• 著者: David Furman, Junlei Chang, Lydia Lartigue, Christopher R. Bolen, François Haddad, Brice Gaudilliere, Edward A. Ganio, Gabriela K. Fragiadakis, Matthew H. Spitzer, Isabelle Douchet, Sophie Daburon, Jean-François Moreau, Garry P. Nolan, Patrick Blanco, Julie Déchanet-Merville, Cornelia L. Dekker, Vladimir Jojic, Calvin J. Kuo, Mark M. Davis, Benjamin Faustin
  • Corresponding author: David Furman (Institute for Immunity, Transplantation and Infection, Stanford University, Stanford, CA, USA); Benjamin Faustin (CNRS UMR 5164, Université de Bordeaux, Bordeaux, France)
  • 雑誌: Nature Medicine
  • 発行年: 2017
  • Epub日: 2017-01-16
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 28092664

背景

「inflammaging」は、慢性的な低レベル炎症を特徴とする加齢現象であり、心血管疾患、アルツハイマー病、2型糖尿病、がんなど、多くの加齢関連疾患の共通基盤であると提唱されている Howcroft et al. Aging 2013。しかし、inflammagingを駆動する分子メカニズムや、同じ年齢層内での個体差(健康長寿を全うする群と慢性疾患を抱える群)を説明する特異的な免疫経路については、依然として未解明な点が多かった。IL-1βは強力な炎症性サイトカインであり、高齢者の血液中で高値を示すことが報告されており Furman et al. Mol. Syst. Biol. 2013、心血管疾患、がん、機能低下、および様々な変性疾患のリスク増加と関連付けられている Duewell et al. Nature 2010。インフラマソーム(NLRP3、NLRC4、AIM2など)は、病原体や細胞ストレスによって活性化され、IL-1βやIL-18の産生を誘導する細胞内プラットフォームである Martinon et al. Mol. Cell 2002。最近の研究では、ラットの加齢においてインフラマソーム関連分子とIL-1βの発現上昇が示唆されている Song et al. J. Gerontol. A Biol. Sci. Med. Sci. 2016。しかし、ヒトの加齢過程におけるインフラマソームの活性化とその加齢関連疾患への寄与については、これまで系統的に検証されていなかった点が不足しており、特に個体レベルの臨床表現型との関連は不明なままであった。この知識ギャップを埋めることが本研究の背景にある。本研究は、inflammagingの分子駆動因子および個体差を説明する特異的免疫経路を特定し、加齢関連疾患との関連性を明らかにするという課題に取り組むものである。

目的

本研究の目的は、大規模な高齢者コホートにおけるマルチオミクス解析を通じて、inflammagingを駆動する特定の免疫遺伝子モジュールを同定することである。さらに、これらのモジュールと臨床アウトカム(血圧、動脈硬化、全死亡、長寿)との関連を明らかにし、インフラマソーム活性化に寄与する代謝産物および機能経路を特定することを目的とした。また、これらの代謝産物がインフラマソームを介して高血圧や血管炎症を誘導するメカニズムをin vitroおよびin vivoで検証し、インフラマソーム活性化を抑制する可能性のある因子を探索することも目指した。最終的には、高齢者における健康状態を層別化するバイオマーカーの同定と、新たな治療介入標的の特定に貢献することを目指す。

結果

インフラマソーム遺伝子モジュールの同定と層別化: Weighted Gene Co-expression Network Analysis (WGCNA) を用いた全遺伝子共発現ネットワーク解析により、加齢および全死亡と最も強く相関する「インフラマソーム関連モジュール」(モジュール62および78)が同定された。これらのモジュールには、NLRC4、IL1B、IL18、CASP1、NLRP3、PYCARD、NAIP、AIM2など50以上の遺伝子が含まれ、その発現レベルは個人間で大きく異なっていた (Fig. 1a)。これらのモジュールの発現レベルに基づいて、高齢者を上位四分位(Q4-高発現群、IMH)と下位四分位(Q1-低発現群、IML)に層別化したところ、両群は極端な臨床表現型を示した。モジュール62と78の発現レベルは強く相関しており (R² = 0.76, p < 10⁻⁵)、両モジュールを合わせた解析により統計的検出力が高まった。機能解析により、これらのモジュールがサイトカイン産生に有意に寄与することが示された (p < 0.01)。

