- 著者: A. J. Weickhardt, B. Scheier, J. M. Burke, G. Gan, X. Lu, P. A. Bunn, D. L. Aisner, L. E. Gaspar, B. D. Kavanagh, R. C. Doebele, D. R. Camidge
- Corresponding author: A. J. Weickhardt (University of Colorado Cancer Center, Aurora, CO, USA)
- 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
- 発行年: 2012
- Epub日: 2012-12-01
- Article種別: Original Article
- DOI: N/A
背景
ALK陽性 (ALK+) および上皮成長因子受容体変異陽性 (EGFR変異陽性) の転移性非小細胞肺癌 (NSCLC) はチロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) に対して高い奏効率と長い無増悪生存期間 (PFS) を示すが、薬剤耐性の獲得により進行は不可避である。クリゾチニブで治療されたALK+ NSCLCでは脳脊髄液 (CSF) 中への薬剤到達が不十分なため (Costa ら; Costa 2011)、初回進行がCNSに集中しやすいことが明らかにされており、EGFR-TKI (ゲフィチニブ・エルロチニブ) でも同様のCSF到達限界が報告されている (Togashi ら; Togashi 2012)。Heon らは EGFR-TKI 投与中の EGFR変異陽性 NSCLCにおいてもCNS進行が高頻度 (約50%) に観察されることを示した (Heon 2012)。
進行が少数部位に限られる「オリゴプログレッシブ病変」においては、耐性クローンが全身に播種する前に局所切除療法 (LAT) でこれを排除することで、感受性クローンへの継続的なTKI抑制効果を維持できるという仮説が提唱された。EGFR変異陽性患者でEGFR-TKI中止後の疾患フレアや同一TKI再投与での再奏効が報告されており、TKI継続に意義があることは間接的に示唆されていた。しかし、ALK+ およびEGFR変異陽性の両集団を対象にCNS・eCNS両部位のオリゴプログレッシブ病変に対するLATとTKI継続を体系的に検討した研究はなく、どのような患者選択基準のもとでどの程度の追加疾患コントロールが得られるかは未解明であり、有効性と安全性データが不足していた。
目的
クリゾチニブ治療中のALK+ NSCLCおよびエルロチニブ治療中のEGFR変異陽性 NSCLCで初回進行した患者のうち、CNS進行および/または4部位以下のCNS外進行 (オリゴプログレッシブ病変) を示した患者に対するLATとTKI継続の有効性 (PFS2) および安全性を単施設の後ろ向き研究で評価する。
結果
コホート特性と初回無増悪生存 (PFS1): n=65例 (ALK+ 38例 vs EGFR変異 27例) のベースライン特性を表1に示す。腺癌が97% (63/65例) を占め、年齢中央値は58歳、非喫煙者が66% (43/65例) であった。試験開始前にCNS病変が確認されていたのは29% (19/65例)、45% (29/65例) はCNS画像評価不明であった。全コホートのPFS1中央値は10.3ヵ月 (95% CI 8.9-13.8ヵ月)、ALK+は9.0ヵ月 (95% CI 6.5-12.8ヵ月)、EGFR変異は13.8ヵ月 (95% CI 8.9-16.4ヵ月) で、既存文献と一致していた (Fig. 1)。観察期間中に51例が進行し (ALK+ 28例、EGFR変異 23例)、全体の進行率は78% (51/65例) であった。
LAT選択率とオリゴプログレッシブ病変の分布: 進行した51例のうち25例 (49%) がLAT適格と判定され、TKI継続とともに治療を受けた (ALK+ 15例、EGFR変異 10例)。残り26例は軟髄膜浸潤・4部位超の進行・不良PS・TKI耐性不良により非適格とされた。初回進行からLAT開始までの期間中央値は3.7週間であった。LATの内訳は放射線照射24例 (定位放射線治療 [SRS] 6例、全脳照射 [WBRT] 6例、定位体幹部放射線治療 [SBRT; 15-54 Gy、中央値40 Gy] 13例)、外科的切除1例 (副腎切除) であった (Table 2)。CNSに初回進行したのはALK+ 13例中9例 (69%)、EGFR変異 10例中4例 (40%)、CNS単独進行がALK+ 11例 (85%) で全身病変は依然コントロール下にあった。LAT施行時に25例中17例 (68%) でMRIによるCNS再評価が実施され、17例 (68%) でPET/CTによる全身再評価が行われた。eCNS進行部位は骨 (7例)・肺 (7例)・リンパ節 (2例)・副腎 (2例)・肝臓 (1例) で、eCNS治療部位の中央値は2部位 (最大4部位) であり、8例 (53%) が単一eCNS病変であった (Table 2)。
