- 著者: Algazi AP, Othus M, Daud AI, Lo RS, Mehnert JM, Truong TG, Conry R, Kendra K, Doolittle GC, Clark JI, Messino MJ, Moore DF, Lao C, Faller BA, Govindarajan R, Harker-Murray A, Dreisbach L, Moon J, Grossmann KF, Ribas A
- Corresponding author: Alain P. Algazi (University of California, San Francisco, CA, USA)
- 雑誌: Nature Medicine
- 発行年: 2020
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article (Phase 2 RCT)
- PMID: 33020646
背景
BRAF V600変異を有する進行期悪性黒色腫に対するdabrafenib+trametinib(BRAF+MEK阻害薬併用療法)は、約70%に達する高い初期奏効率を示すが、MAPKシグナル経路の再活性化を主要な機序とする獲得耐性の発現が、長期的な治療効果を制限する深刻な課題となっている(Flaherty et al. 2010, Long et al. 2015)。先行研究において、Das Thakur et al. 2013 らは、BRAF V600E変異陽性腫瘍細胞がBRAF阻害薬vemurafenibに耐性を獲得した際、薬剤非存在下では増殖不良(drug addiction)に陥ることを示した。さらに、マウスモデルを用いた検証において、vemurafenibの間欠投与(4週投与/2週休薬)が薬剤感受性を長期にわたり維持し、連続投与と比較して無増悪生存期間(PFS)を有意に延長させることを報告した。また、Moriceau et al. 2015 らの研究では、BRAF阻害薬とMEK阻害薬の併用療法に対して耐性を獲得した細胞において、薬剤の休薬(drug withdrawal)による腫瘍縮小効果がさらに顕著であることが示されている。しかしながら、これらの前臨床モデルにおける有望な知見が、実際のヒト臨床試験において同様に再現されるか、また間欠投与が連続投与を上回る有効性を示すかについては、これまで系統的な無作為化比較試験による検証が不足しており、臨床的な有用性は未解明のままであった。特に、ヒトにおける薬剤の半減期や腫瘍微小環境の複雑性を考慮した最適な投与スケジュールや、間欠投与が獲得耐性を遅延させるという仮説の真偽については、臨床データが決定的に不足していた。
目的
本研究(S1320試験)の目的は、BRAF V600変異(V600EまたはV600K)を有する転移性または切除不能な悪性黒色腫患者を対象として、BRAF阻害薬dabrafenibとMEK阻害薬trametinibの併用療法における間欠投与スケジュール(3週間休薬/5週間投与)が、標準治療である連続投与スケジュールと比較して、ランダム化後の無増悪生存期間(PFS)を改善するかどうかを多施設共同ランダム化第2相臨床試験によって検証することである。さらに、副次目的として、全生存期間(OS)、進行後生存期間(post-progression survival)、客観的奏効率(ORR)、および安全性(有害事象の頻度と重症度)を両群間で比較評価し、前臨床モデルで提唱された「間欠投与による薬剤耐性遅延」仮説の臨床的妥当性を明らかにすることを目的とする。
結果
患者登録とベースライン背景因子: 2014年9月19日から2019年4月16日の間に249例が登録され、そのうち242例が治療を受け、リードイン期間中に病勢進行がなかった206例がランダム化された(連続投与群 n=105、間欠投与群 n=101)(Fig. 1)。両群の患者背景は極めて良好にバランスが保たれていた。BRAF V600E変異が連続投与群で79%、間欠投与群で68%を占め、残りはV600K変異等であった。ICIによる前治療歴を有する割合は両群ともに30%であり、その内訳はipilimumab単独(12.4% vs 7.9%)、抗PD-1抗体単独(8.6% vs 12.9%)などであった(Extended Data Fig. 2)。また、内臓転移またはLDH値の上昇を認めた割合は、連続投与群で52%、間欠投与群で46%であった。ECOG PS(Eastern Cooperative Oncology Group Performance Status)は大多数が0または1であり、Stage IV M1c症例が両群で最多であった(連続投与群52% vs 間欠投与群46%)。