高発現群における心血管疾患リスクと全死亡率の増加: IMH群(インフラマソーム高発現、n=12)は、IML群(n=11)と比較して、収縮期血圧が平均10 mmHg以上高く、本態性高血圧の頻度が有意に高かった(75% (9/12) vs 9% (1/11), p=0.002)。また、IMH群では頸動脈IMT (intima-media thickness) 高値、大動脈硬化(脈波伝播速度 (PWV) の増加、IML群 7.9 ± 2.4 m/s vs IMH群 10.7 ± 2.1 m/s, p = 0.02)、左室質量増加が認められた (Fig. 1c)。7年間の追跡調査では、IMH群の全死亡率はIML群と比較して有意に高く(ハザード比 HR 2.3, 95% CI 1.5-3.5, p<0.001)、特に85歳以上の高齢者において、研究開始時のモジュール78の発現が高いほど死亡リスクが高いことが示された (Fig. 1e)。血清サイトカイン解析では、IMH群でインターロイキン-1β (IL-1β) を含む17種類のサイトカインレベルが有意に上昇しており (FDR Q < 0.2)、特にIL-1βの上昇は2008年から2011年の期間で安定して観察された (Fig. 1f,g)。

低発現群における健康長寿表現型: IML群はインフラマソーム関連遺伝子の発現が低く、90歳以上の親を持つ家族性長寿の背景を持つ個人の割合がIMH群と比較して有意に高かった(IML群 88% vs IMH群 11%, p < 10⁻⁴) (Fig. 1d)。IL-6やCRPなどの炎症マーカーも低値であり、心血管イベントの発生率も有意に低かった。CyTOF (Cytometry by time-of-flight) 解析では、IML群でNK様CD8+T細胞と調節性T細胞の比率が高く、炎症性単球(CD14+CD16+)が少ないという特徴的な免疫細胞プロファイルが認められた。これは、健康長寿と関連する免疫学的特徴を示唆している。

核酸代謝産物によるインフラマソーム活性化の駆動: メタボローム解析により、IMH群の血漿中にはアデニン、N4A、8-ヒドロキシデオキシグアノシンなどの核酸代謝産物が有意に蓄積していることが明らかになった (Fig. 2a)。合計67種類の代謝産物がIMH群で高値を示し (FDR Q < 0.2)、これらはピリミジン、プリン代謝に関連するものであった。これらの細胞外核酸分解産物は、in vitroでヒトPBMCを刺激すると、NLRC4およびCaspase-1の活性化とIL-1β分泌を誘導した(アデニン100 µMで基礎値比4.5倍, p<0.001)。また、ASC speck形成も顕微鏡下で確認された。N4AはNLRC4とNLRP3の両遺伝子発現を誘導し、アデニンはIL-1β産生を誘導した (Fig. 2e,f)。THP-1細胞を用いた実験では、N4Aとアデニンの併用がIL-1βとインターロイキン-18 (IL-18) の分泌を相乗的に増加させ、これはCaspase-1依存性であることが示された (Fig. 3b,e)。NLRC4ノックダウンまたはノックアウトにより、この併用によるIL-1β分泌が有意に抑制された (Fig. 3f,g)。

アデニン・N4Aによるマウスの血圧上昇と血管炎症: C57BL/6マウス (n=4/群) にN4Aとアデニンを慢性投与すると、収縮期血圧が8日後には軽度に上昇し(p = 0.04)、アンジオテンシンIIとの併用により平均140 ± 7 mmHgまで有意に上昇した(対照群 112 ± 3 mmHg, p = 0.016) (Fig. 5a)。この血圧上昇は、Nlrc4-/-マウスでは消失し、NLRC4依存性であることが証明された。また、治療群のマウスでは腎臓へのT細胞浸潤が有意に増加し(p < 0.001)、血中単球および顆粒球におけるpS6、pCREB、pNFκBのリン酸化レベルも上昇していた (Fig. 5b,c)。ヒト血管内皮細胞においても、アデニンがIL-1β分泌とVCAM-1・ICAM-1発現を誘導し、血管炎症を促進することが示された。

カフェインによるインフラマソーム活性化の抑制: 食事調査の結果、カフェイン摂取量が多い高齢者ほど、インフラマソーム遺伝子モジュール62 (p < 0.01) および78 (p = 0.024) の発現が低いことが示された (Fig. 6a)。また、IML群の血清中では、カフェインおよびその代謝産物(パラキサンチン、1,3,7-トリメチル尿酸、テオフィリン、テオブロミン、1-メチルキサンチン)のレベルがIMH群と比較して有意に高かった(p < 0.01) (Fig. 6b)。in vitro実験では、カフェインがN4AとアデニンによるIL-1β分泌を濃度依存的に抑制し、NLRC4遺伝子およびタンパク質の発現低下を介して作用することが示された (Fig. 6c,d)。カフェインは、NLRC4インフラマソームのプライミングを阻害する可能性が示唆された。

考察/結論

本研究は、inflammagingという概念を「遺伝子モジュールベースの定量的内在形質」として再定義し、それが高齢者集団を、高血圧・心血管疾患リスクが高い状態と、これらの特徴を欠く健康長寿状態という2つの極端な生物学的・臨床的状態に層別化する強力な予測因子であることを示した。NLRC4-IL-1β-血管内皮障害軸が高齢者心血管疾患の根本機序であり、アデニンやN4-アセチルシチジン (N4A) などの核酸由来代謝産物がその駆動リガンドであるという新規な知見を提供する。

