• 著者: Justin T. Ernst, Peggy A. Thompson, Christian Nilewski, Paul A. Sprengeler, Samuel Sperry, Garrick Packard, Theodore Michels, Alan Xiang, Chinh Tran, Christopher J. Wegerski, Boreth Eam, Nathan P. Young, Sarah Fish, Joan Chen, Gary G. Chiang, Jim R. Appleman, Kevin R. Webster, Siegfried H. Reich, et al.
  • Corresponding author: Justin T. Ernst (eFFECTOR Therapeutics, San Diego, CA, USA)
  • 雑誌: Journal of Medicinal Chemistry
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-05-29
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 32470302

背景

mRNA翻訳の調節障害はがんの病態形成における重要なドライバーであり、eIF4F複合体 (eukaryotic initiation factor 4F) の機能亢進ががん遺伝子の選択的翻訳増加を引き起こすことが知られている (Ernst et al. 2020)。eIF4F複合体は5’-mRNAキャップ結合タンパク質eIF4E、足場タンパク質eIF4G、そしてDEAD-box RNAヘリカーゼ (DEAD-box RNA helicase) であるeukaryotic initiation factor 4A (eIF4A) で構成される。eIF4AはATP依存的にmRNA 5’-UTRの二次構造を解きほぐしてリボソームのスキャニングを促進し、キャップ依存的な翻訳開始に必須の因子である (Ernst et al. 2020)。eIF4F複合体のサブユニットは各種悪性腫瘍で過剰発現しており、翻訳調節をターゲットとすることは新興の抗がん薬開発戦略として注目されている (Ernst et al. 2020; Hershey et al. 2012)。

フラバグリン系天然産物であるシルベストロール (1) とrocaglamide A (2) は、eIF4AをmRNA 5’-UTRのポリプリンモチーフに固定化することで翻訳不適合複合体を形成し、Myc、Cyclin D1、MCL-1、mTORなど活発な翻訳を必要とするがん遺伝子を選択的に阻害することが知られていた (Ernst et al. 2020; Iadevaia et al. 2012)。しかし、これらの天然産物は代謝不安定性、低水溶性、合成複雑性という薬物候補としての重大な欠点を抱えており、臨床開発候補はこれまでに存在しなかった。ヒッポリスタノール (3) やpateamine A (4) など他のeIF4A阻害薬クラスも同様の薬物動態上の問題を抱えており、初の臨床開発候補の創出が求められていた。特に、フラバグリン系化合物は、その強力な抗腫瘍活性にもかかわらず、薬物様特性の不足により臨床開発への移行が長年の課題として残されており、この知識ギャップを埋めることが喫緊の課題であった。既存のeIF4A阻害薬は、in vitroでの強力な活性を示す一方で、in vivoでの効果を制限する薬物動態学的特性の不足が顕著であり、この点が未開拓の領域であった。

目的

rocaglamide Aを出発点としたリガンドベース設計戦略によりeIF4A阻害薬の物性ボトルネック (高logP、低水溶性、代謝不安定性) を克服し、臨床開発に耐える物性プロファイル (MW (分子量)、logP (分配係数)、溶解度、代謝安定性、透過性、in vivo活性) を持つ初の開発候補化合物eFT226 (Zotatifin) を創出すること。また、mRNA配列選択性の分子機序、主要な制御標的遺伝子、および抗腫瘍フェノタイプを詳細に解明すること。本研究では、特にフラバグリン系化合物の合成複雑性と薬物動態学的欠点を克服するための系統的な構造活性相関 (SAR) 研究を通じて、臨床応用可能な新規eIF4A阻害薬の設計と開発を目指した。最終的には、eFT226がin vivoで優れた抗腫瘍活性と忍容性を示すことを実証し、その臨床開発を支持するデータを提供することを目的とした。

結果

計算化学による設計指導原理の確立とX線構造解析: rocaglamide A (2) のDFT計算により、フラバグリンコアの生物活性コンフォメーションにおけるD環-E環間のアリール-アリール捩じれ角が40度で最安定となることを同定した。この40度捩じれ角を低エネルギー構造として持つコアが最高活性を示すという仮説をPhenyl-Phenyl Torsion Energy profileとして構築し、分子設計の前向きフィルタリングに活用した (Figure 2)。X線結晶構造 (compound 8) でこの40度捩じれ角と二級水酸基-ピリジン窒素間の分子内水素結合が実証され、計算予測の正確さが確認された (Figure 5)。後のrocaglamide A/eIF4A1/ポリプリンRNA複合体のX線構造 (PDB: 5ZC9) でも40度捩じれ角の重要性が確認され、三級水酸基とRNA中のグアニンN7間の追加水素結合がポリプリン配列選択性を付与することが明らかになった (Figure 3)。