主要エンドポイントである無増悪生存期間(PFS)の比較: 主要解析の結果、間欠投与がPFSを延長するという当初の仮説は完全に否定され、連続投与群が統計学的に有意に優れたPFSを示した(Fig. 2a)。ランダム化後のPFS中央値は、連続投与群で9.0 vs 間欠投与群で5.5 monthsであり、ハザード比は HR 1.36 (80% CI 1.10-1.66, p=0.063) であった。事前設定された両側有意水準 α=0.2 において、連続投与群の優越性が示された。サブグループ解析においても、例えば「前治療としてICI治療歴のない患者」におけるPFS中央値は連続投与群で11.2 vs 間欠投与群で5.6 monthsであり、HR 1.44 (80% CI 1.12-1.85, p=0.045) と一貫して連続投与群が良好であった(Fig. 2b)。間欠投与群では、3週間の休薬期間中に12例の患者がプロトコル外の評価で病勢進行を確認され、治療中止を余儀なくされた。間欠投与群におけるPFSの悪化は、前臨床モデルで示された「間欠投与による耐性遅延効果」をヒトの臨床において再現することの困難さを浮き彫りにした。
全生存期間(OS)および進行後生存の解析: 副次エンドポイントである全生存期間(OS)については、両群間で有意な差は認められなかった(Fig. 3a)。ランダム化後のOS中央値は、連続投与群および間欠投与群のいずれにおいても29.2 vs 29.2 monthsと同等であり、HR 1.02 (80% CI 0.78-1.33, p=0.93) であった。一方で、病勢進行後の生存期間(survival after progression)を解析したところ、間欠投与群において良好な傾向が観察され、HR 0.76 (80% CI 0.58-1.00, p=0.20) であった(Extended Data Fig. 3)。病勢進行後の後治療として、連続投与群の50%および間欠投与群の49%が何らかの治療を受け、そのうち抗PD-1抗体による治療を受けた割合はそれぞれ37% vs 42%(p=0.66)、ipilimumabの投与を受けた割合は32% vs 26%(p=0.63)であった。OS中央値が両群で完全に一致した背景には、病勢進行後に両群の約半数の患者が受けた後治療(特に抗PD-1抗体やipilimumabなどの免疫チェックポイント阻害薬)が生存期間を均等化した可能性が考えられる。
初期治療奏効率の評価: リードイン期間を含む全体の初期治療奏効率(RECIST v1.1に基づく客観的奏効率)は、両群間でほぼ同等であった。未確認の完全奏効(CR; complete response)は連続投与群で3% vs 間欠投与群で2%、未確認の部分奏効(PR; partial response)は73% vs 71%であり、安定(SD; stable disease)の割合は24% vs 28%であった(p=0.61)。このように、治療開始初期における腫瘍縮小効果や病勢コントロール率には両群間で差がなく、その後の維持フェーズにおける投与スケジュールの違い(連続 vs 間欠)がPFSの差をもたらしたことが確認された。
安全性および有害事象のプロファイル: 治療関連有害事象(AE; adverse event)の全体的な発生頻度および重症度は、両群間で同様であった(Extended Data Fig. 5)。連続投与群では38例(36%)にGrade 3の有害事象、7例(7%)にGrade 4の有害事象が認められた。これに対し、間欠投与群では31例(31%)にGrade 3、3例(3%)にGrade 4の有害事象が認められ、統計学的な有意差はなかった(Grade 3について p=0.46、Grade 4について p=0.33)。両群を通じて最も頻度の高いGrade 3-4の有害事象は疲労であった。ただし、Grade 3または4の発熱(pyrexia)の発生頻度については、連続投与群で6例であったのに対し、間欠投与群では1例のみであり、有意に連続投与群で高頻度であった(p<0.001)。Grade 3以上の重篤な有害事象の全体的な発生率に差がなかったことは、間欠投与による休薬期間が、期待されたほどの毒性軽減をもたらさなかったことを示している。
探索的バイオマーカーとしての循環腫瘍DNA(ctDNA)解析: 2017年1月3日以降に登録された患者の一部を対象に、治療開始前の血漿中循環腫瘍DNA(ctDNA; circulating tumor DNA)の測定が行われた(Fig. 4)。治療開始前に BRAF V600 変異陽性 ctDNA が検出された患者(ctDNA陽性群)は、検出されなかった患者(ctDNA陰性群)と比較して、有意に不良なPFSを示した。PFS中央値は、ctDNA陽性群で5.8 months (95% CI 4.2-9.6) vs ctDNA陰性群で21.4 months (95% CI 10.4-Not Estimable) であり、統計学的に有意な差が認められた(p=0.001)。さらに、ctDNA陰性という良好な予後因子との関連性は、間欠投与群よりも連続投与群においてより顕著である傾向が示唆された(相互作用の p=0.12)。