる。さらに、CAR-T細胞のin vivoでの持続性や、再発機序 (CD19陰性化再発など) の詳細な解析も、今後の研究で解明すべき重要な点である。

方法

本研究は、Memorial Sloan Kettering Cancer Center (MSKCC) で実施された単施設第I相臨床試験 (NCT01044069) である。組み入れ基準は再発・治療抵抗性B-ALLの成人患者であった。患者は白血球アフェレーシスを受け、T細胞をγレトロウイルスベクターを用いてCD19-CD28-CD3ζ (19-28z) CAR遺伝子で形質導入した。全患者はCAR-T細胞投与前に前処置化学療法を受け、その後1-3×10^6 19-28z CAR T細胞/kgを投与された。

患者背景として、合計33例がCAR-T細胞療法を受け、32例が奏効評価可能であった。患者の中央年齢は54歳 (範囲22-74歳) であった。フィラデルフィア染色体陽性 (Ph+) ALL患者が12例 (36%)、過去に同種造血幹細胞移植 (allo-SCT) を受けた患者が11例 (33%)、3ライン以上の前治療歴を持つ患者が14例 (42%) 含まれていた。CAR-T細胞投与時の疾患状態は、形態学的疾患 (骨髄芽球>5%) を有する患者が16例、最小残存病変 (MRD) 状態の患者が16例であった。

有効性評価の主要評価項目は、形態学的CR率および骨髄MRD陰性CR率とした。全生存 (OS) は6ヶ月OS率で評価した。CAR-T細胞投与後のallo-SCT移行率とその転帰への影響も解析した。統計解析にはKaplan-Meier法を用いて生存率を推定し、log-rank testを用いて群間比較を行った。Fisher exact testまたはchi-square testを用いてカテゴリカル変数の比較を行った。

安全性評価では、CRSの重症度を分類し、昇圧剤または機械換気を要するものを重症CRS (sCRS) と定義した。sCRSの管理にはIL-6R阻害薬 (トシリズマブ) およびステロイドの併用が用いられた。追跡期間の中央値は5.1ヶ月 (範囲1.0-37.6+ヶ月) であり、14例が6ヶ月以上の追跡期間を有した。本試験は、成人R/R B-ALL患者という難治性集団に対するCAR-T細胞療法の有効性と安全性を評価するための重要な基盤を提供した。