- 著者: Scagliotti et al.
- Corresponding author: Giorgio V. Scagliotti (University of Torino, Department of Clinical and Biological Sciences, S. Luigi Hospital, Thoracic Oncology Unit, Orbassano (Torino), Italy)
- 雑誌: JNatlCancerInst
- 発行年: 2003
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 14534491
- Category: Basic-Others
- Topics: [“Lung Cancer”, “Adjuvant Therapy”]
- Tags: [“NSCLC”, “Adjuvant Chemotherapy”, “MVP regimen”, “Overall Survival”, “Progression-Free Survival”]
背景
非小細胞肺癌 (NSCLC) のステージI、II、またはIIIAの患者に対する主要な治療法は外科手術である。しかし、手術単独での長期生存率は満足できるものではなく、病理学的ステージIAの患者で67%、病理学的ステージIIBの患者で39%の5年生存率が報告されているに過ぎない (Mountain, 1997)。手術単独で治療された患者では、遠隔部位での再発がより一般的であり (Martini et al., 1980; Feld et al., 1984; Pairolero et al., 1984; Thomas & Rubinstein, 1990)、術後補助療法の有効性は確立されていないのが現状であった (Ruckdeschel & Robinson, 1996)。この領域には依然として多くの未解明な点が残されている。
1995年のメタアナリシスでは、1394名のNSCLC患者を対象とした8つのシスプラチンベースの補助化学療法試験がレビューされ、死亡リスクが13%減少することが報告された。しかし、このリスク減少は統計的に有意な境界線上にあり、その結果は臨床診療に大きな影響を与えるには至らなかった (Non-small Cell Lung Cancer Collaborative Group, 1995)。これは、絶対的な生存利益が小さすぎたためではなく、生存利益推定の不正確さ(1%の悪化から10%の利益まで変動)に起因すると考えられる。対照的に、乳癌における補助化学療法のメタアナリシスでは、約75,000名の患者、31,000件の再発、24,000件の死亡を対象とし、補助化学療法を受けた女性で10年生存率が6%改善することが示され、臨床診療に大きな影響を与えた (Early Breast Cancer Trialists’ Collaborative Group, 1992)。このことは、NSCLCにおける補助化学療法の有効性に関するエビデンスが不足していることを示唆している。
1990年代初頭には、進行NSCLC患者を対象としたランダム化臨床試験において、マイトマイシンC、ビンデシン、シスプラチン (MVP) を含む3剤併用化学療法が、シスプラチンとエトポシドの2剤併用療法と比較して、全奏効率と生存期間において優れていることが示された (Crino et al., 1995)。MVP療法は、グレード3および4の毒性発現率が2剤併用療法と同程度でありながら、より良い治療効果を示した。しかし、完全切除された早期NSCLC患者における補助化学療法の有効性については、依然として議論の余地があり、その役割は未解明であった。特に、大規模かつ前向きな試験による検証が不足しており、このギャップを埋める必要があった。本研究は、この知識ギャップを埋めるための重要な一歩となる。
目的
本研究の目的は、完全切除されたステージI、II、またはIIIAの非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者を対象に、術後補助化学療法としてMVP (マイトマイシンC、ビンデシン、シスプラチン) 療法が全生存期間 (OS) および無増悪生存期間 (PFS) に与える影響を評価することである。
具体的には、MVP療法群と対照群(治療なし)を比較し、以下の主要および副次評価項目を検討した。
- 主要評価項目: 全生存期間 (OS) の比較。
- 副次評価項目: 無増悪生存期間 (PFS) の比較。
- 副次評価項目: 補助化学療法に関連する毒性の評価。