先行研究との違い: これまでの研究では、inflammagingが加齢関連疾患の共通基盤であるとされてきたが、その分子駆動因子や個体差を説明する特異的免疫経路は不明であった。本研究は、特定のインフラマソーム遺伝子モジュールが、高齢者を明確な臨床・免疫学的状態に層別化することを示し、この点でこれまでの報告と異なり、inflammagingの分子基盤に新たな視点を提供する。特に、NLRC4インフラマソームの関与は、 NLRP3インフラマソームに焦点を当てた先行研究 Duewell et al. Nature 2010 と対照的である。

新規性: 本研究で初めて、アデニンとN4Aという核酸代謝産物が、NLRC4インフラマソームを活性化し、IL-1β産生を誘導し、マウスにおいて血圧を上昇させることを新規に同定した。これらの代謝産物がDAMP (Danger-Associated Molecular Pattern) として機能し、NLRC4のプライミングと活性化を介して炎症を駆動するというメカニズムは、これまで報告されていない。また、カフェイン摂取がこれらのインフラマソーム活性化を抑制する可能性も本研究で初めて示唆された。

臨床応用: 本知見は、高齢者における心血管疾患の予防および治療の臨床応用に大きな意義を持つ。IL-1βを標的とする治療法(例:カナキヌマブ)は、CANTOS試験(2017年)で心血管イベントを減少させることが示されており、本研究のメカニズム的裏付けと一致する。インフラマソーム遺伝子モジュール発現は、高齢者における抗炎症療法の患者選択バイオマーカーとして利用できる可能性がある。さらに、アデニンなどの核酸代謝産物のスカベンジや、NLRC4特異的阻害剤の開発が、新たな「healthy aging」戦略となりうる。がん免疫療法の文脈では、IL-1β・インフラマソーム活性化は腫瘍免疫微小環境で両刃の剣として働くため、高齢NSCLC患者のICI応答予測にも本モジュール発現が示唆的である。

残された課題: 今後の検討課題として、本研究で示された因果関係を介入試験によってさらに検証する必要がある。また、他民族集団での再現性の確認、アデニンレベルに対する食事や腸内細菌叢の影響、性差、および特定疾患サブタイプにおけるモジュール特異性の詳細な解析が残されている。Limitationとしては、一部の解析が比較的小規模なコホートに基づいている点 (n=23のIMH/IML群)、およびマウスモデルでの血圧上昇がヒトの慢性高血圧を完全に再現しているわけではない点が挙げられる。

方法

本研究では、Stanford-Ellison LongevityコホートおよびBordeauxコホートから、60歳以上の1001名を対象とした前向きコホート研究を実施した。本研究は、Stanford大学の研究倫理委員会によって承認され、全ての被験者からインフォームドコンセントを得ている。研究デザインは、ClinicalTrials.govにNCT#01827462として登録されている。主要評価項目は、インフラマソーム遺伝子モジュール発現と加齢関連疾患(高血圧、動脈硬化、全死亡)との関連性とした。

被験者から末梢血単核球(PBMC)を採取し、全トランスクリプトーム解析(Affymetrix microarrayおよびRNA-seq)、血漿プロテオーム解析、メタボローム解析(LC-MS)、マスサイトメトリー(CyTOF)を実施した。また、心エコー検査、動脈硬化指標(頸動脈内膜中膜厚 (IMT)、脈波伝播速度 (PWV))、および家族既往歴のデータを統合的に解析した。遺伝子発現データからは、Weighted Gene Co-expression Network Analysis (WGCNA) を用いて免疫関連遺伝子モジュールを抽出した。統計解析には、ロジスティック回帰分析、多重回帰分析、Student’s t-test、およびハザード比 (HR) を用いたCox比例ハザードモデルが用いられた。多重比較補正には、Benjamini-Hochberg法によるFalse Discovery Rate (FDR) およびpermutation analysisが適用された。

in vitro実験では、ヒトPBMCおよびヒト血管内皮細胞を、メタボローム解析で同定された核酸代謝産物であるアデニンおよびN4-アセチルシチジン (N4A) で刺激し、インフラマソーム活性化とインターロイキン-1β (IL-1β) 分泌を測定した。インフラマソーム活性化は、IL-1β ELISA、Caspase-1活性、およびASC speck形成アッセイによって評価した。THP-1細胞を用いた実験では、shRNAによるNLRC4ノックダウンを行い、IL-1β分泌への影響を評価した。

in vivo実験では、C57BL/6野生型マウスおよびNlrc4-/-マウスにアデニンとN4Aを慢性投与し、血圧応答および血管機能障害への影響を検証した。血圧はテールカフ法で測定し、腎臓および大動脈の組織学的解析によりT細胞浸潤を評価した。マウスのサンプルサイズは、各群 n=4 で初期実験を行い、その後 n=10 mice/群で再現性を確認した。