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究の結果は、BRAF阻害薬の間欠投与が連続投与と比較して耐性獲得を遅延させ、PFSを延長させると報告した Das Thakur et al. 2013 らの前臨床マウスモデルにおける知見と異なり、臨床においては連続投与が有意に優れたPFSを示すという、完全に相反する結果となった。この対照的な結果が生じた理由として、ヒトにおける腫瘍の不均一性や、MEK阻害薬trametinibの長い半減期(約4日)に起因する薬物動態学的相違が挙げられる。マウスモデルでは休薬期に速やかに薬剤濃度が低下するのに対し、ヒトの臨床現場では休薬期間中もtrametinibが体内に遷延し、不完全な経路抑制が持続することで、かえって耐性クローンの選択や適応を促進した可能性が考えられる。
新規性: 本研究は、BRAF V600変異陽性悪性黒色腫患者を対象に、BRAF阻害薬とMEK阻害薬の併用療法における間欠投与と連続投与の治療効果を、大規模な無作為化比較試験によって本研究で初めて直接比較検証したものである。前臨床で有望視されていた「間欠投与による獲得耐性の克服」という概念が、実際のヒトの臨床においては通用しないことを新規に実証した学術的意義は極めて大きい。
臨床応用: 本試験の臨床的意義として、BRAF V600変異陽性悪性黒色腫に対するdabrafenib+trametinib併用療法においては、連続投与スケジュールが標準治療であることが臨床現場において再確認された。毒性の軽減や耐性遅延を期待して安易に間欠投与スケジュールを導入することは、患者のPFSを短縮させるリスクがあるため、現時点での臨床応用は推奨されない。
残された課題: 今後の課題として、ヒトの腫瘍における「薬剤依存性(drug addiction)」を示す耐性クローンの動態を、臨床的にどのように評価・制御するかという問題が残されている。本試験の limitation として、腫瘍の急速な縮小により、治療前後のペア生検による分子生物学的解析が困難であったため、詳細な耐性機序の解明には至っていない。今後は、ctDNAなどのリキッドバイオプシーを用いたリアルタイムな耐性クローンの監視や、免疫チェックポイント阻害薬との最適なコンビネーション戦略の確立が、今後の研究方向性として期待される。
方法
本試験は、米国全土の68施設(学術機関および地域医療機関)で実施された、多施設共同オープンラベル無作為化第2相臨床試験(S1320試験、試験登録番号: NCT02196181)である。対象患者は、組織学的または細胞学的に確認されたStage IVまたは切除不能なStage IIIのBRAF V600変異(V600EまたはV600K)陽性悪性黒色腫患者であり、RECIST v1.1に基づく測定可能病変を有し、BRAF阻害薬またはMEK阻害薬の治療歴がない症例とした。すべての登録患者は、まず8週間のリードイン(導入)期間として、dabrafenib(150 mg、1日2回経口投与)およびtrametinib(2 mg、1日1回経口投与)の連続併用投与を受けた。このリードイン期間中に病勢進行(PD; disease progression)が認められなかった患者を対象に、1:1 of 割合で連続投与群または間欠投与群にランダム化した。ランダム化の層別化因子は、ベースライン時の乳酸脱水素酵素(LDH; lactate dehydrogenase)値(正常 vs 基準値上限超)および免疫チェックポイント阻害薬(ICI; immune checkpoint inhibitor)による前治療歴の有無とした。連続投与群は、リードイン期間と同様のスケジュールで両剤を連日投与された。一方、間欠投与群は、8週間を1サイクルとし、第1週および第5〜8週に両剤を投与し(計5週間投与)、第2〜4週は休薬する(3週間休薬)スケジュールを適用した。この3週間の休薬期間は、マウスにおけるvemurafenibの短い半減期と比較して、ヒトにおけるtrametinibの長い血漿中半減期(約4日)を考慮した薬物動態(PK; pharmacokinetic)モデリングに基づき、十分な亜治療濃度期間を確保するために設定された。腫瘍評価は、両群ともに登録から最初の2年間は56日(±5日)ごと、その後は84日ごとに実施された。主要エンドポイントはランダム化後のPFSであり、副次エンドポイントはOS、進行後生存、奏効率、および安全性(CTCAE v4.0による評価)とした。統計解析において、主要解析は意図した治療(ITT; intent-to-treat)集団を対象とし、生存曲線の推定には Kaplan-Meier 法を用いた。群間比較には層別 log-rank テストおよび層別 Cox regression モデルを使用し、ハザード比(HR)および信頼区間(CI)を算出した。主要評価項目の有意水準は、事前設定に基づき両側 α=0.2 とした。カテゴリ変数の比較には Fisher’s exact テストを用いた。