- 副次評価項目: 患者の治療遵守率および放射線療法完遂率の評価。
- 探索的評価項目: 分子マーカー(p53、Ki67、K-ras変異)と予後との関連性の検討。
本試験は、先行研究で示唆された生存利益の可能性を、大規模かつ前向きなランダム化比較試験によって検証し、完全切除NSCLC患者に対する補助化学療法の役割を明確にすることを意図した。特に、当時のメタアナリシスで示された生存利益の推定の不確実性を解消し、臨床診療における補助化学療法の位置づけを確立するためのエビデンスを提供することを目指した。
結果
患者特性と治療遵守: 1994年1月から1999年1月の間に、1209名の患者が本研究に登録された。MVP群には606名、対照群には603名がランダムに割り付けられた。データ完全性に関する懸念から、1つの施設からの108名の患者(MVP群54名、対照群54名)が最終解析から除外され、最終的にMVP群548名、対照群540名が解析対象となった (Figure 1)。患者のベースライン特性(性別、年齢、TNM病期、組織型、手術術式、リンパ節郭清の有無、予定放射線療法実施の有無)は両群間でバランスが取れていた (Table 1)。MVP群の患者のうち、計画された3サイクルを完遂したのは69% (n=350) であった。110名 (22%) が毒性 (66名、60%) または個人的な選択 (44名、40%) により早期にMVP治療を中止した。48名 (9%) は同意撤回によりMVP治療を開始しなかった。実際に投与されたシスプラチン、マイトマイシンC、ビンデシンのメジアン用量は、それぞれ計画用量の96%、95%、93%であった。放射線療法は、MVP群の評価可能な患者179名中117名 (65%)、対照群の評価可能な患者152名中124名 (82%) が完遂した。
毒性プロファイル: MVP群では、グレード3の好中球減少症が16%、グレード4の好中球減少症が12%の患者で発生した。グレード3または4の血小板減少症は5%の患者でまれに報告された。グレード2の貧血は20%の患者で認められたが、グレード3の貧血は2%に過ぎなかった。悪心および嘔吐の発生率は比較的低く、グレード3が13%、グレード4が4%であった。その他の重篤な非血液学的毒性はまれであり、グレード3の神経毒性は3%、グレード2の耳毒性は4%であった。放射線療法中のグレード3または4の血液学的毒性は低く(MVP群2% vs 対照群3%)、グレード2および3の食道炎が最も一般的に報告された副作用であった(MVP群16% vs 対照群15%)。早期死亡(ランダム化後12ヶ月以内の死亡)はMVP群で90名、対照群で69名に認められた。MVP群における早期死亡の過剰は、癌の進行 (11名) および心肺イベント (7名) に起因した。治療関連死は研究期間中に10名(MVP群3名、対照群7名)発生し、そのうち1名(対照群)を除くすべてがランダム化後1年以内に発生した。
全生存期間 (OS) と無増悪生存期間 (PFS): 全解析対象患者1088名の追跡期間中央値は64.5ヶ月(四分位範囲 52.1~79.6ヶ月)であった。2002年5月までに、568名の死亡が確認された(MVP群279名、対照群289名)。死亡原因の71%は癌の進行であった。主要評価項目である全生存期間において、MVP群と対照群の間で統計的に有意な差は認められなかった (ハザード比 [HR] = 0.96, 95%信頼区間 [CI] = 0.81-1.13; p=0.589) (Figure 2)。MVP群の2年および5年全生存期間の絶対的な増加はそれぞれ1% (95% CI -3% to 5%) および1% (95% CI -4% to 7%) であった。メジアン全生存期間は対照群で48ヶ月、MVP群で55.2ヶ月であったが、ハザード比を用いて計算すると、MVP群の生存期間の増加は2ヶ月 (95% CI -5.5 to 11ヶ月) であった。
副次評価項目である無増悪生存期間においても、MVP群と対照群の間で統計的に有意な差は認められなかった (HR = 0.89, 95% CI = 0.76-1.03; p=0.128) (Figure 3)。MVP群の2年および5年無増悪生存期間の絶対的な増加はそれぞれ4% (95% CI -1% to 9%) および4% (95% CI -1% to 10%) であった。メジアン無増悪生存期間は対照群で28.9ヶ月、MVP群で36.5ヶ月であった。再発パターンについては、両群ともに脳転移が単独部位 (MVP群16% vs 対照群16%) または広範な疾患の一部 (MVP群28% vs 対照群31%) として多く認められた。局所再発はMVP群で23%、対照群で22%の患者で確認された。
