• 著者: Mejean A., Ravaud A., Thezenas S., Colas S., Beauval J.B., Bensalah K., Geoffrois L., Thiery-Vuillemin A., Cormier L., Lang H., Guy L., Gravis G., Rolland F., Mahier-Ait Oukhatar C., Escudier B.
  • Corresponding author: Mejean A. (Hôpital Européen Georges-Pompidou, Paris)
  • 雑誌: New England Journal of Medicine
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2018-06-03
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 29860937

背景

腎細胞癌 (renal cell carcinoma) は男性のがんの5%、女性のがんの3%を占め、診断時に約15%が転移を有している。転移性腎細胞癌である mRCC (metastatic renal-cell carcinoma) に対する初期治療としての細胞縮小的腎摘除術である CN (cytoreductive nephrectomy) は、インターフェロンを用いた免疫療法時代に実施されたランダム化比較試験である Flanigan et al. (2001) や Mickisch et al. (2001) の結果、および大規模なレトロスペクティブ研究に基づき、過去20年間にわたり標準治療とされてきた。また、患者の予後予測モデルとして Motzer et al. (1999) が提唱した MSKCC (Memorial Sloan Kettering Cancer Center) リスク分類が広く用いられてきた。しかし、2005年以降、血管内皮増殖因子受容体である VEGFR (vascular endothelial growth factor receptor) シグナル伝達を阻害するスニチニブやパゾパニブなどのチロシンキナーゼ阻害剤である TKI (tyrosine kinase inhibitor) が登場し、mRCC治療のパラダイムは劇的に変化した。標的治療薬が極めて高い有効性を示すようになった現代において、CNが果たすべき真の役割や、薬物療法単独に対する上乗せ効果については十分に検証されておらず、議論が分かれる (controversial) 状態が続いていた。特に、分子標的薬治療の時代におけるCNの治療的意義を前向きに検証した第III相ランダム化比較試験のデータは圧倒的に不足しており、CNを先行させるべきか、あるいは薬物療法を直ちに開始すべきかという臨床的な疑問に対する明確なエビデンスは未確立であった。CNを先行させるアプローチは、手術合併症による全身治療の遅延や、手術から回復する前に病勢が進行して治療機会を逸するリスクを伴う。したがって、標的治療時代におけるCNの必要性を直接比較する前向き試験の実施が強く求められていた。

目的

本研究の目的は、初診時に転移を有する MSKCC 予後予測モデルの中間リスク (intermediate-risk) または高リスク (poor-risk) の転移性明細胞腎細胞癌患者を対象として、スニチニブ単独療法が、標準治療であるCN施行後のスニチニブ投与に対して、全生存期間である OS (overall survival) において非劣性を示すかどうかを検証することである。非劣性マージンはハザード比 (hazard ratio: HR) の95%信頼区間 (confidence interval: CI) の上限が1.20以下と設定された。これにより、分子標的薬時代におけるCNの必要性を明らかにし、mRCC患者に対する初期治療戦略の最適化を図ることを目指した。

結果

患者背景および治療割り付けの概要: 本試験には2009年9月から2017年9月までに計450例の患者が登録され、CN+スニチニブ群に226例、スニチニブ単独群に224例がランダムに割り付けられた (Fig 1)。ITT (intention-to-treat) 集団において、両群の患者背景は極めて良好にバランスされていた (Table 1)。患者の年齢中央値はスニチニブ単独群で 62歳 (範囲 30-87) 、CN+スニチニブ群で 63歳 (範囲 33-84) であった。MSKCCリスク分類では、スニチニブ単独群で中間リスクが 58.5% (131/224例)、高リスクが 41.5% (93/224例) であり、CN+スニチニブ群では中間リスクが 55.6% (125/225例)、高リスクが 44.4% (100/225例) であった。CN+スニチニブ群に割り付けられた226例のうち、16例 (7.1%) は実際にはCNを施行されず、40例 (17.7%) はスニチニブ治療を受けなかった。一方、スニチニブ単独群の224例のうち、11例 (4.9%) はスニチニブの投与を受けず、38例 (17.0%) は病勢進行や症状コントロールの目的で後にCNを施行された。

主要エンドポイントである全生存期間における非劣性の検証: 追跡期間中央値 50.9ヶ月の時点で、326例の死亡が確認された。主要エンドポイントであるOS中央値は、スニチニブ単独群で 18.4 vs 13.9 months であり、スニチニブ単独群で良好な傾向が示された。層別コックス比例ハザードモデルによる解析の結果、死亡のハザード比は HR 0.89 (95% CI 0.71-1.10, p=0.27) であった (Fig 2A)。この95%信頼区間の上限値 (1.10) は、事前に設定された非劣性マージンである1.20を下回ったため、スニチニブ単独療法のCN+スニチニブ療法に対する非劣性が統計学的に証明された。

予後リスク別サブグループにおける全生存期間の解析: MSKCC予後リスク分類別のサブグループ解析においても、スニチニブ単独群の非劣性および良好な生存傾向が維持された。中間リスク患者 (n=256) におけるOS中央値は、スニチニブ単独群で 23.4 vs 19.0 months であり、ハザード比は HR 0.92 (95% CI 0.68-1.24, p=0.58) であった。また、高リスク患者 (n=193) におけるOS中央値は、スニチニブ単独群で 13.3 vs 10.2 months であり、ハザード比は HR 0.86 (95% CI 0.62-1.17, p=0.32) であった。いずれの予後リスクグループにおいても、CNを先行させることによるOSの延長効果は認められず、スニチニブ単独療法の妥当性が支持された。

