- 著者: Jackie Cheng, Alexandre Grassart, David G. Drubin
- Corresponding author: David G. Drubin (Department of Molecular and Cell Biology, University of California, Berkeley, CA, USA)
- 雑誌: Molecular Biology of the Cell
- 発行年: 2012
- Epub日: 2012-06-06
- Article種別: Original Article
- PMID: 22675027
背景
クラスリン介在性エンドサイトーシス (CME) は、細胞が細胞膜上の物質を内部に取り込む主要な経路であり、クラスリン被覆ピット (CCPs) の形成、膜の陥入、ダイナミン介在性の膜切断 (scission)、そして新生エンドソームの細胞内輸送という多段階のプロセスから構成される。出芽酵母におけるCMEは厳密にアクチン依存的であることが知られており、長尾型I型ミオシン (Myo3/5)、Vrp1 (WASP-interacting protein (WIP) ホモログ)、WASp (N-WASPホモログ) がArp2/3複合体を活性化してアクチン重合を誘導する分子モジュールが確立されている (Sun et al. 2006)。しかし、哺乳類細胞におけるアクチンのCMEへの関与については議論が続いており、一部の細胞株や高膜張力条件下ではアクチンが必須であるものの、懸濁培養細胞などでは必須ではないという報告の相違が存在し、その役割は未解明な部分が多かった (Fujimoto et al. 2000)。このことは、哺乳類CMEにおけるアクチンの普遍的な役割と、それを制御する分子メカニズムに知識のギャップを残していた。
哺乳類において唯一ユビキタスに発現する「長尾型」I型ミオシンであるMyosin 1E (Myo1E) は、C末端にSrc-homology 3 (SH3) ドメインを持ち、ダイナミンおよびシナプトジャニン-1との結合が先行研究で示されていた (Krendel et al. 2007)。Myo1EのC末端尾部を過剰発現させるとトランスフェリン取り込みが阻害されることから、Myo1EがCMEに関与している可能性が示唆されていたが、Myo1EがCCPのどの段階でリクルートされ、アクチン重合制御因子との機能的関係がどうなっているかは不明であった。全反射蛍光顕微鏡 (TIRFM) を用いた生細胞イメージングにより、複数のアクチン制御タンパク質がCCPに後期にリクルートされ、ダイナミン/ミオシン/N-WASPモジュールを形成することが示唆されていたが (Taylor et al. 2011)、Myo1Eがこのモジュール内でWIP/WIRE/N-WASPを直接的に制御するのか、その分子メカニズムについては実証されていなかった。特に、Myo1EのSH3ドメインがこれらのアクチン制御因子を動員する能力を持つのか、またその動員がアクチン重合にどのように影響するのかは、これまで報告されていない重要な課題であった。したがって、Myo1Eが哺乳類CMEにおいてアクチン集合とカーゴ輸送をどのように協調させるのか、その詳細な分子メカニズムを解明することが、アクチン依存的なCMEの理解を深める上で不足している知見であった。
目的
本研究の目的は、哺乳類クラスリン介在性エンドサイトーシス (CME) におけるMyosin 1E (Myo1E) の役割を多角的に解明することである。具体的には、以下の点を明らかにすることを目指した。
第一に、全反射蛍光顕微鏡 (TIRFM) を用いてMyo1Eのクラスリン被覆ピット (CCP) へのリクルートタイミングと動態を精密に解析し、ダイナミン、WIP (WASP-interacting protein)、WIRE (WIP-related)、N-WASPといったアクチン重合制御因子との時間的・空間的な関係性を明らかにすること。特に、Myo1EがCCPのどの段階で出現し、その動態が他のアクチン関連タンパク質とどのように同期するのかを定量的に評価することを目的とした。
第二に、Myo1Eの機能的寄与を評価するため、siRNAによるMyo1Eノックダウンが内在化カーゴ輸送(特にトランスフェリンの内在化と核周囲コンパートメントへの輸送)およびCCP動態(クラスリンとダイナミンの寿命)に与える影響を定量的に示すこと。これにより、Myo1EがCMEのどのステップに不可欠な役割を果たすのかを特定することを目的とした。
第三に、Myo1EのC末端Src-homology 3 (SH3) ドメインがアクチン重合制御因子であるWIP、WIRE、N-WASPのリクルートに必要十分であるかを、ミトコンドリア誤標的化実験を用いて検証すること。この実験系を通じて、Myo1EがSH3ドメインを介してこれらのタンパク質を動員し、アクチン重合を誘導する直接的な分子メカニズムを実証することを目的とした。
