- 著者: Noura Alzahofi, Tobias Welz, Christopher L. Robinson, Emma L. Page, Deborah A. Briggs, Amy K. Stainthorp, James Reekes, David A. Elbe, Felix Straub, Wouter W. Kallemeijn, Edward W. Tate, Philip S. Goff, Elena V. Sviderskaya, Marta Cantero, Lluis Montoliu, Francois Nedelec, Amanda K. Miles, Maryse Bailly, Eugen Kerkhoff, Alistair N. Hume
- Corresponding author: Alistair N. Hume (School of Life Sciences, University of Nottingham, Nottingham, UK)
- 雑誌: Nature Communications
- 発行年: 2020
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 32661310
背景
動物細胞における細胞内輸送の教科書的モデルでは、微小管 (MT (microtubule); 長距離高速道路) がキネシン・ダイニンモーターを使い、アクチン線維 (AF (actin filament); 短距離地方道路) がmyosinモーターを使うという「高速道路と地方道路モデル」が定説であった。この考え方は、MTが細胞中心から周辺部まで>10 μmに及ぶ分極したラジアルネットワークを形成するのに対し、AFは短い (1-2 μm) 不規則な極性のネットワークを形成するという構造的根拠に基づいていた。
これまでの研究から、著者らの先行研究グループはこの定説に根本的な疑問を呈してきた。Wu et al. (2002) はmyosin-Vaがメラノソームに結合するオルガネラ受容体として melanophilin (Mlph) を同定し、Rab27a (Ras-associated binding protein 27a) -Mlph-myosin-Va複合体の分子機構を明らかにした (Wu et al. Nat Cell Biol 2002)。Ross et al. (2008) はモータータンパク質が複雑な細胞骨格ネットワーク上をどのように輸送を協調させるかを包括的にレビューしている (Ross et al. Curr Opin Cell Biol 2008)。Barlan et al. (2013) はオルガネラ輸送の「旅」を分子チームワークと制御の観点から統合的に論じた (Barlan et al. Curr Opin Cell Biol 2013)。
著者ら自身の先行研究においては、C57BL/6 (common black lab mouse strain) 由来の不死化メラノサイト株 melan-a細胞を用いたメラノソーム輸送解析で、MTはメラノソームの核周囲クラスタリングに関与するが末梢分散には不要であり、MT除去後も動的AFとmyosin-Vaに依存した長距離メラノソーム分散 (速度約1 μm/min、>10 μm) が可能であることを示した。この知見はyeast・植物でよく知られるmyosin/AF駆動の長距離輸送が動物細胞にも存在することを示唆した。しかし、メラノサイトでmyosin-Vaが依存する極性化したAFネットワーク (トラック) がどのように形成されるかは未解明であった。SPIRE1/2 (spire-type protein 1/2) はアクチン核形成因子として知られ、卵母細胞ではFMN2 (formin-2; フォルミン2) と協働してRab11 (Ras-related protein 11) 小胞輸送に関与することが示されていたが、メラノソーム輸送への関与は未検討であった。
目的
FMN1 (formin-1) とSPIRE1/2がRab27a依存的なメラノソーム分散に必要な動的AFトラックを形成するかを検証し、Rab27aが既知のモーター制御 (melanophilin/myosin-Va) に加えてトラック組み立てタンパク質 (SPIRE1/FMN1) も同一オルガネラ上で統合協調させる機序を解明することを目的とする。
結果