A環最適化:ピリジン置換によるlogP低下とSARの体系的展開: rocaglamide AのフェニルA環をピリジン (8位に窒素) で置換した化合物5は、MDA-MB-231 IC50 990 nMと25倍の活性低下を示したが、LLE解析ではclogP低下により等価なLLE値を持つことが示された。A環をdes-8-OMe誘導体 (化合物6) とした場合、化合物5より5倍高活性 (IC50 198 nM)、iso-LLEの関係が確認された。4’-位のメトキシ→シアノへの置換 (化合物7) で約3倍の活性改善、clogP -1.2 logsの低下を達成した。分子モデリングではシアノ基がRNA-eIF4A界面の狭い溝に収まり、Asn167サイドチェインとの相互作用が示唆された (Figure 4)。A環ピリジン固定のうえでD環 (6位)・E環 (4’位) を系統的に最適化した。6位OMe→Cl (化合物8、IC50 87 nM) で活性とLLEが改善し、X線構造で40度捩じれ角が確認された。9は6位CNで活性はやや低下するがLLE最良 (LLE 4.7)。12-14シリーズはフェニルA環維持のまま4’-CNとの組み合わせを探索し、14 (H/CN/CN) がIC50 26 nM・LLE 5.0と優れた値を示した。フッ素・CF2H・CF3・OCF3・SO2Me等の4’位修飾は概して活性低下をきたした。2位のジメチルアミド基の修飾では、アミド側鎖の完全除去 (24) で活性が著しく低下 (IC50 670 nM) し、二次アミド (25) および一次アミド (26) 誘導体は同等またはわずかに活性が改善したが、透過性 (CACO AB = 0.5 × 10^-6 cm/s) が低下した (Table 2)。

eFT226の物性プロファイルと前臨床活性: 最終候補eFT226 (Zotatifin、化合物記号 (-)-eFT-226) はMW 488、logP 2.6、MDA-MB-231 IC50 10 nM、水溶解度 >20 mg/mL、Caco-2 A→B透過性 2.5×10^-6 cm/s、Caco-2 ER (efflux ratio) 4、LE 0.31、LLE 6.5という卓越した物性プロファイルを達成した (Table 4)。MDA-MB-231以外の複数のがん細胞株でも同程度の抗増殖活性が示され、eIF4A選択的な翻訳阻害を介してMyc、Cyclin D1、MCL-1等のがん遺伝子タンパク質発現が抑制された (Figure 11)。

eFT226の配列選択性と標的特異性: SPR解析により、eFT226はeIF4A1とポリプリンRNA配列 (AGAGAG) との安定な三者複合体形成を誘導し、eIF4A1のRNA結合親和性を100倍以上増加させることを示した (KD 21-69 nM with ATP) (Figure 9, Table 6)。この複合体形成はATP非依存的であり、ATP加水分解は複合体の不安定化を招くことが示唆された。ルシフェラーゼレポーターアッセイでは、AGAGAGおよびGGCGGC配列を持つ5’-UTRの翻訳が、CAACAA配列と比較してそれぞれ145倍および16倍選択的に阻害された (Table 7)。eIF4A1のF163L変異を導入したHAP1細胞 (n=3 replicates) では、eFT226に対する抗増殖活性が約60倍低下し (IC50 371 nM vs 6.3 nM in parental cells)、eIF4A1がeFT226の主要な細胞内標的であることが確認された (Figure 12)。

in vivo抗腫瘍効果と安全性: MDA-MB-231乳癌異種移植モデルにおいて、eFT226を1 mg/kgの週1回静脈内投与した結果、122%の腫瘍増殖抑制または退縮が認められた (Figure 14A)。治療期間中、体重減少は観察されず、eFT226の良好な忍容性が示された (Figure 14B)。eFT226はマウス (n=10 mice)、ラット、イヌ、サルにおいて良好な種間IV PKプロファイルを示し、血漿タンパク結合率は74.8% (マウス) から63.5% (サル) の範囲であった (Table 8)。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究はフラバグリン天然産物のリガンドベース設計アプローチにより、eIF4A阻害薬の長年の課題であった物性ボトルネックを解消した初の成功例である点で、これまでの研究とは対照的な成果である。DFT計算で同定した40度アリール-アリール捩じれ角という構造的優先性の前向きフィルタリングへの組み込みは、多数の合成化合物を系統的に絞り込む効率的設計戦略を示した。先行研究で報告されたシルベストロールやrocaglamide Aがいずれも臨床開発候補に至らなかった障壁 (合成複雑性・代謝不安定性・低溶解度) を、本研究ではA環のピリジン置換、B環とE環の精密置換、および立体選択的合成経路の確立によって克服した。特に、ピリジンA環の導入は、logPの低下と水溶性の改善に大きく貢献し、天然物由来のフラバグリン系化合物が抱えていた薬物動態学的課題を解決する上で重要なブレークスルーとなった。