LAT後の疾患コントロール期間 (PFS2): LAT後の第2PFS (PFS2) 中央値は全患者で6.2ヵ月 (95% CI 3.7-8.0ヵ月) であった (Table 3, Fig. 1A)。CNS単独進行群 (n=10) では中央値PFS2 7.1ヵ月 (95% CI 1.7-11.3ヵ月)、CNS外進行群 (n=15) では4.0ヵ月 (95% CI 2.7-7.4ヵ月) と、CNS単独群でやや良好な傾向があったが、両群間の差は統計学的に有意でなかった (progression HR=0.85、95% CI 0.29-2.47、p=0.76)。観察期間中央値9.4ヵ月の時点で25例中6例 (24%) には再進行が認められなかった。初回PFS1が12ヵ月以下の患者ではPFS2が短縮する傾向が見られたが (HR=3.45、95% CI 0.92-12.99、p=0.067)、有意差は得られなかった。PFS2での進行パターンは、CNS初回進行例の50% (5/10例) がその後eCNSに進行し、eCNS初回進行例の53% (8/15例) が再びeCNSに進行した一方、各群で20-27%は再進行部位がCNSへ移行した (Table 3)。LAT後の再病期評価間隔中央値はCNS病変でPFS1からPFS2の間3.1ヵ月、eCNS病変で2.1ヵ月であり、再評価間隔がPFS2の約半分以下となっており偽陽性イベントの可能性は低かった。
安全性プロファイル: LATの毒性は軽微であり、WBRT施行6例中2例にGrade 3倦怠感が認められたが、他のGrade 3/4有害事象は確認されなかった (Table 4)。SBRT後の放射線肝障害 (肝臓SBRT1例)・肺臓炎はいずれも観察されず、SRS施行例でも重篤な神経毒性は生じなかった。Grade 1/2の有害事象としてはWBRT後の脱毛 (6例全員)・倦怠感 (1例)・記憶障害 (3例)・嘔気 (1例)・食欲不振 (1例)・情動不安定 (2例)・頭痛 (1例)、SBRT/SRS後では倦怠感 (3例)・嘔気 (1例)・食欲不振 (1例)・胸壁圧痛 (1例) が報告された。LAT後中央値9.4ヵ月 (最終解析2012年1月1日) の追跡において、25例中6例 (24%) は再進行なく良好な疾患コントロールを維持していた。骨・肺・副腎へのSBRTとEGFR-TKIまたはALK阻害薬の併用は先行報告においても安全性が確認されており、本シリーズの忍容性はその臨床エビデンスと一致する。
考察/結論
① 先行研究との違い: これまでの報告はEGFR変異陽性NSCLCにおける孤立CNS進行への放射線療法、またはCNS外孤立病変への局所療法に限定されており、ALK+ とEGFR変異陽性の両群を同時に対象として、CNS・eCNS両方の部位をLAT対象とした研究はなかった。本研究はこれまでの個別報告と異なり、オンコジーン依存性NSCLCにおけるオリゴプログレッシブ病変管理の包括的な枠組みを初めて提示した。Yoshida らは後にALK+ NSCLCにおけるCNS進行でのクリゾチニブ継続の影響を詳細に検討し本研究の知見を補完した (Yoshida 2016)。
② 新規性: 本研究で初めて体系的に示されたのは、ALK+患者のCNS初回進行の約85%が全身病変コントロール維持下にあり、LAT+TKI継続により中央値6.2ヵ月超の追加疾患コントロールが得られるという新規な知見である。オリゴプログレッシブ病変基準 (≤4 eCNS部位/非軟髄膜CNS病変) および同療法戦略の適格基準 (Table 5) はこれまでにない形で明確化され、後続の前向き試験の土台となった。Ou らは本研究後にALK+ 患者でのクリゾチニブ進行後継続に関する大規模解析を行い、同アプローチの有効性を確認した (Ou 2014)。
③ 臨床応用: オリゴプログレッシブ病変を示す分子標的治療薬施行中のNSCLCに対する臨床的意義として、LATとTKI継続が即座の薬剤変更より優れた可能性を提唱した。適格基準 (≤4 eCNS部位、非軟髄膜CNS病変、PS良好、TKI良忍容) を満たす場合にはSBRTやSRSによる局所制御後のTKI継続が推奨戦略の選択肢となりうる。
④ 残された課題: 後ろ向き・単施設研究であり対照群がないため、LAT介入の真の上乗せ効果は不明である。LAT適格群と非適格群のPFS1が比較可能 (10.3 vs 12.8ヵ月) であることから偏りは少ないが、前向き無作為化試験での検証が必要であり、eCNS進行例のPFS2が短い (4.0ヵ月) ことの生物学的背景も今後の検討課題として残されている。
方法
後ろ向き観察研究、単施設 (コロラド大学がんセンター)。試験期間 2005年5月から2011年12月。ALK+患者はFISH法 (fluorescence in situ hybridization) によるALK遺伝子再編成陽性として同定 (コロラド分子相関データベース)。EGFR変異陽性患者はexon 19欠失またはexon 21 L858R変異をダイレクトシークエンシングまたはアレル特異的PCRで確認。ALK+ 38例はクリゾチニブ 250 mg 2回/日 (PROFILE 1001またはPROFILE 1005試験枠)、EGFR変異 27例はエルロチニブ 150 mg 1回/日 (うち2例はcixutumumab併用)。
LAT適格基準: (1) 非軟髄膜CNS進行またはCNS外4部位以下の進行、(2) ECOG (Eastern Cooperative Oncology Group) PS ≤1、(3) TKI良忍容。非適格: 軟髄膜病変・4部位超eCNS進行・不良PS・TKI不耐。進行病変の生検を施行可能例で実施し抵抗機序を評価。LATは外照射放射線療法 (SBRT/SRS/WBRT) または外科的切除 (1例)。TKIはLAT当日に休薬し翌日再開。
PFS1: TKI開始から初回進行/死亡まで (RECIST 1.1 または臨床的進行)。PFS2: 初回進行からLAT後の第2進行/死亡まで。統計: Kaplan-Meier法 (GraphPad Prism V)、Cox比例ハザードモデルによる多変量解析 (SAS/STAT v9.3)。