最後に、ダイナミンとMyo1Eの相互作用について、ダイナミンのプロリンリッチドメイン (PRD) がMyo1Eのリクルートに必須であるか否かを誤標的化実験で検証し、Myo1EのCCPへのリクルートメカニズムをさらに深く理解することを目的とした。
結果
Myo1EのCCPへのリクルートタイミングと指向性移動: TIRFMを用いた解析により、Myo1E-GFPはDsRed-CLTA (クラスリン) が内在化されるタイミングと一致してクラスリン被覆ピット (CCP) にリクルートされることが示された (Figure 2A, B)。Myo1Eの蛍光強度はクラスリンのピークよりも後期にピークを示し、その時間的プロファイルはダイナミン2、WIP、WIREと非常に類似していた (Figure 2F)。一方、N-WASPとユトロフィン (F-アクチンマーカー) はMyo1Eよりも相対的に遅れてリクルートされた。パーティクルトラッキング解析では、Myo1E-GFPがCCP上で指向性のある移動 (vectoral movement) を示すことが観察された (Figure 2E)。これは、比較的静止していたDsRed-CLTAの動態とは対照的であり、Myo1Eのモーター活性による新生エンドソームの細胞内移動を示唆するものであった。
低用量Latrunculin AによるCMEカーゴ輸送の阻害: アクチン重合阻害剤であるlatrunculin A (lat-A) の低用量 (0.05 µMまたは0.1 µM) 処理がCMEに与える影響を評価した。SK-MEL-28細胞を0.05 µM lat-Aで10分間処理し、その存在下でAF488-トランスフェリンを取り込ませた場合、n=37 cellsのうち16.2%の細胞でトランスフェリンが散在性に局在し、核周囲コンパートメントへの集積が観察されなかった (Figure 3H)。0.1 µM lat-Aを10分間処理後にlat-Aを除去してAF488-トランスフェリンを取り込ませた場合、n=47 cellsのうち93.6%の細胞でトランスフェリンが散在性に局在した (Figure 3K)。さらに、0.1 µM lat-A存在下で継続的に取り込ませた場合、n=43 cellsのうち90.7%の細胞で同様の散在性局在が観察された (Figure 3N)。Rab5a-GFPの核周囲分布はlat-A処理によって変化しなかったことから、アクチン阻害はエンドソームの分布自体を変えることなく、CCPから核周囲エンドソームへのカーゴ輸送を特異的に障害することが示された。トランスフェリンリサイクルアッセイ (FACS) では、lat-A処理がトランスフェリンのリサイクルに影響を与えないことが確認され (Supplemental Figure S5)、輸送障害が内在化後の前向き輸送の問題であることを裏付けた。
Myo1Eノックダウンによるエンドサイトーシスとカーゴ輸送の障害: siRNAによるMyo1Eノックダウン (HeLa細胞で96%減、SK-MEL-28細胞で89%減) は、ELISAベースのビオチン化トランスフェリン取り込みアッセイにおいて、31°C・4分間での内在化量をHeLa細胞で27%、SK-MEL-28細胞で36%減少させた (p<0.05, n=3 replicates) (Figure 4B)。蛍光AF488-トランスフェリンの取り込みでは、対照細胞で核周囲への集積が観察されたのに対し、Myo1E-KD細胞ではトランスフェリン取り込みが51±18%低下し、散在性局在が確認された (n=6 Myo1E-KD cells, n=7 control cells) (Figure 4G)。免疫蛍光染色では、対照細胞で早期エンドソームマーカーEEA1と取り込みトランスフェリンの共局在が観察されたが、Myo1E-KD細胞ではこの共局在が消失し、EEA1は核周囲に留まったままであった (Figure 4L-N)。これらのデータは、Myo1Eがエンドサイトーシスによる取り込みだけでなく、細胞表面から核周囲の早期エンドソーム構造へのトランスフェリン輸送において重要な役割を果たすことを示唆する。
Myo1E枯渇によるCCP寿命の延長: ゲノム編集されたSK-MEL-2 CLTA^EN/DNM2^EN細胞を用いたTIRFM解析により、Myo1E siRNAノックダウン (91%減) がCCP動態に与える影響を評価した (Figure 5A)。Myo1E枯渇細胞では、CLTA-RFPの平均寿命が対照細胞の48.6±2.1秒から61.9±2.4秒へ (p<0.0001, n=1293 tracks in control, n=982 tracks in Myo1E-KD cells)、DNM2-GFPの平均寿命が26.1±0.85秒から33.7±1.3秒へ (p<0.0001, n=934 tracks in control, n=998 tracks in Myo1E-KD cells) と有意に延長した (Figure 5C, D)。さらに、対照細胞ではCLTA-RFPトラックが4分間の動画で終了せず静止する割合が0.9%であったのに対し、Myo1E-KD細胞ではこの割合が10.2%に増加した (Figure 5E)。これらの結果は、Myo1Eの欠損がクラスリン被覆小胞 (CCV) 形成を障害し、クラスリンとダイナミンがCCPに長期間滞在することを示唆する。