FMN1とSPIRE1/2はメラノソーム分散に必須: (Fig. 1) 130種のsiRNAスクリーニングで FMN1 KD (knockdown) およびSPIRE1/2二重KDが核周囲クラスタリングを誘導した (Fig. 1)。定量値 (pigment area % total、平均±SD): NT (non-targeting siRNA)=86±10%、Rab27a KD=31±8%、FMN1 KD=45±8%、SPIRE1/2二重KD=53±7% (P<0.0001、one-way ANOVA; n=20 cells)。SPIRE1単独KDのみが有意に分散細胞比率を低下させた (分散細胞%: NT対照=86±5% vs SPIRE1=47±11% vs SPIRE2=82±13%; n=25 cells per condition)。qRT-PCRでFMN1のmRNA発現量はSPIRE2の約8倍であり (FMN1=27.2±4.17 vs SPIRE2=3.468±0.573 copies×10^3/50 ng RNA)、FMN2はメラノサイトでは検出されなかった。Add-back実験でSPIRE1/2 KD細胞にGFP標識SPIRE1を発現すると分散細胞比率が92.58±7.07%に完全に回復した (GFP対照=11.83±8.02%; three independent experiments)。
SPIRE1/2・FMN1は動的AFと同一経路でメラノソーム周囲AFネットワークを形成: (Fig. 2、Fig. 3) Latrunculin-A処理はmelan-a細胞でメラノソーム分散を抑制したが、melan-f・SPIRE1/2 KD細胞では追加抑制がなかった (Fig. 2) ことから、FMN1/SPIRE1/2とAFが同一経路で機能することが確認された。GFP標識FMN1発現はmelan-f細胞のAF含量を2.73-fold増加させた (蛍光phalloidin: GFP標識FMN1=128.6±71.79 vs GFP対照=47.13±21.52 AU (arbitrary units); n=50 cells per condition; p<0.0001)。高分解能FESEM解析ではmelan-a細胞のメラノソーム周囲に直径 8.6±0.3 nm (n=87 actin filaments) のAFメッシュワークが観察された (Fig. 3)。線維長定量 (FESEM): melan-a=261.7±160.6 nm (中央値223) vs melan-f=116.1±72.32 nm (中央値103) (p<0.0001、Mann-Whitney test; n=433/443 actin filaments)。
SPIRE1/2はRab27aエフェクターとしてGTP依存的にメラノソームへ動員される: (Fig. 4、Fig. 5、Fig. 6) GSTプルダウン実験でGST融合Rab27a活性型 (GTP固定変異体) はMycタグ化SPIRE1・SPIRE2を特異的に回収し (GDP固定不活性変異体との比較; three independent experiments)、SPIRE1はSPIRE2より強く結合した (Fig. 6)。BiFC実験では野生型Rab27aおよび活性変異体との共発現でSPIRE1/SPIRE2との強いBiFC信号 (正規化 %max: SPIRE1=89.35%、SPIRE2=85.23%) を示したのに対し、不活性変異体では低い信号 (28.35/5.97%) しか認められなかった (Fig. 6d)。melan-ash (Rab27a欠損) 細胞ではSPIRE1のメラノソームへの局在が消失し (Pearson=-0.230)、melan-ln (Mlph欠損) ではSPIRE1のメラノソーム局在が維持された (Pearson=0.617)。SPIRE1の膜結合断片のRab27a結合 Kd=707±155 nM (Mlph RBD (Rab-binding domain) Kd=143±25 nM) であり、SPIRE1はMlphより約5倍低親和性のRab27aエフェクターであることが定量的に示された (4-fold effect size)。
Rab27aはモーター制御とトラック組み立ての二重統合ハブとして機能する: (Fig. 7、Fig. 8、Fig. 9) 機能ドメイン解析では (Fig. 4、Fig. 5)、SPIRE1のアクチン核形成断片 (SPIRE1核形成) は分散細胞を58.85±10.91%に回復させたが (GFP対照=4.65%; n=50 cells per condition)、膜結合断片単独では18.69±4.37%にとどまり、核形成モジュールと膜結合モジュールの両方がフル機能に必要であることが示された。FMN1ではフォルミン活性断片 (フォルミンドメイン+アクチン核形成タンパク質結合ドメイン含む; 89.28%) が全長FMN1 (89.92%) と同等の機能を示したが、アクチン核形成タンパク質結合ドメイン欠損断片 (42.77%) では機能が半減し、SPIRE1との相互作用とAF組み立て機能の両方が必要であることが確認された。Rab27aはmelanophilinを介してmyosin-Vaをメラノソームに動員 (モーター側) し、かつSPIRE1/FMN1を介して動的AFトラックを構築 (トラック側) する二重機能を持つモデルが提唱された (Fig. 9)。
考察/結論
