• 著者: DeMichele A., Chodosh L., et al.
  • Corresponding author: DeMichele A., Chodosh L. (University of Pennsylvania, Philadelphia)
  • 雑誌: Nature Medicine
  • 発行年: 2025
  • Epub日: 2025-09-02
  • Article種別: Original Article (Phase 2 RCT)
  • PMID: 40897974

背景

乳がんは初期治療が成功した後も、長期間にわたり体内に潜伏する休眠腫瘍細胞から再発することが大きな臨床的課題である。特に骨髄中に存在する DTC (disseminated tumor cell: 骨髄中播種腫瘍細胞) は、乳がんサバイバーにおける遠隔転移や死亡の独立したリスク因子であることが Braun et al. (2005) などの先行研究によって示されている。しかし、これらの休眠状態にある DTC がどのような分子機序によって生存を維持し、再び増殖を開始して臨床的な再発をもたらすのか、その詳細な生物学的プロセスは依然として未解明な部分が多い。前臨床研究においては、休眠状態の残存腫瘍細胞が生存維持のためにオートファジーを亢進させていることや、 mTOR (mammalian target of rapamycin: ラパマイシン標的タンパク質) シグナル伝達経路が休眠とその解除に深く関与していることが示唆されてきた。しかしながら、これらの経路を標的とした治療介入が、実際にヒトの臨床現場において MRD (minimal residual disease: 微小残存病変) を減少させ、再発を予防できるかについては臨床データが不足している。さらに、 ctDNA (circulating tumor DNA: 循環腫瘍DNA) を用いたモニタリングは再発の予測に有用であるものの、 Coombes et al. (2019) や Garcia-Murillas et al. (2015) などの先行研究が示すように、 ctDNA が検出された時点ではすでに腫瘍の再活性化が進んでいることが多く、介入のタイミングとしては遅すぎるという課題がある。したがって、より早期の休眠段階にある DTC を標的とし、その生存維持機構を阻害する治療戦略を確立することが強く求められているが、これを実証するための前向き臨床試験はこれまで実施されておらず、エビデンスが決定的に不足している状況であった。このように、休眠腫瘍細胞の生存維持機構を標的とした治療介入がヒトにおいて有効であるか否かは不明であり、治療法の確立に向けた大きな gap が残されている。

目的

本研究の目的は、骨髄 DTC 陽性の乳がんサバイバーを対象に、オートファジー阻害薬である HCQ (hydroxychloroquine: ヒドロキシクロロキン) 、 mTOR 阻害薬である EVE (everolimus: エベロリムス) 、またはこれら2剤の併用療法を投与する第2相ランダム化比較試験である CLEVER (Targeting Dormant Breast Cancer Cells with Hydroxychloroquine, Everolimus, or the Combination: 休眠乳がん細胞標的治療試験) を実施し、その実行可能性および安全性を主要エンドポイントとして評価することである。さらに、副次エンドポイントとして、これらの治療介入による骨髄中 DTC の減少・消失効果を定量的に評価するとともに、3年 RFS (recurrence-free survival: 再発不含生存率) との関係性を明らかにすることを目的とする。また、ヒト臨床試験と並行して、 GEM (genetically engineered mouse: 遺伝子改変マウス) モデルを用いた前臨床試験を実施し、 mTOR 阻害およびオートファジー阻害が残存腫瘍細胞数と再発抑制に与える影響を詳細に解析し、その生物学的メカニズムを橋渡し研究として解明することを目指す。

結果

マウス前臨床試験におけるmTOR阻害およびオートファジー阻害の再発抑制効果: HER2誘導性乳がんの GEM モデルを用いた前臨床試験において、休眠状態の RTC を有するマウスに対する治療介入の効果を検証した。その結果、 mTOR 阻害薬である RAPA の慢性投与は、対照群 (VEH) と比較して再発を劇的に遅延させ、極めて強力な再発抑制効果を示した (HR 0.057 (95% CI 0.03-0.57, p=0.00011)) (Fig. 1b)。同様に、臨床応用を見据えて使用した EVE の慢性投与も、 VEH 群に対して有意に再発を抑制した (HR 0.30 (95% CI 0.15-0.60, p=0.00027)) (Fig. 1d)。これに対し、オートファジー阻害薬である CQ の慢性投与 (HR 0.45 (95% CI 0.25-0.81, p=0.015)) および HCQ の慢性投与 (HR 0.54 (95% CI 0.28-1.04, p=0.082)) による再発遅延効果は、 mTOR 阻害薬と比較してマイルドであった (Fig. 1c, 1e)。また、3週間または9週間の短期投与においても、 EVE 群は VEH 群に対して有意な RFS の改善を示した (3週間投与: HR 0.54 (95% CI 0.30-0.97, p=0.046)) (Fig. 1d)。