Myo1E SH3ドメインによるWIP、WIRE、N-WASPの動員: Mito-GFP-Myo1Eをミトコンドリアに誤標的化すると、WIP-dTomatoおよびWIRE-DsRed2がミトコンドリアに動員された (Figure 6E-I, Supplemental Figure S9D-F)。WIPおよびWIRE単独発現ではミトコンドリアへの局在は観察されなかった (Figure 6A-C)。Myo1EのSH3ドメインを欠失させたΔSH3コンストラクトでは、WIPおよびWIREのミトコンドリア動員が消失した (Figure 6J-L)。一方、SH3ドメイン単独をミトコンドリアに標的化した場合でもWIPおよびWIREの動員が回復したことから (Figure 6M-R)、Myo1EのSH3ドメインがWIPおよびWIREの動員に必要十分であることが示された。さらに、Mito-GFP-Myo1EとWIP-dTomatoまたはWIRE-DsRed2を共発現させると、AF350-phalloidin染色によりミトコンドリア上にアクチン構造の集積が観察された (Figure 7)。これは、Myo1EがSH3ドメインを介してWIP/WIRE/N-WASPをリクルートし、Arp2/3複合体の活性化を介したアクチン重合を調節することを示す。
ダイナミンによるMyo1EのリクルートはPRD非依存的: Mito-GFP-Myo1Eをミトコンドリアに標的化してもダイナミン-mCherryはミトコンドリアに動員されなかった (Figure 8A-C)。しかし、Mito-GFP-Dyn2aaをミトコンドリアに標的化すると、Myo1E-dTomatoが効率的に動員された (Figure 8D-I)。さらに、プロリンリッチドメイン (PRD) を欠失させたMito-GFP-Dyn2aa ΔPRDでも同様にMyo1Eが動員されたことから (Figure 8J-O)、ダイナミンはPRD-SH3相互作用によらない別のメカニズム (おそらくTH2ドメインを介した相互作用) でMyo1Eを動員することが示唆された。
考察/結論
本研究は、哺乳類クラスリン介在性エンドサイトーシス (CME) におけるMyosin 1E (Myo1E) の包括的な機能モデルを提示した。Myo1Eはクラスリン被覆ピット (CCP) の後期段階、すなわちクラスリンが内在化されるタイミングにリクルートされ、そのSH3ドメインを介してWIP/WIRE/N-WASPおよびアクチン重合を調節し、膜切断 (scission) 後の新生エンドソームのアクチン依存的な細胞内移動 (post-scission trafficking) を担うことが示された。
先行研究との違い: 先行研究であるTaylor et al. (2011) は、ダイナミン/ミオシン/N-WASPモジュールの時間的リクルートプロファイルを示したが、Myo1EのSH3ドメインがWIP/WIRE/N-WASPをリクルートするという直接的な機能的証拠は提示されていなかった。本研究は、ミトコンドリア誤標的化実験という新規なアプローチを用いて、Myo1EのSH3ドメインがこれらのアクチン制御因子の動員に必要十分であることを初めて実証した点で、これまでの報告とは異なる直接的な分子メカニズムを明らかにした。
新規性: 本研究で初めて、Myo1EのSH3ドメインがWIP、WIRE、N-WASPといったアクチン重合制御因子を直接的にリクルートする能力を持つことを示した。このMyo1E-SH3ドメインを介したアクチン制御因子の動員が、Arp2/3複合体依存的なアクチン重合を誘導し、CMEの後期イベント、特に新生エンドソームの細胞内輸送に不可欠であることを新規に同定した。Myo1Eノックダウンによる内在化の27〜36%減少という比較的軽微な障害は、哺乳類細胞がアクチン非依存的なCMEメカニズムも持ち、Myo1Eが特定の条件下(高膜張力や大型クラスリンプラークの内在化など)でより重要な役割を果たすという概念と整合する。
臨床応用: 本研究の知見は、CMEが細胞機能の多くの側面、例えば栄養素の取り込み、シグナル伝達、細胞表面受容体のダウンレギュレーションなどに不可欠であることを考えると、その破綻が様々な疾患に関与する可能性を示唆する。Myo1E依存的なCCP動態やアクチン重合の乱れは、細胞内カーゴ輸送の異常を引き起こし、ひいては細胞の恒常性維持に影響を与える可能性がある。特に、CMEは多胞体 (MVB) 形成やエクソソーム (extracellular vesicles, EV) の生合成の上流を担うエンドソーム経路の起点であるため、Myo1Eの機能不全がEVの組成や放出量に影響を及ぼし、がんや炎症性疾患におけるEVの役割を理解する上での臨床的含意を持つと考えられる。