多変量解析と分子マーカー: 多変量解析では、病期と性別のみが全生存期間と統計的に有意に関連していた (病期IIまたはIII vs Iでp<0.001、男性 vs 女性でp=0.034)。無増悪生存期間とは病期のみが統計的に有意に関連していた (病期IIまたはIII vs Iでp<0.001) (Table 2)。プロトコル遵守解析(計画された3サイクルすべてを完遂した患者と補助療法を受けなかった患者の比較)でも、MVP化学療法は統計的に有意な全生存期間の優位性を示さなかった (HR = 0.86, 95% CI = 0.71-1.04)。腫瘍組織マーカー(p53、Ki67、K-ras変異)と予後との関連性も検討されたが、いずれのマーカーも全生存期間または無増悪生存期間と統計的に有意な関連は認められなかった (Table 2)。例えば、p53の発現レベル (n=387検体) はOS (HR 1.03, 95% CI 0.98-1.08, p=0.30) ともPFS (HR 1.02, 95% CI 0.97-1.06, p=0.49) とも有意な関連はなかった。K-ras変異 (n=108検体) もOS (HR 1.02, 95% CI 0.95-1.08, p=0.20) およびPFS (HR 1.25, 95% CI 0.73-2.14, p=0.41) との有意な関連は認められなかった。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、完全切除された非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者に対する術後補助化学療法としてMVP療法を評価した大規模なランダム化比較試験であるが、全生存期間 (OS) および無増悪生存期間 (PFS) において統計的に有意な改善を示すことができなかった。これは、1995年のメタアナリシスで示唆されたシスプラチンベースの補助化学療法による死亡リスクの13%減少という結果とは対照的である (Non-small Cell Lung Cancer Collaborative Group, 1995)。本研究の知見は、当時のメタアナリシスの結果が境界域の統計的有意性であり、その生存利益推定の不確実性が臨床診療に影響を与えなかったという背景を裏付けるものである。また、Eastern Cooperative Oncology Groupによる臨床ステージIIまたはIIIAのNSCLC患者を対象とした試験 (Keller et al., 2000) とも異なり、本研究は手術単独群を設定し、より明確な比較を行った。
新規性: 本研究は、完全切除NSCLC患者における補助化学療法の有効性を評価するために、当時としては初めて、メタアナリシスで検出された程度の比較的小さな生存差を検出できるよう設計された大規模な前向き補助療法試験であった。また、計画された患者数に近い症例登録に成功した最初の大規模試験の一つである。さらに、p53、Ki67、K-ras変異といった分子マーカーと予後との関連性を多変量解析で検討したが、これら分子マーカーが全生存期間や無増悪生存期間と有意な関連を示さなかったことは、当時としては新規の知見であった。
臨床応用: 本研究の結果は、MVP療法が完全切除NSCLC患者の生存期間を統計的に有意に改善しないことを示しており、このレジメンを標準的な補助化学療法として推奨することはできない。しかし、本研究で観察された治療遵守率の低さ(計画された3サイクルを完遂したのは69%のみ)は、術後補助化学療法の実施における重要な課題を浮き彫りにしている。外科手術後の患者は、手術自体による身体的負担が大きく、回復に時間を要することが多いため、乳癌や大腸癌患者と比較して、より毒性の低い補助療法や、より高い治療遵守率を達成できるレジメンの探索が臨床的に重要である。また、両群で脳転移が再発部位として多く認められたことは、これらの患者における予防的頭蓋照射の可能性を将来の臨床現場で検討するべきであることを示唆している。