治療期間による残存腫瘍細胞数の減少効果: ddPCR を用いた RTC 数の定量解析では、3週間および9週間の治療により、 EVE 含有群および RAPA 群で RTC 数が有意に減少していることが確認された (Fig. 1h)。さらに、治療期間終了時における log10 (RTC数) と生存期間中央値の間には、3週間時点で極めて強い負の相関 (Pearson r=-0.91, p=0.0086) が認められ、 RTC 数の減少が RFS の直接的な規定因子であることが示唆された (Fig. 1j)。対照的に、 VEH 群、 CQ 群、 HCQ 群では、3週間から9週間にかけて RTC 数が増加し、一部のマウスで再発が確認された。この結果は、 mTOR 阻害薬が休眠細胞の増殖再開を効果的に抑制していることを示している。

CLEVER試験における治療完遂率と安全性の検証: 臨床試験に登録された骨髄 DTC 陽性の乳がんサバイバー53例のうち、評価可能な51例 (HCQ 群 n=15, EVE 群 n=15, HCQ + EVE 群 n=21) を対象に、主要エンドポイントである6サイクルの治療完遂率および安全性を評価した (Table 1)。プロトコルで事前に定義された「Grade 3以上の毒性による治療中止」に該当したのは、 HCQ + EVE 併用群の1例 (Grade 3の CPK (creatine phosphokinase: クレアチンホスホキナーゼ) 上昇および好中球減少) のみであった。 6サイクルの治療完遂率は、 HCQ 群で100% (15/15)、 EVE 群で100% (15/15)、 HCQ + EVE 併用群で95% (20/21) であり、すべての治療群において事前に設定された実行可能性基準 (完遂率 70%以上) を大幅にクリアした。 Grade 4または5の重篤な有害事象は一切観察されず、認められた有害事象の多くはGrade 1または2の軽度なものであった (Table 2)。 Grade 3の有害事象としては、 EVE 群で口腔粘膜炎が6.7% (1/15)、併用群で口腔粘膜炎が4.8% (1/21) および好中球減少が9.5% (2/21) に認められた。

治療介入による骨髄中DTCの減少およびクリアランス効果: ベイズ統計モデルを用いた解析により、3サイクルの治療終了時 (C3) における骨髄中 DTC 数は、観察単独群 (平均 0.89個) と比較して、すべての治療群において劇的に減少した (Table 3, Fig. 3a)。 C3時点での対照群に対する DTC 減少率は、 HCQ 群で80% (95% 信用区間 31-96%)、 EVE 群で78% (95% 信用区間 11-97%)、 HCQ + EVE 併用群で87% (95% 信用区間 51-98%) であった。観察単独群と比較して DTC 数が減少する事後確率は、 HCQ 群で99.5%、 EVE 群で98.4%、併用群で99.9%と極めて高い値を示した。また、 C3時点での DTC 消失率 (クリアランス率) は、観察単独群の43% に対し、 HCQ 群で83%、 EVE 群で81%、併用群で88% に達した (Table 3)。

DTC消失と臨床的再発不含生存率の相関: 追跡期間中央値41.5ヶ月において、本試験全体の3年 RFS は極めて良好に推移した。治療群別のランドマーク3年 RFS は、 HCQ 群で91.7% (95% CI 77.3-100%)、 EVE 群で92.9% (95% CI 80.3-100%)、 HCQ + EVE 併用群で100%であった (Fig. 3c)。治療後に骨髄中 DTC の消失を達成した患者群 (n=39) の3年 RFS は97.2% (95% CI 92-100%) であったのに対し、 DTC が持続的に陽性であった患者群 (n=7) では90.0% (95% CI 73-100%) であり、 DTC の消失は再発リスクの低下と強い相関傾向を示した (HR 0.21 (95% CI 0.01-3.40, p=0.270)) (Fig. 3c)。また、C6時点での DTC 消失状況に基づく解析では、 DTC 消失例における3年 RFS は100%であったのに対し、非消失例では86% (95% CI 63-100%) であり、 DTC クリアランスが臨床的アウトカムの改善と結びついていることが示された。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、標準的な術後補助療法を完了した乳がんサバイバーを対象に、骨髄中 DTC という微小残存病変の存在をリアルタイムで確認した上で治療介入を行うという点で、従来の臨床試験と異なり、個別化された MRD モニタリングに基づき、休眠腫瘍細胞を直接標的とする治療戦略の有効性を検証した点で対照的である。