残された課題: 今後の検討課題として、Myo1EがCMEの初期段階でどのようにリクルートされるのか、特にダイナミン以外のプロリンリッチドメイン (PRD) 含有タンパク質との相互作用の全容を解明する必要がある。また、Myo1Eがアクチン重合を介して新生エンドソームを細胞質深部へ輸送する具体的なメカニズム、例えば他のモータータンパク質との協調やアクチンフィラメントの動態制御の詳細を明らかにすることが残されている。さらに、Myo1Eの機能が、高膜張力下や特定の細胞タイプにおいてどのように増強されるのか、その生理的意義をin vivoモデルで検証することも今後の研究方向性として挙げられる。Myo1Eの機能異常が、がんの転移や神経変性疾患などの病態にどのように関与するのか、その臨床的関連性を詳細に解析することも重要な課題である。
方法
ライブイメージングと動態解析: Swiss 3T3細胞 (DsRed-CLTA安定発現株) にMyo1E-GFPを一過性発現させ、TIRFMを用いて1〜2秒間隔で撮影した。取得した画像はImarisソフトウェア (Bitplane, Saint Paul, MN) を用いてパーティクルトラッキングを行い、CCPにおけるMyo1E-GFPの動的軌跡と指向性移動を解析した。また、GFP標識ダイナミン2、N-WASP、ユトロフィンCHドメイン (F-アクチンマーカー)、WIP、WIREのリクルートプロファイルをDsRed-CLTAの動態と対比させて解析し、各タンパク質のリクルートタイミングと寿命を定量的に比較した。トラッキングでは、推定サイズ350 nmのスポットモジュールと手動調整された品質フィルターを使用し、ブラウン運動アルゴリズムで追跡した。軌跡の一時的な途絶を避けるため、推定変位500 nmとギャップ閉鎖7フレームを設定した。統計解析にはStudentのt検定を用いた。
機能解析 (siRNAノックダウン): HeLa細胞およびSK-MEL-28細胞において、ON-TARGETplus siRNAプール (Dharmacon, Lafayette, CO) を用いてMyo1Eをノックダウンした。ノックダウン効率はウェスタンブロッティングにより確認し、HeLa細胞で96%減、SK-MEL-28細胞で89%減であった。ビオチン化トランスフェリン内在化アッセイをELISA法で実施し、31°Cで内在化動態を遅延させて測定した。また、蛍光AF488-トランスフェリンの取り込みと核周囲コンパートメントへの輸送をImageJソフトウェアを用いて定量化した。ゲノム編集されたSK-MEL-2 CLTA^EN/DNM2^EN細胞 (Doyon et al. 2011) を用いて、CLTA-RFPおよびDNM2-GFPの平均寿命をMyo1Eノックダウン後にTIRFMで解析し、CCP動態への影響を評価した。統計解析にはStudentのt検定を用いた。
Latrunculin A (lat-A) 処理実験: SK-MEL-28細胞に0.05〜0.1 µMの低用量lat-Aを処理し、アクチン動態を選択的に阻害した。この低用量ではストレスファイバーや細胞形態の大きな変化は観察されなかった。AF488-トランスフェリンの内在化と核周囲輸送への影響を評価し、Rab5a-GFP、EEA1 (早期エンドソームマーカー)、Rab7 (後期エンドソームマーカー)、CHMP4を用いて早期・後期エンドソームへの影響を確認した。トランスフェリンリサイクルアッセイはFACSベースで実施し、lat-A処理がリサイクル経路に影響を与えないことを確認した。
ミトコンドリア誤標的化実験: GFP-Myo1Eをミトコンドリア外膜標的配列 (Mito) に融合させ、COS-7細胞に発現させた。MitoTracker RedおよびDsRed-CLTAとの共局在を確認した。Mito-GFP-Myo1EとWIP-dTomato、WIRE-DsRed2、またはN-WASP-dTomatoを共発現させ、これらのタンパク質のミトコンドリアへの動員を観察した。Myo1EのSH3ドメイン欠失変異体 (ΔSH3) およびSH3ドメイン単独のMitoコンストラクトを用いて、SH3ドメインの必要十分性を評価した。アクチン染色にはAF350-phalloidinを用い、ミトコンドリアへのアクチン集積を確認した。
ダイナミンリクルート実験: Mito-GFP-Dyn2aaおよびプロリンリッチドメイン (PRD) 欠失変異体であるMito-GFP-Dyn2aa ΔPRDをミトコンドリアに標的化し、Myo1E-dTomatoの動員を観察した。これにより、ダイナミンによるMyo1EのリクルートがPRD-SH3ドメイン相互作用に依存するかどうかを検証した。
統計解析: データは平均値±標準誤差 (SEM) で示され、統計的有意差はStudentのt検定を用いて評価した。p値が0.05未満の場合を有意と判断した。