残された課題: 本研究の主な限界は、MVPレジメンに対する治療遵守率が低かったことである。これは、観察された生存利益が統計的に有意でなかった一因である可能性が考えられる。今後の研究では、より忍容性の高い、あるいはより効果的な治療法を探索する必要がある。また、本研究では、ランダム化後1年以内の早期死亡がMVP群で対照群よりも多かったが、治療関連死の差は小さかった。この早期死亡の過剰が、化学療法の潜在的な毒性効果を反映している可能性も残された課題である。さらに、本研究の計画時には利用できなかったゲムシタビン、タキサン系薬剤、ビノレルビンなどの新しい化学療法薬の導入により、補助化学療法の有効性が変化する可能性があり、これらの新しいレジメンを用いた大規模なランダム化比較試験が今後の検討課題である。本研究の知見は、補助化学療法の有効性を確認するためには、現在進行中または完了したすべてのランダム化試験の結果と、少なくとも4000名の患者を含む新しいメタアナリシスが利用可能になってから、新たな試験を計画すべきであることを示唆している。
方法
研究デザインと患者選択: 本研究は、完全切除されたステージI、II、またはIIIAの非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者を対象とした多施設共同ランダム化比較試験である。1994年1月から1999年1月にかけて、イタリアの66施設と欧州癌研究治療機構 (EORTC) 肺癌共同研究グループに所属する5施設が参加した。適格基準を満たした患者は、術後42日以内にMVP (マイトマイシンC、ビンデシン、シスプラチン) 療法群または対照群(治療なし)にランダムに割り付けられた。ランダム化は、施設、腫瘍径、リンパ節浸潤、および放射線療法実施の意図によって層別化された。すべての患者から書面によるインフォームドコンセントを得て、研究は地域の倫理審査委員会およびEORTCのプロトコル審査委員会によって承認された。
治療プロトコル: MVP療法群の患者は、マイトマイシンC (8 mg/m²、1日目)、ビンデシン (3 mg/m²、1日目および8日目)、シスプラチン (100 mg/m²、1日目) を3週間ごとに3サイクル投与された。治療サイクル中の用量調整は、8日目に測定される絶対好中球数および血小板数、ならびに非血液学的毒性の評価に基づいて行われた。進行性疾患、許容できない毒性、または前回の治療から6週間以内に化学療法を受けなかった患者は、研究から除外された。毒性は世界保健機関 (WHO) の基準 (World Health Organization, 1979) に従って評価された。
放射線療法: 補助放射線療法は、各参加施設のポリシーに従って実施された。MVP群の患者では最終MVP治療後3~5週間後、対照群の患者では根治手術後4~6週間後に開始された。総線量は50~54 Gy(2 Gy/日、週5日)を5~6週間かけて照射された。放射線療法に関連する急性毒性および晩期毒性は、Radiation Therapy Oncology Group (RTOG) の基準 (Byhardt et al., 1993) に従って評価された。
分子マーカーの評価: 一部の施設では、腫瘍組織サンプルが収集され、p53およびKi67免疫染色による陽性度、ならびにK-ras遺伝子コドン12の変異の有無が評価された。ホルマリン固定パラフィン包埋組織切片が用いられ、p53 (Ab-2; Oncogene Sciences) およびKi67 (MIB-1; DAKO) 抗体とインキュベートされた (Marchetti et al., 1993; Scagliotti et al., 1993)。K-ras変異は、PCR増幅 (Higuchi, 1990) および変異特異的オリゴヌクレオチドを用いた検出法 (Verlaan-de Vries et al., 1986) により評価された。腫瘍組織の評価は、p53およびKi67の発現レベルを0%~5%、6%~10%、10%~25%、25%超の4段階に分類して実施された。K-ras遺伝子変異は、PCR増幅および変異特異的オリゴヌクレオチドによる検出法で評価され、コドン12における点変異の有無が解析された。
統計解析: 主要評価項目は全生存期間であり、ランダム化からあらゆる原因による死亡までの期間と定義された。副次評価項目は無増悪生存期間(ランダム化から再発またはあらゆる原因による死亡までの期間)および化学療法に関連する毒性であった。本試験は、死亡率の20%相対減少(5年生存率が50%から57%に増加、ハザード比 [HR] 0.8に相当)を検出するために80%の検出力を持つよう設計された。ログランク検定を用いて生存曲線が解析され、すべての統計検定は両側検定であった。ベースライン特性で調整されたCox比例ハザードモデルも用いられた。分子予後因子が生存に与える影響を評価するためにもCox比例ハザードモデルが開発された。サブグループ解析は研究デザインに含まれていなかったが、プロトコル遵守解析が事後的に実施された。