本研究は、エクソソームの分泌制御 に深く関与するRab27aが、メラノソーム輸送においてモータータンパク質 (myosin-Va/melanophilin) とアクチントラック組み立てタンパク質 (SPIRE1/FMN1) の両者を同時に同一オルガネラ膜上で統合・協調させることで、動物細胞においてMT非依存的な長距離AF駆動オルガネラ輸送が実現できることを初めて実証した。この知見は先行研究の「AFは短距離輸送のみ」という定説と根本的に異なり、yeast・植物の長距離myosin/AF輸送が動物細胞にも存在することを示す初の直接的証拠として位置づけられる。Rab27aをモーター・トラック両面の「マスターコーディネーター」と位置づける新たな概念は、これまで報告されていない輸送機序の理解を提供する点で本研究の新規性の核心をなす。
先行研究と比較した本研究の主要な相違点は、Rab27aが単にモーターをリクルートするだけでなく (Wu et al. 2002)、トラック基質の組み立ても統合して制御することを実証した点にある。先行研究ではSPIRE1/2とフォルミン類のRabエフェクターとしての機能はRab11 (酵母/卵母細胞系) でしか知られていなかったが、本研究はRab27aにおける同様の統合制御機構を初めて示した。GTP活性型Rab27a依存的なSPIRE1動員 (Kd 707 nM) はMlph動員 (Kd 143 nM) より約5倍低親和性であり、「まずモーターありきでトラックは補助的に拡張」というタイミングの非対称性を示唆する。
臨床的意義として、Rab27aはmultivesicular body (MVB (multivesicular body)) のエクソソーム分泌を制御することが既に知られているが、本知見はRab27aがMVBの輸送においても同様に、myosin-Va (モーター) とSPIRE1/FMN1 (アクチントラック組み立てタンパク質) を統合することで細胞辺縁部へのMVBの長距離分散を促進する可能性を示す。これはがんにおける 腫瘍微小環境への影響 を理解する上で重要な臨床的含意をもたらす。また、Griscelli症候群の分子病因としてのRab27a欠損は従来研究されてきたが、本研究によりモーター・トラック統合の双方からの新たな病態理解が可能となる。
今後の残された課題として、SPIRE1/2欠損がエクソソーム分泌に与える影響の直接検証、SPIRE1とmyosin-Vaの同時競合的またはシナジスティックな動員の詳細な時空間制御機序の解明、さらにSPIRE1/FMN1が組み立てるAFトラックのin vivo架構と、実際の輸送に利用されるトラックセグメントとの対応関係の確立が挙げられる。
方法
実験系:野生型 melan-a (C57BL/6 由来不死化メラノサイト株) ・FMN1欠損 melan-f・Rab27a欠損 melan-ash・Mlph欠損 melan-ln の各マウスメラノサイト株を使用した。また、BiFC (bimolecular fluorescence complementation; 二分子蛍光相補) アッセイにはHEK293a (human embryonic kidney 293a) 細胞を使用した。
スクリーニング: 既知AF制御タンパク質130種のsiRNAミニライブラリー (4 oligos/pool) を melan-a にトランスフェクションし、メラノソーム核周囲クラスタリングを指標として視覚的スクリーニングを実施した。FMN1・SPIRE1・SPIRE2 (spire-type protein 2) の単独・二重 KD (knockdown) とmelan-fでの表現型確認 (明視野観察による色素分散定量、pigment area % total)。
薬理学的・細胞生物学的解析: Latrunculin-A (動的AF枯渇薬) による薬理学的分析でFMN1/SPIRE1/2とAFの同一経路での機能を検証した。高分解能電界放射型走査EM (FESEM (field emission scanning electron microscopy)) + レプリカ透過EM でメラノソーム周囲AFネットワークを超解像で解析 (線維径 n=87 cells equivalent filaments・線維長 n=433/443 actin filaments)。siRNA耐性ヒトSPIRE1/2・マウスFMN1の発現によるadd-back実験で KD (knockdown) の特異性を確認した (三連独立実験 (three independent experiments) のうち代表的結果を提示)。
生化学的相互作用解析: Rab27aとSPIRE1/2の相互作用を GST (glutathione S-transferase) プルダウン (GTP (guanosine triphosphate) 固定型活性変異体/GDP (guanosine diphosphate) 固定型不活性変異体を使用)・BiFC・co-IP (co-immunoprecipitation) + 質量分析で多角的に解析した。SPIRE1のC末端膜結合ドメイン断片 (以下、膜結合断片) のKd (equilibrium dissociation constant; 平衡解離定数) はGFP枯渇アッセイで定量した。統計解析はone-way ANOVA・Mann-Whitney検定を使用し、独立実験は3回以上実施した。