新規性: 本研究は、骨髄 DTC 陽性の乳がん患者において、オートファジー阻害薬 (HCQ) および mTOR 阻害薬 (EVE) が、休眠腫瘍細胞を安全かつ効果的に減少・消失させ、再発を抑制し得ることを本研究で初めて実証した。これは、基礎研究における休眠腫瘍細胞の生存維持メカズムを臨床にトランスレーショナルに橋渡しした極めて新規性の高い成果である。特に、3サイクルの治療により DTC 数が80%前後減少するという高い生物学的活性が、ベイズ統計解析により高い確度で示されたことは、これまで報告されていない画期的な知見である。

臨床応用: 本研究の成果は、乳がんサバイバーの再発予防における臨床応用に直結する極めて重要な臨床的意義を持つ。骨髄 DTC の検出およびその治療によるクリアランスが、将来的な再発リスクの低下と相関する傾向を示したことは、 DTC が治療効果判定のサロゲートバイオマーカーとして臨床現場で有用である可能性を示唆している。これにより、従来の経過観察から、 MRD を標的とした積極的介入へと、乳がんサバイバーの管理プロセスを大きく転換させる臨床的含意がある。

残された課題: 一方で、本研究にはいくつかの残された課題が存在する。第一に、第2相試験としての規模が小さく、追跡期間中の再発イベント数が極めて限られているため、 DTC 消失と長期的な生存ベネフィットとの因果関係を完全に確立するには至っていない。この因果関係の証明には、より大規模な第3相ランダム化比較試験が必要である。第二に、 EVE 投与に伴う口腔粘膜炎や脂質異常症などの有害事象の管理、および HCQ + EVE 併用療法における忍容性の低下は、長期投与を検討する上での今後の課題である。さらに、現在の標準治療であるCDK4/6阻害薬やPARP阻害薬などの新規術後補助療法と、本治療戦略との最適な組み合わせや順序についても、今後の研究で明らかにする必要がある。

方法

本研究は、前臨床マウスモデルを用いた基礎研究と、前向きランダム化第2相臨床試験である CLEVER 試験 (NCT03032406) の2つのパートから構成される。

前臨床試験では、HER2誘導性乳がんの GEM モデルを使用した。ドキシサイクリンの投与および休薬により、原発腫瘍の形成と退縮を制御し、休眠状態の RTC (residual tumor cell: 残存腫瘍細胞) を有するマウスを作製した。これらのマウスに対し、 RAPA (rapamycin: ラパマイシン) 、 CQ (chloroquine: クロロキン) 、 EVE 、 HCQ 、または EVE + HCQ 併用、あるいは対照として VEH (vehicle: 媒体/対照薬) を、3週間、9週間、または慢性的に投与した。 RTC 数の定量には、 ddPCR (droplet digital PCR: 液滴デジタルPCR) 法を用い、HER2i特異的マーカーを標的として絶対数を測定した。

臨床試験である CLEVER 試験では、診断後5年以内の高リスク乳がんサバイバーを対象とした。 BMA (bone marrow aspirate: 骨髄穿刺液) を採取し、 IHC (immunohistochemistry: 免疫組織化学染色) 法を用いて、pan-cytokeratin陽性かつ適切な形態を有する細胞を DTC として検出した。 DTC 陽性と判定された患者53例を、 HCQ 単剤群、 EVE 単剤群、 HCQ + EVE 併用群にランダム化した。治療は28日を1サイクルとし、計6サイクル実施した。

統計解析において、マウスおよびヒトの生存曲線は Kaplan-Meier 法を用いて推定し、群間比較には log-rank 検定を適用した。また、再発リスクのハザード比の算出には Cox regression (コックス比例ハザード回帰分析) を用いた。ヒトにおける DTC 数の推移および治療効果の推定には、患者ごとのランダム効果を考慮したベイズ統計学に基づく Bayesian Poisson regression (ベイズポアソン回帰モデル) を使用し、事後確率および95%信用区間を算出した。