無増悪生存期間および腫瘍縮小効果の比較: PFS中央値は、スニチニブ単独群で 8.3 vs 7.2 months であり、ハザード比は HR 0.82 (95% CI 0.67-1.00, p=0.05) と、スニチニブ単独群で良好な傾向が示された (Fig 2B)。ORRはスニチニブ単独群で 29.1% (95% CI 23.1-35.7) 、CN+スニチニブ群で 27.4% (95% CI 21.1-34.4) と両群間で同等であった (Table 2)。しかし、臨床的ベネフィット率はスニチニブ単独群で 47.9% (102/213例) であったのに対し、CN+スニチニブ群では 36.6% (68/186例) であり、スニチニブ単独群で有意に高かった (p=0.02)。

治療曝露量および安全性と手術合併症: スニチニブの投与期間中央値は、スニチニブ単独群で 8.5ヶ月 であったのに対し、CN+スニチニブ群では 6.7ヶ月 と有意に短かった (p=0.04)。CN+スニチニブ群では、手術からの回復遅延などにより、スニチニブの開始が遅れたり、投与期間が短縮したりした。CN+スニチニブ群において、手術を施行された210例のうち82例 (39.0%) に術後合併症が発生し、そのうちClavien-Dindo分類グレードIII以上の重篤な合併症は 15.9% (13/82例) に認められた。また、術後30日以内の死亡が4例 (1.9%) 発生した。スニチニブに関連するグレード3または4の有害事象は、スニチニブ単独群で 42.7% (91/213例) 、CN+スニチニブ群で 32.8% (61/186例) に認められた (p=0.04) (Table 3)。主な重篤な有害事象は、全身倦怠感 (単独群 9.9% vs 併用群 8.6%)、手足症候群 (単独群 5.6% vs 併用群 4.3%)、貧血 (単独群 5.2% vs 併用群 2.7%)、好中球減少症 (単独群 4.7% vs 併用群 2.7%) であった。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究の結果は、CNが標的治療薬投与例においても生存期間を延長することを示唆していた過去の多くのレトロスペクティブ研究やデータベース解析の結果と異なり、CNを先行させる意義を否定するものである。過去のレトロスペクティブ研究では、全身状態が良好で腫瘍量が少ない、予後が良いと見込まれる患者が手術群に選択されるという強い選択バイアスが存在していたが、本ランダム化比較試験によってそのバイアスの影響が排除され、真の治療効果が明らかになった。

新規性: 本研究は、VEGFRを標的としたTKI時代において、全身薬物療法単独が、CNを先行させる標準治療に対してOSで非劣性であることを本研究で初めてランダム化比較試験によって証明した。これにより、転移性腎細胞癌患者に対するルーチンのCN施行という、20年来のドグマを覆す新規の知見がもたらされた。

臨床応用: 本試験の臨床的意義は極めて大きい。MSKCC中間リスクおよび高リスクのmRCC患者においては、侵襲的なCNを回避し、直ちにスニチニブによる全身薬物療法を開始することが標準治療として臨床現場に定着する根拠となった。手術に伴う合併症リスクや治療遅延を避けることで、患者は早期から有効な全身治療の恩恵を安全に受けることが可能となる。

残された課題: 今後の検討課題として、現代の標準治療である免疫チェックポイント阻害薬 (immune-checkpoint inhibitor) を用いた併用療法 (ニボルマブ+イピリムマブ、あるいはペムブロリズマブ+アキシチニブなど) の時代におけるCNの役割の再評価が挙げられる。また、本試験のlimitationとして、症例登録が予定の576例に達せず450例で早期終了したことによる統計学的検出力の低下や、腫瘍量が極めて少なくCN後に経過観察が可能な患者群が除外されている点が挙げられ、個別化医療における最適な症例選択の基準についてはさらなる検証が必要である。

方法

本試験である CARMENA (Cancer du Rein Metastatique Nephrectomie et Antiangiogéniques) 試験 (試験ID: NCT00930033) は、フランスの79施設および欧州の複数施設が参加した、前向き多施設共同オープンラベルランダム化非劣性第III相試験である。対象は、生検で確認された未治療の転移性明細胞腎細胞癌患者であり、ECOG (Eastern Cooperative Oncology Group) パフォーマンスステータスである PS (performance status) が0または1、脳転移がない、あるいは治療済みで安定しており、腎摘除術の適応があり、かつスニチニブ投与が可能な18歳以上の成人である。登録患者は、CN後にスニチニブを投与する群 (CN+スニチニブ群) と、スニチニブ単独で治療を開始する群 (スニチニブ単独群) に1:1の割合でランダムに割り付けられた。ランダム化の際には、MSKCC予後リスク分類 (中間リスク vs. 高リスク) および参加施設を層別化因子とした。スニチニブは、1サイクルを6週間とし、50 mg/日を4週間連日経口投与した後に2週間休薬する標準的なスケジュール (4/2スケジュール) で投与された。主要エンドポイントはOSであり、カプラン・マイヤー (Kaplan-Meier) 法を用いて生存曲線を推定し、ログランク (log-rank) 検定およびコックス比例ハザード回帰分析 (Cox regression analysis) を用いてハザード比を算出した。副次エンドポイントには、無増悪生存期間である PFS (progression-free survival)、客観的奏効率である ORR (objective response rate)、臨床的ベネフィット率、安全性、および術後合併症率 (Clavien-Dindo分類による評価) が含まれた。画像評価は、CT (computed tomography) または MRI (magnetic resonance imaging) を用いて2サイクルごとに行われた。