新規性: 本研究で初めて、eIF4A RNAヘリカーゼを標的とするフラバグリン系天然物rocaglamide Aを起点に、優れた薬物動態特性とin vivo抗腫瘍活性を持つ臨床開発候補eFT226 (Zotatifin) を創出した。eFT226は、ポリプリンRNA配列に特異的に結合し、eIF4A1との安定な三者複合体を形成することで、がん遺伝子の翻訳を選択的に阻害するという新規の作用機序を持つ。この配列選択性は、eIF4Aの翻訳抑制を介した腫瘍特異的な治療戦略の可能性を示唆する。

臨床応用: Zotatifin (eFT226) は、MW 488、logP 2.6、水溶解度 >20 mg/mLという優れた薬物様特性を有し、MDA-MB-231乳癌異種移植モデルにおいて1 mg/kgの週1回投与で122%の腫瘍増殖抑制または退縮を示し、良好な忍容性を示した。これらの前臨床データは、eFT226がER陽性・HER2陰性乳がんを対象としたPhase 1/2臨床試験 (eFT226-001) へと進むための強力な根拠となる。本知見は、翻訳制御を介したがん治療という新たな臨床応用戦略の確立に貢献するものである。

残された課題: 今後の検討課題として、Caco-2 ER 4という中程度のP-gp依存的な流出比が腫瘍薬物到達に与える影響を明確にすること、およびeFT226の長期投与における耐性メカニズムの解明が残されている。また、eIF4A1とeIF4A2の機能的重複とeFT226の選択性に関するさらなる詳細な研究も必要である。Limitationとして、本研究のin vivoデータはマウス異種移植モデルに限定されており、ヒトにおける薬物動態と有効性を評価するためには、さらなる臨床試験が必要である。

方法

メディシナルケミストリー研究 (有機合成、構造活性相関、計算化学が中心) を実施した。細胞増殖アッセイでは、MDA-MB-231乳がん細胞をはじめとする複数のがん細胞株でのIC50測定を行った。各種物性測定として、clogP、溶解度、Caco-2透過性、代謝安定性を評価した。in silico計算では、ab initio密度汎関数理論 (DFT) によるアリール-アリール捩じれ角エネルギープロファイルを構築し、分子設計の前向きフィルタリングに活用した。X線結晶構造解析により、compound 8およびrocaglamide A/eIF4A1/ポリプリンRNA三者複合体 (PDB ID 5ZC9) の構造的知見を得た。

構造活性相関 (SAR) 研究: Table 1に22化合物 (2-23) のSARデータ (IC50 19〜>1000 nM、clogP、LE (リガンド効率)、LLE (リポフィル性リガンド効率)) を体系的に示した。合成化学的には、Porcoらの[3+2]-光環化付加反応を基盤とした合成戦略を採用し、特にヘテロ環A環を持つアナログの合成に成功した。これにより、rocaglamide AのフェニルA環をピリジンに置換するなどの修飾が可能となった。

薬物動態学的評価: ラットを用いたin vivo薬物動態試験では、単回静脈内投与 (1 mg/kg) 後の血漿中濃度を測定し、半減期 (T1/2)、クリアランス (CL)、定常状態分布容積 (Vss)、血漿タンパク結合率を算出した。Caco-2細胞を用いた透過性試験では、Papp (apparent permeability) およびefflux比を測定し、P-gp阻害剤 (valspodar, 5 μM) の有無による影響も評価した。

作用機序解析: 表面プラズモン共鳴 (SPR) を用いて、eIF4A1とRNAオリゴヌクレオチド (ポリプリン配列AGAGAG、G-quadruplex様配列GGCGGC、コントロール配列CAACAAなど) およびeFT226との三者複合体形成を解析した。ルシフェラーゼレポーターアッセイでは、異なる5’-UTR配列を持つレポーターmRNAの翻訳阻害活性をMDA-MB-231細胞で評価した。eIF4A1のF163L変異を導入したHAP1細胞株を用いて、eFT226の標的特異性を検証した。

in vivo抗腫瘍活性評価: MDA-MB-231乳癌細胞を乳腺脂肪パッドに移植したアヌードマウス (n=10 mice/group) の異種移植モデルにおいて、eFT226を週1回1 mg/kgで静脈内投与し、腫瘍増殖抑制効果と体重変化を評価した。統計解析には、GraphPad Prismソフトウェアを用いた4パラメータ用量反応曲線フィッティング、および非コンパートメント解析による薬物動態パラメータの算出が含まれる。細胞増殖アッセイのIC50値は、4パラメータ用量反応曲線フィッティングにより算出された。